今回は「マンガアプリが好調」のNagisaさんにお話を伺いました。具体的な収益額や、とあるマンガジャンルの驚異のポテンシャルなど。
※株式会社Nagisa マンガアプリディレクター 樋田 顕(とよだ けん)さん
「マンガ無双」と「マンガ姫」について。
いまダウンロード数はどのくらいですか?
樋田:
今年3月からマンガアプリ事業をスタートして、「マンガ無双」が約65万ダウンロード(iOS48万、Android15万)、「マンガ姫」が約55万ダウンロード(iOSのみ)という状況です。
現在メンバーは5名(プロデューサー、デザイナー、iOSエンジニア、Androidエンジニア、サーバー)で運営しています。
※「マンガ無双」は70%男性、「マンガ姫」は98%女性。
「どのくらいの年齢層のユーザー」が使っているんでしょうか?
樋田:
「マンガ無双」は20〜30代後半の男性、「マンガ姫」は10〜20代前半の女性が多いですね。
とくに「マンガ姫」のほうは若いユーザーが多い。そのため「絵柄が古いコンテンツ」を載せないように意識しています。若いユーザーは「昔の絵柄のマンガ」を敬遠しやすいからです。
ちなみに、マンガアプリが使われるのは圧倒的に18時以降が多いです。「外出先でのスキマ時間」ではなくて、家でゆっくりしながら見ているのかなと。
※ビデオリサーチさんの調査結果を見ても、マンガアプリは夕方以降につかわれている。
マンガアプリの開発時に気をつけたこと。
開発時に「苦労したこと」はありますか?
樋田:
「マンガ姫」はアイコンのデザインにかなり苦労しましたね。しっくりくるデザインがなかなか出なかったんですよ。というのもメンバーがみんな男性だったからです。
僕たちが「女性受けの良い、おしゃれなアイコン」をつくろうとすると、油断すると「アキバにある風俗」みたいなダサいデザインになっちゃう。そこから脱却するために、何度もつくり直しました。
あと「アプリ名」も同じで、実は当初「マンガ姫」ではなくて「きゅんコミックス」という名前でした。
でも「きゅんコミックス」ってダサくないですか…?なんとなく「ガラケー時代に流行らなかったマンガサイト」っぽくて、イヤだったんですよ。そこもデザインと合わせて試行錯誤でしたね。笑
結果的にアイコンとアプリ名に時間をかけたことが、リリース1週間での40万ダウンロード達成※につながったと考えています。(※ブースト広告を1回実施した以外は、ランキング等からの自然流入)
※たしかに、左上の初期アイコンだとダウンロードしなさそう…。
マンガアプリの開発時に「気をつけるべきこと」って何があるんでしょうか?
樋田:
マンガアプリって「ユーザーが読みたいコンテンツをダウンロードする」というアクションがあるのが特徴なんです。そのため「ダウンロード時間をいかに短縮して、ストレスを減らすか」が重要で。
そういう意味では、工夫したポイントが3つあります。
1つ目が「試し読み」機能です。これは本屋でいうと「パラパラと立ち読みをする」ようなイメージ。ユーザーが「このマンガおもしろそうかな?」と事前にチェックできるようにしている。
2つ目が「コンテンツを小さく切り分ける」です。「紙の単行本での1巻」で区切ってしまうと、ダウンロードに時間がかかってしまうので、「1巻」を前後編に分けて配信しています。
3つ目が「同時ダウンロード機能」です。これは「マンガを読みながら、次の巻のダウンロードをバックグラウンドではじめられる」という機能です。
残り15Pくらいになると「次の巻をダウンロードしますか?」とポップアップが表示されます。「はやく続きが読みたいけど、ダウンロードが遅い」という状況をなくすための機能ですね。
1回アプリを起動すると、どのくらい使われるんですか?
樋田:
「ユーザーの滞在時間」は、だいたい25〜30分くらいですね。そうなると、長くても「マンガ2~3巻分」を読むのが限界です。なので、いまは「マンガ3巻分を1セット」にして、3日おきに公開しています。
おもしろいことに、一気に「全50巻!」と公開するよりも、ちょっとずつ分割して公開していくほうが、「満足度が高い(利用時間が長い)」という結果にもなっている。
たとえば「ジョジョ」って60巻くらいまでありますけど、なかなか長すぎて読む気がしないじゃないですか。そういう感じで、とくにスマホだと長いと疲れちゃうんです。
結果、公開を分割して配信し始めてから、リテンション(アプリを再度つかってくれる回数)は1.2〜1.5倍以上にあがりましたね。
実は「BL」がキラーコンテンツだった。
「人気のジャンル」の傾向って何かありますか?
樋田:
「マンガ無双」でいうと「アクション系(バトル)」と「裏社会系(ヤンキー・やくざ)」が、すごく人気がありますね。
「マンガ姫」で圧倒的に強いのが「BL(ボーイズラブ)」です。やってみてはじめて「BLマンガのニーズって、ここまで強烈なのか…」と実感しました。
BLはマネタイズにも貢献してくれる、素晴らしいジャンルです。なぜならBLマンガを読んでいるユーザーの「恋愛ゲーム」「BLゲーム」の広告への反応がめちゃくちゃ良くて。
そのおかげで「マンガ姫」では、広告が3日間で10万クリックされたこともあります。ちなみに「継続率」についても「マンガ姫」のほうが1.5~2倍くらい高いですね。
でもBLって本とかでも読めますよね。なぜ「マンガ姫」でわざわざBLを読むんですか?
樋田:
これは「隠れBLニーズ」にうまくハマったからだと考えています。
おそらく「マンガ姫」でBLを読んでいるのって「興味本位ユーザー」なんですよ。つまり「BLを読んだことないけど、気にはなっていた」という人たち。
彼女たちは「本屋にいってBLを買う」というアクションは恥ずかしくて出来ないし、周りに「BL読んでいる」ということも知られたくない。
それが「マンガ姫」であれば、BLをこそこそ読むことができる。アプリがホーム画面にあっても「キュン系の恋愛マンガを読んでる」と言えば恥ずかしくないわけです。
僕の仮説では「隠れBLニーズ」は、かなりあるんじゃないかと思っています。やっぱり社内の女性に「BLマンガって読みます?」って聞いても、みんな「まったく見ない」って言うんですよ。笑
だから「意外にみんな裏で読んでいる」もしくは「見はじめたら読んじゃう」というパターンが実は多いんだろうなと推測しています。
※イラストはイメージ。
広告での収益化がうまくいっている。
マネタイズについてはどうでしょうか?
樋田:
ビジネスモデルとしては広告収益モデルです。割合でいうとポップアップ10%、ネイティブ広告15%、バナー広告(インタースティシャル含)が75%という感じです。
マンガアプリはカジュアルゲームと違って、売上が落ちないのが良いですね。売上規模でいうと月3,000万円以上くらいでています。ARPUも8~10円くらいで安定していますね。
ちなみに、やはり「マンガ姫」のほうが、収益性は1.5~2倍くらい高いです。
「カジュアルゲーム」と比べて、マネタイズで意識していることはありますか?
樋田:
マンガアプリを読んでるユーザーって「ヒマ」なのですが「マンガを読む」という目的意識があるんです。「ユーザーのヒマ度」でいうと、カジュアルゲームとニュースの中間くらい。
なのでイメージ的には「広告をそっと出してあげる」くらいが良い。カジュアルゲームみたいに、広告をガンガンだしちゃうと、うっとうしく感じやすいんです。
そうなると「どのタイミングで、どんな広告を出すか?」がとても重要で。今「どういう広告が最適なのか」を、いろいろ検証してみています。
※イラストはイメージ。
今のところ「検証してわかったこと」は何かありますか?
樋田:
例えば、当初「マンガの最後のページ」にポップアップ型広告(自社サービスの「Popad」)を置いていました。これって一見効果も高そうですよね? ところがクリック率も収益性も悪かったんです。
そこで、広告を出すタイミングを「ビューアーを閉じた時」に変えてみたら、その広告の売上が1.2倍になりました。これはなぜかというと「ユーザーの心理状態」が違うからかなと。
「マンガの最後のページ」に広告を入れた場合、ユーザーは「さあ次の話を読もう」という心理になっている。そこに広告がでてくると、やっぱりジャマですよね。
一方「ビューアーを閉じた時」は心理的にも一段落ついている。「違うマンガを読もう」なのか「休憩しよう」なのかわからないですけど、気持ち的には広告が出てきてもべつに良いわけです。
タイミングとしては「ほぼ一緒」で、違うのはすこしの「ユーザー心理」だけ。たったこれだけで広告収益にも影響するんだなと思いました。
「ページめくっているとき」に広告がでますけど、これはどうなんでしょうか。
樋田:
出来れば「読んでいるとき」には広告がでないほうが良いんですけど、収益性が高いので「今のところはなくせないな」という感じです。
そこは、ちゃんと収益を「コンテンツの拡充」「アプリの改善」などに回すことで、ユーザーさんに還元していきたいなと。
ただ、うっとうしくならないように工夫はしていて。作品ごとに「何ページに1回、広告がでる」という設定を変えています。
例えば「巻数が少ない作品」ほど、広告の頻度が高くても、ストレスなく押してくれる可能性がたかいです。逆に「20巻を超える長い作品」だと、うっとうしく感じてしまう。
そのため、長い作品は「50ページに1回」、短い作品は「15ページに1回」というように、コンテンツの長さによって頻度を調整しています。
「紙の単行本1巻の長さ」って200ページくらいなので、「50ページに一回」というと、単行本の1/4に1回でてくるくらい。このくらいの頻度であれば大丈夫かなと。
「マンガ家への還元」や「レビューの重要性」について
「マンガ家さんへの収益の分配」は、どのような仕組みなんでしょう?
樋田:
マンガ上で表示される「広告の表示回数」に応じて、広告収益を分配しています。
一番売上があるマンガでいうと「1作品で100万円近くの収益」がでています。これから「マンガ無双、マンガ姫だけに作品をのせて、生活している」というマンガ家さんがでてくるのが理想ですね。
アプリに掲載するマンガは、随時募集していますので、「マンガコンテンツはあるけれど、収益化に困っている」という方がいらっしゃれば、ぜひご相談ください。
最近「App Analytics(アップルが出したアプリ分析ツール)」がつかえるようになってどうですか?
樋田:
最近「App Analytics」を見ていたら、2つ面白いデータを見つけました。
ひとつは、「レビュー数の多いアプリはダウンロードされやすい」ということ。レビューが「3ケタ(0〜999)」か「4ケタ(1,000〜)」かでアプリのダウンロード率ってぜんぜん違うんです。
仮に「4ケタの時」を100とすると、「3ケタの時」は70くらい。レビューの数だけで新規ダウンロード数が30%も変わるということですよね。
アプリをアップデートすると、レビュー数がリセットされるので、「無駄なアップデート」は避けないといけなくて、タイミングも考える必要があることに気づきました。
例えば「ダウンロード数の伸びる土日はアップデートしない」「細かい修正はまとめて行うことで、アップデート回数を減らす」とかですね。
もうひとつは、AppStoreページへの流入で、意外に多いのが「レビューサイト」と「まとめサイト」だったことです。うちのマンガアプリの場合は「NAVERまとめ」と「Appliv」が多かったです。
こうした、いままで感覚的には当たり前だったことが、数値でわかるようになったのは、面白いですね。
最後に告知などあればお願いします。
樋田:
「マンガコンテンツのご提供」「オリジナルマンガの制作協業」など含めて、何か一緒にできそうな会社さんがいらっしゃれば、お声がけいただければうれしいです。
他にマネタイズとして「マンガ型のタイアップ広告」を準備しています。「ゲームアプリをマンガで紹介する」等の取り組みもこれから実施していこうと考えています。
取材協力:株式会社Nagisa
編集後記
余談ですが、ebookjapanさんによる「BLアンケート調査」を見つけたのですが、たしかにBLは「いつのまにかハマった人が多い」「電子との相性が良い」という結果になっていました。おもしろいですね。