半年でアップデート20回、アプリの継続率を2倍に改善。「Smooz」が手動で「ユーザーの意見」を集め続ける理由。地道なアップデートは裏切らない。

2017年03月22日 |
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スマホ特化のブラウザアプリ「Smooz」さんに、地道なアプリ改善などのお話を伺いました。


※アスツール株式会社 代表取締役 加藤雄一さん(右)、湯浅さん(左)

「Smooz」ができるまで

加藤さんが「起業するまでの話」を教えていただけますか?

もともと、プロダクトをつくるのが好きでした。前々職のソニーでは「スマホ」をつくっていて、前職の楽天では通話アプリ「Viber」をつくっていました。

そして、楽天に転職したころから、iOSアプリを趣味でつくりはじめました。それがもう、めっちゃたのしくて。昼休みや土日とかにも、ずっとプログラミングをしていた。

そのうち、少しずつ「つくる力」がついてくると、「自分でも出来るんじゃないか?」という気になってきて、本格的に独立を考えはじめました。

もうひとつ当時、僕はもう40歳手前まできていて。年齢的にも、これが最後のタイミングかもしれない、そういう気持ちもあって、起業することを決めました。

「会社をやめたとき」には、もう何をつくるか決まっていたんですか?

いえ、会社をやめたときは、何をやるか決まっていなくて。最初の半年は、アプリを10個くらい試作しながら、アイディアを探していました

たとえば、「スマホの見すぎ問題」を解決しようと、音声で「プッシュ通知」を読み上げて、耳で聞けるアプリをつくってみたり。

ちなみに、これは全然ダメでした。文字だと3秒で読めることって、耳で聞くと10秒はかかるから。そうすると、待ちきれずにスマホを見てしまう。

なるほど。

もう、大半のアプリはそんな感じでしたね。「コレは良さそうだな…」と思っても、つくってみると「自分もつかわないもの」だらけだった。

そのときに「考えるよりつくったほうが早い」ということを学びました。仮に、1週間ずーっと考え抜いたとしても、実際はどうなのかって、なかなかわからないから。

そんなことをやりながら、僕も生きなきゃいけないので、楽天からのコンサル業務を週一でやって、生活費を稼ぎながら、アプリをつくっていました。

「Smooz」に関しては、どうしてつくろうと思ったんですか?

スマホで「検索を深く速くやる」という点に、強いニーズがあるんじゃないか、と考えたからです。

たとえば、店頭で「ヘッドフォン」のレビューを検索したいとき、その場でスマホで調べるよりも、カフェでノートパソコンを開いた方が、速かったりもしますよね。

そういう、情報を自分から取りに行く、リテラシーの高い「上位10%」の人にとって、最適化されたブラウザがつくれないだろうかと考えました。

どのくらいの期間「Smooz」を開発していたのですか。

開発は9ヶ月ほどかかりました。最初の3〜4ヶ月は、自分一人で開発を進めていて。1日に10時間くらいはプログラミングしていたと思います。

9時間コードを書いてから、1時間インド人のエンジニアに画面共有して、わからなかったところを聞く。それを毎日くり返していました。

※開発効率を上げるため、インド人エンジニア(時給5,000円)を、プログラミングの先生として雇っていた。

なるほど、おもしろいですね。

そこからの半年は、2人で開発をしました。「try! Swift」というカンファレンスで出会った、湯浅さんという人が手伝ってくれることになって。

こうして、2016年9月に「Smooz」をリリースすることができました。最初はいくつかの「コアな機能」に絞ってつくりこんでいました

当初はURLバーもなかったですし、閲覧履歴さえもなかった。だから「閲覧履歴もないんですかw」と、よくバカにされていましたね。笑

「Smooz」のアプリデータ

現在の「Smooz」について教えていただけますか。

アプリのダウンロード数としては、約10万ダウンロードです。男女比は、7:3くらいです。

アプリの運営は2人でやっていて。あとはサラリーマンの人たちに、副業ベースで手伝ってもらっています。こういうのを最近「草ベンチャー」っていうらしいんですけど。

また、平均的な「ユーザーの動き」としては、1日あたり検索を4回して、1日にWEBページを80ページ見ている、という感じです。


※たくさんタブを立ち上げて、片手で高速検索できるブラウザアプリ(現在、iOSのみ)

「1日に80ページ」って多くないですか?

そうですね。やっぱり「複数ページを素早く見比べられる」のが特徴だからでしょうか。

ただ、ページごとの滞在時間をみると「数秒」なんです。バーっと立ち上げてバーっと閉じている。何かを比較していたり、並行して見ている感じなのかな。

よく見られているのは「ブラウザゲームサイト」と「動画サイト」です。タブをたくさん立ち上げて「見比べる」上で便利なのかもしれない。

こうしたデータに関しては、もちろん個人情報には紐づかせない形で、データ分析をしています。

アプリ運営において「数値」としては何をみていますか?

数値として大事にしているのは、ユーザーの継続率(リテンション)です。なぜなら一番「プロダクトの良さ」をあらわす数値だと思うから。

ホントに継続率って、小さくアップデートを続けていくと、少しずつ良くなっていくし、やればやるほど手応えが返ってくるんですよ。

実際に「Smooz」でも、約20回のアップデートを通じて、アプリを改良してきた結果、リリース時とくらべて、継続率を2倍に改善することができました。

あと、継続率を大事にしているのは、バズってユーザーが増えたときなどに、数字(ダウンロード数やDAU)に踊らされないようにするため、という理由もあります。


※「ダウンロードから7日目」の継続率が当初の約2倍に。

「Smooz」を快適につかってもらえるよう、何か工夫していることはありますか?

ページを読み込んだときの「プログレスバーの動き」には、すこし工夫を入れていて。

プログレスバーって、普通にやってしまうと「10%…20%…」ってカクカクしてしまう。これをアニメーションで、なめらかに動かすようにしたんですね。

すると、レビューで「読み込みが速くなった!」と書かれるようになった。実際の「読み込み速度」って、まったくなにも変わっていないのに。

おもしろいですね、どういうことなんでしょう。

アニメーションを入れたことで、人間の体感での「待ち時間」を短くすることができた。つまり「実際のローディング時間=体感時間」ではないということです。

プログレスバーって「止まっている」ように見えると、遅く感じてしまうんですよ。だから「ずっとバーを動かし続ける」というのが重要だった

これって、たった2行ほどのソースコードの追加なんですけど、ものすごく効果がありましたね。


※「バーの動き」の違いのイメージ(関係ないかもですが、電車とかも「止まったり動いたり」してるより、常に「ゆっくり動いている状態」のほうが、イライラしないような…)

「ユーザーフィードバック」に命をかける

アプリの運営において、力を入れていることはなんですか?

力を入れているのは「ユーザーフィードバック」の収集です。狂おしいほどに「ユーザードリブンでつくろう」という気持ちでやってきていて。

具体的には「ツイッター、チャット、レビュー」など、各所から送られてくるフィードバックを、すべてシートにまとめています

そして、それを「問い合わせの多い順」に並べていて、そこに集まった「ユーザーの声」をもとに、アプリの機能を改善しています。

優先順位については「回数と共感」でつけていますね。基本は「ユーザーの声」が多いものから、そして僕らが「たしかに、そうだな」と共感できたものから。


※Googleスプレッドシートにまとめている。

このシートは手動でつけているんですか?

いまのところ、手動ですべて自分でやっています。こうしたサポート業務って、何より「肌感覚で理解しておく」というのが重要だと思っていて。

たとえば、バイトに任せて「結果」だけ見てしまうと、ユーザーさんの「ひしひし感」が伝わってこなくて、無視してしまうかもしれない。

メッセンジャーアプリの「WhatsApp」も、ユーザーが1億人を超えるくらいまで、CEOが自分でカスタマーサポートをやっていたらしいんです。

小さなプロダクトにとっては、「何が正解なのか」ってまだわからない状態だから、できるだけユーザーさんとコミュニケーションとったほうがいいなと。


※直接「ユーザーの声」を聞くのと「結果」だけをみるのは、伝わる情報が全然ちがう。

なるほど。

それから、週1回くらいのペースで、ツイッターでユーザーさんを「ランチ会」に誘っているんですけど。そこで得られる「気づき」もたくさんありますね。

このまえ来てくれた方とかは、プログラミングを勉強してる大学生だったのですが、iPadに改善案までかいてきてくれて。真面目にすごく参考になりました。

なんか、良いですね。

あと、アプリ内に「電話サポート」をつけてみたら、おもしろいことが起きました。

というのは、ものすごく困っている人ではなくて、「いつもありがとう」みたいな感謝の電話が、かかってくるようになったんですね。

そもそも、月1回くらいの頻度でしか、電話自体かかってこないのですが、「これは勇気づけられる」ということでずっと続けています。

まったく知らない人が、「自分たちのつくったモノ」を喜んでつかってくれてる、それが聞けるだけでもやる気がわいてくるじゃないですか。

ずっと闇雲につくっているだけだと、心が折れてしまいやすいので、こういうモチベーション対策も、あって良いんじゃないかなと考えてます。

うまくいった施策について

ほかに「うまくいった施策」があればおしえてください。

アプリをアップデートしたときに、起動時に「メッセージ」を出すようにしたら、とても良い結果がでました。

これをやる利点は3つあって。まず、ユーザーさんとコミュニケーションがとれる、アプリの新機能をつかってもらえる、そしてレビューを書いてもらえる。

とくに「レビュー」のところは深刻なんですよ。AppStoreってアップデートすると、レビュー数が「ゼロ」になって、ダウンロード率も落ちてしまうから。

いまでは、この「メッセージ施策」のおかげで、アプリをアップデートした翌日には、すぐに数十個のレビューがつくようになりました。

「アップデート文章」を書くときに、気をつけてることはありますか。

アプデ文章については、読むのが退屈にならないよう、ブログ感覚でかくようにしています。たとえば「開発時間を捻出するため、ヒゲの永久脱毛はじめました」とか。笑

そういう工夫もあってか、レビューに「アプデのコメントが好き」と書いてもらえたり、スクショを拡散してもらえることもあります。

僕はアップデートは「やればやるほどいい」と考えていて。なぜなら「アプデした日」って、アクティブ率も上がるんですよ。数値は1%とか小さいんですけど。

おそらく、アップデートをチェックしてくれる人が一定数いて、アプリを起動するからだと考えています。

「ユーザー増やす」という意味で、何かうまくいったことはありますか?

ツイッターでつぶやいてくれた人に、「ステッカー」をプレゼントするようにしたら、数百人のユーザーさんがツイートしてくれました

そこから、ステッカーをパソコンに貼って、写真をシェアしてくれたり、周りにアプリを広めてくれる人もいて、クチコミ効果も感じましたね。

初期はステッカーを送るとき、手書きでひとつひとつ「お礼メッセージ」も添えていました。途中から量的にしんどくなってきて、今は「サインだけ」にしているのですが。

そういえば、マネタイズはどうしているんですか?

いま、ほぼマネタイズはしていなくて。テスト的に「バナー広告」とか「Amazonのアフィリエイト」を入れて様子をみているという状況です。

ただ、それだと「収益の柱」にはならなそうなので、将来的なマネタイズ案としては、検索キーワードにあわせて、記事が表示されるような広告を考え中です。

最後に、今までで「やってみたらこそ分かった」と思うことがあれば教えてください。

やっぱり、なんでも「ダメもと」でもお願いしてみることですかね。

AppStoreのフィーチャーも、勝手に「サファリと競合するよね…」と考えたりもしたのですが、リリース前にダメもとで連絡してみたら、フィーチャーしてもらえた。

どんなに「良いもの」をつくったとしても、自分から売り歩かなくて埋もれちゃうケースって、けっこうあるんだと思うし、ひとまずお願いしてみることは大事かなと。


※結果的に、AppStore「Best of 2016」にも選出された、9月にはトップページでのフィーチャーも(+6,000DL)

取材協力:アスツール株式会社

Smooz(AppStore

【お知らせ】アプリ企業の取材などは「取材申請」のページから受付しています(4月以降、比較的時間とれそうなのでぜひ)

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アプリマーケティング研究所編集部 アプリのマーケティングメディアです。アプリの売上を伸ばす施策やデータが学べるマガジン「月刊アプリマーケティング」もスタートしました。最近の記事は新サイトにて更新しています。取材申請はコチラのページから。
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