国内最大級のスマホアドネットワーク「nend」を運営する、ファンコミュニケーションズさんに伺ったお話を、前後編でお届けします。2015年に流行ったアプリの特徴や、アプリの広告収益の平均値など。
※株式会社ファンコミュニケーションズ(左から)二宮さん、浅見さん、中野さん。
メディア側(アプリ開発者側)
昨年(2014年)のトレンドおさらい
2015年にヒットしたアプリの傾向。
浅見:
2014年は「コレクションゲーム(放置ゲーム)」など「デザインやキャラ重視のゲーム」が人気でしたが、2015年は「ゲーム性重視」のアプリが流行った年だったと考えています。
例えば「Q」のような物理演算ゲーム、「BREAKER」のような昔ながらの「ブロック崩し」をスマホに最適化したゲームなどです。これらに共通しているのは「ステージクリア型」という要素。
「ステージクリア型」のゲームが増えた理由としては、「インタースティシャル広告が、(海外に続いて)日本でも普及したから」だと考えています。
つまり、広告サイズが大きく、クリック単価の高い「インタースティシャル広告」と、広告を入れる「すきま」をつくりやすい「ステージクリア型ゲーム」の相性がよかった、ということです。
1アプリあたりの収益額は44,000円(月額)に。
浅見:
昨年に続いて、1アプリあたりの広告収益(月間)を出してみたところ、平均値としては44,000円/月という結果になりました(前年比10%アップ)。
平均値が上昇した理由は、これも「インタースティシャル広告の普及で、1アプリあたりの収益性が上がった」というのが大きいと感じます。
各アプリを収益帯ごとに分けた分布で見ると、ボリュームゾーンはやはり平均から大きく下がって「1,000~5,000円」の59%です。
高収益帯の「10万円~」で見ると全体の5%なので、「20アプリ中1アプリが、月10万円以上を稼げている」ということになります。
この「収益分布の割合」については、去年とそう変わっていません。iOSとAndroidの収益比率についても大きな動きは見られませんでした。(昨年はiOS 65%:Android 35%だった)
ちなみに、新規リリースされる月間のアプリ数(nendへの登録数ベース)は、未だに伸びていますね。
※nendにおける1アプリあたりの月額収益分布(月1,000円以上が対象)
長期で稼ぎ続けているアプリも多い。
浅見:
また「1年前に稼いでいたアプリが、1年後にも同じように稼げているのか?」ということも調べてみました。
実際にデータを取ってみると「月10万円以上稼いでいたアプリが、1年後も月10万円以上稼いでいる割合は30%くらい」という結果になりました。
この「30%」という数字ですが、ゲームアプリに限定するともっと低くなり、それ以外(ユーティリティ系など)に限定すると、より安定して高くなる傾向にあります。
「トップ100デベロッパー(nend報酬額ベース)」3つの特徴
浅見:
さらに収益を多く上げているデベロッパーには、何か特徴があるのかを調査してみたところ、3つの特徴が見つかりました。
まず、一つ目は「iOSとAndroidの両OSでだしている」(nend登録アプリベース)ということです。実際に「トップ100デベロッパー」の9割以上が、両ストアにアプリをだしていました。
そして、二つ目は「アプリを質重視でつくる、デベロッパーも多い」ということです。
具体的には「リリースしているアプリの数が10以下※」という、デベロッパーがトップ100の中で4割もいました。(※nend登録アプリベース)
トップ100のデベロッパーと聞くと「たくさんアプリをつくっているんでしょう?」という印象があるかもしれないですが、必ずしもそうではありませんでした。
最後に、三つ目は「ユーテリティ系アプリも根強い」ということです。
トップ100にランクインしている、とくに個人開発者のアプリは「ゲーム」が大半です。とはいえ、ユーテリティ系(ツール系)のアプリも、強いところは強いということです。
※トップ100はほぼ「日本のデベロッパー」とのこと。
2016年の展望について(アプリデベロッパー)
1、「良質なユーザー」を抱えるアプリの収益性アップ
二宮
アプリ市場の「成長期」は終わりました。では、市場が成熟してきたとき「ユーザーが次に何を求めるか?」というとやはり質なんです。
これからは、質の高いコンテンツに、質の高いユーザーが集まり、そこに良い広告主が集まるようになってくると思います。一言でいうと「コンテンツ勝負になる」ということですね。
実際に、広告主としても「ユーザーがたくさんいるか」よりも「ユーザーの質」を求めるようになってきています。
とはいえ「質が高いコンテンツとは何か?」って難しいですけどね。簡単にいうと「毎日でもユーザーが起動したくなるような、魅力的なアプリ」なのかなと思います。
2、コンテンツと広告の一体化
浅見:
今まではアプリの中では「コンテンツ」と「バナー広告」みたいに、完全にスペースとして切り分けられていました。これがだんだん「一体化」してくると考えています。
たとえば、アプリのデザインになじんだ「ネイティブアド」や、動画を見るとゲームのアイテムがもらえる「動画リワード」など、新しい広告フォーマットが普及してくると感じます。
3、一部のソーシャルゲーム会社が「広告モデル」のアプリをつくる。
浅見:
いままでソーシャルゲーム(課金モデル)をつくっていた中堅規模の会社が、カジュアル寄りのゲーム(広告収益モデル)をだしてくるのではないかと思います。
背景としては、ソーシャルゲーム業界の「競争の激化」、そして、広告マネタイズ手法の多様化(「ネイティブアド」や「動画リワード」など)です。
そうした中「広告モデルのアプリもつくろうか」と方向転換する企業も、増えてくると予想しています。
広告主側(アプリ広告 出稿企業)
昨年(2014年)のトレンドおさらい
ゲームにおける「1ユーザーの獲得コスト」が1.5倍に。
浅見:
ゲームにおける「1ユーザーあたりにかける平均コスト(CPI)」が、この1年で1.5倍に上がりました。
これは「ユーザーがスマホゲームに、より課金するようになった」というのが直接の理由です。そのため、ゲーム側(広告主)も多くの広告費をかけられるようになったと。
イメージとしては、2014年はパズルなど、ライトなゲームの広告が多かったのですが、2015年は課金率の良いコアゲーマー向けアプリの広告が伸びた感じです。
広告費が伸びたジャンルは「フリマ」と「音楽」
浅見:
2015年に大きく広告費が伸びたアプリのジャンルは「フリマ/オークション」と「音楽(サブスクリプション型)」の2つです。
「フリマ/オークション」は前年比で約2倍に、「音楽」は前年比で10倍以上に成長しました。「音楽」はこの一年で、全体の3%程度まで伸びてきました。
一方、ニュースアプリの広告については「2015年は、かなり落ち着いたな」という印象です。
2016年の展望について(アプリ広告主)
1、既存ユーザーへの「広告でのコミュニケーション」が増える。
二宮
スマホアプリ市場は、これからは限られたパイ(ユーザーの時間)を各社が取り合う、というフェーズになっていきます。
そうなってくると、「新規ユーザーを獲得する」というアクションの他に、「既存ユーザーにアプローチする(リエンゲージメント)」というアクションも増えてくるはずです。
例えば、過去にゲームを遊んで、課金もしていたけど、いまはアプリを立ち上げていないユーザー。この人に「もう一度ゲームを遊びませんか?」と広告を出すようなイメージです。
他には、フリマアプリで商品を「お気に入り」に登録したまま、忘れてしまっているユーザー。この人に対して「この商品はお忘れではないですか?」とコミュニケーションをとったり。
ただ、それをやるには、アプリ内の「データ分析」をしないといけないです。なので、その分析~実行までのサイクルを回す力のある企業は、有利になってくると思います。
2、ECサイトの「アプリ化事例」が出てくる。
二宮
以前から「ECサイトはアプリをつくるべきか?」って、ずっと議論されてきたんですよ。「単純に手が回らない」とか「結局WEBのほうが買いやすいよね」とか色々課題があって。
それで、2015年の後半くらいになって、ようやく実用フェーズに入ってきた。例えば「ECアプリが簡単につくれるサービス」が出てきて、コストの問題が解決されてきていたり。
これが2016年になると、ひとつ成功例が出ることで、一気に「ECサイトのアプリ化」がはじまるのだと思います。
3、「サブスクリプション型アプリ」の出稿強化。
二宮
すごく良いコンテンツを持った、サブスクリプション型サービスが増えてくると思います。直近だと「Netflix」が日本に進出してきたり。これも最終的には「コンテンツ勝負」になるはずです。
取材協力:株式会社ファンコミュニケーションズ
まとめ
近日公開予定の後編では、nendから見たアプリの上手な広告配置例、広告の収益性の話などを、お届けする予定です。