6名のアプリ開発者を取材しました。「個人開発者特集2018」の第六回(最終回)です。
<目次>
1、デスマーチを超えて夢だけで独立したら年収15万円
2、仮想通貨アプリのアフィリエイト月30万円が月数千円に
3、ドローン飛行マップ開発者のニッチアプリつくる楽しさ
4、300万DLのホラーゲー開発者が語るホラーの広がり方
5、副業開発の瞑想タイマーアプリが月2万円の広告収入
6、囲碁アプリが収益80万円。65歳以上ユーザーが多い
1、アプリで独立「夢だけ」で挑戦したら年収15万円
※個人開発者のふりふらさん(30代 埼玉県在住)
もともと「開発者になるまで」は何をされていたんですか。
もともとは、ソフトウェア会社でデスマーチしてました。残業170時間とかでしたね。0時まで働いて6時に出社して。人間の生活じゃなかったですよ。笑
あるとき、スマホゲームのブームが来て、新規事業で「カジュアルゲームをつくろう」となりました。受託系の会社だったんですけどね。
それで、ほぼノウハウもない中、リーダーになって挑戦したところ、1,000万円の大赤字を出してしまい、新規事業は中止になってしまいました。
クオリティに問題があるのに、お金をたくさんつかって広告を打ったら、ランキングは上がったけど維持できなくて、お金が溶けてしまったんです。
そうだったんですか…。
でも、自分としては悔しくて諦めきれなくて。どうしてもゲーム開発にリベンジしたくて。それで個人でのゲーム開発をはじめたんですね。
当初は、クマのゲームばかりつくってました。ゲーム自体はおもしろいと思うし、クマも最高だなと思ってたけど、全然広がりませんでした。
収益でいうと月数百円くらい。ゲーム開発はとても楽しいものの、副業とはいえ全然儲かってませんでした
※人気はでなかったが「破天荒なクマ」のゲームをつくり続けた
なるほど。そこからどうして「独立しよう」となったのですか?
そのうち、数多のデスマーチを乗り越えた影響で、ちょっと体調を崩してしまって。以前のようにハードには働けなくなってしまったんです。
そのときに、ゲーム開発に専念してみたかったのもあって「独立しよう」と考えはじめました。
ただ、奥さんにはすごく反対されました。儲かってないのに専念とか無理。夢だけじゃやってけないよって。もっともだと思いましたね。
でも、なんとか交渉してOKもらえて。期限付きで挑戦できることになり、2018年1月から個人開発者として独立することになりました。
※「1年以内に成果を上げること」を条件に挑戦できることなった。
独立してからの状況はどうでしたか?
あまり状況は変わりませんでした。しばらくは月数千円という収益が続いていました。
ただ、5月に「テラセネ」というゲームを出したら、6月にツイッターで紹介ツイートがバズって、ストアのランキングが急上昇したんですよ。
正直そのときは「きた」と思いましたね。自分のゲームが認められる日がきた。埋もれていた才能がついに開花したんだ!そう思いました。
一気に数千ダウンロードされて、収益も1日で1万円に届いて。調子に乗って「くら寿司」に2日連続で行きました。奥さんも喜んでくれました。
太陽として、少女の行く道を照らし危険から守ってあげるディフェンスゲーム『テラセネ』。少女を攫おうとする敵に光を当てて退けていくが、実は少女自身も光を浴び続けると灰になってしまう。守ることと傷つけることが表裏一体となっているジレンマは、システム的な面白さと共に物語に深みも与えてる。 pic.twitter.com/wvOjDuDzeF
— ロッズ (@rods_skyfish) June 24, 2018
※自作ゲーム「テラセネ」が紹介されたツイートが1.4万リツイートされた。
それは良かったじゃないですか。
そうですね。すごく嬉しかったです。でもバズったあとって続かなくて。1週間くらいでダウンロード数はすぐ元に戻ってしまったんです。
6月は、ツイッターで話題になったおかげで、月5万円まで収益が伸びたのですが、翌月には月19,000円まで下がってしまいました。
それ以降は、月1〜2万円くらいの収益を推移しながら、いまに至るというのが現在の状況です。
※会社員時代の年収500万円から年収15万円に。30分の1に下がってしまった。
いまはどうやって暮らしているんですか?
奥さんに働いてもらいながら、これまでの貯金で食いつなぎつつ、自宅でアプリを開発している状況です。家事をこなしながらの開発ですね。
奥さんより先に起きて朝ご飯つくって。奥さんが仕事に出かけた後、ゴミ出しや風呂掃除をやって。夜ご飯も自分がつくるようにしてます。
もともと、そういう約束だったので、それは当たり前の話ではあるんですけどね。
アプリ開発を続けられるのは「奥さんのおかげ」なんですね。
本当にそうです。奥さんが働いてくれるから続けられていて。自分のゲームがこんなに情けない状態でも生活できているという感じです。
本当に頭が上がらないし感謝しかないですよ。とくに独立してから自分で料理つくるようになって、奥さんのありがたさが身に染みました。
自分が仕事してたときは、奥さんがつくった料理に「しょっぱい」とかケチつけてたんですよ。でも料理つくるってこんなに大変なんだなって。
いままで、栄養バランスとか自分のアレルギーのこと、ちゃんと考えてご飯つくってくれて、とんでもない苦労かけさせていたんだなと。
毎月、奥さんには「収益等の進捗報告」もしてるのですけど、いつも奥さんは厳しく見守ってくれています
「今後の活動」についてはどうなりそうですか?
約束していた期限は年末までで、売上目標も遠く及ばないのですが、奥さんに「次回作のリリース」までは待ってもらえそうです。
ただ「一定収入を得ること」が条件なので、いまはゲーム開発とライターの仕事を並行して、次回作のゲームを開発しています。
今後は、3ヶ月単位で奥さんから「継続か就職か」の判断が下るので、次回作を春までには公開しないと、デッドエンドを迎えることになりそうです。
就職することになっても、個人でのゲーム開発は続けたいと思いますが、奥さんを納得させられるように頑張りたいと思います。
※開発中の「まつろぱれっと」 最低売上ラインとしては「最低賃金」(埼玉県は月13万円くらい)を超えればアプリ開発を続けられるそう。
(次回作によって「就職か続行か」今後の道が決まるそう。大逆転できるといいですね)
呪いの絵画の女の子にデッドエンドされまくるゲーム「まつろぱれっと」を作っています
ゲームが完成する前にデスマーチで死ぬと思います pic.twitter.com/QZS1kglkn2
— SleepingMuseum (@sleepmuse) December 3, 2018
2、仮想通貨アプリのアフィリエイト収益が月30万円から数千円になった話
※個人開発者のShota Nakamuraさん
自己紹介と「つくっているアプリ」について教えてください。
普段はメーカーで働いていて、趣味でアプリを開発しています。代表作は「BitVirtual」という仮想通貨のデモトレードができるアプリです。
このアプリは、もともと自分がビットコインを前から知っていて、シミュレーションできたらおもしろいなと思いつくったのが始まりでした。
ビットコインは30万円のときに買っていたのですが、すぐビビって売ってしまったんですよね。笑
そのアプリを出してから「仮想通貨の波」がきたわけですよね。
そうですね。2017年の11月〜12月の、仮想通貨ブーム時にインストールを伸ばして、2万インストールまで行きました。予想以上にブームが起きましたね。
ピーク時には月30万円の収益がありました。取引所のアフィリエイト広告です。当時は一人送客すると最大18,000円ほどもらえていました。
デモトレードの特性を活かして、好成績を出している人に「口座開設しませんか?」というダイアログを出したり、という工夫もしていました。
いまの収益はどれくらいになっているんですか?
いまは全然ですね。月数千円になってしまいました。アフィリエイトの条件も下がってしまって…。
データでおもしろかったのは、アプリのユニークユーザー推移と、ビットコインのチャートを重ねると、ほぼ似たような動きをしていたこと。
あと、アプリのユーザー層は「20〜30代の男性」がほとんどでしたね。デモトレードということで、強気に取引してる人も結構いました。
アプリの紹介動画も自分でつくられたんですか?
そうですね。動画については、海外のアプリ用テンプレートを約2,000円で購入して、クラウドソーシングで素材の差し替えだけ依頼しました。
この方法であれば、個人開発者でも1万円くらいの予算で、手軽に動画もつくりやすいのではないかと感じました。
いま「仮想通貨の波」を振り返るとどう思いますか?
一番は「ビットコイン買っとけばよかった」と思います。仮想通貨ブームのとき持っていなかったので。まさかここまで盛り上がるとは…笑
あとは、勢いがあったときにプロモーションもすべきだったかなと。そういう妄想をしていると、ちょっと一人悲しくなったりはしますね。
BitVirtual(iOS)
3、ドローン飛行マップ開発者が語る「ニッチなアプリつくる楽しみ」
※個人開発者の石村圭史さん(39歳)
自己紹介と「つくっているアプリ」について教えてください。
普段は印刷会社で働きながら、趣味でアプリを開発しています。プログラミングを覚えたのは30歳過ぎてから、完全に独学という感じですね。
代表作は「ドローンフライトナビ」という、ドローンの飛行禁止エリアを確認できるアプリです。自分がドローンが好きだったのでつくりました。
現在、アプリは4.3万ダウンロードされていて、広告収益は月1.5万円くらいになっています。
※2017年5月リリース、月間アクティブユーザーは9,600人、収益は月15,000円程度(インタースティシャル広告6割、バナー広告4割)
そもそも自分自身「ドローンが好き」なんですね。
はい。完全に趣味で「自作ドローン」を飛ばしてますね。最近はドローンレースにハマっていて。ドローンレースめちゃくちゃ楽しいんですよ。
ドローンにカメラが搭載されていて、ゴーグルをつけるとパイロット視点で操縦できるんです。それが空を飛んでるようで最高に気持ちよくて。
ドローンレースって、デジタル信号だと遅延が発生するので、アマチュア無線の電波をつかうのですけど、そのために無線の免許まで取ってしまいました。笑
ドローンフライトナビは「どんなユーザー」につかわれていますか?
一言でいうと「ドローン好きおじさん」が多数を占めていますね。男性が95%を占め、年齢は30〜50代が多いです。
イメージとしては、ネットリテラシーが高いおじさんで、空撮やドローンを楽しめるくらいお金を持ってる、そういう人が多いのだと思います。
根拠としては、最多機種がiPhone Xであること、最新OSの使用率が高くて、アップデートも9割くらいの人がすぐしてくれるあたりです。笑
ダウンロード経路をみると、LINEから来ていたりもするので、ドローン仲間の小さなコミュニティで、LINEから広がっている感覚もありますね。
ニッチなアプリをつくるのはおすすめですか?
自分としては、好きな業界やジャンルで「質の高いアプリ」をつくるのはおすすめしたいです。
理由としては、ドローンをやってる人に、アプリの名前を出すと「つかってるよ!」と言ってもらえて、自分を知ってもらうきっかけになっているんですよ。
それが、直接的なアプリ収入などよりも、ずっと嬉しいことだと感じるので、そういう視点でアプリをつくっても楽しいのかなと思っています。
ドローンフライトナビ(iOS)
4、累計300万ダウンロード「呪巣」開発者が語るホラーゲームの広がり方
※EDGESのプロデューサー ムゥさん(3名の小規模デベロッパー)
自己紹介と「つくっているアプリ」について教えてください。
ホラーコンテンツが大好きで、ホラーゲームをつくっている、3名のデベロッパーです。代表作の「呪巣」シリーズは300万ダウンロードされています。
日中はそれぞれ会社で働きつつ、それ以外の時間でゲームをつくっています。自分たちの納得できるホラーを求めてコンテンツをつくっています。
どうやってゲームが広がっているんですか?
ホラー特有の広がり方だなと思うのは、友達や兄弟など身近な人にやらせて「怖がる様子を楽しむ」ということ。まさに実況動画のちっちゃい版という感じですよね。
とくに、ツイッターを見ていると、学生の女の子が多いなと感じます。学校で何人か集まってやってたり、合宿の罰ゲームでやらされていたり。
ちなみに、夏だけではなくて冬もホラーシーズンなんですよ。ダウンロード数も夏の7〜8割まで復活しますね。
「呪巣シリーズ」は中国でもリリースしてるんですね。
中国はパブリッシャーを通してリリースしました。中国では「アイコンをもっと怖くしてくれ」と言われて、ゲームに出てくるババアをアイコンにしました。
あと、中国って表向きは「ホラー映画はNG」なんですよ。でもみんな見たい欲求がすごくあって。ネットとかでこっそり見ている層に刺さりました。
ただ、これはあくまで当時の話なので、いまどうかはわからないですけどね。
ホラーゲームつくっていると「怖すぎるじゃないか」みたいな問い合わせもくるんですか?
ありますね。怖くて寝れません、ババアが夢に出てきた、金を出すからアプリをストアから削除しろとか、そういう連絡は来たことがあります。
怖かったと言われるのは嬉しいですよ。世の中にトラウマがひとつ増えたなと嬉しくなります。僕もホラー大好きで会社で作業してるときも怪談とか聴いてます。
ただ、そういうホラーコンテンツよりも、ふとした瞬間に「怖いな」と思った瞬間を、掘り下げていくと良いネタになったりはしますね。
例えば、ベランダの隅に「黒いモノ」が落ちてる。じーっと見たらちょっと動いていて、これモノじゃなくて生き物なんだとわかる瞬間とか。
ホラーゲームって収益面ではどうなんでしょうか。
収益性は「脱出ゲーム」とあまり変わらないと思います。ただ、意外とヒントは課金してもらえて、リリース当初は3割くらいが課金収益になっていました。
あと、呪巣の画面を「ほぼ白黒」でつくっているのは、色をつけるコストとのバランスを考えた結果そうしています。いい雰囲気が出るという理由もありますけどね。
5、瞑想タイマーアプリが「月2万円の広告収益に」
※個人開発者のYuki Yamashitaさん
自己紹介とつくっているアプリについて教えてください。
会社でエンジニアとして働きながら、趣味でアプリ開発しています。2進数などの電卓アプリや、瞑想のタイマーアプリをつくっています。
電卓アプリのほうは、自分が業務で必要だったためつくりました。ダウンロード数は5万ダウンロード、収益は月1,000円ほどになっています。
ユーザー比率は、中国が50%、韓国が20%、残りは日本やブラジルです。言葉があまり必要ないためローカライズしやすいのはメリットです。
瞑想アプリのほうは、5万ダウンロード、月2万円の収益になっています。タイマー終了後に出る広告が、上手く収益につながっていますね。
個人開発をやってみて「思ったこと」があれば教えてください。
やっぱり「アプリをつくれるだけ」じゃダメだと感じました。おもしろい企画を考えたり、マーケティングも重要なのだなと実感しています。
まだ、月2万円の収益ですので、売れないバンドマンのような気持ちです。でも朝早く起きて開発したりして、毎日楽しんでやっていますよ。
6、囲碁アプリが収益80万円。65歳以上が多かった
※個人開発者の神宮司さん
自己紹介と「つくっているアプリ」について教えてください。
囲碁が好きなので「詰碁の森」というアプリを開発しました。6万ダウンロードで、収益は80万円になっています。
特徴としてはユーザーの年齢層です。65歳以上のユーザーが多くて、とくにAndroid版のほうは「65歳以上が40%」を占めていますね。
iOS版は「65歳以上が15%」しかいないので、OSによっても大きく差が出ていますね。
※8万ダウンロード、収益80万円(月収益は7万円ほど)
アプリの施策で「上手くいったこと」があれば教えてください。
最近上手くいったのは、一定数ステージをクリアした後に「レビューのお願い」を出すようにしたら、レビュー数が以前の40倍になったことです。
問題のレベルに合わせて、サクサク解ける5ステージ目のクリア後に、レビューをお願いするようにしたのが、効果的だったのかなと感じます。
※デザインのリニューアル等との相乗効果とのこと。
開発者のツイッターアカウント
ふりふらさん ゲームアプリ(@shakeflower)
石村圭史さん ドローンマップアプリ(@1SSIE)
EDGES ムゥさん ホラーゲームアプリ(@EDGES_APPS)
Yuki Yamashitaさん 瞑想タイマー(@akeome)
神宮司さん 詰碁アプリ(@oubeika11)
個人開発者特集2018
【第一回】自作のクソゲーアプリに「息子への遺言」を埋め込んだ49歳の個人開発者
【第二回】勉強しないと止まらない目覚ましアプリと運用費ほぼゼロ「意見箱」の効果
【第三回】個人開発の高校野球ゲームが収益1,290万円超えるまでにやった3つのこと
【第四回】パチスロ生活しながらアプリ開発で1,500万稼いだ男と電卓アプリ収益推移
【第五回】副業コンビで200万円稼いだゲーム開発のコツとツイッター就活で内定獲得
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