地元の同級生3人でアプリをつくっている「SYUPRO-DX」さんにお話を聞きました。泣けるアプリ「彼女は最後にそう言った」(70万ダウンロード)がヒットするまで。※「軽度のネタバレ」を含んでいます。
※「SYUPRO-DX」浜中剛さん、入間川行成さん、横田純さん
<目次>
1.地元の同級生3人でアプリをつくる「SYUPRO-DX」
2.1本目のアプリ「THE・土下座」がヒットした
3.大手企業が入ってきて「迷走期」に突入
4.「開き直ってつくったアプリ」が50万ダウンロード
5.「彼女は最後にそう言った」はどのように出来たか
6.ユーザーが感動できるかは「演出」で決まる
7.ストーリーから「悪者」をなくした理由
8.「名前のつけかた」にも意味がある
9.人が「その音楽」を好きになる理由
10.脚本づくりのセンスを磨くには
1.地元の同級生3人でアプリをつくる「SYUPRO-DX」
浜中:2011年6月からアプリを15本ほど出していて、累計で300万ダウンロードくらいされています。
今は埼玉県の「元加治駅」(飯能駅の隣)の、アパートでアプリをつくって活動しています。
そこは、ぼくらの地元なんですよ。もともと3人は同級生なんです。浜中と横田が「高校の同級生」で、浜中と入間川が「小中の同級生」ですね。
横田:もうね、「元加治駅」はめっちゃ自然ですよ、川が流れていて、数年前まで無人駅だったようなところですから。都心からは遠いですけど、家賃は安いし穏やかでいいところです。
横田:もともとは、僕と浜中は「お笑い芸人」を目指して、「お笑い芸人」の養成所に入ったんです。
ところが、全然結果がでなくて。実力不足もあったと思うけど、うまくいかず辞めてしまいました。
その後、ぼくは劇団に入って「演劇の道」に進みました。今でも続けていて、かれこれ10年くらいは演劇をやっています。
浜中:僕は、お笑いをやめた後に、エンジニアとして会社に就職しました。そして週末だけ、アプリ開発をはじめて。そこに二人に加わってもらった感じです。
入間川:僕はアプリの音楽を担当しています。バンドをやっているんですけど、そのバンドを浜中が見に来てくれて。そのとき「アプリの曲をつくってよ」と話をもらったのがきっかけです。
2.1本目のアプリ「THE・土下座」がヒットした。
浜中:はじめて出したのは「THE・土下座」(2011年9月)というアプリでした。これがいきなり、AppStoreでゲーム総合1位になってしまった。
横田:このとき、僕はアプリでつかう「声」だけ担当していまして。それである日、浜中から「この前の、アプリの報酬をあげる」って言われたんですよね。
「なんだろう、5,000円くらいもらえるのかな」と思って、封筒をあけたら「当時手伝っていたバイトの月給くらいの額」が入っていて、おどろいた記憶があります。笑
3.大手企業が入ってきて「迷走期」に突入。
浜中:「最初の3作」については、調子が良かったですね。その頃は、個人開発者のアプリでも「宣伝なし」で上位にいける時代だったので。
横田:ところが、その後ヒットに恵まれず、「迷走期」が来てしまいました。パズドラがヒットして大手企業が入ってきて、クチコミだけでは、ランキング上位にいけなくなってしまって。
ほんと、1年くらいアプリがヒットしなくて、まったく収益がでませんでした。この時はもう、めちゃくちゃ苦しかったです。
ただ当時は、僕も演劇をやりつつ、別のバイトをしていたし、浜中もサラリーマンをやりながらだったので、「もう、アプリ開発を続けられない」という状態には、ならなかったんです。
横田:「なぜやめなかったか?」というと、僕は「アプリで夢が見たい」という想いが強かったですね。演劇の世界って、続けていても食っていけないんですよ、ほんとに。
「小劇場の役者」の多くは、基本的に給料制ではないので。例えば、2〜3ヶ月かけて稽古してから、公演をやって、手元に入るお金が1万円とかですよ。
「演劇は職業じゃない、生き方だ」と言う人もいるくらい、圧倒的に夢がないんです。でも、みんな好きだからやっているわけです。
だから、僕は「アプリをつくる」という活動に対して、すごく夢を持っていました。「もしかしたらヒットして、お金持ちになれるかもしれない」と。それで、続けられたのだと思います。
4.「開き直ってつくったアプリ」が50万ダウンロード。
横田:ただ1年間くらい、あまりに結果がでなかったので、だんだん「疲れたし、楽しくない」という状態になっていったんですよね。
それで「もう、つくりたいものつくろうよ」と、ある意味「開き直ってつくったアプリ」が、2013年5月にだした「あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね」でした。
浜中:そうそう。周りの情報を完全にシャットダウンして、「こういうゲームが流行っているから」とかも、一切考えずに「つくりたいアプリ」をつくったんですよ。
このアプリが、結果的に50万ダウンロードのヒットになって、流れが変わりました。「アプリ一本でやっていこう」と決意したのも、この頃だったと思います。
横田:「アプリ名のインパクト」もあって、ネットでクチコミが拡散して、ランキングが伸びました。ずーっと迷走し続けて、結果が出た瞬間だったので、とんでもなく嬉しかったですね。
あと「ドブネズミ」は出版社から声がかかって、小説にもなりました。きっかけは、出版社の編集長の娘さんが遊んでくれていたらしいんですよ。それで、編集長さんの目に留まったそうです。
5.「彼女は最後にそう言った」はどのように出来たのか。
浜中:「彼女は最後にそう言った」は「戦闘がないRPGアドベンチャー」というコンセプトからスタートしました。
「なぜそうなったのか」というと、ひとつ前にだした「奴は四天王の中で最も金持ち」というアプリが、すごくコンシューマーゲームっぽい「王道RPG」だったんですよね。
20万ダウンロードくらいはされたのですが、そのときに「もっと簡単なゲームのほうが良いんだな」と思いました。
浜中:そこで、RPGから「バトル要素」を抜いて「シナリオを追っていくゲーム」にしたら、勝機があるんじゃないかと考えて。
そうして、できたのが「彼女は最後にそう言った」でした。
横田:その後4〜5ヶ月で開発して、今年の5月にリリースしました。
最初はじわじわ伸びて、リリース10日目くらいに、「最終兵器俺達 キヨさん」という方が、YouTubeに実況動画を上げてくれて。
それがきっかけで火がついて、大きくランキングが上昇しました。結果的に、いまは累計で70万ダウンロード(iOSが圧倒的に多い)されています。
※なお、1ダウンロードあたりの広告収益は「カジュアルゲームよりも低い」(推定10円未満くらい)とのこと。
6.ユーザーが感動できるかは「演出」で決まる。
横田:「演出」はすごく重要なんですよ。シナリオを追っていくタイプのゲームの場合「1画面でどのくらいの情報を伝えるのか?」ということが、ユーザーの感情を左右します。
「彼女は最後にそう言った」の場合、1画面に表示できるのが「18文字×3行」なんです。それが1セットで。そこに「どのくらい情報を入れるのか」に、すごくすごく悩みました。
横田:例えば、ひらがな、漢字、スペース(空白)、「……」の置き方、音楽や効果音を入れるタイミングなど、「これだ!」と思うものが出来るまで、ほんとに何度も何度もつくりなおして。
この辺は感覚的ですね。演劇をしていると「お客さんはこの流れでこう反応をする」というのが、間近でみられるんですよ。だから「演劇の経験が活きている」というのはあると思います。
7.ストーリーから「悪者」をなくした理由。
横田:ストーリーについては「悪者が出てこない話にしよう」と決めていました。「悪者をやっつけた上で、最後に泣けるようにする」って、かなり難しいと思ったんですよね。
何よりそのほうが、終わった後に気持ちがいいじゃないですか。「ユーザーはどんな気持になるだろう」と考えたら、自然にあの結末になりました。
横田:あと、最近のユーザーは「ショッキングなシーンに耐性がない」ということを聞いたんですよね。
例えば「HUNTER x HUNTER」に出てくる悪者も、「純粋に悪さをする悪党」じゃなくて「悪者にもいろいろ事情があるんだよ」というふうに、描かれているじゃないですか。
それはもちろん良いと思うのですけど、スマホアプリでそこまで複雑な設定にしてしまうと、おそらく「盛り込み過ぎ」なんですよね。
だから「彼女は最後にそう言った」では、「悪者はいない」「現実を突きつけない」という、すごくキレイで理想的な世界を描くことにしました。
8.「名前のつけかた」にも意味がある。
横田:「キャラの名前」ってすごく大事です。たかだか「名前」ですけど、それが登場人物のイメージにも間違いなく影響してきます。
今回の主人公は「シンタロー」ですけど、これは「主人公で、真っ直ぐで、ストーリーが純愛で…」と考えていくと、しっくりくる名前が「シンタロー」だったわけです。
入間川:たしかに、シンタローって主人公っぽいし、「村」に住んでいそうだよね。これが「テツノシン」とか「ライトくん」とかだと、違和感があってダメなんでしょ?
横田:そうそう。全く同じキャラクターでも珍しい名前をつけるだけで、そのキャラの印象は変わってしまう。とくに主人公の名前って「プレイヤーの分身」だからさ。
横田:あとは「アプリ名」や「スクリーンショット」などにも意図を込めています。
狙いとしては、ユーザーには「ホラー・謎解きっぽい感じなのかな」という感覚で入ってもらいたかった。それで、最後までプレイすると「あ、純愛ものだったんだ」となって欲しくて。
なぜなら、僕らから表立って「これ、泣けますよ」って言ってしまったら、ユーザーに「泣けるか、泣けないか」で評価されちゃうから。それはちょっと違うなと思って。
9.人が「その音楽」を好きになる理由。
浜中:「良い音楽をつくるコツ」って何かある?
入間川:いろいろあると思いますけど、前提としては「人が音楽を好きになるとき」って、やっぱり「演出ありき」なんですよ。
喫茶店でなんとなく音楽が流れていたとしても、その音楽を好きにはならなくて。そうではなくて「あのゲームの、あのときに流れた曲」みたいな体験があるからこそ、大好きになるわけですね。
入間川:今回「『彼女は最後にそう言った』は音楽がとても良い」と言ってくれる人がたくさんいたのですが、それは然るべきストーリーで、然るべきタイミングで、その音楽が使われたからこそ。
ゲームをクリアした直後に、YouTubeに音楽をアップロードしている人がいたのを見ても、やっぱり「音楽と演出は1セットなんだな」ということを実感しました。
10.脚本づくりのセンスを磨くには。
横田:良い脚本をつくるコツは、ひとつは「人にされて嫌だったこと」を覚えておくと良いです。それを、そのままゲームに入れると、ほんとにすっごい嫌な感じになりますから。
あとは「映画をみましょう」ってよく言いますけど、気分が乗っていないときに見ても、何の身にもならないんですよね。だから「気分が乗ったときに、見たいものをみる」のが一番。
「マンガが好き」ということならマンガを見たらいいですし、「ゲームが好き」ならゲームをやればいい。僕もそうでしたから。そうすると、自分の引き出しに「蓄積されていくもの」があって。
シナリオを描くときって、結局は「引き出しに入っているものを、どう組み合わせるか」なので、それが多いほど役に立つのだと思います。
取材協力:SYUPRO-DX