「ギークな人」ではなく「おしゃべり好き」を狙った。LINEが「誰でもつかうサービス」になれた理由と、LINE流「成功するスマホサービス」つくるコツ

2016年05月23日 |
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LINEの舛田さんに、「LINE」がどう成長してきたか、スマホサービスのつくり方など聞きました。

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※LINE株式会社 取締役 CSMO 舛田淳さん

初期の「LINE」について

「LINE」がリリースされた「最初の年」のことを、おしえていただけますか?

「LINE」は2011年6月にリリースしたのですが、はじめは「低空飛行」がつづきます。8月頃までは、いろいろやりましたが、まあ大きくは伸びませんでしたね。

そこから少しすると、なぜか「中東」で流行ってきます。サウジアラビア、UAE、カタール、エジプト…と。とくに何もしていないんですけどね。

そして、その後10月に入って、香港、マカオ、台湾、タイ、ベトナムなどの、東アジアで一気に火がつきました。

10月には何が起こったのでしょうか?

10月というのは「スタンプ」と「無料通話」をリリースした月でした。それがきっかけで、デイリーの新規ユーザー数が、毎日毎日、史上最大に伸びていったんですね。

あの時、デイリーで新規60万ぐらいあったと記憶しています。

ところが、そんなタイミングで、アップルさんにアプリをリジェクト(削除されること)されてしまいます。そして、「魔の数週間」に突入することになるという…。

え、どうしてリジェクトされてしまったんでしょうか?

原因としてはいくつかありました。そのあと、2週間くらいかけて改修して、復活することができたのですが、当時いろんな国のユーザーが、応援してくれたことを覚えています。

「LINEがんばれ。ないと困るぞ!」と。そういう声をいただいたことで、はじめて「グローバルへの手応え」のようなものも、感じることが出来ましたね。

そうだったんですか。

そこからは、ユーザー数も大きく成長していったので、その裏側で「LINEプラス」というプロジェクトコードで、今のプラットフォームの原型の構想も、スタートさせていました。

そして、そのタイミングで、テレビCMも実施しました。

当時のLINEは「無収入」だったわけですが、サービスの中の数字をみて「マスサービスにするには、このタイミングでアクセルを踏むべきだ」と判断したわけですね。

そのあとは、2012年夏頃からプラットフォーム化もスタートして、ユーザー数も、アクティブも、売上も伸びていった感じです。

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舛田さんが「LINEがいよいよ普及してきたな」と感じるタイミングは、どの辺でしたか?

実は「数百万人」のタイミングでは、あまり感じませんでしたね。

その時は、自分の周りにいるタイプの人は、最初のターゲットから外れていたので、私の周りの同業者のおじさんたちは、ほとんど興味を示さなかったんですよ。

その別の場所では、若年層や女性たちには必須のツールになっていきました。

ところが、年末に1,000万人を超えて、いろんなメディアで紹介いただけるようになると、「オレは、最初からわかってたよ」という、おじさんがいっぱい出てきます。笑

普及率の高まりとして、「電車でLINEの通知音が聞こえる」というくらいになるのは、1,000万人とか、2,000万人を超えてきたころでしたね。

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「LINE」をつくったときの話

LINEの「緑色」というのは、NAVERの「緑」から来ているんですか?

というのも結果的にはあるのですが、人に優しい色にしたかった。コミュニケーションなので、無機質にはしたくなかったんですね。

あとですね、iPhoneに入っている、「電話」「SMS」などのアプリも緑ですよね。なので、デフォルトで入っているような自然さにしたい、という意味も込めていました。

ちなみに実は、現在のアイコンができる前は、「緑」ではなかったんですよ。ちょっとサイケデリックな「紫」というか…。

世には出たことはありませんが、これはまたいつか、お見せしたいと思っています。

「LINE」という名前は、どのように決まったのでしょう?

もともといろんな、名前の候補があったんです。何とかトークとか、何とかメッセンジャーとか。でもそれだと「なんだか、ツールっぽいな…」と思ったんですよね。

ただ、コンセプトやサービスが持っている価値である「大切な人とのホットライン」を、もっとシンプルに表現したかったんです。

あとは、プラットフォームとして「いろいろなものがつながっていく」という意味も込めて、「LINE」という名前にしました。

なるほど、それは知りませんでした。

ちなみに、読み方は「ライン(→↑)」なのか「ライン(↑↓)」でいうと、どっちでもいいんです。社内ではずっと、後者で呼んでいます。

実は、最初のテレビCMをつくったとき、本編集の最後の最後に、その場で私の判断として読み方を「ライン(→↑)」に変えました。

「若い子たちにつかってほしい」と考えて、彼らにアクセントを合わせたんですね。

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LINEは「ギークな人」をターゲットにしなかった。

LINEを出したときには、どんなユーザーをイメージしていたのでしょう?

まず「ファーストターゲット」として、イメージしていたのは「おしゃべりが好きな人」でした。あえて「ギークな人」をターゲットにしなかったんですね。

ハイテクサービスにおいては、イノベーターやアーリーアダプターとなる「ギークな人を、最初のターゲットにする」というのは、教科書的には正しいことだと思いますが。

そうではなく、はじめから「誰でも日常的につかえるサービス」を目指して、「マス」に目を向けていたんです。

どうしてそうしたのでしょうか?

それは「スマホが普及する」ということを、確信していたからです。これから、ほとんどの人がスマホを持つようになり、スマホでコミュニケーションをとるようになるだろう、と。

そうなってくると、スマホのコミュニケーションツールの流行は、「ギークな人」からではなく、「おしゃべりが好きな人」から、はじまっていくはずだと考えたんですね。

とくに、女性や若い人です。むかしから、日本にはメール文化があって、女子高生がすごいスピードで、メールを打っていたわけですよね。

だから、流行の最先端に立つのは、そういう人たちなんじゃないかと、考えていました。

実際にそうなったわけですね。

ただ、そう考えてはいましたけど、表向きに「LINEは女性向けのサービスです」とは、公言はしませんでした。そう言った瞬間に、女性がつかってくれなくなると思ったので。

あとは、一度「女性向けですよ」と言ってしまうと、後から「男性もつかえます」と軌道修正するのが、相当むずかしくなってしまうんですよ。

だから、そのメッセージは言葉には出さずに、つくり手の想いとして「デザイン」や「ブランドのトーン」の中に、込めるようにしていました。

LINEは「リアルな知り合い」でつかえるツールにしたかった。

LINEをつくるときには、どんなことを考えていましたか?

LINEは「雑談をする場」にしたいと考えていました。つまり「知り合い同士で、意味のないコミュニケーション」をさせたかった。そのほうがリアルだと思っていたからです。

ふつうに考えて、「知らない人」としゃべるよりも、「知っている人」としゃべりたいじゃないですか。そのほうが、しゃべる回数も多くなるし、熱量も高くなりますよね。

たしかに、そうですね。

そこで、キーになったのが「電話番号でマッチングさせる」という仕組みでした。これはモバイルの時代になって、はじめてテクノロジー的に可能になったことです。

このとき重要だったのは「ほかのグラフ(関係性)を入れない」という決断でした。つまり、ツイッターだったり、Facebookのフレンドリストを、LINEには連携させなかった。

そうしたグラフが混ざると、途端に「公、パブリックな方向」を向いてしまいます。すると、LINEが「知り合いと雑談する場」には、ならなくなってしまうんですね。

だから「電話番号でのマッチング」だけ。そうすることで、LINEで「友だち」として推薦される人は、「全員知り合い」という、すごくピュアな状態に保つことができました。

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LINEスタンプについて

「スタンプ」というのは、どうやって生まれたんでしょう?

これは偶然ですね。あるとき、デザイナーが勢いで「顔文字」をでっかくしてみた。そうしたら、それがおもしろかった。「あ、これだけでコミュニケーションになるんだ」と。

いままでの絵文字って、文章のあとにくっつけて「その文のニュアンス」を表現するものでしたよね。でも、その「大きい顔文字」は、それだけでメッセージになっていた。

それって、すごくスマホっぽいし、LINEのコミュニケーションにもあっていると。それで企画を進めていくことになりました。

なるほど。

いまの「LINEフレンズ」のスタンプは、実はアンケートではそんなに評判がよくなかったのですが、「一番盛り上がっていた」という理由で、採用することにしました。

たとえば「気持ち悪い」とか「かわいい」というふうにですね。この「盛り上がる」って、コミュニケーションとして、すごく意味があることなんです。

変なスタンプを見たら「ツッコミ」を入れたくなりますよね。これは「会話がしたくなる」ということであり、スタンプによって「会話が引き出されている」ということです。

「LINEで雑談してもらうのが理想だ」と考えていた我々は、こうして「スタンプ」を採用することにしました。「スタンプ」という名前には、「ぽんっ!」というニュアンスを込めています。

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公開初期の「スタンプ」と比べて、何か変化していることはありますか?

すこしずつ変化しています。まず、初期のスタンプには「文字」がありませんでした。当初は「表情とポーズ」だけで、すべてを伝えていたんですね。

そして、その次に出てきたのが「文字」が入ったものでした。そこから「音やアニメーション」がついていきます。

最近でいうと、「LINE Creators Market」で流行っているのが、「吹き出し」をデザインに入れたようなスタンプです。これは遊びを入れた、おもしろいデザインですよね。

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ちなみに「LINE Creators Market」は、ここまで伸びると思っていましたか?

いえ、思いませんでした。もともと「多様性」を見たかったんですよ。我々だけがスタンプをつくっていると、各国で「ズレ」が出てきてしまうかもしれないので。

スタンプでおもしろいのは、上手じゃなくていいんですよね。アイディアひとつだけあれば良い。そこは初期のアプリマーケットと似ていて、チャンスがありますよね。

だからこそ、小学生や70歳のおじいちゃんがつくった、スタンプがヒットしたりと、いろんなストーリーが生まれています。

LINEのプラットフォームがきっかけで、人生にポジティブな影響がでる。これはほんとに嬉しいことですし、すごくインターネット的で、素晴らしいことです。

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LINE GAMEについて

LINE:ディズニー ツムツムの「ハート」を送りあう機能とかって、「久しぶり」みたいなニュアンスが込められていたり、コミュニケーションっぽいところが、おもしろいなと思います。

そうですね、これも「知り合いだからこそ」なんですよ。だからこそ「いま送ったら迷惑かな」とかも想像する。逆に、知り合いじゃない人からくると、腹が立ちますよね。

LINE GAMEの「知り合い同士でゲームをやる」もしくは「ランキングを競う」というのは、ある種ひとつの「発明」だったと思っています。

LINEがゲームに参入したことで、日本のゲーム人口は、かなり広がりました。「普段、ゲームをやらない人」でさえも、スマホのゲームに白熱していますよね。

たしかに、そうですね。

「LINE:ディズニー ツムツム」はとくにそうで、デイリーやマンスリーでのユーザーでいうと、おそらく「日本のゲーム史上で最大規模」にもなっています。

これが実現できたのは、「ディズニーのIP力」はもちろん、そこに「ゲームのシステム」と「LINEのプラットフォーム」が、うまく合わさったからだと考えています。

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※「LINE:ディズニー ツムツム」は、MAU(月のアクティブユーザー)1,300万人を超えている。(2016年2月末時点)

そういえば「LINE:ディズニー ツムツム」はどのように生まれたんですか?

もともと、ディズニーさんとは「スタンプ」などで、取り組みさせていただいていたのですが、「ゲームもやりたいよね」というお話にもなって。

いまや「LINE:ディズニー ツムツム」というゲームは、ファンとディズニーキャラクターを近づける、ある種の「キャラクタープラットフォーム」にもなってきています。

たとえば、先日も「スター・ウォーズ」や「ズートピア」の映画公開にあわせて、新しいキャラクターを追加しました。最近はそういった取り組みも行っています。

LINEとコミュニケーション

LINEと「LINE MUSIC」を連携させて、LINEのプロフィール画面でBGMを設定できるようにしたら、「LINE MUSIC」のユーザー数が増えたそうですが、そうしたコミュニケーションを絡めて成功した事例はありますか?

まず「アプリ to アプリ」をやるのに、向いているものと、向いていないものがありますね。

たとえば「LINE NEWS」は、もともと「ニュースアプリ」としてスタートしましたが、「アプリ to アプリ」ではなく、LINE上のコミュニケーションとして、連携させるようにしました。

そうすることで、LINEのメッセージとして届く、ニュースのダイジェストが、アプリのトップページのような役割を果たして、ユーザーを伸ばすことができたんですね。

おもしろいですね。

あと、「LINE LIVE」での話ですが、「コメントとハート」を活かした、インタラクティブな番組のほうが、良い視聴データ(視聴数、視聴時間など)が出ています

具体的には「何ハートいったら、これをやります」といった感じですね。これはいままでにはなかった、新しいリアルタイムでの楽しみ方です。

たとえるなら、「ニコニコ動画」というのが、非同期の共体験だとすると、それに対して「LINE LIVE」は、同期している共体験です。

LINEでつくっているアプリについて

LINE製アプリの、「ステップを削ったデザイン」は、すごくいいなと思っています。「B612」のカメラロールで、フィルターをかけられるところとか。

UXデザインのところですよね。UXデザインって、過去の事例からは探れないんです。どうしてもそこだけは「ジャンプ」しないといけない。

よくLINEの社内では、「そもそもさ」「極端に言うとさ」と言い合うのですが、そういうふうに、疑ってみることは大事なことなんです。

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※「B612」のフィルター画面。

なるほど。

スマートフォンのサービスって、ニーズを叶えるために、「最少最短のプロセス」だけあればいいんですよね。「いろんな機能があればいい」というわけではなくて。

なので、スマートフォンサービスのつくり方としては、まずはニーズと機能が「1対1」くらいになる状態をつくること。

もし、それが受け入れられたなら、ユーザーから自ずと、次のニーズや不満が出てくるんですよ。それをいち早く感じとって、機能を改善していく。

これの繰り返しだと思うんですね、いきなり「完全な状態」にしてしまうのではなくて。

たとえば、LINEを出したとき、はじめから、ゲームもあって、スタンプもあって、ニュースもあって、という状態にしていたら、おそらく受け入れてもらえなかったはずです。

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それが何なのか、わからないから。

そう、何かわからない。ユーザーに迷わせてしまうので。よくUXでは、「慣れ」というのが非常に大事だ、と言われていると思うんですけど。

この「慣れ」というのは、正解でもあるのですが、「慣れ」だけをベースに設計していくと、結局すべて同じデザインになってしまうんですね。

だからそうではなくって、そもそものニーズを、ユーザーに最短で届けるために、どのようにUXやデザインを設計する必要があるのか。

つまり「人を中心に考えること」が、すごく大事なのかなと考えています。

ほかにアプリをつくるときに「意識していること」はありますか?

もっとも成功確率が高くて、リスクが低いのは「早く出すこと」なんです。そして、それを柔軟に変えていくこと。

つまり、まずはやってみて、ちょっとでも違ったら、その日にでも戦略転換するべきなんですよ。LINEはそういう考えの会社です。

あと我々は「モノのつくり方」ひとつとっても、中途半端に成功するよりは、悔いのない失敗をしたほうがいい、と思っている節がありますね。

だから、失敗もたくさんします。これだけのアプリを出して、これだけの失敗と成功を、くり返している会社は、そうそうないと思いますよ。

最後に、5年前の舛田さんに、先日の「LINEカンファレンス 2016」を見せたとしたら、どこにおどろくと思いますか?

やっぱり、会場に2,000人もの方が、見に来てくださったことですかね。笑

まあ、それは冗談としても、ここまで来れたことを、5年前に想像できていたかというと、できていなかったですよ。だから、どれもびっくりするとは思います。

中でも「LINE Pay」と「LINEモバイル」は、予想外だと感じるかもしれないです。「あ、LINEでここまでやることになるのか」と。

あと、LINE Payが「物理カードである」という点も。5年たってもデジタルではないことにも、また違った意味での、おどろきはあると思いますね。

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取材協力:LINE株式会社

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アプリマーケティング研究所編集部 アプリのマーケティングメディアです。アプリの売上を伸ばす施策やデータが学べるマガジン「月刊アプリマーケティング」もスタートしました。最近の記事は新サイトにて更新しています。取材申請はコチラのページから。
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