WEBとアプリで展開している、オンライン学習サービス「スクー」について、株式会社スクーの森さんにお話を伺いました。
※株式会社スクー 代表の森 健志郎さん。
「schoo(スクー)WEB-campus」をつくった理由。
そもそもどうして「schoo」をつくったのでしょうか?
森:
僕は前職はリクルートで働いていたのですが、2年目の終わりに「3年目からリーダーになってもらう」って言われたんです。
それでリーダーになるということで「マネージメントの基礎」みたいな、10時間のeラーニングの動画研修を受けることになったんですね。
ところが、実際に研修をはじめてみたところ、これがまったく面白くなかったんです・・・。
どんな内容だったんですか?
森:
言ってみれば「カメラ目線でおじさんが延々と語りかけてくる動画」だったんです、見続けるのが苦痛でしたよね。
結局、僕はマネージメントを学びたかったにも関わらず、学ぶことができませんでした。
という体験をした時に「この課題は解決できるな」と思ったのがスタートですね。これだけソーシャルでコミュニケーションをとる時代に、時代遅れな教育コンテンツを目の当たりにしたのがキッカケでした。
それで「schoo」をスタートしたと。最初は一人でやっていたんですか?
森:
創業した時はひとりでしたね、株式会社にはしていましたが。
ただ、僕はプログラミングなどは一切できないので、最初は友人たちにボランティアで手伝ってもらっていました。
友だちに「こういうサービスで世界を変えようと思ってる。お金はいま払えないけど、必ず社会貢献できるサービスになるから手伝ってよ」とお願いして、「それは、面白そうだね」という感じで助けてもらっていました。
※こうして出来た、オンライン学習サービス「schoo」。現在は「デザイン」や「IT」などのコンテンツが多いが、「街コンでもてる方法」などのユニークな授業も。生放送は無料、有料会員(月500円)になると録画授業も見放題。
いま「schoo」の会員数はどのくらいですか、PCとスマホの割合も知りたいです。
森:
いまschooの会員数(無料+有料)は10万人います、デバイスについてはschooの授業を見てる人でいうとPC7割、スマホ3割という割合ですね。
PCユーザーが多いのは、僕たちがPCを中心にコンテンツをつくってきたところが要因として大きいと思います。(例えば、「WEBデザイン」の授業は200講座ある)
今後、「ビジネスマナー」や「英会話」のようなライトな授業を、隙間時間にみるユーザーも増えていくと思うので、アプリのリニューアルも含めてスマホに注力しようと考えています。
「独自のカルチャー」があるサービスは強い。
schooを見ていると「学校らしさ」を世界観として大事にしているように見えるのですが、それは大事なことなんでしょうか?
森:
そうですね、サービスの「独自のカルチャー」って絶対に必要だと思っているんですよ、なぜならカルチャーが付加価値をつけると思っているから。
schooのコンセプトは「世の中から卒業をなくす」なのですが、「終わらない学校生活」というユーザー体験を提供するためにも「学校らしさ」を出しているんです。
なるほど。「独自のカルチャー」をもっているサービスって、例えば他にどんなものがありますか?
森:
僕が「カルチャーが優れている」と考えているサービスは、「ニコニコ動画」「クックパッド」「pixiv(ピクシブ)」この3つです。
何がすごいかというと、コンテンツの内容が全く同じであっても、この3サービス上でコンテンツをみたいと感じるところ。
たとえば「ニコニコ動画」でいうと?
森:
例えば、「まったく同じ動画コンテンツ」があったとして、「ニコニコ動画、YouTube、Vimeoのどこで見たいか?」というと、絶対にニコニコ動画で見たい人が多いと思うんですよね。
なぜなら、そのほうが面白いから。その源泉が「カルチャー」にあると思うんです。
ニコニコ動画の場合は、そこに一緒に見ている人がいて、コミュニケーションがあって、面白いコメント投稿があって、という部分が「カルチャー」になっていて、コンテンツやユーザー体験に付加価値をつけている。
だからschooでも、もちろん良いコンテンツもつくるんだけど、ただのコンテンツビジネスじゃなくて、「カルチャー」を構築していかなくちゃいけないと考えています。
著名人に会いにいって、講師をお願いした。
schooでは最初はどのように講師を集めていたのでしょうか?
森:
はじめは、nanapiの古川健介さん、面白法人カヤックの柳澤さん、家入一真さんなど、ネットのスタートアップ業界で教えるのがうまい方々にお願いしました。
普通に会社のホームページの「問い合わせ」からメールをして、会いにいってお願いしました。もちろん、知り合いでもなかったです。
当時のschooはユーザーもいないし、講師として出てもメリットはないと思うのですが、どうして協力してくれたのでしょうか?
森:
そうですね、講師として出ていただくメリットはなかったと思います。当時のschooはユーザーもいないし、よくわからないサービスだった訳ですしね。
それでも「君がやろうとしてること面白いね」と快くご協力いただけました。
これはたぶん、同じ起業家という目線で「助けてやろう」と思ってもらえたのが大きい。逆にアドバイスをもらったり、昼飯をおごってもらったり、皆さんに助けていただいたことに感謝しています。
「最初にネット業界の著名人に出てもらえた」というのは、その後もプラスになりましたか?
森:
はい、schooが最初に軌道に乗ったポイントってそこだったと思うんです。
つまり、最初の「ニワトリ・タマゴ」の部分である「コンテンツかユーザーか※」という部分を解決できたんですよね。(※「コンテンツを充実させるのが先か、ユーザーを増やすのが先か」という問題)
著名な方が出てくれたおかげでソーシャル上で拡散して、schooの学生さん(ユーザー)も増えましたし、その後にでてくれる先生も集めやすくなった、というのはありますね。
schooの「ウェブデザインの授業」の人気がでた理由。
今まで「予想外に人気が出た授業」はありますか?
森:
「ウェブデザインの授業」が人気だったのは意外でしたね。
「ウェブデザインの授業は、ウェブデザイナーを目指す人が受けるもの」だと思うじゃないですか?これが実は間違っていたんですよね。
「Photoshop(画像加工ソフト)」の授業を試したところ、生放送で受講者が数千人まで伸びたことがあって。
ユーザー層を調べてみたところ、自分でサイトをつくりたい高校生もいれば、80歳の人も受けてくれていた。中でもボリュームゾーンが30-40代の女性だったんですよ。
「30-40代の女性」がどうしてウェブデザインをやるんですか?
森:
理由は2つありました。ひとつは30-40代の女性にとって、ウェブデザインが「身近なこと」になっていたこと。
ユーザーヒアリングもしてみたのですが「前からウェブデザインを学んでみたかった」って言う人がすごく多かった。
今ってパートに出なくても、ランサーズやクラウドワークスで在宅でデザインの仕事が出来たりしますよね。あとは簡単にECでモノを売ることが出来たり。
だから「サイトをつくってみたい」「自分でデザインしてみたい」と密かに考えている人が増えていた。
なるほど、「副業や趣味」としてウェブデザインに興味を持つ女性が増えていた。
森:
はい、そして二つ目の理由は「(30-40代の女性にとって)デザインを学ぶ方法がなかった」ということです。
つまり、本で勉強すると難しくてわからないし、勉強会やスクールにいくのは若い子ばかりで気恥ずかしい。実際「私みたいなおばちゃんが行ってもいいの?」とたくさんの人が言っていました。
「ほんとは学びたいけど、学べていなかった」という部分に、ネット学習がうまくマッチしたということです。
「コンテンツの質」をキープするには。
今年から「外部からのコンテンツ配信」を解放しましたよね。すると「コンテンツの質」をキープするのが難しくなる気がするのですが、どうでしょうか?
森:
やっぱり、自分たちだけでコンテンツを作っていくと20年はかかるので、「プラットフォーム化」というのは絶対必須だなあと考えています。もちろん(パートナー)企業さんは選んで声をかけてますよ。
じゃあ、その品質管理をどのようにやっていくかというと、「Quality(コンテンツの質)」「Delivery(配信の質)」「Cost(コスト)」の3つのバランスを考えるようにしています。
仮に、画質が超キレイだったとしても、先生の話がつまんなかったら意味がない。という感じで、バランスを取ることを大切にしています。
※今までschooのスタジオで授業を撮影していたが、今年から外部からの配信もはじめている。提携先は大学や企業など全100団体にのぼるという。
基準として見ている「数字」などはあるのでしょうか?
森:
「ユーザーの滞在率」で判断しています。要は「60分の授業を何%のユーザーが最後まで受けたか?」を指標化している。
それを見ながら「もうちょっと授業の品質をあげた方がいいね」とか「音質がわるくてユーザーが離脱しているね」と話し合って、配信者さんにもフィードバックしています。
学習コンテンツで、宇宙にいけるスピードも2倍にできる。
schooには「宇宙起業家育成」というユニークなコンテンツもありますが、これはどのような意図でつくったのでしょうか?
森:
宇宙は個人的にも興味があるんです、とりあえず宇宙に住みたいんですよね。
でも、宇宙に住めるようになるには、どうやらあと100年ぐらいかかるらしい。さすがに医療が進歩しても、あと100年生きるのは厳しいかもしれない。
「どうしたら生きている間に宇宙に行けるだろう?」と、schooとしてできることを考えたんです。
なるほど、そもそも森さんが宇宙に行きたかったんですね。
森:
はい。それでschooとしては「宇宙起業家になるための学習」を提供できれば、「宇宙を目指す優秀な人材」が2倍になって、「宇宙に住む」という未来が50年で実現できるかもしれないと思った。
他にも「ガン医療」の学習コンテンツをたくさん用意できれば、もしかしたら「ガンの特効薬」ができるスピードが2倍になるかもしれない。
そうやって「社会課題を学習や教育で解決する」ということも、僕らが挑戦したいことなんです。
※schooの「宇宙起業家カリキュラム」より。
「学習ログ」は就職のミスマッチも減らせる。
よくschooを見ていると「ネット学習は匿名性の方がいい」という意見を見かけますが、「実名性」にしている理由はあるのでしょうか?
森:
「学校に入るのに匿名」っておかしいですからね。笑
最終的にインターネット学習コンテンツがスケールしていくためには、学んだことが実社会で反映される世の中にならないとだめだと思っているんです、そうすると実名が好ましい。
ネットで学ぶ最大のメリットは「学習のログ」がとれること。いまって「○○大学卒業」みたいなスペックでしか測れないけれど、ネット学習なら「いつどんな学習をしたか?」を記録していくことができる。
「学習ログ」が溜まっていくと、どんなことが可能になるんでしょうか?
森:
例えば、人と仕事のマッチングがしやすくなるんです。
例としては適当ですけどこんな人がいたとします。マサチューセッツ工科大学の「宇宙工学」の授業も受けている一方で、趣味では「蕎麦打ち」の授業を何度も受けている人。
そしてある日、NASAが新しく「宇宙×蕎麦打ち」の事業をはじめることになって、「良いヤツいないかなあ」とデータベースを検索したとする。
すると、その人が検索にヒットして「やばい、ピッタリのやつがいた。オファーしてみよう!」となるわけです。
もしかしたら「履歴書」では結果が出ていなくても、「学習ログ」ではすごく努力していた形跡が残っていて、評価されるかもしれないということですね。
森:
はい、採用のミスマッチは間違いなく減ると思う。将来的には、リクナビにschooのデータを連携させて検索できるようにしたり、人材業界もインターネット教育で変えていきたいですね。
というところでも、やっぱり実名性は必要だと考えていて、「リアルな個人」と「schoo上での学習ログ」を紐付けていくことをやっていきたいと考えています。
最後に、告知などがあればお願いします。
森:
schooでは8職種で人材を募集しています、ぜひ興味があれば見てみてください!
schoo採用ページ:http://schoo.jp/company/recruit
取材協力:株式会社スクー
編集後記
「オンライン学習のメリットは、学習ログがとれること」というのは、なるほどと思いました。たしかに今や履歴書とかよりもFacebookとか見たほうがその人のことわかりますしね。
schoo使っていますが、ラジオみたいに流しっぱなしにして「音声」を聞く使い方が、いちばん捗る気がしている。