会社を解雇されてアプリ開発で独立したという、個人開発者さんを取材しました。「個人開発者特集2017」の第四回です。
※個人アプリ開発者 魅了屋 平井博康さん
簡単に自己紹介をお願いします。
2016年の1月から、個人のアプリ開発者として活動している、魅了屋の平井(32歳)といいます。
もともとは、工場のシステムなどをつくっている会社で、エンジニアとして働いていました。やることがとにかく多くて忙しい会社でした。
そのうち、激務だったこともあって、うつ病になってしまって…。何度か「休職と復職」を繰り返したあとに、会社を解雇されてしまいました。
会社側としても「これ以上は、めんどうみきれない」ということになったようで、退職勧告を受けた後に解雇という形になりました。
そうだったんですか…。
でも、辞められて良かったです。体調がわるくて「半日休ませてください」というと、上司から烈火のごとく怒られるような環境だったので。
いまも2週間に1回のペースで、心療内科に通院しています。抗うつ剤と睡眠薬をもらって。症状はかなり軽くなっているんですけど。
そこから、どうして「アプリ開発者」になったんですか?
まず、会社を解雇されてから、1年ほど転職活動をしたんですよ。でも、それが全く上手くいかなかった。
転職サイトに登録して、履歴書を送ると返事がこないんです。いい返事はもちろん「お祈りメール」すら来ませんでした。せめて祈ってほしかったですよ。笑
そういう時期に、アプリ開発者のイベント(あぷまがないと)に参加して、「自分もアプリつくりたい」という気持ちになったのもあって。
それで、アプリで独立してみようと。会社を辞めるよりも「開業届け」を出すほうがずっと簡単でしたね。
※2016年1月に個人で独立した。
独立してみて「アプリの収益」のほうはどうですか?
3つアプリをつくって、収益は3,700円くらい。月収だと195円ですか。独立して1年半ほど経ちましたが、いまのところ全然儲かっていません。
広告会社の、最低振り込み金額も「5,000円〜」なんです。なので、まだそこまで届いていなくて、お金が振り込まれてさえもいない。笑
たとえば「どんなアプリ」をつくっているんですか?
たとえば「Blowser」というアプリをつくりました。これは「息でスクロールできる」というブラウザアプリなんですけど。
これをつかえば、寝ているときにでも、手をつかわずにネットが見られます。眼鏡屋のおっちゃんに見せたら、ものすごく驚かれました。
でも、結果は473ダウンロードしかされず、広告収益も500円しか稼げていません。「これはいける」という感覚はあったんですけどね…。
※Blowser(iOS)
他にはどんなアプリがありますか。
最近は「PastimeHint」というアプリを出しました。
これは、気分が落ちているときに、「キュウリをかじろう」とか「お茶をいれて飲もう」とか、気晴らしの方法を教えてくれるアプリです。
ちなみに、提案をずっと拒否していると、最後は「とっとと寝ろ」みたいに出て終わります。笑
これは、19ダウンロード(有料240円)されていて、アップルの手数料を引くと、3,000円くらいの収益になりました。
Android版もあって、5人が買ってくれました。でも、5人全員が返金を求めて「払い戻し」になった。有効インストール0。悲しいアプリです。
独立してから「失敗したな」と思うことってありますか。
独立1年目に、事務所を借りたのは失敗しました。戸越公園という駅の近くに、月38,000円の安いところを借りたんですけど。
事務所をかりたのは「自分を追い込むため」でした。制限をかけることで「自分を追い込んだほうがやる気になる」って言うじゃないですか。
芸人さんが借金をして自分を追い込んだり。でも、それを真似したら見事に失敗した。もう、ただ追い込まれただけだった。笑
独立資金も、自分で130万円用意してたのですが、事務所やパソコンにつかってしまって、残金も67,000円まで減ってしまいました。
いまは、コワーキングスペース(月8,000円)をかりて、作業をつづけています。
お金のほうは大丈夫なんですか?
もう、お金ないんですよ。なので、バイトしようと思っていて。このまえも、近くのスタバのバイトを受けたんですけど…面接で落ちてしまいました。
スタバって、若い大学生とかが多いので、若い人たちの話に聞き耳たてて、アプリのアイディアに活用できないかなと思ったんですけど。
それを、面接のときに正直に言ったのが、あまりよくなかったのかな…。スタバは自信あったのですが、倍率も高かったんでしょうね…。
いまは、また別のバイトを探そうかなと思っています。バイトをやりつつアプリをつくるのが、いまの自分には合っていると思うので。
いまはどうやって生活してるんですか?
いまは、実家暮らしなので。なんとか生き残れています。実家では慎重に暮らしています。親にイヤな顔をされないように。
たとえば、風呂が汚れてれば掃除しますし、食器たまってれば食器も洗います。そんな感じで、率先して顔を売りながら生活していますね。
ぼーっとテレビで野球みてるように見せかけて、親父の晩酌セット(ビールと柿ピー)だけは、さりげなくスッと用意しておいたり。
そういうのが、実家で生き残るための秘訣なのかな、って思ってます。
毎日「どういう生活サイクル」なんですか。
まず、朝5時くらいにおきて、5時半にシュッと朝ごはん食べちゃって。そのあと、7時にスタバ入りしてから、9時からコワーキングスペースで作業をします。
それで、16時くらいまで仕事をして、家に帰って家事をやって、21時には寝てしまいます。
あの、夜は働けないんですよ。うつ病になったときに「暗い夜道」を帰っていたのを思い出すと、精神的によくないというのがあって。
アプリ開発はたのしいですか?
もちろん、たのしいですよ。アプリが完成した快感はすさまじいです。
いまは、自分のアイディアが「どれだけ世の中に通用するか」挑戦している感覚です。勝手に挑戦状を叩きつけて、叩き返されてるんですけど。笑
結果が出なくて「いやになる瞬間」は、いくらでもあります。でも、前に進むしかないかなって。
なんだかんだ、前向きですね。
なんでしょう…これは「自分の選んだ道」ですから。
今回の「アプリで独立する」という選択は、自分の人生で「はっきりと唯一」といっていいくらい、自分で選んだ道なんですよね。
いままでは、なんとなく大学までいって、みんなに合わせて漠然と就職して、わりと大きな会社に就職できて良かったねって人生だった。
でも、うつ病になったときに考えたんです。人生において、自分で「これでよし」と決断したことが、これまで一回もなかったなって。
それじゃあ、自分で決めたことをやり通すために決意をしようと。
実家にいる母親にも「個人で独立します」と宣言をして。そうしたら、自分の人生で「一歩を踏み出せたな」という実感がありました。
どうせ自分の人生なんて、誰も責任とってくれないんだから。ちょっと好き勝手やったっていいじゃない。いまはそういう気持ちです。
これから「アプリで独立する人」にアドバイスを送るとしたら?
まずは段階を踏みなさい。アプリで独立したいなら、何かしらのアプリをだしてみて、手応えをみながら進めなさい。そう言いますかね。
あとは、とにかく「開発のクセ」をつけなさい。毎日、1行でも1文字でもいいから、ちょっとでもコードを書くクセをつけたほうがいい。
それから「くよくよしないこと」も大事。アプリ開発って技術があればいいわけじゃないから。モチベーションが続かなければ意味がないんです。
まあ、これは遺言ですね。すでに敗北感が漂っている、自分からの遺言です。
開発者の平井さんのツイッター
(アプリはつまらないかもしれないが、自虐ネタは結構おもしろい)
やはり受託0で独立は無謀だったか・・・(解雇されて転職活動も上手くいかず仕方なく独立したクラスタ
— H.H@魅了屋 (@aja_hirai) June 21, 2016
今月の収入は57円で決まりそうです・・・
— H.H@魅了屋 (@aja_hirai) September 30, 2016
またつまらぬアプリが出来てしまった・・・(通算3作目)
— H.H@魅了屋 (@aja_hirai) January 20, 2017
売れないねぇ…
— H.H@魅了屋 (@aja_hirai) July 18, 2017
個人開発者特集2017
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【第三回】1本で300万円稼げたガラケーアプリと、まりもアプリが今でも収益化できてる理由
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