12月に開催した「AID×アプリマーケティング研究所 アプリ勉強会」より、セレクトボタンさんの講演をお届けします。「生きろ!マンボウ」のこれまでについて語っていただきました。
※株式会社SELECT BUTTON CEO 中畑虎也さん(撮影:TechBuzz)
「生きろ!マンボウ」について
自己紹介
中畑:
僕は元々カヤックという会社で、2年間ディレクターの修行をしていました。その時は、カジュアルゲームやソーシャルゲームなどをつくっていました。そして、2014年7月にSELECT BUTTONという会社を設立しました。
最近のマイブームはフードファイトです。僕はカタチから入るので「社長になったから、とりあえず太ろう。どんどん太ろう」ということで挑戦しています。笑
「生きろ!マンボウ」とは?
中畑:
「生きろ!マンボウ」というアプリは、マンボウという「とても死にやすい動物」を死なないように育てていく育成ゲームアプリです。
iOSとAndroidで、日本語・韓国語・中国語[繁体字]でリリースしています。
実績:ダウンロード数の推移
中畑:
ダウンロード数でいうと累計450万ダウンロードを突破しました。収益バランスとしては広告収益が80%:課金収益が20%という比率です。
最初は2014年6月に国内でiOS(青)、8月にAndroid(赤)を出しました。そして、11月に海外版のiOS(緑)とAndroid(紫)をリリースしたところ、海外にも大きく広がりました。
実績:国別のダウンロード数
中畑:
国別でダウンロード数をみてみると、韓国が350万ダウンロードで、日本が100万ダウンロード、その他が5万ダウンロードという割合になっています。
韓国のアプリ市場について
韓国のアプリストア
中畑:
韓国のアプリ市場について、わかったことをまとめてみました。まず「韓国のアプリストアで総合1位」をとるためにはどのくらいのダウンロード数が必要だったかというと、AppStoreでは(1日)2万ダウンロードで無料総合1位がとれました。
GooglePlayは(1日)17万ダウンロードで無料総合2位、20万ダウンロードでようやく1位という結果でした。(※ダウンロード数はブーストの話ではなくて、自然ダウンロード)
韓国ではサムスンが強くて、AndroidユーザーがiOSの10倍近くいるんです。そのため単純にダウンロード数も10倍くらい必要ということかと思います。
※図は編集部にて作成。
韓国での収益性
中畑:
「韓国での収益性はどうだったか?」というと、1ダウンロード当たりの広告収益は日本の約50%、 1ダウンロードあたりの課金収益は日本と全く同じぐらいでした。
韓国で収益性の高かったアドネットワークは「AdMob」「InMobi」「nend」「chartboost(チャートブースト)」の4つです。
フッターバナーは「nend」と「AdMob」と「inmobi」、インタースティシャルは「AdMob」と「chartboost」と「inmobi」をつかわせていただいています。
※図は編集部にて作成、あくまで「生きろ!マンボウ」の日韓でのデータをもとに相対比較したもの。
韓国でのプロモーション
中畑:
韓国ではプロモーション費用をまったくかけていません。ソーシャルを中心としたクチコミで爆発的に広がっていきました。
韓国でもTwitterが日本と同じぐらい流行っていて、特にTwitterからの流入が一番勢いがありました。
「生きろ!マンボウ」ができるまで。
全体の流れ
中畑:
「生きろ!マンボウ」を開発したときの話をしたいと思います。まず全体の工程としては、ネタ出し→ラフ開発→つくりなおし→リリース→細かいチューニングという順番で行いました。
まずはネタ出し、ヒーローを見つけよう。
中畑:
先ず「ネタ出し」の入り方としては、ゲームジャンルを収益性の高い「育成ゲーム」に絞り、100万ダウンロードをひとつの目標に置きました。
そして、100万ダウンロードを達成するためには「ヒーロー」が必要だと思い、ヒーローを探していました。
ここで僕が考える「ヒーローの条件」というのがありまして、それは「圧倒的な長所」と「唯一無二の弱点」を兼ね備えているところです。
例えば、ウルトラマンでいうと「めっちゃ強いのに、3分間しか戦えない」、コナンくんは「めちゃ頭が良いのに、子どもだから信じてもらえない」というような感じです。
どうして、この2つの条件が必要かというと、まずヒーローとして憧れられるために「圧倒的な長所」がないといけません。
もう1つ「弱点」が必要な理由としては、ただ憧れられるだけの存在だと「別世界の話だよね」となってしまうからです。距離が遠いように感じてしまうんですね。
そこに「この人って意外に弱いんだ」という「唯一無二の弱点」が加わることで、みんなに共感してもらえる「ヒーロー」という存在になれると考えました。
ヒーローはマンボウにきまった。
中畑:
この条件に当てはまる「ヒーロー」は何かと考えていたところ、ちょうど見つかったのが「マンボウ」という生き物でした。
「マンボウのヒーロー性」を考えてみます。まず長所は「でかいこと」です。マンボウは最大2.5トンにもなる「世界一大きい魚」でもありますし、人間はでかいものが大好きです。
そして弱点は「とても体が弱い」ということ。ネットでは有名ですが「天国に一番近い生き物」と呼ばれていて、ここが親しみを感じられるポイントだと考えました。
マンボウを活かしたゲーム内容を考える。
中畑:
次にゲームの内容を考えていきました。マンボウをテーマに「ゲームとしてどのように料理していくか」というところです。
先ず1つが「世界一大きい魚」という特徴に注目しました。「マンボウを育てるゲーム」と聞いたら、きっとみんな「マンボウが大きくなっていくゲームだろうな」と想像しますよね、じゃあそれは外せないなと。
二つめは「死因が面白い」というところで、その「多彩な死因」を集めるゲームにするのはどうかなと考えたんです。
この2つを足したら「すぐに死んでしまうマンボウを、死なないように世界最大2.5トンまで育てていくゲーム」になりました。
α(アルファ)版を開発して、おもしろさをジャッジする。
中畑:
企画がある程度決まったら、次にα版をつくりました。仕様はざっくり、ラフなイラストをつかって、スピード重視で進めていきます。
一番左が初期のマンボウなんですけど、この時はドット絵ですらないんですよね。次に真ん中になると、ちょっとドット絵っぽくなっています。
この時は「そもそも、ドット絵にすべきなのか」「どれぐらい細かいドット絵がいいのか」と考えながら、ひとまず「あらいドット絵」でつくってみました。
ボタンなどは適当に「仮ボタン」を置いて進めてしまって、機能をすべてつくり終えたら「面白いかどうか」を検証してみます。
僕らSELECT BUTTONEは、ディレクター、デザイナー、エンジニアの3人でアプリをつくっているんですけど、3人でα版のテストプレイをしてみました。
そしたらどうなったかというと、全然おもしろくなかったんですね笑。「うわ、全然おもしろくないぞ、これはヤバイ・・・!」ということになりました。
ゲームがおもしろくない2つの理由。
おもしろくない理由を分析する。
中畑:
ここで一旦「このゲームはおもしろくない」という現実を受け止めて、冷静になって「おもしろくない理由」をリストアップしてみました。
1つ大きな課題だったのが「マンボウが死んでしまうと、2周目をやりたくない」という問題でした。「育成ゲームなのに死んじゃう」というのが悲しいことだと気づいたんです。
α版のときは「マンボウの死因を、ただ集めていくゲーム」になっていて、「死んだら、1からやりなおし」というデメリットがすごく目立っていた。
2つめの課題は「進化するまでが退屈」という課題です。「放置系ゲーム」ってキャラクターが進化するじゃないですか。たしかに「進化する瞬間」は楽しいんですけど「進化するまでの間」が楽しくなくて飽きてしまうんです。その問題に僕らもここでぶつかりました。
課題1「マンボウが死ぬと2周目をやりたくなくなる」を解決する
中畑:
2つの課題を解決するために、β版をつくりなおしました。先ず「マンボウが死ぬと2周目をやりたくなくなる」という問題はこのように考えました。
「死んで悲しい(デメリット)」を「また遊びたい(メリット)」が上回れば、2周目もやる気がでるのではないか?
その時に思いついたのが「強くてニューゲーム」というシステムです。つまり、マンボウが死ねば死ぬほど、2周目以降の再スタートが有利になる仕組みを用意しました。
それで、「強くてニューゲーム」の内容をいろいろつけ足していったところ「悲しさを、嬉しさが上回る瞬間」が見つかって、これは解決できたぞと思いました。
課題2「進化と進化の間が面白くない」を解決する
中畑:
もう1つ「進化と進化の間が面白くない」という問題がありました。これはUIを2つ見直すことで解決しました。
1つは「体重バー」(経験値バー)の見直しです。Before(左側)の段階ではバーが短かったため、変化が見えづらくて、作業が苦痛になってしまっていた。
これをバーを大きくすることで「餌を食べると、ちょっとずつゲージが増えている」とわかるように改善しました。
2つめは「進化と進化の間」にも「マンボウの見た目」が変わっていくようにしました。つまり、キャラが変化するのは「進化する瞬間」だけじゃなくてもいいということです。
これは「体重が増えると、マンボウの見た目が大きくなっていく」というふうに改善して、進化するまでの間にも、見た目で楽しめるように工夫しました。
リリース後にやったこと。
ついにアプリがリリース、3つの方法で宣伝。
中畑:
これでようやく、アプリをリリースすることが出来ました。リリース後に宣伝としてやったことは3つです。
一つめは「フォロワーが多い友達」に宣伝してくれるようにしつこくお願いしました(効果◎)。特に仲の良い友だちは、何度もつぶやいてくれたりと、とても助けてくれました。
二つめがアプリレビューサイト50媒体ぐらいにレビュー依頼をしました(効果△)、掲載されたのは3サイト(90%以上はスルー)という厳しめの結果でした。(※あくまでリリース時の話、ヒット後はおそらく色んなサイトで紹介されている)
三つめが有名人にTwitter上でアプローチしました(効果◎)。マンボウの公式アカウントをつくって、家入一真さんやマンボウやしろさんにメンションを飛ばした。意外にも「これ楽しい」と言ってツイートしてくれたり、結果につながってすごく良かったと思っています。
ここで重要なのが「テーマ」に一番くわしい有名人にアプローチすることです。たとえば「マンボウのゲーム」であればマンボウやしろさんというようにです。縁もゆかりもない、まったく関係ないアプリをツイートしてもらうのは、なかなかハードルが高いはずです。
※マンボウやしろさんのTwitter、家入一真さんのTwitterより。
収益を最大化するためのチューニング
中畑:
リリースした後に、収益を最大化するために、いくつかチューニングをしました。
1つは「リワード広告」を導入しました。「リワード広告は(そのアプリで発生している)課金額の30%程度の収益が見込める」と聞いて入れてみたのですが、実際その通りになりました。
2つめが「アップデート」です。「新しいマンボウの死因」「新しい進化」などを追加しました。アップデートすると、短期的ではありますがDAUが30%ほど回復しました。
3つめが「プッシュ通知」です。例えば、大きな台風があったら「今日は台風だから家で遊んでね」など、何かしらのイベントのタイミングで送りました。これも一時的にDAUが150%以上になったりと、良い結果が得られました。
4つめが「海外展開」です。「東アジアは日本と文化が近い」というのは本当で、やっぱり韓国の広がり方を見ていても、日本と全く一緒でした。ということで「本当にやってよかったな」と思っています。日本のアプリにとって東アジアは非常に狙い目だと感じます。
今後の予定、世界1,000万ダウンロードに向けて。
中畑:
今後の予定としては、東アジアを中心に世界展開に力をいれて、マンボウで1,000万ダウンロードを目指したいと思います。
台湾では「LINEフリーコイン」をつかって、大規模にプロモーションを仕掛ける予定です。そして、台湾でうまくいったら中国本土にも挑戦しようと考えています。
ゆくゆくは、人口の多いスペイン語圏(南米やスペインなど、スペイン語を話す人口は多い)にも挑戦したいですね。
最近困っていること
中畑:
最後に「困っていること」を並べてみました。もし助けてくれる方がいらっしゃったら、ご連絡をいただけると嬉しく思います。
1、中国でのAndroid展開のパートナー・・・中国にはGooglePlayがないので、中国でAndroid展開するためのパートナーさんを探しています。
2、東南アジアやスペイン語圏でのパートナー・・・東南アジア、スペイン語圏も攻めていきたいと思っているのですが、あまり知識がありません。プロモーションや広報の部分で助けてくれるパートナーさんを探しています。
3、企画や技術面でプロの力を借りたい・・・SELECT BUTTONは3人でやっているのですが、3人とも新卒でいうと3年目です。技術も企画もまだまだなので、フリーで活躍されているプロの力をお借りしたいと考えています。
※連絡先:info[at]selectbutton.jp もしくは、セレクトボタンHPまでお願いします。
会場からの8つの質問
Q1:「有名人にメンションでアプローチする」という話があったんですけど「怒られたら怖いな」とも感じてしまいます。コツなどあれば教えていただけますか?
中畑:1つポイントだと思ったのが「宣伝っぽくしない」ということです。
実は、僕も初めはTwitterの個人アカウントで「遊んでください」とアプローチをしていたのですが、そしたらやはり反応はありませんでした。
そこで、マンボウの公式アカウントをつくって「あそんで欲しいのー」とゆるく話しかけたら、リアクションしてもらえることが増えました。笑
特に、怒られたりしたことはないですが、何度もスパムのように送るのはもちろん良くないと思います。
ありがとう\(^o^)/やってみる(笑) RT @manbo_app: @manbouyashiro マンボウのアプリなのお https://t.co/ynRJlRPqUL
— マンボウやしろ (@manbouyashiro) June 10, 2014
Q2:韓国でかなり成功しているとのことでしたが「韓国語に翻訳してからヒットした」のでしょうか、それとも「ヒットしてから韓国語に翻訳した」のでしょうか?
中畑:韓国語に翻訳してからヒットしました。ただ、最初に日本語でリリースしたときに、すでに韓国で3,000ダウンロードくらいされていたんですね。
それを見て「韓国でもいけるかもしれない」と思い、韓国語に翻訳したという経緯があります。
Q3:先ほどのダウンロードの推移のグラフでは、すごい角度でダウンロード数が成長していました。これは予測的には、もっともっと伸びていきそうですか?
中畑:11月末の時点で350万ダウンロードで、そこから約20日(12/15時点)で100万ダウンロード増えて、450万ダウンロードまで到達しました。
今の勢いを見ていると、550万ダウンロードくらいで頭打ちになる感じがしていますね。
Q4:韓国と日本で「ゲームに飽きるまでの速さ」って違いましたか?
中畑:一緒ぐらいでした。日本でも韓国でもカジュアルゲームの消費スピードは早いです。
Q5:変な話、マンボウが死にまくるじゃないですか。動物愛護団体みたいなところから「生き物を簡単に殺すな」とか言われたりすることってあるんですか?
中畑:それは、全くなかったですね。
Q6:英語圏ではインタースティシャル広告がガンガン出てきたりしますが、日本と英語と韓国で「広告の配置」や「表示頻度」って変えているんでしょうか?
中畑:いまは基本的にはすべて一緒にしています。日本のインタースティシャルの表示頻度だけちょっと落としているという程度です。
Q7:韓国では、現地のアドネットワークは使ったりしないんですか?
中畑:それがですね、めっちゃ使いたいし、メールも頂くんですけど、韓国語が全くわからなくて。「だまされたらイヤだな」ということで、まだ出来ていません。笑
あと、韓国の事業者免許が必要だったり、銀行口座が必要だったりするところもあるそうで、いくつかハードルもあるんですよね。その辺りを教えてくれる方がいたら、ぜひご連絡いただきたいです。
Q8:「韓国で日本のカジュアルゲーがヒットする」って結構レアケースだと思います。韓国のAppStoreを見ていてもほとんど見かけない。どうしてマンボウはそこを突き抜けて、ヒットできたと考えていますか?
中畑:2つ理由があるかなと考えています。
1つは「着火点」です、爆発的にアプリがダウンロードされた時の着火点を調べてみると、韓国版の2ちゃんねらーみたいな人たちからはじまっているんです。
韓国にも「2ちゃんねる文化」みたいなものがあって、その文脈やノリにあっていたと感じます。なので逆に、2ちゃんねる的な文化がなかったら厳しかったとも言える。
もう1つは「韓国で育成ゲームの人気がある」というところです。韓国でもたまごっちが流行っていたみたいで、マンボウの感想でも「たまごっちのように遊べる」という声が多かったんですよね。
実際に、マンボウをだしてみて「意外に、韓国でも育成ゲームは受け入れられるのでは?」ということを感じました。
取材協力:株式会社SELECT BUTTON
編集後記
韓国で350万ダウンロード超えているのは驚きました。日本のネットっぽいノリでも、海外でこんなに人気がでることもあるんですね。
そして、中国のAndroid展開のパートナーなど、協力できそうな方がいたら、ぜひセレクトボタンさんのホームページから連絡してみてあげてください。