今回は、ニュース読み上げアプリ「Umano(ウマノ)」を運営する、Ian Mendiola(イアン)さんにアプリのお話を伺ってきました。
TIMEやBusiness Insiderなどの海外サイトでも、優良アプリとして選ばれている「Umano」の話、日本にいるとわからない、アメリカの話なども聞けました。
※なお「Umano」は2015年5月12日に「Dropbox」に買収されたとのこと(Umano公式サイトより)。
Umano(ウマノ)について。
なんでUmanoをつくったんですか?
Ian:
Umanoは(市場がどうということではなく)自分たち自身のためにつくったんです。
いつもテクノロジー系のブログを読んでいたんですよね、だからそれをいつでも持ち歩けて、ライフスタイルにあうものをつくった。
Umanoはもともとアプリからスタートしたサービスですか?
Ian(イアン):
はい、モバイルアプリからスタートしました。
最初はiOSでローンチして、アメリカでユーザーの要望が多かったので、2ヶ月後くらいにAndroidもリリースしました。
iOSとAndroidのダウンロードの比率は30:70というイメージです。Androidが70ですね。
ダウンロード数でいうと世界で110万ダウンロード以上という状況です。
Umanoは何人くらいでやっているの?
Ian:
スタッフはフルタイムが6人で、4人がパートタイム。ナレーターは50人ほどいます。
Ianさんはこれをやる前は何をしていたんですか?
Ian:
元々はGoogleやBloombergで金融系のソフトウェアエンジニアとして働いていました。
他の創業者2人については、1人はGoogleのプロダクトマネージャーで、もう1人はGoogleのエンジニアでした。
どこの国がユーザーが多いですか?
Ian:
アメリカが一番多いですが、その次は実は日本と韓国が多いんです。
今では1日の新規ダウンロードの半分はアジア地域で、残り半分がアメリカ。だからこそ、今回日本に来ました。
ユーザーの性別や層、例えば「IT系の経営者が多い」など傾向はある?
Ian:
性別は70%は男性、30%が女性です。年齢層でいうと18-34歳が多いです。
男性が多いのは、最初にテクノロジー系の起業家向けコンテンツが多かったためだと思います。今は女性向けコンテンツも増やしているので、女性ユーザーも多くなってきています。
どういうシーンで使われることを想定してますか?ジムで走りながらとか?
Ian:
ユーザーの55%は車の運転中に使っていますね。
将来的には車内やパーティー会場で、「音楽を聞くような感じでコンテンツを聞く」ということもあるんじゃないかと考えています。
ラジオの代わりのようなイメージ?
Ian:
うーん、ラジオよりも良いと思っていますよ、笑
オンラインからの情報だから情報が新鮮なのと、好きなカテゴリを選べるから。そこがラジオやPodcastと違うところかな。
ナレーション音声の配信方法など。
記事(ナレーション)はどのくらい配信している?
Ian:
毎日最新記事(ナレーション)を100-150くらい配信している、ネット上の色んなサイトから最も面白い記事からキュレーションして、音声として配信しています。
キュレーションというと、人が選定しているんですか?
Ian:
アルゴリズムと人、両方でキュレーションしています。
まずは、コンテンツをウェブ上から集めてきて、そこから過去のUmanoの視聴データや、ソーシャルメディアなどのデータをもとに、アルゴリズムを用いてコンテンツにランク付けをします。
最後にトップ100の記事から人の目で選定するという流れです。
アプリを見ると、読む長さが5分くらいの記事音声が多かったのですけど、あえてなのか、たまたまなのか。
Ian:
実は、ユーザーにとって5分くらいの長さがちょうど良いことがわかったので、そうしています。データを解析した結果、長すぎる記事だとユーザーが再生をストップしてしまうんです。
ただ、コンテンツの長さはクオリティ次第というところが大きいので、面白い記事なら30分でも配信することもありますけどね。
日本って、電車の駅と駅の間が2-3分くらいで、大体ゲームも2-3分で終わるようにつくっているものも多くて。アメリカだとそこは違うんですかね。
Ian:
サンフランシスコにも電車はあるけど、車で生活している人がほとんどなんですよね。
ユーザーがUmanoの1回の平均利用時間は40分くらいなのですが、これは車にいる時間、車で出発して高速で渋滞したりしている時間が大体40分なんですよね。この時間に合わせて最適化しています。
ナレーションをやっている人は、スタッフの方ですか?
Ian:
スタッフではなく外部のフリーランスの人です、今はフリーランスの人が家で録音しています。
どちらかというと、Umanoの中にアクティブなコミュニティを作ろうとしていて、Vikiという韓国の映画の字幕の会社があるんですけど、この会社のモデルを真似ようと思っています。
Vikiでは、ユーザーが無料で映画の字幕をつけてくれる。先日2億ドルで楽天という会社に買収されましたね、楽天って知らないけど。
(※Vikiはボランティアがみんなで映画字幕をつけて海外コンテンツを楽しめるようにする、みたいなサービスのよう)
今は「一件いくらで」みたいな形でフリーランスに録音を委託しているってこと?
Ian:
ですね、5分の記事だと通常の相場だと1記事あたり150ドル(約15,000円)かかるんですけど、Umanoの場合は、ナレーターに1記事3ドル(約300円)の支払いですんでいます。各自の家で音声録音したものを、こちらに送ってもらっています。
面白いのはソーシャル機能をもたせているから、ナレーターはリスナーと交流できる。ナレーターにとっては「自分を売り込むプラットフォーム」になっていて、ここで認知を上げて仕事を獲得したナレーターもたくさんいます。
最初はナレーターってどうやって集めたんですか?
Ian:
最初はクレイグズリスト(※地域掲示板サイトみたいなもの)で集めていましたよ、今では毎日ナレーターのほうから自然に応募がありますね。
日本のネットメディアのUmanoの記事を見ると「Umanoは英語の勉強に便利!」っていう切り口の記事が多いんですよ、これはご存知でしたか?
Ian:
そうなんですか!今回フェイルコン(※デジタルガレージ主催のイベント)のために来日したのですが、日本市場の可能性について日本の皆さんにヒアリングしようと思って、滞在を延長したんです。
「英語を勉強する」というニーズが韓国にもあることは聞いていましたし、市場が大きいのであれば「英語学習のための機能」を開発してもいいかもしれないですね。
音声と英語が同時に流れる、カラオケみたいな機能があってもいいし、ユーザーの英語のレベルにあわせてコンテンツを配信してあげる、というのもあり得るかもなあ。
ニュース配信元の人が、怒るということはないんですか、ネットメディアだと音声で配信されてしまうと広告費も入らない訳ですよね?
Ian:
答えはご想像の通りだと思いますけど。笑
最初にアプリをローンチしたときは、許可無くコンテンツをとってきていました。それで大きくなるにつれて、メディアに許可をとってパートナーシップを組んでいます。
ただ、中規模サイトや個人ブログなどは、Umanoで音声配信されることをすごく喜んでいて、
むしろ選ばれることがステータスになっていて、感謝されますね。
今では逆に、これを戦略的に使っていて、「一度取り上げて喜ばれた段階でパートナーシップを組む」という方法がうまくいっています。
パートナーシップというのは、どういうことなんですか?「読まれた回数だけお金を戻す」とかそういうこと?
Ian:
お金は発生しないんだけど、「音声で録音して配信する権利」をもらうかわりに、我々はメディアに対して、「録音した音声を再生するツール」を提供するという形。
これがUmanoのパートナーのサイトなんですけど、サイトの中にUmanoのプレイヤーを入れていて、これを押すと音声が再生できる。
このツールを提供するかわりに、音声を無料で録音する許可をもらっています。
マネタイズやビジネスモデルなど。
iOSとAndroidのアイコンが違うのはなぜですか?
Ian:
くだらない理由なんだけど、Androidのデフォルトの背景カラーが黒だから、目立つようにオレンジにしたんです。
有料のプレミアム版の売れ行きはどうですか。
Ian:
まずまずですね。まだローンチして間もないし、テストの段階ですが。最後に確認したときのデータでは、大体エンゲージユーザーのコンバージョン率は3%でした。
エンゲージユーザーというのは、月10以上の記事を聞いているユーザーのことで、このユーザーのうち、3.25%がプレミアム会員になってくれているという話です。
これは推測ですが、「倍速再生」の機能はいま無料版で提供していますけど、これは有料機能にするとプレミアムに移行するきっかけになるかもしれないですよ、日本人の英語学習というニーズで考えると倍速機能は便利。
Ian:
フィードバックありがとうございます、今のところ、倍速機能は無料で提供しているんですよね。
その話でいうと、「0.75倍速で再生する機能」については、英語を勉強しているユーザーからのフィードバックで実装したものなんです。
日本と韓国はApp Storeで1ユーザーあたりが、最もアプリにお金を使う国なので、もし英語学習ニーズが大きくて、そういう使い方をしてくれる人が多いなら、検討する余地があります。
デイリーのアクティブユーザーとか、1人あたり1日何分くらい使うのかっていうデータは公開できますか?
Ian:
この情報はまだ他に公開してないんですけど、現在の月間アクティブユーザーは250,000人、
ユーザーは1回のアプリ起動(1セッション)あたり、平均40分くらい使用しています。
リテンション率は55%と、他のアプリに比べると非常に高い値です。リテンションというのは「ユーザーが最初にアプリを落としてから次の週もまた使ってくれるか」という意味です。
つまり「1回使ってみて、また使いたいと思ってくれる人」の割合が55%ということですね。
マネタイズの方法はプレミアムと、他に考えていることはありますか?
Ian:
スポンサードコンテンツというか、ネイティブアドですね。
私達のパートナー(メディア)に掲載されたネイティブ広告の音声バージョンを作って、1,000視聴あたりで課金をするっていう方法です。
Umano上での広告って「耳で聞く広告」なので、音楽や映画の広告は効果的なんじゃない?
Ian:
音声が主体だからということですか?それは考えたことはなかったけど、いいアイデアですね。
音楽はいいかもしれないですね、面白いと思います。
今110万ダウンロードですが、リリースから今までで大きくユーザー数が伸びた瞬間はありましたか?
Ian:
App StoreやGoogle Playと良い関係を保つことができたのは大きいです。AppleやGoogleがプロダクト(Umano)に対してフィードバックをくれたり、逆にぼくらも彼らの最新SDKについてフィードバックを返したり。
その結果、アプリストア上で特集してくれることもあって、例えば、Google Playの「エディターのおすすめ」のコーナーに入った時は、ダウンロード数が大きく伸びました。
あまり知られていないと思いますけど、AppleやGoogleには開発者とコミュニケーションをとるチームがあるので、そのチームとコミュニケーションをとって、最終的にストアで取り上げてもらうのは1つの戦略だと思います。Evernoteとかもそれで成功しているんですよね。
(※GooglePlayの「エディターのおすすめ」。日本ではパズドラや黒猫のウィズなど以外は、ほとんど海外アプリ)
日本だと、AppleやGooleのストアの担当者と関係を持っているデベロッパーってほぼいないんですけど、どうやったらコミュニケーションとれるんですか?
Ian:
うーん、ツイッターでツイートしたりとかかな?
でも、これはシリコンバレーの有利な点かもしれないですね、資金調達の時に投資家と話したりすると、App Storeの人を紹介してくれたりするんですよ。
あとアドバイスとしては、カンファレンスに出るのは時間の無駄かなあ笑。まあもちろん、いいのを選べば役立つこともありますけど。
日本とアメリカのアプリ市場の違い。
日本のアプリは特にソーシャルゲームがいっぱいあるんですけど、アメリカと違いは感じますか?
Ian:
アメリカでも人気アプリはSNSとゲームですね。
基本的にはUmanoの戦略は、SNSやゲームの戦略とは違っていて、ユーザー数(ダウンロード数)をホッケースティックのように急激に伸ばす方法は向いていないので、それよりは、長期的なエンゲージメントにより、クチコミされることを目指しています。
ちゃんといいものをつくり続ければ、パートナーのメディアの方々がUmanoを気に入って紹介してくれると思いますし。
ぼくらのアプリは、鳥がトンネルをくぐるアプリ(※FlappyBirdを指したジョーク)では無いので、ユーザー獲得に対してはスマートに戦略を立てなければいけないと考えています。
(ianさんが緑茶をすごい飲んでいるのを見て)緑茶ってアメリカで流行ってるんですか?日本の飲料メーカーが、シリコンバレーのIT企業に緑茶を健康飲料として売り込んでいるらしいですよ。
Ian:
あーそうだね。これアメリカでみたことがあるよ!
今までアメリカから出たことがなくて、長距離を移動してきたのですごく喉がかわいちゃっていたんだよ(好物ということではなくて)
あと、日本ではランキング上位は「ブースト広告」がすごく流行ってるんですけどアメリカだとどうですか?
Ian:
そうですね、App Storeが禁止していると思いますよ。
アメリカではブーストはすごく高いんですよ、1ユーザーの獲得あたり1ドル以上コストがかかる。あ、日本でも大体そのくらいなんですか?同じくらいなんですね。
アメリカのアプリ開発者は日本に興味を持っていますか?
Ian:
多くの人はまだ日本市場の可能性に気付いてないと感じますね。
みんなバブルの中(英語圏の中)しか見てなくて、「アメリカで成功すれば、他の国でも結果がついてくる」と考えていて、あまり外国は見ていない。
アメリカはエンジニアの給料がすごく高いって聞くんですけど、どうですか?
Ian:
そうですね。今はシリコンバレーでは年収10万-12万ドル(約1,000-1,200万円)くらいです。
日本のエンジニアの給料はどのくらいなんですか?
少なくともそこまで高くないです。年収500-600万円が割と普通くらいかも。
Ian:
え、それはアメリカに移住したほうがいいと思いますよ笑。それなら、英語を勉強したらいいとおもう。
エンジニアの友達も中国人とか韓国人はたくさんいますよ、(日本人が少ないのは)文化的なものかもしれないけど。
英語を勉強すると良い点は「どうやって開発するか」という情報があることです。ツールとかライブラリとか、フレームワークとかがあるので、プログラミングがすごく簡単にできる。
私の兄はエンジニアではなくて、アニメーターみたいな仕事をしているんですが、彼はとても数学が得意で、オンラインでプログラミングを3ヶ月くらいで学んだんです。
日本に同じようなのがあるかわからないのですけど、数学が得意であれば、プログラミングはすごく簡単だと思います。
最後に告知などがあれば教えてください。
Ian:
Umanoについて日本の皆さんからフィードバックがもらえたら嬉しいです、英語学習という観点でももちろん。Twitterでもメールでも歓迎です!
Twitter:https://twitter.com/umanoapp
メール:support@umanoapp.com
というのも「英語学習に使える」という話を聞いて、そのニーズを想定していなかったのですごく困惑したんですね。
「英語を誰かが教える」ということだったら分かるんですけど、そういうアプリでもないから。「どれくらいUmanoが英語学習に役に立っているのか?」というのを特に知りたいんです。
あと、Umanoを気に入ってくれたら友達にも紹介してくれたら嬉しいです!
取材協力:Umano(SoThree, Inc.)、デジタルガレージ