今回は「斉藤さん」が好調のユードーさんにお話を伺いました。不思議なコミュニケーションアプリが若いユーザーに支持されている理由とは?
※株式会社ユードー 代表取締役 南雲玲生さん(南雲さんは元コナミで「beatmania」の企画・制作をしていたことでも有名)
「斉藤さん」の近況について。
「斉藤さん」のアプリの調子はどうですか?
南雲:
ダウンロード数でいうと1,200万ダウンロードです。DAUについては具体的に言えないのですが、ゆくゆくは50万ユーザーくらいまでいきたいと考えています。
よく「斉藤さんって、むかし流行ってたアプリだよね」と言われるのですが、実は最近もすごくユーザーが増えています。
いま、ユードーの社員8名のほとんどが「斉藤さん」を担当しているのですが、それくらい会社としても力を入れているところです。
「斉藤さん」って、どんなモチベーションで使われているんですか?
南雲:
これはですね、「なにも期待してない」って言うんでしょうか。みんな「斉藤さん」をバカにしているんですよ。「斉藤さん、気持ち悪いね」って言いながら遊んでいる。
だから、リアルで「斉藤さん」を話題にすることは、あまりないのだと思います。ユーザーは10代後半〜20代前半が多いのですが、若い人たちは特にそうです。
「斉藤さん」がここまでヒットした理由はなんでしょうか?
南雲:
ひとつ「偶然性」ということがあると思っています。
今の時代って、僕が子どもだった頃と比べると「偶然性」がなくなっていると思うんですよ。社会的には、いろいろなことがマニュアル化されて「管理」が進んでいる。
なので、世の中を普通に生きていると「冒険しない」という選択になりがちです。すると、あたかも人生が決まっているような感じになりますよね。特に地方の人とかはそうです。
そういう中で、みんな「自分探しをしてる」っていうのがあって。アイディアとか企画をはめていくときも、それを想像しながら考えるようにしています。
つくった時にはあまり考えなかったのですが、最近はそんなことを思うようになりました。
※「誰とつながるかわからない」「どんな人かわからない」といった「偶然性」が若者にウケた。
知らない人とゲームをあそぶ「斉藤ゲーム」を入れた理由。
もともと「通話」がメインだった「斉藤さん」に、どうして「斉藤ゲーム」を入れたんでしょうか?
南雲:
全国の若者がゲームクリエイターになって、「自らが新しくつくり出していく」っていうことをやりたかったんです。
「SNSが成熟した中で、次にみんなが何を求めていくんだろう?」と考えたときに、僕のなかのいろんな想いが一致した答えが「斉藤ゲーム」なんですね。
いまの10代〜20代前半の人たちの中にある「本当」を見つけたんですよ。
ただ「斉藤ゲーム」は、社内からは反対されました、やっぱりぜんぜん違うものなので。ユーザーさんたちも、いきなり「斉藤ゲーム」がはじまって、びっくりしたと思います。
でも、実際にやってみたところ見事はまりました。数字上でも1日で遊んでくださる方が1.5倍くらいに増えています。ここは僕の戦略が正しかった。
※「知らない誰か」と話しながらゲームが遊べる「斉藤ゲーム」
「斉藤ゲーム」をつくるときに「気をつけたこと」はありますか?
南雲:
「ゲームのことがよくわからなくても、ゲームがつくれる」ようにしました。ほとんどの人は「ゲームをつくれ」って言われても、ハードルが高く感じてしまいますからね。
よく、ゲームクリエイターが「ゲームがつくれる機能」を考えると、「ユニティ」みたいなものが出てくるのですけど、それはダメなんです。
イメージとしては、カップラーメンみたいに、3分で直感的につくれなきゃいけない。
「斉藤ゲーム」では音楽や効果音も自分でつくれるのですが、それも「ぜんぶ鼻歌でいいんじゃないか」ということで、鼻歌にしてしまいました。
あと、ゲームをつくることで「あ、ゲームってこうやってつくれるんだ」ってことにも気づいて欲しいんですよ。そういう意味では「ゲームの不条理」も含めて伝えたくて。
例えば「1つのコインを取ったら1万点」なんて設定にしてしまうと、ゲームシステムが破たんします。そこで「ああ、ゲームって破たんするんだ」ということも知ってもらいたいです。
※現在は「2Dアクション」のみ。今後「格ゲー」「落ちゲー」などジャンルも増やしてく予定とのこと。
「斉藤ゲーム」ってコミュニケーションとしても、直感的だと思いました。文字や言葉で話すよりも、一緒にゲームをやったほうが性格がわかったりもする。
南雲:
そうなんですよ。いまの「斉藤さん」で不満なのは、UIも含めて「言葉」で説明しようとすることが多いところなんですね。アプリやITってやっぱり、まだまだ「言葉に依存している」ことが多くて。
みんな「アップルが好きだ」ってよく言うじゃないですか。それって「アップルのデザインや文化」が好きなんですよね。そうした言葉でない「メディアをつくる」というところがまだ弱くて。
僕は「斉藤さん」の中にある「どうしようもない悲壮感」と言うんですかね。期待して良いんだか悪いんだかわからない、そういう「今の時代を反映したもの」にしたいんです。
これからは、言葉がいらない「世界観」の部分をつくっていきたいですね。
去年「チップ」を導入されていましたが、「チップ」ですごい稼いでいる人っているんですか?
南雲:
「チップ」については、「次の時代のビジネスモデル」とは認識していますが、意外にもみんな「チップ(お金)」が目的で動かなかったんですよね。
「チップで儲けたい」よりも「人気者になりたい」だったんです。だからみんな、ランキングで人気者になるために、チップを集めている。そこは僕らもびっくりしました。
よく僕も、ユングとかの「精神医学」を勉強するのですが、結局ヒトって誰かに認められて、承認してもらわないと不安になるんです。
その「承認」をしてあげるところって、例えば「ひきこもりの人」の場合、リアルの世界では満たされないと思うんですよね。それが「ネット上でできれば良いな」と考えています。
※チップは「通話」以外のシーン(ゲーム、生放送など)でも送ることが可能。
※若いユーザーのモチベーションは「人気者になりたい!」だった。(イラストはイメージ)
最近、スカイプに「リアルタイム翻訳」の機能がつきました。ああいう技術が普通になったら、「斉藤さん」で世界の人とあそべるようになり得ますか?
南雲:
それ、実はもうやってみました。フランス語版の「斉藤さん」で「Fun!Japonais」ってアプリがあるんですけど、そこに「リアルタイム翻訳」の機能を入れてみています。
「リアルタイム翻訳」は、まだ「ちょっと使いにくいな」というところはあるんですけど、意外と翻訳の精度も良いですよ。そのうち普通につかえるようになってくると思います。
運営について。「北風と太陽」両方のアプローチが必要。
「斉藤さん」って「自ら、いつでも電話を切れる」ところが良い。そういう雰囲気があるので、気軽に電話しやすいのかなと感じます。
南雲:
そうですね。ここは難しいところですけど、だからこそ「責任が生じない」という問題もあります。そうすると、運営的には荒れてしまったりもするんです。
これから「責任が生じる仕組み」も、入れていこうと考えています。
いま運営側からみて、不適切なことをする「違反ユーザー」も多いように思いますが、そこはどうやって解決していくのでしょうか?
南雲:
まず、ユーザーさんからの「通報システム」と、運営側での「警告と削除」はかなり力を入れてやっているところです。
ただ、それと同じくらい「そうならない文化」をつくっていくことも大事だと考えていて。「斉藤ゲーム」を入れたのも、その取り組みのひとつですね。
イソップ童話の「北風と太陽」の話で例えるなら「北風と太陽の両方」をがんばることが大事だと思っているんです。
「北風」のように、運営側でパトロールを強化することも大事ですけど、「太陽」がやったように「文化をつくっていく」ということが、違反の減少にもつながると考えています。
※サービスが荒れないためには「北風と太陽」両方のアプローチが大事。(イラストはイメージ)
まとめ。「他人が持ってる才能」を使えるかが拡大のカギ。
小中規模で開発するアプリデベロッパーさんにアドバイスいただくとしたら?
南雲:
ユードーで経験したことで2つお話します。
今まで「斬新なアイデア」(イノベーション型)でアプリをヒットさせてきた人って、「自分の中からわき出てくるもの」に依存してしまう傾向にあって。僕もそこに陥っていました。
そこから脱却して拡大していくためには、「今までと違った部族」を入れて「他人が持っている才能」をうまく使っていかないといけない。
これは「創発」とも言うんですけど、いろんな部族を入れて、アメーバのように他人に依存しながらチームが進んでいくようにすることが大事なんです。
※ドラクエでいうと、「戦士」だらけのチームに、「魔法使い」や「僧侶」を入れていくようなイメージ。
なるほど、もうひとつは何でしょうか。
南雲:
もうひとつは「目標設定」です。中小のデベロッパーって、ちゃんと利益がでてビジネスとして回りだすと「これで良いんじゃない?」って思ってしまいがちなんですよ。
要するに「これ以上にがんばる義務感」が薄れてしまって、上を目指さなくなっちゃうんですね。そうすると、いつの間にかヘタレてきて、スキルも堕落していってしまう。
だから「目標」は必要なんです。「自ら目標設定できる人」は別ですけれども、ほとんどの人はストレスがないところにいると、いつの間にかダラダラになってしまうから。
ちなみにこの問題は「どこでも発生している問題」だと聞きましたね。
取材協力:株式会社ユードー
編集後記
世の中から「偶然性」が減っているという視点は非常におもしろかった。「マインクラフトが小学生など若いユーザーの間で流行っている」という理由も同じような話なのかもしれない。