「RPGアプリと広告収益モデルはマッチしない」ハンマーズクエスト開発秘話と、カジュアルゲームの収益事情。

2014年09月22日 |
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「ハンマーズクエスト」を開発している株式会社オリディオのori takuyaさんにお話を伺いました。カジュアルゲームを中心に累計500万ダウンロードの実績がある会社さん。カジュアルゲーム開発者の方は特に参考になると思います。

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※株式会社オリディオのori takuyaさん。

「ハンマーズクエスト」について

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「ハンマーズクエスト」について教えていただけますか?

ori:
ワンタップで遊べるハンマーアクションRPGです。8月にリリースして約20万ダウンロード(iOS16万、Android4万)という状況です。現在は一日1,000ダウンロードくらいユーザーが増えています。

ゲームシステムが斬新ですが、企画はどのように立てたのですか?

ori:
オリディオはカジュアルゲームをメインでつくっているデベロッパーなのですが、実は当初「ハンマーズクエスト」はハンマーでブロックを壊していくカジュアルゲームとして企画していました。

「ストリートファイター2」で車を壊すボーナスゲームがあるじゃないですか、あの「破壊していく爽快感」を再現するようなハンマーゲームを考えていたんです。

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どうして、そこからRPGになったのでしょうか?

ori:
つくっていく中で「ハンマーが進化したほうが面白い」ということで育成要素を追加したんです、そうこうしているうちに「もうそれならドット系のRPGにしてしまおう」と流れで今のRPGになりました。

操作感としては「ワンボタンでタップして進んでいく」という意味で変わらないですが、ビジュアル面や育成要素などを加えて、アプローチを変更した感じですね。

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※「ハンマーズクエスト」の企画シート。ゲームをつくる際はこのシートにメモしてつくっている。

ゲームバランスがめちゃくちゃ良いと思うのですが、手間をかけた部分ですか?

ori:
そうですね。何十回もテストを繰り返して、ゲームバランスを調整をしました。何度もやっていると感覚が麻痺して、難しいゲームをつくってしまいがちなので「ちょっと簡単すぎかな」というレベルに合わせるようにしています。

スマホのゲームで大事なのは、とにかく「不快な要素をなくして離脱させない」こと。ハンマーズクエストの場合はステージがクリアできなくても、経験値やお金が入る仕組みにしたり、「簡単なRPG」に寄せてあります。

結局、1-2ヶ月で出す予定だったのですが、開発に約4ヶ月かかってしまいました。自分はけっこう完璧主義でこだわりきらないと気が済まなくて、クオリティーが満足する水準を超えるまではだしたくなかった。

他にこだわったところはどこでしょうか?

ori:
「あ、これ昔のドット絵RPGだな」とビジュアルですぐ伝わることを一番重視しました。スーパーファミコン時代のドラクエやFFをかなり意識しています。

最近だと「棒人間ゲーム」がレビューサイトで紹介されることはほとんどないですし、メディアに紹介してもらうにもビジュアルは重要です。結果的に「ハンマーズクエスト」はAppBankさんで紹介してもらえたり、4gamerさんなどゲーム系の媒体も反応がよかったです。

ダウンロードを伸ばすためにやったことはありますか?

ori:
今回初めてブーストを2万ダウンロードほど(1ダウンロード20円くらい安いサービス)実施しました。AppStoreの総合10位くらいまでブーストで上げて、そこから総合6位くらいまで伸びました。

結果的に「ダウンロードを伸ばして認知度を上げる」という意味では、やって良かったと思います。ランキングが上がるとメディアでも紹介されやすくなります。

「ハンマーズクエスト」は広告収益モデルだと思いますが、収益はどうでしょうか?

ori:
1ダウンロードあたりの収益性は10円程度です。ただ、開発費が250〜300万程度かかっているので単体でみると赤字です。

今後のアップデートと、他の自社アプリへの送客効果も含めて、なんとかプラスという感じですね。これはビジネスモデルのミスマッチが問題です、RPGと広告収益モデルはマッチしないと感じました。

【追記】:一部誤解を招きそうな表現があった図を削除しました。

具体的にはどういうところがミスマッチなのでしょうか?

ori:
RPGはスタミナがなくならない限り、ずっとゲームに夢中になり続けるので、広告がスルーされて全然クリックされないんです。これは明らかにカジュアルゲームとは違うと感じた部分でした。

課金要素(ダイヤ購入・スタミナ無制限など)についても、今更ではあるのですが次のアップデートでいれる予定です。やっぱりRPGは「課金で稼ぐのが王道」という気がしています。

どの種類の広告が一番稼いでいますでしょうか?

ori:
なんだかんだ画面下のバナーが一番ですね、単価感が高くて安定しているのでnendさんをメインで使っています。

インタースティシャル広告に関してはi-mobileさんを使っていますが、クリック単価が40円以上とすこぶる良い結果がでています。ただ「トップに戻る」を押した時にだけ出しているのでimp(表示回数)は少ないのですが、クリック率も2%弱はでています。

単価が高い理由については、ゲーム広告との相性が良くて広告主に効果を返せているようで、単価が通常よりも上がっているからのようです。

リワード広告も導入されていますが、どうでしたか?

ori:
新規ユーザーの母数が継続的に増えている状態じゃないと収益につながりにくいと感じました。理由は一人のユーザーにつき1〜数回くらいしかリワードを使わないと思うためです。

Androidのほうがリワードの収益性はやはり高い。Tapjoyさんを使っていますがAndroidでは一日30−40ドルの広告収入があります。(iOSはAppleのリワード広告への規制が激しく「報酬を得てアプリをダウンロードさせる」のがNG)

iOSのリワードは「動画視聴」で1円くらいしかもらえませんし、「ウェブサービスの会員登録」などはハードルが高い。Androidは「無料アプリのダウンロード」をしてもらえれば30円くらい入ります。

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リリース後に、ユーザーのリアクションで想定外だったことは?

ori:
コアなゲームユーザーが多くて、レベル99まで上げる人がたくさんいた。かなり余裕をもってレベル上限をアップデートしても、すぐにやり込んで上限まで追いついちゃう。

課金してくれるのはこうしたユーザーだと思うので、今考えると課金を最初から入れておくべきだったと思います。

棒人間のカジュアルゲームは稼げるのか?

オリディオさんではいわゆる「棒人間系のカジュアルゲーム」を多くつくっていますが、収益単価はどのくらいなんでしょうか?

ori:
少なくとも1ダウンロードあたり10円以上の収益性はでますね。一番うまくいった「壁蹴りジャンプ」は累計115万ダウンロードされていて、累計2,000-3,000万円の収益が出ています。

2012年の10月にだしたゲームですが、未だに少なくない売上が出ていて、1ダウンロードあたりでいうと平均30円の収益性があります。

「壁蹴りジャンプ」をリリースした時は、「棒人間ゲーム」が駆け出しの時期で、宣伝しなくても自然にAppStoreの総合6-7位までいけました。カジュアルゲームでもランキングさえ上がれば食えるくらい稼げますが、いまはランキングの競争が激しくて難しいですね。

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他のゲームの収益性を可能な範囲で教えていただけますでしょうか?

ori:
カジュアルゲーム「天空ブランコ」は1ダウンロードあたり10円くらいです(最近は単価が上がって20円前後と好調)。放置系ゲームはやはり単価が高くてあつめて!ベアビィ」の収益性は1ダウンロードあたり約50円だった。ただダウンロード数が累計15,000ダウンロードくらいまでしか伸ばせなかった。

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昔(2012年頃)と今(2014年)で変わったところはどこ?

ori:
いまとにかく難しいのは「ユーザーの目に触れる」という部分。ソーシャルゲームなどが広告をうって上位を独占しているので、ランキングの競争が激しくなった。

昔は個人アプリが話題になって、ランキング一位を獲得することもあったけど、今はもうなくなった。「アプリが飽和している状態」といっても過言ではないです。

あと広告の種類も増えたり、ノウハウも複雑化してきている。初心者にとってはきびしい環境かなと感じます。

初心者のアプリが「ユーザーの目に触れる」にはどうしたらいいのでしょうか?

ori:
Androidアプリの場合は「新着ランキング」に載らないと話にならないので、それは絶対必要です。うちもAndroidアプリはアイコン広告などに出稿して、新着ランキングには無理してでも入れるようにしています。

あとは、最近だと「ぼくらの秘密基地」「みつけて!おじぽっくる」のようなずば抜けたセンスで「バズるアプリ」をだせればいいですが、ノウハウ・経験・センスが必要なのでハードルが高い。つまらない話ですが、収益性がよかったらブーストかけちゃうのが手っ取り早いですね。

ブーストを使うときの基準、例えば「1ダウンロードの収益性がこのくらいなら広告費を回収できる」のような目安はありますか?

ori:
1ダウンロード20-30円の収益性があれば元がとれると思います。10円代だとやってみないとわからないという感じ。

そのアプリ自体の面白さでランキングを上れるかどうか、AppStoreページのアイコンやスクリーンショットの善し悪しもあるし、一概にはいえないとは思います。

つくっている時の「このアプリはヒットしそう」という感覚って当たりますか、つくっている時の予想と結果は比例する?

ori:
完全に読めないですね、出してみないとわからないです。「バウンドラン」というゲームは自分ではおもしろいとおもったのが全然ダメだった。

星を割れ!」というアプリはビジュアルが良かったのか、想定外に南米やヨーロッパなど海外で順位が伸びました。

海外は収益性が低くて1ダウンロード1円を切っていたのですが、AdMobのインタースティシャル広告を入れたところ(元々AdMobのバナー広告のみ入れていた)、1ダウンロード数円くらいまで改善しました。

AdMobのインタースティシャルは海外ではおすすめですけど、それ以上にChartboost(チャートブースト)の収益性が良いという話も聞きますね。

最後に、告知したいことがあればお願いします。

ori:
ハンマーズクエストのアップデートを近々行いますので、ぜひ遊んでみてください!

取材協力:株式会社オリディオ

ハンマーズクエスト(iOSAndroid
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編集後記

オリディオさんは普段、岐阜でアプリ開発されているそうですが、地方で困ることはあんまりないとおっしゃってました。

ハンマーズクエストの操作性とゲームバランスはとても秀逸だと思うので、ゲーム開発者は遊んでみると参考になるはず。課金入れてたらもっと収益上がっていたかも?仮に20万ダウンロードの1%のユーザーが1,000円課金したら+200万円。

「壁蹴りジャンプ」のようなカジュアル1本で2,000-3,000万円稼げることもあるのか(しかも長期で収益が続いている)、ゲームが面白いのは前提だけど、黎明期に思い切って飛び込むとチャンスがあるんだな。

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アプリマーケティング研究所編集部 アプリのマーケティングメディアです。アプリの売上を伸ばす施策やデータが学べるマガジン「月刊アプリマーケティング」もスタートしました。最近の記事は新サイトにて更新しています。取材申請はコチラのページから。
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