新興国のゲーム市場に詳しい、メディアクリエイトさんが発行している「新興国ゲームビジネスレポート(パイロット版)」を基に、アナリストの佐藤さんに世界のゲーム市場についてお話を伺ってきました。
【追記】タイトルを一部変更しました。「世界一の廃課金者はサウジアラビア人(2010年)」⇒「スーパー課金サウジアラビア人(月40万円)がいる」
※株式会社メディアクリエイト チーフアナリスト 佐藤翔さん
<目次>
・1、新興国のネットは「従量課金」
・2、通信料無料の「0.Faceboook」
・3、新興国には「隠れ金持ち」もいる。
・4、国ごとに課金に対する文化が違う。
・5、海外事件簿「ハローキティ騒動」と「ドラえもんの文化侵略」
・6、インド人はスマホをラジオ代わりにする。
・7、インドは将棋やチェス発祥の地。
・8、多くの国には「日本好きサークル」がある。
1、新興国ではネットは「従量課金」である。
意外に見落としがちなのが、新興国では「ネットが従量課金」の国が多いことですかね。無料サービスであってもユーザーは通信料を負担しなきゃいけない。
佐藤:
そうですね。僕も中東のヨルダンなどにいたことがあるんですけど、向こうで暮らしていると「ネットは無料」って感覚がしないですね。無料アプリでも、ダウンロードする通信のお金がかかる。
それで、お金が切れたら補充しに行かなきゃいけない。ヨルダンではZain Card (ゼインカード)って言うんですけど、売店に行って「プリペイドカードある?何ギガのやつをくれ」という感じで買っている。
※zaincardの公式サイトより。
「海外は日本より無料Wi-Fiが飛んでる」って聞くんですけど、中東のほうだとどうなんですか。
佐藤:
都市部では無料Wi-Fiは日本よりは飛んでますね。ただWi-Fiが利用できない空間もたくさんあります。だから、わざわざカフェにいって無料wi-fiでスマホゲームをやっているような人も割と見かけました。
新興国にアプリをだすときには、通信を減らすようにローカライズしたりするのも、突き詰めるとやる必要があるってことですよね。
佐藤:
そうですね、頻繁に通信が必要なアプリはどうしても受け容れられにくい。通信料や通信速度のところは理解していないといけないですよね。
2、通信料が無料で使える「0.Faceboook」の話。
この「0.facebook」というのはなんでしょうか?
佐藤:
「0.facebook(ゼロフェイスブック)」というのは「facebookに限っては通信料が無料扱いになる」という内容の、新興国特有のサービスです。
新興国でキャリアとfacebookが提携してやっているんです、同様に「Wikipedia Zero」というのもあります。
Wikipedia0もあるんですか。
佐藤:
はい、要するに「Facebookやwikipediaは公共性が高いサービスなので、ネット通信料タダで使い放題でいいよ」ということですね、その代わりうちのキャリアを是非よろしくと。
プラットフォーム(AppStoreやGooglePlay)がこうした仕組みを応用して、新興国のキャリアさんと組んで、モバイルアプリの展開ができると面白いかなと思います。
※日本から0.facebook.comにアクセスするとIPではじかれてしまう。特定の(キャリアの)端末は無料でつかえるという仕組み。
3、新興国では貧富の差が激しいが、「隠れ金持ち」もいる。
「富裕層は全人口の1%程度」と言われますが、やっぱり新興国だと「突出した金持ち」が存在するんでしょうか。
佐藤:
1%というのも過大評価かもしれません。日本やアメリカにも貧富の差ってありますけど、新興国(例えばインドや中南米)は貧富の高低差がとんでもない。
あと特徴としては、富裕層が新しいもの好きなんです。アプリとかもまず富裕層に使われて、そこから一般層に広まっていく傾向がある。
富裕層の友だちって富裕層なんですかね?
佐藤:
富裕層の友達はやっぱり富裕層ですね。
1%の人たちと99%の人たちで全然ライフスタイルが違うので。下手すると豪邸とホームレスぐらいの差がある。
貧しい人もめちゃくちゃ貧しいっていうことですね。
佐藤:
はい、ただおもしろいのが、必ずしも見た目だけで判断ができないこと。
例えば、僕もインドとかにマーケティング調査に行くのですが、実はベッドの下などに金銀宝石類や嫁入り道具を隠しているケースがあると聞きました。
インドって女性が結婚しにいく時に「金銀財宝を身につけていく風習」があるんですよ。ボリウッド映画とかでよくでてくるじゃないですか。
だから新興国って見た目ほどだったり、一人当たりGDPの数値ほどには貧しくない印象があります。
通信や決済などの問題がクリアされれば、アプリやゲームに課金してくれる可能性だって十分にある。
※インドの結婚式の写真、china.orgより。
4、国ごとに課金に対する文化が違う。
モバイルへの課金額が国ごとで差がでるのは面白いですね。どうしてこんな差が出るんでしょうか?
佐藤:
「Fortumo」さんというエストニアの決済会社が、国ごとのAndroidの平均課金額を調査しているのですが(※ネット上では非公開)、地域によって大きな差が出ていますね。
トルコ・台湾・タイなどの課金額が高いのは、昔からPCゲーム市場があって、課金に慣れている市場だから。
一方で、インド・ベトナム・中国などの国の人たちって、インフラの問題などで今までゲームでそもそも遊んでいない人が多い市場です。中国は都市部はゲーム遊ぶ人が多いのですが、平均でみると低くなっている。
※メディアクリエイト推計「新興国のゲーム市場とモバイル比率」。モバイルゲームを遊ぶ文化がない国では課金率も低くなる傾向にある。
同じ国のユーザーでも、課金額がピンキリが分かれているっていうことですよね。
佐藤:
ものすごいピンキリの世界ですよね。
「SocialGold」という課金会社さんが出している「世界の課金者トップ5」(2010)っていうデータがあるんです。つまり「世界で一番課金している個人」のトップ5を国籍だけ載せているデータです。
それを見ると、2-5位はアメリカ人やイギリス人などだったのですが、1位が断トツでサウジアラビア人だった。
そのサウジアラビア人は、半年で25,540ドル課金していたので、1ヵ月に約40万円つかっている。これが2010年の話、いまはもっとすごいことになっているはず。
日本で廃課金するユーザーってパズドラのイベント時などに集中しているるじゃないですか。それを半年間ぶっ通しで月40万円も課金し続けるってのはとんでもないことですよね。
【追記】あくまで「SocialGold」というプラットフォーム上のデータ(日本や中国は対象外とのこと)。当時の日本のガラケー課金者はそれ以上の猛者がいたことは、みなさんご存知の通り。
アラブとかの富裕層に向けてサービスをつくるのも可能性があるんでしょうか。
佐藤:
そうですね、例えばアラブ諸国ではFacebook、Twitter、Wechat、LINEなどのコミュニケーションツールがすごく人気があります。
それは国の文化的に、男女の交流にすごく厳しくて、出会いの場があまりないからですね。男女間の交流でつかえるモバイルでのコミュニケーションツールは、もしかしたらチャンスがあるかもしれません。
5、シンガポール人が「マックのおまけのハローキティ」を巡って争いを起こした。
日本のコンテンツが海外でニュースになることもありますか?
佐藤:
シンガポールで2000年1月に「ハローキティ騒動」があったんです。シンガポールのマクドナルドのバリューセットに、ハローキティのペア人形がついたことがある。
シンガポールは「多民族国家」ということもあるのか、中華風、日本風、韓国風などの、いろんな結婚衣装を着たキティが、週替わりでおまけについてくる内容だった。
それがピーク時には「全国民の約8%(約30万人)が殺到する」というレベルで異常に人気が出て、シンガポール中のマクドナルドに長蛇の列が出来た。
しまいには暴動沙汰も起きて、警察も手に負えず、治安維持部隊まで出動するような騒動にまで発展していました。
※当時の写真、殴り合いのけんかや店舗破壊も起きたんだとか。画像はWSJより。
すごいですね、他にもそういう事件はあるんでしょうか?
佐藤:
あとはバングラディシュの「ドラえもん事件」もおもしろい。
バングラディシュって「ベンガル語」の地域なんですけど、インドからはいってきた関係で「ヒンディー語」でドラえもんが放送されたんですね。
そしたら、「ドラえもん」を見ていたバングラディシュの子どもたちが「ヒンディー語」をしゃべりはじめてしまったんです、一種のアニメの教育効果ですよね。
それが問題になって「ドラえもんはヒンディー語の文化侵略だ」ってことで放映が中止されたって事件もありました。
キティちゃんやドラえもんなど、日本で人気なものほど海外でもヒットしやすいんでしょうか。
佐藤:
という訳でもないですね。日本ではマイナーだけど海外ではメジャーな作品もあります。
インドネシアで「こっちむいてみい子」という少女漫画が人気だったり、「UFOロボ グレンダイザー」っていうロボットアニメが人気がでていたり。
思いもよらない「意外なIP」の人気がでるケースも多い。という意味では、日本のアプリが意外な国で人気がでる可能性もあるとおもいますよね。
※左が「こっちむいてみい子」、右が「UFOロボ グレンダイザー」
6、インド人はスマホをラジオ代わりにする。
インドは人口も多くアプリやゲーム市場として注目している人も多いと思いますが、インド人の娯楽って映画以外では何があるんですか?
佐藤:
音楽ですね。アプリストアを見ても音楽系のアプリがランクインしている、インドの音楽市場は大きいんです。
インドのエンタメの市場規模(下図)を見ると、やっぱりテレビとか映画が大きいですが、ラジオ、音楽も大きい。
インド人ってスマホをラジオ代わりに使ってるんですよ。それで延々とインドのボリウッド映画の音楽をかけ続けている。
インドに進出するのって文化的にハードルが高そうなイメージがあります。
佐藤:
外国の企業が、インドに進出するのはけっこう大変だと思いますよ。この前、インドのディズニーが出した「Khoobsurat」っていう映画があって。
これディズニー映画っぽくはありますが、全体のノリはインドのボリウッド映画なんです。やっぱりディズニーですら、インドに合わせないと受け容れられない。
ディズニーも国に合わせて細かいローカライズやってますよね。日本のディズニーランドはお土産屋さんを多くしていたり、中国のディズニーランドは風水を利用して設計したり。
ディズニーが、中身までインドの文化にあわせて変えているのが、インドの難しさを物語っている。
インドはゲーム市場としてはまだまだ小さいのでしたっけ。
佐藤:
はい、インドやアフリカ地域は、ゲームの市場としてまだ小さい。 やっぱり、まだ低単価な映画などのエンタメ系に食われてる感じはしますね。
新興国のゲーム市場は、大体1000-2000億円の規模があるのですが、南アジア(インド、パキスタン、バングラディシュなどの合計)のゲーム市場は300億円くらいです。
※日本市場はアーケードゲームを含んだ値になっているとのこと。
7、インドはボードゲーム・チェス・将棋の発祥の地である。
インドではどんなゲームが流行る傾向があるんでしょうか?
佐藤:
インドって、頑なに海外から入ってきたゲームの人気が出ない傾向があるんです。
ボードゲームってインド発祥で広がっているものが多いのですが、外国からインドに入って普及したボードゲームって意外にない。「バックギャモン(盤双六)」系のゲームもインドだけないようですし。
実は将棋やチェスもインド発祥なんです。インドの「チャトランガ」っていうゲームが、ヨーロッパに広まって「チェス」が出来て、中国の「シャンチー」っていう将棋になって、日本では「将棋」になった。
そういえば、AppStoreって「すごろく」のカテゴリがありますが、それは世界で需要があるからってことなんですかね。
佐藤:
そうかもしれないです。その話でいうと、新興国では「現地の人気ボードゲーム」をアプリ化してヒットするケースが非常に多い。
例えば、トルコでは「Okey」という麻雀のようなゲームが、現地のゲーム会社「Peak Games」さんからゲーム化されていて、すごくうけている。
トルコでは「30-40代のトルコ人女性の70%がゲームを遊んでいる」という調査結果もありますが、彼女たちはこういうボードゲームも遊んでいるそうです。
意外と今まで親しんできた、定番のトランプゲームとか、ボードゲームをアプリにしてみるのもチャンスがあるかもしれません。
※トルコでヒットしているという「Okey」。Facebookログイン(実名)+麻雀みたいなゲームで、課金もあるしハマったらやばそう。
8、どの国の大学にも「日本好きサークル」がある。
インドネシアの話でおもしろかったのが、大学に「日本好きサークル」みたいのがあるっていうのは本当なんですか。
佐藤:
はい、大学の「日本好きサークル」って実はどこの国に行ってもあるんです。ナイジェリアでPSPを遊んでいる子がナルトのゲームをやっていたりするくらいですから。
海外から見ると、日本って「コンテンツの聖地」みたいに思われているんですかね。例えば日本人がハリウッドが映画の聖地のイメージを持っているように。
佐藤:
それはありますね。 僕の知り合いのイラク人も「ぼくドラキュラくん(コナミ)っていう日本のファミコンソフトにすごく感動したから、ゲームデザイナーになった」って言っていました。
あと、僕がヨルダンでゲームデザインの会議に参加した時、当たり前のように「日本のゲーム」が例にだされていたんです。
「日本のゲームで例えると・・・」って当たり前に説明されていた。それくらい「日本のゲーム」って、ある意味基準になっている。
※「ぼくドラキュラくん」画像はYoutubeより。
任天堂の「スマッシュブラザーズ」ってあるじゃないですか。最新作で「ロックマン」が参戦したのですが、その発表時に海外の人たちが発狂するくらい騒いでいた。
佐藤:
海外では「メガマン」ですよね。日本のコンテンツやゲームにインパクトを受けている人はたくさんいるんでしょうね。
※スマブラにメガマンの参戦が発表された瞬間。【海外の反応】スマブラにロックマン参戦より。
最後に告知があればどうぞ。
佐藤:
「新興国ゲームビジネスレポート」を2015年1月に創刊する予定です。今回のレポートは、海外展開を目指す会社さんのために、情報を整理して役立てるようにとつくった次第です。
ゲームアプリ以外の会社さんの参考にもなると思いますので、宜しければリリース時には本編のほうもご活用ください。
新興国ゲームビジネスレポート:http://m-create.com/biz/shinkoukoku.html
取材協力:株式会社メディアクリエイト
編集後記
知らない話ばかりで興味深かった。アプリやゲームを海外に出していきたい人は「日本のコンテンツが海外でどう消費されているか」を調べてみると、かなりヒントがあって勉強になりそう。