今回はゴミ拾いSNS「ピリカ」についてお話を伺いました。たった4万ダウンロードでも事業は黒字化の理由、ポイ捨てデータでわかった東京の汚い区など。
※株式会社ピリカ CEO 小嶌不二夫さん(右)、取締役 高橋直也さん(左)
「ピリカ」について教えて下さい。
小嶌:
ピリカは「ゴミ拾いSNSアプリ」です。ゴミを拾ったときに「ゴミの数と量」を投稿することが出来るのですが、今までに73カ国で1,700万以上のゴミが拾われています。
一番ゴミを拾ってくれている人で64万個、2番目の方で24万個のゴミを拾ってくれています。ちなみに「ピリカ」というのは、アイヌ語で「美しい」という意味の言葉です。
※ダウンロード数でいうと「4万ダウンロードくらい」とのこと。
どのようにして「ピリカ」が生まれたのしょうか?
小嶌:
元々は京都大学の「環境問題」の研究室で生まれたサービスです。きっかけとしては、休学して世界一周をしたときに「ポイ捨てゴミ」の領域にすごく惹かれたんですよ。
それで、大学院のメンバーに声をかけて「ピリカ」をつくりはじめました。そのときに、結局大学もやめてしまって、会社をつくることにしました。
もともと、小2のころから「環境問題」に興味がありました。僕はずっと「ヒーロー」になりたくて、大きな問題を解決することにあこがれていました。
その対象が今は「環境問題」なんです。この世で一番大きな問題は「環境問題」だと思っているんですよ。戦争や貧困は「人類だけの問題」ですけど、環境問題は「生物全体の問題」なので。
「ピリカ」の最終目標って何なんでしょうか?
小嶌:
ピリカを通じて「地球上のポイ捨てゴミを0」にしたいと考えています
そもそも「ポイ捨てゴミ」がなぜ存在するかというと、「回収されるゴミ」よりも「ポイ捨てされるゴミ」のほうが多いからなんです。いつかこの数字を逆転してやろう、と思っています。
よく「ゴミを捨てないで!」みたいなポスターを張ったり、ボランティアでゴミを拾ったりしますけど、実は「数字」について考えている人はとても少ないように思います。
僕らは理系なので「数字をもとに解決したい」と考えています。逆に「人の気持ちを考える」のはちょっと苦手なんですけどね。
「ピリカ」をつかっているユーザーは、どんな人たちなんでしょうか?
小嶌:
感覚でいうと、男女比は「男性3:女性2」、年齢層は40代前半あたりが多いです。お子さんができると「タバコが落ちていて危ないな」とか気になりだすみたいで。
全体的には、ユーザーさんは「THE 良い人」が多いですね。おそらく、ピリカユーザーで飲み会を開いたら「全員がサラダを取り分ける係」になっちゃうくらい。
特に「ゴミ拾い」をしても、インセンティブがもらえるわけでもないし、女の子に出会えるわけでもないので、みんな自主的にゴミを拾っています。
ユーザーのモチベーションとしては「ゴミ拾いが楽しい人」「ゴミ問題に怒っている人」「活動をPRしたい人(企業のCSRみたいな感じ)」の3パターンくらいかなと感じます。
※イラストはイメージです。
事業としての調子はどうでしょうか?
小嶌:
2014年の9月末の決算で、なんとか黒字になりました。いまは、役員2人とアルバイト3人という少人数体制ですけど、ゆっくりと地道にやっていくつもりです。
収益としては、協賛企業からの収益が50%、自治体からの収益(調査費やサイト開発費など)が50%くらいになっています。
「協賛企業」には、いくつかメニューがあるのですが、年額をお支払いいただくことで、ピリカ上にバナーを掲載したり、「地域貢献」をPRするウィジェットをつかうことが出来ます。
もともと「協賛金」なんて考えていなかったのですが、最初に協賛企業になってくれた会社さんに「応援するよ、いくら欲しい?」と言っていただいたのが、きっかけで始めました。
現在の協賛企業は18社で、1/2は廃棄物などゴミ業界の会社さんです。
「ピリカ」を通じて、何かわかったことはありますか?
小嶌:
去年に東京23区で「どのくらいポイ捨てされているのか」を調べてみました。「歩道1メートルあたりにどのくらいゴミが落ちているか」を数字で測定したんですね。
結果としては「ポイ捨てゴミの多い区」のトップ3は「江戸川区」「渋谷区」「大田区」でした。
今までなんとなく「渋谷区は汚ない」「千代田区はきれい」みたいなイメージってありましたけど、数字として提示できるものってなかったんですよ。
そして、捨てられているゴミで、圧倒的に多いのが「タバコ」。見た目が大きいので、ペットボトルが多いように感じますが、飲料容器(ペット・カン・ビン)は実は3%以下しかない。
なるほど、ペットボトルは実は少ないんですね。
小嶌:
そうです。あともうひとつわかったことがあります。
僕の仮説では、「ピリカ」にゴミのデータがたまっていくと、「この地域は汚い」とか「この地域はタバコが多い」などがわかると思っていました。ところが、そうじゃなかったんです。
なぜかというと「人間はゴミをより好みするから」ですね。例えば「これちょっと匂い付いてるから拾いたくない・・・」ということが起こるわけです。中には「ペットボトルしか拾わない人」もいる。
だからここはちゃんとお金をかけて調査しないと、正確なデータが得られないなと思いました。
今後の活動について、おしえて下さい。
小嶌:
「ゴミ問題」で大変だなと思うのは「痛みを感じる人」がいないことです。ゴミが落ちていてもすぐに人が死ぬわけでもないですし。
だから、自治体の腰が重い。そもそも、めんどうくさいことだし、取り組みに熱心でない担当者さんの中には、「悪い調査結果」が出ることを恐れて、調査自体を躊躇する人も多い。
その重い腰を上げてもらうためには、自治体や担当者さんがポイ捨ての深刻さによって「痛み」を感じる仕組みをつくらないといけないなと感じています。
例えば「自主調査を行って、勝手に自治体ごとのランキングを公開する」とかですね。その仕組みづくりは、これから力を入れていきたいです。
取材協力:株式会社ピリカ
【追記】ピリカさんが補足情報をブログにかいてくれました。