男性が理解できない「女の意思決定」を可視化した「女ゴコロフレームワーク」とは。ネイルアプリ「ネイルブック」が語るアプリ運営の生体験談。

2015年07月13日 |
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「ネイルブック」を運営しているスピカさんにお話を伺いました。女性心理を理解するための3ステップ「女ゴコロフレームワーク」とは?

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※株式会社スピカ 「ネイルブック」3代目ディレクター 正木友佳さん(初代ディレクターの川端さんにも同席いただきました)

「ネイルブック」が出来るまで。

「ネイルブック」について教えていただけますか?

川端:
「ネイルブック」は、ネイル写真を共有するアプリです、現在は10名のメンバー(うち女性4名)で運営しています。

ダウンロード数については、2011年4月にリリースして、現在120万ダウンロードです。海外からのダウンロードもありますが、アクティブユーザーは日本のユーザーがほとんどです。

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どんなユーザーが使っているんでしょうか?

川端:
やっぱり女性ユーザーがほとんどで、99%は女性がつかっています。年齢層でいうと20代後半〜30代が50%以上を占めていますね。

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どうして「ネイルブック」をつくろうと考えたんですか?

川端:
もともとは「ゆめみ」という会社の新規事業としてはじまったサービスなんです。(現在は「ゆめみ」からスピンアウトし、運営は「スピカ」に)

当時、(美容系のO2Oサービスとして)ヘアスタイル等の写真共有アプリを考えていたんですけど、2011年ってまだスマートフォンを持っている女性も少なく、「自撮り」も流行っていなくて。

そこから、私自身が「ネイル好き」だったこともあって「手だったら、写真を気軽に投稿してもらえるかも」という発想になりました。

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最初のほうは広告でユーザーを増やしたんでしょうか。

川端:
いえ、まったく広告費はつかっていなんです。そもそも広告予算がなかったんですよね。

事業をスタートするときに「大きい予算」だと会社の承認が通らなかったので、80万円の予算でスタートしたんです。これって開発費(人件費)も含めてですよ。笑

なので、初期はエンジニア1人、ディレクター1人で、本当に最小限で立ち上げた感じです。(なお、あとで聞いたら、小さくビジネスをスタートさせるために、あえて会社が「小さい予算」に設定していたそう)

ユーザーが増えたのは「ネイリスト特化」にしたから。

ユーザーはどのように増えていったのでしょう? 「ネイルブック」って「投稿される写真数」と「写真を見る人」の2つの数字を増やさないといけない。

川端:
結果的には「ネイリストにフォーカス」することで、「写真の投稿数」と「ユーザー数」の両方を解決することができました。

経緯としては、ネイルブックを眺めていたところ「キレイな写真を投稿しているのは、ネイリストさんだ」ということに気づいたのがキッカケでした。

なぜかというと、ネイリストさん達には「(自分のお店を)宣伝したい」というニーズがあって、「お客さんのネイル写真」をたくさん投稿していたからです。

そこで「ネイリストさんに喜ばれる機能」を充実させました。たとえば、「サロンの連絡先」を表示できるようにしたり、「ネイリスト」というタグをつけて写真が目立つようにしたり。

そうすることで「ネイリストのユーザーが増える」→「きれいなネイル写真が集まる」→「見に来るユーザーが増える」という、良いサイクルがつくれたのだと思います。

当時、ネイリストにフォーカスしたことで、写真投稿数を30%増やすことに成功しました。

「ネイルサロンへの集客」にもつながっているんでしょうか?

正木:
ランキング上位に入ると「そのネイルデザインが流行る」「店舗の予約数がすごく増える」という影響はありますね。「ネイルブックのおかげで、独立できた」というネイリストさんもいます。

なので、ネイルサロンからすると「かわいいネイルさえ投稿できれば、お客さんがくる」という状況にはなっていると思います。

ただ課題は「地理」なんですよ。ネイルサロンって店舗に通わないといけないので、みんな近くのサロンにいきたがる。なので「ネイルブック」でかわいいデザインを見つけて、近くのサロンに行っちゃう。

私たちも「サロンへの集客はもっと強化したいな」と考えていて、最近「サロンブック」という新アプリ(ネイルサロンを検索して、チャット形式で予約ができる)をだしました。

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「女ゴコロフレームワーク」について

「女性向けアプリの運営」において、大事なことって何かありますか?

正木:
「女ゴコロ」を理解するのはすごく大事だと感じます。とくに男性から見ると、「女性の行動」って、すごく理解しづらいと思うんですよね。

ちなみに「ネイルブック」では、女性が意思決定をするときに踏んでいる「3つのステップ」を体系化して、それを「女ゴコロフレームワーク」と呼んでいるんです。

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え、それは詳しくお聞きしたいです。

正木:
たとえば「ネイルサロンを探すとき」で説明しますね。

まず、ステップ1が「物理フィルター(物理)」なんですよ。具体的には「サロンまでの距離を調べる」だったり「実際のサロンの写真を見る」だったり、物理的に判断するわけですね。

そして満足したら、ステップ2の「感性フィルター(感情)」に進みます。ネイルデザインやネイリストさんの写真を見ながら、「本当に自分に合っているかな?」と感性で確認します。

そこがクリアできたら、最後(ステップ3)は「妄想フィルター(体験)」です。「自分がそのサロンにいくと、結果的にどんな体験ができるか?」と妄想します。

具体的には「女友だちからの反応はどうかな」とか「男ウケはいいかな」みたいな感じです。「変じゃないかな、ズレてないかな」と、主に不安を減らすために想像するんですね。

最終的にOKであれば、そのサロンに決定する。これはいろんなユーザーさんに、ヒアリングをしていて、気づいたことです。

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わかるような、わからないような感じがします。

正木:
もうひとつ「恋愛(結婚相手の決定)」で例えるとこうです。まずステップ1の「物理フィルター」で、最初に判断するのが「顔・外見・学歴・年収」などです。

そして、それがクリアできてはじめて、ステップ2の「感性フィルター」に進むことができます。具体的には「趣味や性格が自分と合いそうか?」という感じですね。

最後のステップ3は「妄想フィルター」です。たとえば「この人と結婚したら、どんな生活になるだろう?」とか「この人となら、どんな老後が過ごせるんだろう?」と想像する。

この3ステップをクリアできたら、「結婚相手として認められる」という感じですね。笑

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アプリのUI改善の4つの事例

事例1:UIを直感的に改善した。

川端:
以前は「虫眼鏡マーク」を押すと、写真が拡大するようになっていました。それを「写真をタップしたら拡大する」というUIに変えたところ、拡大回数が50%アップしました。

「改善後」のほうが直感的ですよね。文字でも「写真をタップすると拡大できます」という説明は一応入っていますが、これはほとんど読まれていないと思います。

「改善前」のときは、写真をタップして「あれ、なにも起こらないな」ということで、みんな諦めていたんでしょうね。

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事例2:ステップを減らしてシンプルにした。

川端:
もともと写真を投稿するときに「投稿する」ボタンをおすと、「カメラで撮影」と「アルバムから選ぶ」の二択で表示していたんです。

でもデータを見ると「カメラで撮影」を選ぶ人ってほとんどいなかった。なので、もう二択はやめて「投稿する」を押したら、すぐアルバムが開くようにしました。

当初5ステップだったのを、3ステップまで縮めました。つまりただ工程をシンプル化することで、写真の投稿枚数が20%が増えたということです。

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事例3:「何ができるのか」をわかりやすくする。

川端:
以前は「会員登録しないと使えない機能」にさわると、「会員登録してください」という画面をいきなりだしていたんですね。

それを「あなたは今、こういう機能をつかおうとしている。それをやるには会員登録が必要だよ」とナビゲーションを入れるようにしました。

すると、「新規の会員登録数」が8%、「4週間後の継続率」が5%上昇しました。つまり「会員登録のメリット」を説明するようにしたら理解度が上がって、会員数とアクティブ率が伸びたという話です。

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事例4:「位置の変更」は慎重に。

正木:
「かわいい」ボタンの位置を、「右下」から「左下」に変更したところ、「かわいい数」が6%下がってしまいました。

これって「右下のほうが良かったね」という話ではなくて、「ユーザーがボタンの位置を変えたことに気付かなかった」という話なんです。

というのも、「左下」にかわいいボタンはあるにも関わらず「かわいいボタンがなくなりました」って問い合わせがいっぱいきたんですよ。

つまり、ユーザーは「そこにあったものは、絶対につぎもそこにあるはずだ」と思い込んでいるということですよね。「位置の変更」って、意外に気をつけないといけないことなんでしょうね。

ちなみに、女性って「目的のもの」以外は、全然見えていないものなので、そこも意識したほうが良いと思います。

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ユーザーにとっての「当たり前」を勘違いすると危ない。

ネイルブックのユーザー層は、ネットに詳しくない「ふつうの人」が多そうですが、その辺で「何か感じること」ってありますか?

川端:
ありますね。最近はオフラインのセミナーなどにも力をいれているのですが、すごくカルチャーショックを受けることが多くて。

というのも、「ユーザーさんは、このくらい当たり前にわかっているだろう」と思い込んでいたことが、ことごとく「そうではない」とわかったからです。

たとえば「WEBを開いて下さい」って、当たり前のように説明しますよね?ところが、とあるユーザーさんに「WEBって何ですか?」と聞き返されてしまったことがあって。

その方の場合は「サファリを開いて下さい」と言ったら理解してくれました。スマホのホーム画面にある「アプリ名」で認識していた、ということですね。

そういったケースが、オフラインで話を聞いていると、結構たくさんあるんですよ。「ネイルブックが云々」の前で、つまづいているお客さんがきっと多いんだなと。

なるほど、それは興味深いですね。

正木:
あとは「アプリをダウンロードする」って、ハードルが高いことなんです。

たとえば、アプリをダウンロードしてもらおうとすると、「AppStoreのIDとパスワードがわかりません」と言われることが多かったり。

もうひとつ、写真系のアプリって「カメラへのアクセスを許可しますか?」みたいに、最初にでるじゃないですか。あれを「許可しない」にするユーザーってすごく多いんですよ。

当然「許可しない」にすると、アプリは使えませんよね。そして「写真が投稿できないんですけど…」と問い合わせがきてしまったりする。

理由は「怖いから」みたいですね、「個人情報を抜き取られるんじゃないか?」と不安になるみたいで。なので「許可を得る前」に、説明を入れるべきなのかもしれない。

ユーザーサポートでも、そういう話は多そうですね。

正木:
ありますね本当に。よくお問い合わせに「いま会員登録したけど、退会します」と問い合わせがくることがあって。もちろん「わかりました」と退会処理をしますよね。

そしたら後日「ログインが出来ません」と連絡がくるんですよ。「そりゃ、退会したから当たり前でしょ」と思いますし、一見よくわからないですよね。

でも、これの本当の意味って「せっかく会員登録したのに、使い方がわからなくてムカつく!」だったと思うんですよ。お問い合わせをする前に、何か「やりたいこと」があったはずで。

だから、そこで「あ、サービスがわかりづらいのかな」と気づけないといけないし、それをサービスに反映していかないといけないと思います。

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「ネイル」とはなんなのか。

そもそも、女性はなんでネイルをやるんですかね?

正木:
そうですね…ネイルをやるのは結局「自己満」ですかね。ただ「自己満」ではあるんですけど、人から認めてもらいたい気持ちがあって、やっぱり「カワイイ」と言われると嬉しいんですよ。

「ネイルブック」に写真をアップするモチベーションは、「かわいい」ボタン押されて「嬉しい気持ちになりたいから」ですね。いわゆる「承認欲求」じゃないでしょうか。

ちなみに、最近はネイルサロンにいく男性も増えています。目的は「ネイルを飾る」ではなく「爪をキレイにする」ですね。

営業の人とかは「お客さんに資料で説明するとき、手がキレイなほうが良い」ということで、甘皮の処理をして爪をピカピカにするそうですよ。

ちなみに、ユーザーってみんな「ネイルサロンにいく人」なんですか?

正木:
いえ、実は「ネイルサロンにいく人」だけでなく、「セルフでやる人」も多いんですよ。だから「ネイルブックで、デザインを勉強している」というユーザーも多いと思います。

料金だけみると、サロンにいくと(月1くらいで)5,000円〜1万円かかるのですが、セルフならネットでチップが100円くらいで買えるので。ただ、実際セルフでやるのはすごく難しいですね。

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最後に「アプリを運営している人」へ、アドバイスがあればお願いします。

正木:
実体験として「この業界にとどまっていると、ネットリテラシーが高くなってしまう」という問題は危険だなと感じました。そうならないために出来ることは2つ。

1つ目は「実際にアプリをつかっているユーザー」に会いに行って、「ユーザーがわからないこと」を把握しておくことです。「対面で話さないとわからないこと」というのが絶対あるので。

2つ目は「サポート体制を厚くする」ということ。片手間でサポートをやってしまうと、どうしても作業になってしまって、日々の問い合わせが流れていってしまうんですよね。

サポートに届いた内容を元に、「その人が本当は何をしたかったのか?」を翻訳・蓄積して、サービスに落としこんでいかないといけないですよね。

取材協力:株式会社スピカ
※スピカさんでは現在、UIデザイナーやエンジニアを募集中(詳細ページ)とのこと。

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編集後記

余談ですが「女性は目的のもの以外見えてない」という話を聞いて、「少女マンガのコマ」(何かに焦点が当たり、周りがキラキラする演出など)って、女性の視点を可視化したものなのかな?と思いました。

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アプリマーケティング研究所編集部 アプリのマーケティングメディアです。アプリの売上を伸ばす施策やデータが学べるマガジン「月刊アプリマーケティング」もスタートしました。最近の記事は新サイトにて更新しています。取材申請はコチラのページから。
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