今回は350万ダウンロード突破、家計簿アプリの「Zaim」さんにお話を伺いました。ユーザーが伸びたタイミングや、UI改善の失敗談など。
※株式会社Zaim 代表取締役 閑歳 孝子さん。
「Zaim」の近況について
「Zaim」のユーザー数は今どのぐらいですか?
閑歳:
2011年7月にリリースして、350万ダウンロードを超えています。OSで言うとiOSの方が多いですが、最近はAndroidも伸びています。今も広告費は使っていません。
今までに、ユーザーが大きく伸びたタイミングはありますか?
閑歳:
去年はダウンロード数がグッと伸びた印象があります。2013年の終わり頃から、スマホをみんなが本当につかうようになって、すごく高齢者と若年層が増えました。
データなどを見ていると、ライフステージが変化する時(引っ越した、就職するなど)に使いはじめる人が多く、年末年始や新生活シーズンにはユーザーが増えやすい印象です。
あと「紙の家計簿が売れる時期」って秋ごろのようで、書店で特集が組まれたりしていますが、その時期は連動して、Zaimのユーザーも伸びています。
12月には「Zaim」がApp Storeの「人気検索」にも出ていましたが、テレビで紹介されたのでしょうか?
閑歳:
そうですね。「有吉ゼミ」というテレビ番組で、芸能人の方が「Zaim愛用しています」と紹介してくださりました。
やっぱり、ゴールデンのテレビの影響は桁違いで、放送後にはApp Storeで総合1位にもなりましたね。NHKの朝番組や、キー局の夕方のニュース番組と比較しても、かなりの勢いがありました。
Zaimを使っているのは、何歳くらいの人が多いですか?
閑歳:
20代後半〜30代前半が一番多いですね。ただ、上は70歳以上の方もいます。年金暮らしになると気になるようで、よくiPadから問い合わせが来ています。
従来の家計簿とくらべて「おもしろいユーザーの使い方」はありますか?
閑歳:
ひとつは夫婦2人で1アカウントを共有する使い方。Zaimで家計データを見ながら「お小遣いがもっと増やせるか?」を決めたりする。これは私たちが提案した活用法ではなく、ユーザーさんが考えて広まったものです。
実際に、夫婦でZaimをつかうことで「お金の状況が見えて、夫婦が対等になれる」という感想もいただきました。Zaimが潤滑油になって「お金についての会話がしやすくなる」というのは、すごく良いことだなと感じています。
もうひとつは、息子さんが遠くに住んでいる父親のiPadにZaimを入れて、「ちゃんとご飯を買って食べてるかな」と、ちょっとした見守りサービス的に活用する使い方。
今までの紙の家計簿は「専業主婦が1人で記録している」みたいなイメージがあったかと思いますが、Zaimは「分かりやすいお金の管理ツール」としても、使ってもらえているのかなと感じます。
iOSとAndroidでストアのスクリーンショットとアイコンも変えてるんですね。
閑歳:
そうですね、アプリのデザインもiOSとAndroidで変えようと考えています。
今だとAndroidはロリポップっぽく、iOSだとフラットにして「OSの標準アプリです」みたいな雰囲気にしたいんですね。「個性的なアプリ」であることより「誰にとっても使いやすいアプリ」にしたいです。
UI改善とユーザーの本当のニーズ
ユーザーも伸びていて順調のように思いますが、逆にZaimで失敗してしまった経験などはありますか?
閑歳:
UI改善は失敗したことがあります。深く考えずにインターフェースを変えたところ、たくさんの既存ユーザーから「元に戻してほしい」という声が来たことがありました。
具体的には、どのようなUI変更をしたのでしょうか?
閑歳:
例えば、「残高表示」のUIを変更したときのことです。初めのほうは「(口座を表す)アイコン画像」と、その「残高の数字」を表示していたんです。
ただ、これだと「実際に自分が持っているお金って、どれくらいなの?」という情報が一目で分かりづらかったので、「棒グラフ」に表示方法を変えたことがあるんですね。
銀行口座はプラス方向に「緑色の棒」、クレジットカード(負債)はマイナス方向に「赤い棒」という感じです。そしたら「一覧性が失われた」「棒グラフの見方がわからない」という声がたくさん出てしまった。
つまり、皆が求めていたのは「パッと開けたらすぐ数字でわかる」という一覧性だったわけですね。これを「上っ面な想像」でUI改善した結果、ニーズの優先度を間違ってしまったという話です。
※改善前は一画面で口座情報が6つ見えていたのに、改善後は3つしか見られない。(再現イメージ図)
「ユーザーの声」って、どこまで信じるべきでしょうか?
閑歳:
ユーザーの「使いづらい」という声には「改悪されて使いづらくなった」と「まだ慣れてないから使いづらい」の2パターンあると思っていて。これを見分ける必要がある。
判断の仕方として、後者の「慣れ」で解決するパターンの場合は、2バージョンぐらいアップデートすると、もう何も言われなくなるんですね。
なので、2バージョンアップデートして要望がなくなったら「この改善は当たっていた」と、逆にまだそういう声が収まらないようであれば「我々が間違っている」と考えるようにしています。
位置を移動したら「機能がなくなった!」と言われた。
失敗した話、すごく勉強になるのですが、他にはありますか?
閑歳:
他には「機能の位置」を動かしたら、ユーザーからの問い合わせが非常に増えてしまったことがあります。
具体的には、昔の分析画面って「棒グラフだけ」だったのですが、途中から「円グラフ」を追加して、右上のボタンから「円グラフにする」を押すと切り替わるようにしたんです。
そのとき「ボタンで切り替えるって、操作として煩雑だな」と思って、そのボタンを削除して「スワイプで円グラフに切り替える」という操作に変更したことがあって。
そしたら「スワイプで変更できる」ということに、多くのユーザーが気づかなくて、「円グラフがなくなって、がっかりした」という声を、たくさんいただいてしまいました。
※再現イメージ図。
なるほど。それって、どうやって解決したら良いんでしょうか?
閑歳:
そんなことがあってからは、何か変更を行ったときには、以前のインタフェースをすぐに削らないようにしています。
さきほどの例だと、右上の「切り替えボタン」をタップしたら、「スワイプで切り替えができるようになりました」と画面上にアラートを出すようにしたり。
あとは、初回にチュートリアルをはさんで、必ず「スワイプ操作」を体験してもらうようにしています。
これは、あまりスマートではない解決方法ですが、「機能がなくなった」と勘違いされてしまうほうが、私たちにとっては痛手です。
ツール系アプリの場合、多くのユーザーの本当のニーズって「素早く使いたい」「いつも安定していてほしい」だと思うので、「UIを格好良くする」というのは、これらがクリア出来てはじめて取り組むべきことです。
Zaimはスマホ慣れしていない「ふつうのユーザー」も多そうですし、他のアプリ以上に気をつけないといけないのかもしれませんね。
閑歳:
そうですね。初心者ユーザーが圧倒的に多いので、いつも気をつけています。
例えば「タップ数」はできるだけ減らすようにしたり。「1タップ」って想像以上に重たいことなので、タップ数が多いとユーザーのストレスにつながるんですね。
あと「スワイプ」や「長押し」とかって出来ても良いんですけど、そのアクションがわからないユーザーも多いんです。例えば「スワイプで削除」って気づく人が少ない。
だからZaimは「スワイプ」とか「長押し」ができなくても、すべての操作ができるようにしています。
UI的に多少冗長になってしまったとしても、「削除する」みたいなボタンをつけたり、アイコンだけで済まさずに「ラベル」を入れたり、というのは心がけています。
最近、スマホが大画面化していますが、ZaimのUIに起きる影響ってありますか?
閑歳:
Zaimの場合「大画面化で、一覧性が高まった」というのはあります。ただ、空いてるスペースに情報を詰め込むのはよくないかなと考えています。
例えば、iPhone6でZaimのホーム画面を見ると、画面の下が空いてしまうんです。
だからといって、そのスペースに例えば「お知らせ」を詰めこんでしまうと、とたんに複雑に見えてしまって、「その画面が何を言いたいか?」がわからなくなってしまう。
なので「無理に空きスペースに情報を詰める」よりは、「いまある情報を拡大表示してバランスをとる」という方を選択しています。
Zaimをやっているとお金について考えることも多いと思いますが、日本と海外を比べて「お金に対する考え方」に違いを感じることはありますか?
閑歳:
海外の人はやっぱりお金を「フロー」として見ている感じはします。そもそもアメリカって日本でいう家計簿の概念がなくて、「家計簿とは?」という説明をしないと伝わらない。
それに比べて、日本人は「お金の出入り」と「何に使ったか」にすごく興味があるんだなと感じますね。
ただ、「なんとなく不安だから貯金する」とか「よくわからないけど、お金がない」みたいなのは、すごくもったいないとも思います。もっとみんなが上手に、お金や時間の投資ができるようになると良いですね。
Zaimの中でも、「時間」はお金とともに重要なテーマだと考えています。お金も、時間もうまく管理していくことで、人生の満足度が高まるようなサービスにしていきたいです。
編集後記
「ユーザーの”つかいづらい”という声には2パターンある」という話がおもしろかった。自分自身で思い返してみても、たしかに2種類の「つかいづらい」を無意識に言っている気がする。
なお、Zaimさんではエンジニア募集中とのことです、興味があればぜひ。