方向音痴向けのナビゲーションアプリ「Waaaaay!」を開発しているチーム方痴民さんにお話を伺いました。これほどまでに開発スタッフがユーザーに愛されているアプリを知っていますか?
※チーム方痴民の堀内公平さん(左)、綾木良太さん(中央)、小原鈴花さん(右)。
Waaaaay!(うぇーい!)について
Waaaaay!について教えてください。
綾木:
方向音痴である我々「チーム方痴民」が方向音痴のためにつくったアプリです。目的地を入力すると「距離」と「方向」が表示されます。
小原:
普通の人は「グーグルマップ見ればわかる」っていうんですけど、方向音痴にとっては「グーグルマップで目的地につくなんて都市伝説でしょ」って感じなんですよ。その死活問題を解決するアプリですね。
※ルートじゃなくて「目的地の方向と距離」を教えてくれるアプリ。Yahoo! Japan Internet Creative Award2014も受賞。
「チーム方痴民」はサークルのように活動されてきたとのことですが、みなさん普段はなにをやっているんでしょう?
小原:
私は「ietty」という不動産系サービスの会社で正社員として働いています。水曜がお休みなので、その日はフリーでアプリのデザインの仕事を受けたりしてます。
堀内:
僕はニート兼フリーランスみたいな感じ。趣味でこれまでに(2年間で)20アプリくらいつくっていて、企業に売却したり、譲渡して保守の仕事をしながら暮らしています。
例えば「恋人クイズ」というアプリは60万ダウンロードされていて、その派生で考えたアプリをカップルサービス系の会社に売却したりです。
綾木:
僕は、1回会社を立ち上げたのですが、それはもうやめてしまって。今は単発でアプリ開発のバイトをしながら、チーム方痴民の活動をしている感じです。
3人は別々のことをやっていますが、Waaaaay!はどのように開発しているんでしょうか?
綾木:
「各自でひとつのプロダクトを開発している」という感じですね。今日3人が集まったのも数ヶ月ぶりで、基本的にコミュニケーションはオンラインでとっています。
堀内:
Facebookメッセンジャーとかで「こんな機能を実装しようと思う」とプロトタイプを送って、特に反対がでなければ実装しちゃう。
「言い出しっぺ」が作業量を負担してつくる感じですね、これで成立するのは3人とも手が動かせるからかもしれません。
サービス名が発端で起きた「いくよくるよ事件」
リリース当初はどうでしたか?
綾木:
実はウェブ版を最初にだしたんです。当初のサービス名は「いくよくるよ」にしていました。(由来は吉本芸人の「今いくよ・くるよ」)
公開初日から「ねとらぼ」さんの記事が数千ツイートされたりして、かなり話題にはなっていました。
じゃあスタートから順調だったんですね。
綾木:
それが、ひとつ問題があってですね。実は「いくよくるよ」って商標登録されていたんですね。
芸人のほうではなくて、「いくよくるよ」という出会い系サイトのほうですね。それを知らずにつかっていたら、本気でお怒りのご連絡をもらってしまいまして・・・。
えっ、そこからどうしたんですか?
綾木:
もちろん「すみません、すぐに名前変えます!」と言って、名前を変えようとしました。
ところが「いくよくるよ」という名前がすごく気に入っていたので、ぜんぜんアイディアが浮かばなかったんですよね・・・。
どうしようかなと考えていたときに、クラウドワークスの「1万円クーポン券」があったので、それをつかってサービス名を募集してみたら、2週間で500件くらい集まって。
その中のひとつの「Waaaaay!」に名前を変更して、2014年の1月末にアプリ版をリリースしました。
※クラウドワークスの応募ページをみると600以上の案があつまっているのがわかる、ダジャレ系が多い。
ダウンロード数はどのように増えているのか。
ダウンロード数は、いまどのぐらいなんですか?
綾木:
2014年1月にリリースして、累計45万ダウンロード(iPhone37万、Androidが8万)という状況です。
MAUでいうと10万人くらいですかね、大体月に2回ぐらい使うユーザーが一番多い。あと、土日は平日の倍近くにアクティブユーザーが増える傾向にありますね。
iOSユーザーに寄っているのはなぜなんでしょうか?
堀内:
レビューの点数がiOSが4.7、Androidが3.9なのでそこも関係あるかもしれませんが、AppStoreの「露出が増えるとランキングが一気に上がる」という仕組みが大きいですね。
綾木:
例えば、今年5月にズームインサタデーの「ゴールデンウィークにつかうアプリ特集」(土曜の7時代に5分程度)で紹介されたことがあるんです。
テレビ放送された瞬間に3万ダウンロード、放送日でいうと4-5万ダウンロード増えて、AppStoreの総合9位まで伸びました。
そこから、ランキングからの自然流入、Twitterのクチコミなども含めて、結果的に10万ダウンロード以上の効果があったのですが、そうした「良い連鎖」がやっぱりiOSのほうが起きやすい。
普段はどのようにダウンロードが伸びているんでしょう?
堀内:
デイリーのダウンロード数は安定しているので、地道にクチコミされているのだと思います。Waaaaay!はソーシャルでのクチコミも比較的多いアプリだと感じますね。
綾木:
その話でいうと、方向音痴の人たちってすぐ予防線を張るんですよ。「おれ、方向音痴だからな〜」って、時間に遅れても仕方ないオーラを出す。笑
でも、それって迷惑じゃないですか。なので、その話のくだりで「方向音痴なら、このアプリ入れときなよ!」ってWaaaaay!がクチコミされているのをよく見ます。
ちなみに「方向音痴」ってワードは、Twitterで1分間に2ツイートくらいされているんですよね。そう考えると、当初から「方向音痴向けアプリ」と前面にだしていて良かった。
1,000人が課金した「サンマ課金」
Waaaaay!はどうやってマネタイズしているんですか?
綾木:
「ナビの矢印がサンマになる」というアドオン機能を100円で販売しています。「細くて長いもの」なら何でもよかったのでサンマにしました。
サンマに変えても特に意味はないんですけど、計1,000人ぐらいが課金してくれています。趣味ではじめたアプリなので「デベロッパー登録料くらいは、まかないたい」という気持ちでつけた機能です。
※45万ダウンロードのうち、1,000ユーザーがサンマに課金した。
※「Waaaay!」(アプリと開発チーム)のことが大好きなヘビーユーザーが購入しているのがわかる。
広告は入れていないんですか?
小原:
広告は入れないようにしています。だって、自分がWaaaaay!を使うときに広告があったら嫌ですからね。
堀内:
僕、20個ぐらいアプリをつくってきたのですが「広告ってアプリ内に表示していいものなんだろうか?」とすごく悩んでいるんですよね・・・。
というのも、例えば「320×50」サイズの広告って、クリック率でいうとせいぜい0.5〜1%ですよ。ってことは、100人中99人にとっては広告が「邪魔者」ってことでしょ?
これは「広告は悪だ」ということではなくて、せめてユーザーの10人に1人は喜んでクリックしてくれるような広告を、せっかくなら入れたいと考えているんですよね。
たしかに。自分の興味がある広告だったら、普通にクリックしたくなりますもんね。
堀内:
そうですね。その延長でひとつ試しているのが「Uberボタン」の設置です。Waaaaay!をつかったけど結局道に迷ってしまった時にタクシーを呼べるようにしている。
この機能は「方向音痴は何を求めているんだろう?」と議論してたとき、小原さんが「あたし、道に迷ったら、あきらめてタクシー乗っちゃうこと多いわ」と言ってたのがきっかけ。
アメリカではアフィリエイト(Uberの利用につながると、収益が還元される)の仕組みがあるのですが、日本では未対応なので収益は発生しないんですけどね。
ちなみに、Uberとの連携を開始した8月~12月末までで「ギブアップボタン」のタップ数が1万回以上、Uberへの画面遷移が1,500回ほどありました。
他サービスとの連携というか、つなげているところは、他にもあるんでしょうか?
綾木:
「食べログ」「じゃらん」などのグルメや旅行サイトのURLをコピーしてWaaaaay!を立ち上げると、一発でナビゲーション画面に飛ぶようになっています。
飲みにいくときとか、食べログのURLがLINEで送られてくることってあるじゃないですか。その時に食べログ上で地図を見ようとすると、すごく見にくいんですよね。
住所を地図アプリにコピペするのも煩わしいですし、URLさえコピーしてしまえば、Waaaaay!で自動で地図が立ち上がるようにしました。
堀内:
アプリをつかう時って、絶対「流れ」があるんです。
例えば、Waaaaay!をつかう時って「どこかに向かっているとき」ですよね。その前には「乗り換え案内」「食べログ」などをつかっている可能性が高いわけです。
アプリはできる限り「単機能」にして、その前後関係に位置するアプリやサービスと、スムーズな連携や協力関係をつくっていけたらと考えています。
海外で「Waaaaay!」が受け入れられるかは「街のつくり」次第。
海外だとどうでしょうか、そのまま受け入れられるんでしょうか?
堀内:
僕はWaaaaay!をめちゃくちゃ海外に広めたくて、外国人にインタビューをしているんですね。そしたらやっぱり、国ごとに「文化的な違い」があることがわかった。
例えば、アメリカの住所って、日本みたいな「○○町○丁目○番地」じゃなくて、「ストリート」から入るんですよ。「ストリートをみつけて、まっすぐ歩けばつく」とすごく合理的にできている。
つまり、アメリカでは住所を探すとき「点」じゃなくて「線」で探すんですね。だから、アメリカとWaaaaay!の相性はよくないとわかった。
おもしろいですね、他の国ではどうなんでしょうか?
堀内:
例えば、アジアやヨーロッパは、アメリカみたいに新開拓されたのではなくて、後付けで都市を開発していっているから、どうしてもごちゃごちゃしちゃうんです。
そういう「点」で住所を探す必要がある国は、可能性があるなと感じています。
海外の人が「日本に観光に来たときに使う」というのはあり得ますか?
堀内:
すごく可能性があると思っています。「方向音痴」と「旅行者」って、実はニーズとしてはかなり似ている存在だと考えていて。
実際、アメリカ人に「日本へ観光にいくと、道が分からなくて途中であきらめる」「東京タワーには行けるけど、地元民に愛される小料理屋にはたどりつけない」と言われたこともある。
方向音痴は増えている?
Googleトレンドで調べると「方向音痴」の検索回数って2011年から増えているのですが、これってなぜだと思います?
小原:
うーん、スマホが普及して「地図を読める人と読めない人」の差が激しくなったのかも。
スマホがでてきて、誰でも地図をつかうようになったじゃないですか。それで「自分は地図がつかいこなせない、方向音痴なんだ」と気づいた人が増えたとか。
堀内:
あと「現地集合」ってスマホが普及したことで増えたのかもしれないね。
スマホがなかった時って「駅で待ち合わせする」「家まで迎えにいく」という方法も多かった気がする。「地図を印刷する」「駅前の地図を見る」というのも減りましたよね。
地図って今後どうなっていくんでしょうか?
堀内:
僕はWaaaaay!形式の「あっちに歩け」っていうナビが、当たり前になると思っているんです。
イメージとしては、地下鉄を乗り換えるときの「有楽町線 150メートル」みたいな看板と同じで、「目的地にたどりつくだけ」であれば、それで十分なわけです。
「地図を読む」って当たり前にやっているけど、すごい面倒くさいこと。極端な話「昔の人って、わざわざ地図よんでたんだってwww」と言われるようになるかもしれない。
あと、今後ウェアラブルデバイスなども含め、画面が小さくなってくると「地図をみて目的地にいく」というのは難しくなるはずです。
今はWaaaaay!でも「目的地の近く」にきたら地図をみないと厳しいけど、これもGPSの精度が誤差1メートル以内になれば必要なくなる。つまりその時が「地図がいらなくなるとき」だと予想しています。
アップデート文章は「ユーザーへの手紙」
AppStoreのユーザーレビューを読むと、フレンドリーなコメントが多いように見えるのですが、これはなぜなんでしょうか?
堀内:
直接関連するかわからないですが、独自でやっているのは「AppStoreのアップデートコメントを楽しくかく」ということですね。
単に「バグフィックス行いました」って書いてもつまらないじゃないですか。なので「ユーザーへの手紙」みたいな感じで3人で順番に書いているんです。
なるほど、そもそも「アップデートコメント」ってみんな読んでいるんでしょうか?
小原:
あ、それが意外に読まれているんですよ。中には「今回のWaaaaay!のアップデート文はコレ」みたいに、ブログを毎回かいてくれる人さえいます笑。
そういうコアなファンがレビューを書いてくれているんでしょうね。
堀内:
アップデートコメントに「Twitterはじめました」といれた日は、フォロワーが一日で200人も増えたんですよ。ということは、少なくとも数千人単位で読んでくれているはず。
これは、やっているアプリが少ないからか、話題にもしてもらえやすいですし、施策としても良い影響がでていますよね。
※アップデートコメントに呼応して、レビュー欄で開発者に求婚するユーザー(複数確認済み)まで。
最後に告知などがあればお願いします。
綾木:
Waaaaay!と提携してくれる「コンテンツを持っている人や会社」を探しています。
例えば、「東京ラーメン百選」という近くのラーメン屋さんをまとめたコンテンツがあるのですが、こういう感じで周辺情報のコンテンツも発信していきたいんです。
堀内:
あと動物園と提携するとか。「キリンを見に行きたい」という時に、Waaaaay!でどっちにいけばいいかをワンタップで教えてくれたり。
動物園からすると「専用のナビアプリ」を数百万円かけてつくる必要がないし、Waaaaay!としてもユーザーの増加につながって嬉しい。こういう提携先を、たくさん増やしていきたいと考えています。
取材協力:チーム方痴民(Waaaaay!)
編集後記
最近Android wear版(スマートウォッチ版)もだしたそうですけど、たしかに画面が小さくなるほど真価が発揮されそうなアプリです。
↓「waaaaay!」のWEBサイトで初期の画像を見つけたので貼っておきます。