「ヨルダン国王がアプリ開発コンテストを開く理由」「ケニアの戦争ゲー、回復アイテムがレッドブル」新興国のゲーム事情をアナリストが語る。

2015年08月10日 |
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TechBuzzさん主催「アプリマーケティング勉強会」より、「新興国ゲームビジネス機会とリスク」の講演まとめをお届けします。

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世界中にゲーム会社ができている。

Gamedevmap」という、国や都市ごとのゲーム会社が見られるサイトを見ると、世界中でゲーム会社がでてきていることがわかる。ベトナム、インドネシア、インド、ロシア、ヨルダン、アフリカなど。

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どうしてゲーム会社が増えている?

1、世界中でスマホ市場が成立した。
2、開発コストが下がり、参入障壁が下がった。
3、投資家からの資金が集めやすくなった。

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東南アジアのゲーム産業

東南アジアのゲームビジネス

ベトナム発の「Flappy Bird」がでてから「これなら俺もできるかも」と、ゲームスタジオはすごく増えたが、ゲームの質はまちまち。全体的にはマネタイズがうまくいっていない。

日米中などのゲーム企業の「下請け業務」を基板としているゲームスタジオが多い。中国や欧米のゲームとライセンス契約して、現地にローカライズをして運営をするところもある。

東南アジアで成功したゲーム

成功事例としては、インドネシアのタッチテンという会社(7月にGREEが出資)の「ラーメンチェーン」というラーメンを売るゲーム。インドネシアを中心に100万単位でダウンロードされた。

もうひとつは「フィッシュハント系」のゲーム。ベトナム現地で収益がのぞめるのは「フィッシュハント系」くらい。これは魚を釣るのではなくて、魚を撃ってポイントを貯めていくゲーム※。

類似ゲームも大量にでてきていて、ベトナムの会社と話していると「お前は日本の開発者か?フィッシュハント系のゲームをもってたら、うちに預けてくれ」と言われるほど。

現時点ではとても収益性が高く「どうみても儲かってないように見える会社」も、この「フィッシュハント系」のゲームで、稼いでいたりもするらしい。

※カジノやメダルゲームのようなシステム。

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東南アジアの「開発者コミュニティ」

「ゲーム開発者のコミュニティ」は各国ごとに存在するが、活動の積極性はまちまち。マレーシア、タイ、インドネシアなど。

最近は各国コミュニティー同士の連携も見られる。東南アジア全体で「GAME JAM」というイベントが、今年の秋にマレーシアで開催予定。

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アラブのゲーム産業

アラブの国で「アプリやIT」を推進する理由

アラブではアラブ現地のマーケット(サウジアラビアなど)にフォーカスする企業が多い。

ゲーム会社はヨルダン、レバノン、北アフリカなどに多い。サウジ湾岸諸国(UAE、サウジなど)でゲームをつくると、ゲーム人材が少なくて、コストが高くなってしまうため。

同じアラブといっても、ヨルダンやレバノンでは石油がまったくでない。そのため「人を育てて、アプリやITのような知識経済を活性化させよう」という国の方針がある。

特にヨルダンでは、アプリやIT産業を大きく推進する動きがある。

ヨルダン王国では「アブドゥッラー2世国王陛下」が国をおさめているが、ヨルダン国王陛下が数年前に高校生を集めて、「アプリ開発コンテスト」を主催されたほど。

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※編集部補足。Wikiによると、陛下は「自分でやってみないと気がすまない性分」らしく、一般人(新聞記者、老人)に変装し、国民の声を聞く(なお、変装は詰めの甘さで2回ばれる)など熱い人物。

アラブで成功したゲーム

最近、アラブで成功しているゲームは「ファザー」(英語名「Trival Rivals」)という、20世紀初めのアラブを舞台にした、クラッシュ・オブ・クラン系のシミュレーションゲーム。

いままで、アラブの現地タイトルは、「テーブル」「パズル」などが多かったが、最近はアクションやシミュレーションも増えている。

また「アラブの開発者がつくった、レースゲーム」が、アプリストアに大量にある。アラブ人は車好きなためか「まずは最初にレースゲームをつくる」ということが多いよう。

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※イラストはイメージ。

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中東(イラン、トルコ、イスラエル)のゲーム産業

「中東のゲーム市場」は意外に大きい

実はイランは、以前から「ゲーム市場がそれなりに大きい国」で、現在もゲーム市場はそこそこ大きい。

おもしろいのは、国主導で「イランの歴史」をテーマにしたゲームをたくさんつくっていること。「イランの歴史」「イランの政府の立場」などをアピールする目的で、ゲームを40も50もつくっている。

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南アジア(主にインド)のゲーム産業

インドのゲーム企業

南アジアのゲーム産業は主にインド。パキスタンやバングラデシュでゲームをつくろうとした人も知っているが、正直なところ、あまりうまくいかなかったらしい。

「Reliance Games」という会社(Relianceは元々インド3大財閥の一つ。今は兄弟で二分割し「Reliance Games」は弟が保持)では、「パシフィック・リム」など、映画の版権を仕入れてゲームにしている。

ディズニー・インディアが買収した「India Games」では、今年のクリケット・ワールドカップの公式ゲームをつくったりしている。(そこまでヒットはしてない)

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「インドのゲーム市場」は儲からない

インドの有名なゲーム会社に聞いておもしろかった話。欧米の会社から「一緒にインド市場でゲームをだそうよ」とよく言われるが、そうした話は断るようにしていると。

なぜなら「インド市場は難しい」と、インド人自身が一番よく知っているから。外からは魅力的に見えるかもしれないが、マーケットはまだまだ小さい。

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※イラストはイメージ。

東欧のゲーム産業

東欧の「ゲームの質」が高い理由

東ヨーロッパのゲームは、新興国の中でもずば抜けてレベルが高い。多くのヒットタイトルが出ている。

背景としては、共産主義時代に、国策で工科大学が多くつくられ、エンジニアが育成された。そして2,000年代から、欧米IT企業の下請けとして注目され、開発者のレベルも上がった。

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東欧のヒットゲーム

東欧発のヒットタイトルはポーランドの「ウィッチャー3」。「ウィッチャー」シリーズはオバマ大統領がポーランドにきたときに、プレゼントされるくらい国を代表するゲーム。

他にはベラルーシの「World Of Tanks」、ロシアの「カット・ザ・ロープ」、ロシア(シベリアのカジュアルゲーム企業)の「LINE シェイクスピア」など。

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ラテンアメリカのゲーム産業

ラテンアメリカは「ポテンシャルの高い市場」

ラテンアメリカは、法制度が厳しかったり、税金がやたら高かったりと問題はあるが、一人あたりGDPや人口ポテンシャルで見ると、大きなポテンシャルがある。

いまは大きくマネタイズに成功している企業はほとんどないが、ゲーム開発会社の数はとても多く「ラテンアメリカ全体で300以上」と言われている。

ラテンアメリカの市場は、ざっくりいうとブラジルがポルトガル語圏で、残り(メキシコ、アルゼンチン、チリ、コスタリカなど)がスペイン語圏

ラテンアメリカでは「アドバゲーム」で生計を立てる。

ラテンアメリカの会社はどのように食っているのかというと、ひとつは「アドバゲーム」(広告目的のゲーム)をつくっている。

例えば、現地のサッカーチームに「ゲームをつくってサポーターを増やしましょう」と声をかけ、スポンサーをつけてゲーム開発をしたりする。

そうした「アドバゲーム」で食いつなぎながら、好きなゲームを開発する会社が多いらしい。「ゲームだけ」で食っていくのはどこも大変。

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サハラ以南アフリカのゲーム産業

アフリカは「中間層」が育っていない。

南アフリカでは30以上のゲームスタジオがある。「Desktop Dungeons」というタイトルは、グローバルでヒットし話題に。

南アフリカが、他の新興国と違うのは「中間層がまったく育っていないこと」。そのためゲーム市場も「今後5年でどのくらい大きくなるか?」などと期待できるレベルにもない。

「アフリカのユーザーにゲームを売る」というのは難しく、開発資金を得るために「アドバゲーム」をつくっている会社も多い。

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ケニアの「ナイロビX」では、ゲーム内に企業広告がでる

今年ケニアで「ナイロビX」というFPSゲームがでた。(ケニア版「コールオブデューティ」と呼ばれている)

ストーリーとしては、ケニアの首都ナイロビに宇宙人が来襲してきて、ケニアの特殊部隊が立ち向かう、どこか「地球防衛軍」的なノリのゲーム。

このゲームでは、ゲーム内にでてくるATMが「現地の金融機関のATM」になっていたり、回復アイテムが「レッドブル」、移動するときの車が「現地の人気車」になっていたりする。

これは広告になっていて、スポンサーをつけて開発費に充てている。バグなどもあるようだが、Android版とPC版が日本からも無料で遊ぶことができる。

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新興国のゲーム産業

「新興国のゲームスタジオ」はどのように利益をだそうとしているか?

■ターゲット市場
ターゲット市場はグローバル。例えばインドでつくってグローバルに配信する。特にアメリカをメインマーケットとして考えている人が多い。

■マーケティング
「アプリを出すこと」でマーケティングをはじめる。グローバルにゲームをだして、ランキング上位に入った国に重点を置く。

■ゲーム開発
ヒットアプリ(特にアメリカ)を参考にしている。悪い言葉でいうと「当たったものをパクる」だけの企業も多い。

最終的には、そこそこ人気がでて、欧米の会社に買収されたり、大きな投資資金を受ければ「アガリ」と、軽く考えているゲームスタジオも多く見受けられる。※あくまで一般例。

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現実的には厳しい3つの理由

しかし、ほとんどの会社はうまくいかない、それはなぜか?

■理由1、先進国の競争が激しすぎる。

先進国では「先進国のゲーム会社」の競争が激しく、新興国のゲームが大成功をおさめるのは難しい。

■理由2、コアなファンが獲得できない。

ヒットアプリのコピーの域を出ず、たまたまアプリがヒットしても、コアなファンが獲得できない。

■理由3、短期での結果を求める「出資者」と意見があわない。

ゲーム分野で実績のない投資家は「ゲームって儲かりそうじゃん」と投資をするが、当然結果がでない企業のほうが多い。とくにゲームビジネスは「当たり外れ」が大きい、これはモバイルゲームも一緒。

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新興国ゲーム産業の「5つの発展段階」

「新興国ゲーム産業の発展段階」は5つに分けられると考えている。1つ上の段階にいくのに、ざっくり3〜5年くらいはかかると考えて、大まかな目安にして欲しい。

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まとめ

・世界中でゲームがつくられるようになったが、クオリティはまちまち。ここ2〜3年でゲーム会社の淘汰も進んできている。

・「現地のゲーム会社」が、必ずしも現地ノウハウに詳しいとは限らない。なぜなら、現地でつくって、グローバルに配信しているところも多いから。

・いまのところ「新興国のゲームマーケット」はそこまで大きくない。中東、中南米、東南アジア、それぞれ2,000億円超えるか超えないかくらい。

日本のゲーム市場は1.7兆円くらい(PC、コンソール、アーケード全部足して)。新興国マーケットで「いきなり食える」と思わないほうが良い、あと3〜4年はかかる。

明日の新興国は、今日の新興国とはまったく違う。現地情報はこまめにアップデートするのがオススメ。

取材協力:TechBuzz、株式会社メディアクリエイト

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アプリマーケティング研究所編集部 アプリのマーケティングメディアです。アプリの売上を伸ばす施策やデータが学べるマガジン「月刊アプリマーケティング」もスタートしました。最近の記事は新サイトにて更新しています。取材申請はコチラのページから。
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