4組のアプリ開発者を取材しました。「個人開発者特集2018」の第五回です。
<目次>
1、コンビ開発で収益200万円「太陽人間」攻略本への情熱
2、育成ゲーム「虚無そだて」作者がツイッター就活で内定
3、夫婦でゲーム会社から独立して「山ごもりゲーム開発」
4、売上1億円のサークルが「初のカジュアルゲーム」に挑戦
1、コンビ開発で収益200万円「太陽人間」攻略本にかけた情熱
※naichiさん、りるをさん。会社で働きながら副業でゲームを開発している。
お二人がつくったアプリについて教えてください。
りるを:
デザイナーのわたしと、プログラマーのnaichiさんの二人で、神様のむすこを育てる「太陽人間」というゲームをコツコツと開発しました。
2017年3月にリリースして、9.5万ダウンロードされています。二人とも働きながらだったので、開発には8ヶ月ほどかかりました。
※9.5万ダウンロード(iOS 8万、Android 1.5万)
二人はどうして「一緒にゲームをつくろう」となったのですか。
naichi:
京都でやっている、Unityのもくもく会で一緒になって。そこで軽いノリで「一緒にゲームつくってみようか」という話になりました。
最初の企画時にあったのは、ネオン街のドット絵だけで。「神様の子を育てるゲームなんです」みたいに言われたんですよ。でも、全然わからなくて。笑
そこから「何をしたいんだろう?」と掘り下げていきながら、すこしずつ決めていった感じでした。開発はほぼ完全リモートで進めましたね。
アプリの開発中に「やってよかったこと」があれば教えてください。
りるを:
イベント出展はやってよかったです。遊んでいる人の「指の動き」を観察していると、意図してない動き方を発見できるからです。
お客さんは、口に出して「ココがやりづらい」とは言ってくれませんが、足りていない箇所を見つけて、リリース前にアプリを改善していました。
あとは、メディアの人がきてくれて、リリース前にアプリの記事を2〜3つ書いてくれたのも、イベント出展してよかったと感じる部分です。
※デジゲー博やBitSummitに出展した
アプリの収益やマネタイズはどんな感じですか?
naichi:
アプリの収益については、累計で200万円になっています。マネタイズは広告だけですね。収益の9割を動画リワードが占めています。
とくに、AppStoreのフィーチャーは大きかったです。すぐ1万ダウンロードくらいされて、1日に30万円ほどの収益が上がりました。
逆に、フィーチャーが終わるとスッと下がってしまって。だから、アプリで食ってる人たちって、本当にスゴイんだなと実感しました。
りるを:
わたしは、当時バイトしながら生活してたのですが、ようやくお金が入ったときに「アプリが売れたんだ」という実感がありました。
ちなみにツイッターで見たのですが「太陽人間」って攻略本まであるんですか?
りるを:
わたし、攻略本をみるのが大好きすぎて「太陽人間」の攻略本を自作してしまいました。攻略本ってむっちゃロマンあるじゃないですか。
昔のドラクエの攻略本って、書き下ろしの武器イラストが載っていたり、未公開のデータベースが載っていて、ワクワクするじゃないですか。
それを、自分のゲームでどうしてもやりたくて。攻略本をつくって売ってみたら、40部くらい買ってもらえました。原価6割なのでまだ赤字ですが…。
ちゃんと、袋とじもつけましたね。原価が上がってもつけたくて。コロコロコミックの「袋とじカード」ってロマンあったじゃないですか。
あと、帯もつけました。帯つけるとリッチになって、ただの薄い本じゃなくて特別な薄い本になるんです。
最後に、コンビ開発を「うまく行かせるコツ」があれば教えてください。
naichi:
お互いの領域にムリに踏み込まないことだと思いました。僕はプログラムに徹していたし、イラストや世界観はりるをさんに任せていました。
世界観とかは僕には理解できなかったけど、口出しはしないほうがいいと思ったんです。突き抜けたほうが楽しいものができると思ったから。
結局、売れたのも間違いなく「イラストの力」だったんですよ。りるをさんのシュールな世界観を信じたからこそ、独特な作品に仕上がったのだと感じます。
開発者のツイッター
(赤字になってしまった攻略本の在庫は通販でも買えるとのこと。naichiさんはゲーム開発者コミュニティも運営されています)
【お知らせ】RiCreateの通販を再開いたしました!BOOTHでの販売に移行しています。投げ銭もこっそり実装👍要チェック!!!!🙇https://t.co/aahZjs5gfK
— りるを@びはんとマルの森 (@Riruwo_) August 18, 2018
Unityでゲーム作ってる人たちが知見を共有して助け合うSlackコミュニティ、 #Unityゲーム開発者ギルド を作ってみるので参加者を募集します。
プログラマとかデザイナとかチームとかの垣根を超えて相談しあえるような場所を作りたいなと。興味あればぜひ。
詳細はこちら→ https://t.co/O8b4SxZzkL— ないち (@naichilab) November 12, 2018
2、育成ゲーム「虚無そだて」作者がツイッター就活で内定をもらえた話
※個人開発者のトモぞヴPさん
簡単に自己紹介と「虚無そだて」をつくった経緯を教えてください。
福島に住んでいる20歳の短大生です。もともと趣味でゲームをつくっていて、アプリを2本だしたものの鳴かず飛ばずという状況でした。
それで、3作目は育成ゲームをつくりたいと思ったとき、イラスト描くのは大変なので「虚無を育てるゲーム」をつくることにしました。
試しに、ゲーム序盤だけつくって、ツイッターに動画をのせてみたら、6千リツイートされて。これはいけるぞという手応えがありました。
そこから、2日くらいで開発したのが「虚無そだて」という育成ゲームアプリでした。
いま「ダウンロード数や収益」はどれくらいになっていますか?
3万ダウンロードくらいです。iOSとAndroidを別々に出したので、ネットで話題になったもののそこまでダウンロード数は伸びませんでした。
あと、このアプリには収益がありません。アプリに広告は入っていなくて、代わりに「虚空をみること」ができるようにしてしまったためです。
ただ、アプリからショップに移動する形で、虚無のオリジナル画像やグッズを買えるようにしていて、その収益は5万円ほどになっています。
多くの人が買ってくれるというより、少数の強烈に気に入ってくれた人が、大きく支援してくれました。
※虚無のイラストは29個売れた。グッズはほとんど売れなかった。
虚無そだての運営を通じて「印象に残っていること」はありますか?
ツイッターで自分を知ってくれた人が、20万円くらい「Macを買う費用」を支援してくれたことです。それはめちゃくちゃ驚きました。
家族にそれを話したら詐欺だと思われて、説得してたらツイッターが親バレして、母親がフォロワーになってしまいました。いまも監視されています。
ぼくが、なんでも言うことを聞く「トモぞヴPバッジ」をネット販売したら、母親が購入してきて実家の掃除をやらされたりもしました。
「虚無そだて」は運営権も販売しているんですね。
そうですね。いまVRの開発にめちゃくちゃ興味があって。それの元手にしたくて「アプリの運営権を売ろう」と考えたんですよね。
運営権を買ってくれれば「虚無そだて2」みたいな続編をだしてもいいし広告を入れてもいい。それなら誰か買ってくれるかもしれないと。笑
でも、結局売れませんでしたね。ためしに「定価120万円」で販売したら売れなくて。半額セール60万円にしても売れなくて。いまも半額セール中です。
※現在も運営権は半額60万円で販売されている(通販ストア)
虚無そだてのおかげで「内定がもらえた」って本当ですか。
はい。ツイッターがきっかけで「面白法人カヤック」という会社に、内定をいただくことができました。
もともと、システム会社に内定もらっていて。でも個人でゲームをつくるうちに、クリエイターとして働きたい気持ちが強くなって、内定を辞退しちゃったんですよ。
そこから「虚無そだて」をつくって。軽い気持ちで「誰か雇ってくれませんか」とツイートしたら、ツイッターで内定が決まってしまいました。
リツイートしてくれた人たちには、本当に感謝しかありません。ありがとうございますと伝えたいです。
【誰か雇ってください】
・19さいの短大生です
・内定がないです
・ゲームをつくりたいです
・独学ですが、アプリストアで1位を取るゲームを2日で作れる程度にUnityができます。 pic.twitter.com/kWKUz2rWHW— トモぞヴP (@TomozoP) July 31, 2018
ツイートはどれくらい拡散されたんですか。
5千リツイート近くしていただいて、メールやDMが20〜30通くらいきて、そこから3〜4社の人とお話させてもらいました。
意外と多くて驚いたのは、「実力あるなら起業したほうがいいぞ」という、起業しろおじさんからのメッセージが山ほど届いたことです。
あとカヤックの場合は、自分の作品を見てくれたのもあり、ツイッターが「履歴書代わり」になる時代も遠くないんじゃないかと感じました。
とにかく「知られること」って大事なんだな。何でもつくって「ネットに出してみる」というのは大事なんだなというのは実感しました。
開発者のツイッター
(ツイッターにデモ動画をあげて、反応みながらコンテンツをつくる方法も、アリなのかもしれません)
昨日からちょいちょい上げてましたが、「虚無そだて」というアプリを今週中にリリースします。 pic.twitter.com/O8eVfjMjqU
— トモぞヴP (@TomozoP) July 26, 2018
3、夫婦で山ごもりしながら「ゲーム開発する生活」の裏側
※Marumittu(マルミッツ)三橋 彰さん、椎野 央子さん。
簡単に自己紹介をお願いします。
椎野:
Marumittuという名前で、夫婦で山にこもってゲーム開発しています。プログラマーである夫と、デザイナーであるわたし、2人のチームです。
もともとは、夫婦ともにゲーム会社で働いてたのですが、一緒に独立することに決めました。いまは滋賀の山の中で夫婦と猫の3人で暮らしています。
三橋:
独立したのは、やっぱり「つくりたいゲーム」をつくりたかったのが一番です。会社で働いていると「つくりたいもの」はなかなかつくれないですよね。
※2017年7月に独立した
「山でゲームつくる生活」ってどんな感じなんですか?
椎野:
静かで自然が多いのは快適です。散歩しながら仕事の話もできますし。のんびりマイペースに仕事ができるところは気に入っています。
そこまで不便でもないんですよ。ネット注文すると届けてくれるスーパーの宅配サービスがあったり、Amazonもつかえるので普通に生活はできますね。
三橋:
住居費についても、京都でマンション借りるよりも、山に広い家を買ったほうが全然安いですし、のびのび仕事もできていると感じます。
開発したゲームアプリについて教えていただけますか?
椎野:
2018年の1月に「StarONE:Origins」という、宇宙を舞台にしたタップゲームをリリースしました。開発期間は半年くらいでした。
累計ダウンロード数としては、約3万ダウンロードです。一番多いのは中国(56%)で、次に多いのが日本(23%)という比率になっています。
アプリ収益は120万円くらいで、課金と広告だと半々ですね。広告については動画リワードのみ。課金のほうは着せ替えアイテムが人気でした。
売上もほとんどが中国からです。動画広告も中国がいい数値を出していました。課金率も日本と同レベルには課金されているという感じです。
※3万ダウンロード(iOS 95%:Android 5%)。AppStoreでフィーチャーされて日本と中国で伸びた。
いまはどうやって生活しているんでしょうか?
三橋:
いまは、リモートでゲーム開発の仕事をこなしながら、自分たちのゲームをつくっていますね。リモート業務で生活費を確保している感じ。
⾃分はプログラマーなので、フリーランスでの仕事はある程度はみつかります。なので、現状はわりと楽観的に捉えてはいますね。
椎野:
ちなみに、独立当初は貯金を削って生活していました。毎月の給料がなくなって、貯金がゴリゴリ削られていくと、ちょっとした不安はありました。笑
わたしも、いまの生活は苦しいより「楽しい」という気持ちが強くて。今後もいろいろ試しながら、ゲームの収益を伸ばしていけたらなと考えています。
これまでアプリを運営してみて「やって良かった」と感じることはありますか。
三橋:
BitSummitは、本当に出展して良かったと感じます。韓国パブリッシャーさんとの提携や、Nintendo Switch版のお話もそこから決まったんですよ。
椎野:
日本のストアの担当者さんや、同業のアプリ開発者さんなども、イベントブースに来てくださって、いろんな人と知り合いになれたのは大きかったですね。
※「StarONE:Origins」は韓国パブリッシャーから再リリース予定(ストアからは一時取り下げ中)
開発者のツイッター
(ゲーム開発の仕事が捗る「ねこのいる仕事場」がみられるアカウント)
そっとプログラミングしてます。 pic.twitter.com/xEzCmPL4lL
— Marumittu Games (@marumittugames) September 9, 2018
4、累計売上1億円のゲームサークルが「初のカジュアルゲーム」を出してみた話
※ゲーム開発者のEIKI`さん、京都在住。
簡単に自己紹介をお願いします。
普段は、illuCalab(いるからぼ)という、PCゲームを中心につくっている、ゲームサークルとして活動しています。
代表作としては、魔法の女子高生、幻走スカイドリフト、HEART of CROWN PCなどで、合計10万本ほどの販売本数になっています。
※売上ベースだと1億円以上。すべて買い切り作品。サークルは2名+協力スタッフで運営(設立約8年)
今回は「初のカジュアルゲーム」をつくられたのですよね?
はい。9月に「はむころりん」という、丸っこい動物を転がすゲームをリリースしました。ほぼ1人でつくったゲームで、半年かけて開発しました。
3Dのステージについては、Unityにある「ProBuilder」というツールで骨組みをつくって、最後にテクスチャを貼って完成させています。
外出先では、ノートにステージ案をメモしておいて、帰ってからガーッと集中して作業することで、効率的に開発できるように工夫しました。
※キャラの原案だけ友人に手伝ってもらい、それ以外は一人で開発したとのこと。
アプリを出してみて状況はどうですか?
中国語版のリリースなども控えていて、まだまだこれからかなという感じですね。
収益比率は「広告50:課金50」です。意外と買ってもらえたのが、広告削除+開発者を支援できる「工事費支援」というアイテムでした。
とくに、海外の配信者さんから「広告削除するアイテムを入れてくれ」ってよく言われるんですよ。配信中に広告が出ないようにしたいのだと思います。
あとは、ファンの人が「ご祝儀」のような感覚で、買ってくれたのかなと感じています。
※価格帯を3つ用意したら、上と下の価格(360円と1,080円)が売れた。
はむころりんは「動画広告の入れ方」が自然だなと思いました。
ランキング上位のゲームを見ていると、結構バンバン広告が出てきますけど、ユーザーが選択していないのに、広告を見せるっていうのは、自分的にはやりたくなくて。
収益を考えると「広告を多く入れたほうがいい」とは思うのですけど、いまのような形に落ち着きました。
開発中に「これはやってよかったな」と思うことはありますか。
リリース前から、イベントに出展していたのはよかったです。イベントって「初見の人」に説明しないといけないから、足りないところを掴みやすくて。
PCゲームって、コントローラー操作なので、難しくても乗り越えてもらいやすいんですよ。方向キーとAボタンを押すことがほぼ確実なので。
でも一方、スマホゲームって「何をすれば何が起きるか」がわかりにくいから。ちゃんと誘導してあげないと、操作に詰まりやすいんですね。
なので、スマホゲームは「試してもらう」っていうのが大事だと思っていて。初見の人がどこを難しいと感じるか、実地で試し続けるしかないなと感じます。
開発者のツイッター
(ゲームの開発風景って面白いですよね。ライブ配信でやっていたらみてしまう気がします)
#はむころりん で使っている配置ユーティリティメニューをちょっと紹介。
・オブジェクトを均等な間隔で配置
・オブジェクトを接地
・二つのオブジェクトを入れ替え
・一つ目のオブジェクトを二つ目と三つ目のオブジェクトで挟む(地味に便利)#gamedev #madewithunity #screenshotsaturday pic.twitter.com/bsk0SJgfIi— EIKI`@Yukkuma (@eiki_okuma) December 1, 2018
個人開発者特集2018
【第一回】自作のクソゲーアプリに「息子への遺言」を埋め込んだ49歳の個人開発者
【第二回】勉強しないと止まらない目覚ましアプリと運用費ほぼゼロ「意見箱」の効果
【第三回】個人開発の高校野球ゲームが収益1,290万円超えるまでにやった3つのこと
【第四回】パチスロ生活しながらアプリ開発で1,500万稼いだ男と電卓アプリ収益推移
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