2/28に東京(恵比寿)で開催された、株式会社VASILY主催のセミナー「iQONグロースハック・セミナー。VASILYが考えるグロースハックの追体験」に参加してきました。
こちらのセミナーは参加応募が殺到してすぐに満席になってしまったため、急遽2日に日程を分けて開催することになったそうです。
実際に内容についても非常に勉強になったため、セミナーの内容を前後編に分けてお送りしたいと思います。
前編である本記事では、代表の金山さんのグロースハックの考え方の講演についてまとめています。
株式会社VASILY 代表金山さん
iQONについて
VASILYでは「iQON(アイコン)」というファッションコーディネートアプリを運営しています、一年前からグロースチーム、グロースハッカーという職種を設けてサービスを伸ばしてきました。
本日は、組織として、企画立案の方法として、どのようにグロースハックを行ってきたのかを実例を交えてご紹介します。
まずグロースハッカーの仕事としては、売上、会員登録、DAU(デイリーアクティブユーザー)などを、以下のグラフのようにホッケースティックの形をつくっていくことが重要です、それ以外はどうでもいいかなと思っている。
ちなみにこのグラフはiQONの会員登録者数の推移、2014年1月時点(グラフ右端)で70万人の会員がいる。
70万という数字はアプリのダウンロード数としては多くないかもしれないが、これは会員登録数であること、そしてカメラアプリやゲームと違って、まだ日本にないサービスを、まったく広告費を使わずにグロースハックだけで2年間で成長できたことは、ちょっとだけ自慢できることだと思っている。
約1年間グロースハックチームをつくって、得たことを本日はお伝えしたいとおもいます。
グロースハッカーに必要な思想・マインド
グロースハックには2つの側面があるひとつは思想的な側面、もうひとつは技術的な側面。
どちらも重要だがどちらかというと思想のほうが大事。まずグロースハッカーに必要な思想・マインドをお話しします。
マキャベリ(イタリアの政治思想家)の言葉、『国家が危機に陥った時政治家は、国家存続の目的のために有効ならば手段を選ぶべきではない』
「目的のために手段を選ばない」という言葉がありますがそれを最初にいった人。この考え方がグロースハックで一番大切なこと。
この言葉をグロースハックに置き換えると、『サービスを成長させるためにグロースハッカーは目的のために有効ならば手段を選ぶべきではない。ただし金はない』
グロースハッカーのミッションはただひとつ「成長させること」だけ。お金はないけど知恵を絞って何がなんでも成長させる、そのためだったらどんなことでもやる。
ぼくはプログラムしかできません、ぼくはデザイナーです、そういうのは関係ない、自分の出し得る知恵を出し切って1%でも成長させる、そのマインドこそがグロースハッカー。このマインドがないと普通は成長しない。
だからまずマインドを変えましょう。1%、1人、1円の成長にフォーカスして、そのために何ができるかと考える。まずは「何が何でもやってやるぜ」という根性論から入ること。
グロースハッカーに必要なテクニック
ただ根性だけで勝てる世界でもない。根性+テクニックが必要で、テクニックのほうもお話したい。
「サービスの成長ってどうやったら出来るんだっけ?」ということを考えると、自分たちで出来ることと、自分たちで出来ないことがある。
さらに分解すると、自分たちができることの中には「最適化」がある。ABテスト、LPO、AARRRのモデルを使った顧客分析など最適化にも色々ある。一方で「ユーザー体験の最大化」においても自分たちでできることがある。
実は、自分たちで出来ないけどサービスが成長することもある。事業提携・PRなど。「グロースハッカーの仕事じゃないじゃん」と思われがちなんですけど、これグロースハックにめちゃくちゃ大事。
iQONの例でいうと、ちょうど最近ヤフー社との提携を発表した、ヤフーの着せ替えアプリに着せ替え情報を提供したり、ヤフーの検索結果にもiQONの検索結果がでたり。これはけっこうな成長につながる。
グロースハックで有名な会社Facebookが日本にきたときに、何をやったかというと電通と提携しているんです。事業提携によるサービスの成長というのは必ずあると思います。
PRに関しても、例えば王様のブランチに取り上げてもらえたら、ぼっかーん伸びますよ、このようにもっと枠を広げて考える必要がある。
ことグロースハックというと、ABテスト・SEO・LPOみたいなところに目がいってしまいがちです。ABテストって効果あるんですけど、実はABテストとかの最適化って一番最後にやるべきことなんです。
まずは”ユーザー体験の最大化”をやろう
では、まずやるべき最適化ってなんでしょうか?まずプロダクトを考える時に、“プロダクトで提供したい体験”ってありますよね、
インスタグラムだったら「きれいな写真がすぐとれる」ラーメン屋さんだったら「おいしいラーメンを提供する」どのプロダクトにも”提供したい経験”がある。
商品やサービスに対価を払う裏には、提供したい経験や体験がかならずある。それを「ガラスのコップ」だと考えてください。
「こんな製品つくりたい」と思った時点で”提供したい体験”というのが大体定義される、つまりそれはコップの大きさ。
そしてその製品をリリースすると、たいていリリース時に提供できている体験って、想定しているコップの分、全部うまらないんですよね当然ながら。
それを分析して100%に近づけていくということが”最適化”だと思う、つまりそれは”ユーザー体験の最適化”。
小さなコップを最適化してもインパクトは小さい
みなさんがよく陥っていてサービスがグロースしないのは、元々のコップの大きさがめっちゃ小っちゃいというパターン。
最初にデザインしているのがショットグラスなんですよ、バケツじゃなくて。ショットグラスを最適化しても世に与えるインパクトって大きくない。
“ユーザー体験”(お客さんに届けられる価値)ってコップに入っている赤い部分の容積なので、そもそも提供したい体験や価値が小さいという状況。
ショットグラスを一生懸命最適化しても、結果的に社会に与えるインパクトとか得られる売上っていうのは小さい。
だからいわゆる”ABテストなどの最適化”は一番後にやること。グロースハッカーは”ユーザー体験の最適化”をやって行くべき。
「このユーザー体験って求められているんだっけ?」「もっと良いユーザー体験ってあるんだっけ?」この大前提を疑ってかかることが大事。
グロースハッカーは”ならず者”でよくて、役割分担とかはどうでもいい、成長させないと死ぬんです、ベンチャーとか起業は成長がすべてを癒すんです。成長に対してフルコミットする請負人がグロースハッカー。
あとこれは僕が信じていることですが、ひとつの最適化(ABテストのような)ノウハウというのは、間違いなくいずれ価値がなくなります、つまり、いつかコモディティ化して、皆が真似して一般化してしまう。
ABテストだったらオプティマイズリーっていう素晴らしいツールがありますし、そういう最適化ツールが今後もたくさんでてきて、最終的に最適化(ABテストのような)というのはインターンがやってもいい仕事になるのではないか。
でも、社内にいてプロダクトへの想いがある人間しかできないこと、それが”ユーザー体験の最適化”の部分、これはコンサルもPR会社も出来ない。グロースハッカーはここに注力するべき。
iQONの事例-ユーザー体験を最大化し投稿数が40倍に
どういった感じでやるかというと、こんなのが理想型だというのがあります、
最初とりあえずリーン的に(必要最低限のものをつくって)リリースします、最初はちっちゃいショットグラスです。
そして「この”ユーザー体験”ってもっと良くならないのか?」というのを疑って、ショットグラスをバケツにすることを考える。
バケツになったものに対してABテストをかけて最適化をしてくと、赤い部分の容積がめっちゃ増える。赤い部分の容積がみなさんのプロダクトの売上だったり、社会的インパクトだったりKPIだったりするんです。
ぼくらはこのやり方でうまくいきました、実際例をお見せします。iQONがスタートした最初の1年はPCだけで提供していました、その時って一日のユーザーの投稿数はたったの50だった。
1年ぐらいいろんな最適化やりまくったんです、ABテストも、ランディングページのボタンの色も変えましたけど、ほんとうに全然増えませんでした。
そこである日、僕は思ったんです。「そもそもiQONのターゲットユーザーの女の子ってパソコン開いているのかな?」って。
たしかに都内のIT系の女の子はいつもパソコン開いています、でも例えば、静岡に住むイオンのラーメン屋に勤めている大学生のバイトの子はどうなんだろう?たぶんパソコン開かないですよね。
そのときスマホがちょこちょこ出始めたときですけど、実家に住んでいて、お父さんのパソコンだけはあって、必要があればガラケーで調べちゃう。
何か調べたいことがあって、目的意識があって開くのがパソコン。そう考えたときに「パソコンでiQONを提供するのはヤバイな」って思いました。
さらに、iQONのようなサービスって日本でぼくらしかやっていないし、知名度も全然ないですし、いきなりPCつけて「iQONやろう!」とはならない。
「なんとなくFacebookみてたら誰かがシェアしてたからiQONを開いてみた」みたいな、取っ掛かりとしては、そういった弱い絆でスタートする人が多い。
なので僕らはその時どうしたかというと、PCでの開発をやめて、iPhoneアプリでiQONを提供しはじめました、
当時スマホつかっている人って多くなかったですけど、女の子みるとスマホめっちゃいじっていたんですよ、けっこうiPhoneは受け入れられているなあと。
つまり当たり前だと思っていたPCを捨てて、「どのデバイスで体験すべきか?」の前提を疑って、ユーザーが体験を提供する場所を変えたんです。
そこからちょっとうまくいき始めまて、一日の投稿数が1000(20倍)になりました。
「これはいけるぞ」と思ってそこから一気に最適化をかけてリニューアルして、ABテスト、デザインの出し分け、とやっていって一日の投稿が2000以上(40倍)になりました。
もし、PCでABテストをずっとやっていたら、ずっと小さいショットグラスに対して最適化をかけていたら、一日の投稿数たった50からの、この大きな成長はなかった。
「最適なユーザー体験はPCにはない」っていうことを、仮説をたててやってみたことが結果的に成長につながった。そもそも前提を疑う必要があった。
そのとき、PCではなくアプリをつくるっていう決断をして、そこにリリースを振り切ったからこそ今もなんとか生きていけています。繰り返しになりますが、成長のためには何をしてもいいんです、成長がすべてを癒す。
まとめますとVASILYが考えるグロースハックは2つ、
1、「成長のためには手段を選ばない」というマインド。
2、そして「まずはユーザーの体験を最大化する」 です。
このプロダクトって価値があるんだっけ?正しい場所で正しいタイミングで正しい人に届けられているんだっけ?というのを疑いまくり、まずは、ユーザーの体験の最大化ができてから、ABテストやLPOなどの最適化をするという流れがいいのではないかと思います。
取材協力:株式会社VASILY
おわりに-編集後記-
PCではなくてアプリに注力したという話は、今の感覚で聞いてしまうと当たり前の話に見えますが、思い出してみてください、ガラケーが主流で、キャリアメールに絵文字をつけて連絡をとっていた時代の話です。(なんか遥か昔のことのように感じられますね)
この話の本質的な部分はしっかり頭に入れておきたいところです。今だったら、もしかしたら伸びつつあるタブレットに先行して注力すべきサービスもあるでしょうし、日本じゃなくて海外に向けてサービス展開することで花開くサービスもあるかもしれません。
iQONがそのままPCでずっとサービスを提供していたら、「いま70万人もの会員を獲得しているiQON」が今頃存在していなかった可能性が高いと考えると、特にスタートアップ系サービスはここを徹底的に疑って考え抜く必要があると感じます。
同じターゲットに同じサービスで事業を展開していたとしても、まったく違った結果になり得るということでもありますよね。
VASILYさんではグロースハッカーの採用も行っているそうですので、リンクを張っておきます。個人的には「グロースハッカー募集!」という打ち出し方をすると、どんな人材が募集してくるのか気になります。
・圧倒的なグロースを続けるVASILYの成長請負人、グロースハッカー募集!
後編では、より実践的なグロースハック事例がご覧いただけます。
・スタートアップ必見!iQONアプリ滞在時間90秒アップのカギは「コロコロとヤンジャン」