2年かけて開発費3億円。世界300万ダウンロードのゲームアプリ「Craft Warriors」を取材しました。
※トランスリミット株式会社 CEO 高場大樹さん
「Craft Warriors」ができるまで
「Craft Warriors(クラフト・ウォリアーズ)」について教えてください
オリジナルのキャラクターがつくれる「街づくり戦略ゲーム」です。2018年4月にリリースして、世界300万ダウンロードを突破しています。
国別のユーザー比率は、トップ3だと「アメリカ21%、中国11%、日本9%」という感じですね。その他にも多くの国であそばれています。
リリース1ヶ月で大きくユーザーを伸ばせたのは、アプリストアでのフィーチャーの力と、クラフトを起点としたクチコミの力が大きいです。
※300万ダウンロード(Android 64%:iOS 36%)18言語にローカライズしている
※会社としては3タイトル目のゲーム。
かなり開発に時間をかけたそうですが、開発期間はどれくらいですか?開発コストも知りたいです。
開発スタートが2016年3月。そこから2年かけて20人で開発しました。開発コストを算出すると3億円くらいかかっています。すさまじいですよね。
もともとは、1年でつくるつもりだったのですが、クオリティが上がり切らなくて。納得できるクオリティになるまでに、2年かかってしまいました。
幸い前作がヒットして資金には余裕があったのですが、何度も何度も「外したらどうしよう」というのは頭をよぎりました。怖くて仕方なかったです。
開発スタートする前にも、ああでもないこうでもないと、ゲームをつくったり壊したりしていて、10個くらいアイディアが死んでいますね。
どうして「クラフト要素のある戦略ゲーム」にしたのでしょうか。
はじめに「世界をターゲットに、課金で勝負できるアプリにしよう」というテーマがあったんです。カジュアルよりもすこしコアなゲームをつくろうと。
このゲームでいこうと決めたのは、3Dの戦略ゲームはいけそうだと思ったのと、自分でつくったキャラがわちゃわちゃしてるのがおもしろいと感じたから。
キャラをクラフトするアイディアは、自分でボクセルのデザインをやってみたときに、デザイナーじゃなくても、それなりにカッコイイものができて。
そこにすごく可能性を感じたところから、最終的に「それをユーザーにつくってもらえればおもしろいんじゃないか」という発想になりました。
世界で選ばれるゲームに必要な「デザインの力」
世界でヒットを狙うために「開発時にこだわったところ」を教えてください。
ゲームが楽しいことも大事ですけど、それ以上にデザインにこだわりました。すべての入り口になるのって、多分デザインのところだからです。
やっぱり、これだけ世の中にゲームがあるなかで、どうやって勝っていくかっていうと、ほんとに一瞬で「すごい」と思わせないといけなくて。
まずは、見た目で「すごい、カッコイイ」みたいな感情を持ってもらえて、はじめて機能やシステムに目を向けてもらえると思うんですね。
しかも、ユーザーは待ってくれない。導入のところで「すごい」と思わせなきゃいけない。そうなると、システムなんかよりも「デザインの力」のほうがよっぽど大事。
ほんとに「見た目が9割」みたいな感じだなと思っています。
具体的に「デザインでこだわったところ」を教えてもらえますか?
たとえば、こだわったのは「影のクオリティ」です。よくあるのって、足元にふわっと「丸いシャドー」をつけて、簡単に影を表現する方法なんですけど。
このゲームでは、リアルタイムに影が計算されて、反映されるようにしました。影の中にキャラが入ったらちゃんと暗くなったり、壁にキャラの影が映り込んだりする。
ちなみに、この影を消すだけで、パフォーマンスが2倍に上がるんですよ。それでも影は必要でした。影があるとキャラがちゃんと地に足がついてる感じがでる。
世界中の人に遊んでほしいとなると「子供っぽい見た目」ではいけない。誰がみても高いクオリティになるようかなり時間をつかいました。
半年やってわかった「ソフトローンチのコツ」
リリースする前に「ソフトローンチ」もやっていたんですよね?
ソフトローンチは半年間やっていました。アメリカを狙っていたので、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、3つの国で順に実施しました。
結果的に、ソフトローンチのおかげで、チュートリアル突破率は+15〜20%、1日後の継続率は+10%くらい改善することができました。
事前に、不具合をつぶすことができたり、じっくり数値も改善できたので、グローバルでのリリースを落ち着いて迎えられたのも良かったです。
※ソフトローンチ=いきなり全世界に公開せずに、特定の国にだけアプリを公開して、予行演習的にアプリを運営すること
ソフトローンチのときにやった「具体的な改善例」を教えてもらえますか?
ひとつ印象に残っているのは、チュートリアルのときに、自分の旗をつくる「クラフト体験」を入れるかどうか、最後まで迷ったことです。
当初は、チュートリアルに「旗のクラフト」を入れていたのですが、むずかしくて離脱する人が多くて、それを削除してしまったんですね。
そしたら、たしかに「チュートリアル突破率」は上がりました。でも、長い目でみたときの「継続率の底力」が落ちてしまったんですよ。
なぜなら、このゲームで一番おもしろいのは「クラフト」だったから。そのコア体験を伝えないままに、チュートリアル突破率だけ上げても意味がなかった。
それで、結局リリースする直前に「旗のクラフト」を復活させたんですよ。改善策としてアニメーションを入れてわかりやすくはしましたが。
※チュートリアルに「自分の島の旗をつくる体験」を入れることで、クラフトの楽しさや「ここはあなたの島ですよ」というメッセージを表現した
それはおもしろいですね。
それと、ソフトローンチのときに「反応率がよかった素材」を、キービジュアルに採用しました。
ユーザーを獲得していく過程で、30パターン以上の広告素材をつくったのですが、そのなかで他と比べて「3倍以上のクリック率」があったものを選びました。
このような形で、データを元にキービジュアルを選定したのは、はじめてのことでした。
ソフトローンチのときに「みておくべき数値」はどこだと感じましたか?
実際に半年やってみて、数値としては「チュートリアル突破率と継続率」をみるべきだと思いました。課金は国による差もかなり大きいので。
チュートリアル突破率と継続率というのは、世界共通でそこまで大きくぶれないので、地味に改善しておくとちゃんと成果が返ってきますね。
ちなみに、継続率の目安としては「1日後の継続率が50%、1週間後の継続率が20%」これを超えるとかなり良いほうだと言われています。
ソフトローンチで「気をつけるべきこと」があれば知りたいです。
ひとつは「最低限のユーザー数」を確保することですかね。新規ユーザー数でいうと「デイリー300人」は最低でもほしいなと感じました。
なぜかというと、サンプル数が少なすぎると「改善しているかどうか」がわからなくて、その施策が正しいのかを判断できないからですね。
集客については、Facebook広告をつかいました。1インストール獲得に約1,000円かけたので、広告費はデイリーで30万円くらいかけましたね。
なるほど。ほかにはありますか?
あとは、ソフトローンチは「人口の少ない国と相性が悪い」というのは感じましたね。
ぼくらが実施した、ニュージーランドって人口が460万人しかいないから、広告費もべらぼうに高くてユーザーを集めるのに苦労しました。
振り返ってみると、カナダとオーストラリアは「アメリカにかなり近かったな」と感じます。だから、もし1つの国でやるならカナダはおすすめです。
「Craft Warriors」リリース後とマネタイズ
世界でリリースしてみて「アプリのマネタイズ」のほうはどうですか。
売上比率でいうと、90%くらいが課金で、10%くらいが広告です。開発費はペイできると思います、そのうちできるだろうという感じ。
売上をOSでみると、iOSが70%くらいで、Androidが30%くらい。継続率はOSで変わらなかったですが、課金率はiOSのほうが高かったです。
想定外だったのは、日本の数字がめちゃくちゃ良かったこと。国別でみると「売上の53%を日本のユーザーが占める」という結果になりました。
ずーっと、グローバルに目を向けてつくっていたので、日本で受け入れてもらえたのは予想外でした。
キャラクターの「クラフト機能」はうまく機能しましたか?
いい方向には働いたと思います。好きなものをつくれることで「ゲームが自分のものになる」という仕掛けになっているなと感じます。
いま、累計200万ユニットつくられていて、1日に2万ユニットずつ増えている状況なのですが、「これは自分のものだ」と愛着を持ってもらえていると思います。
とくに、日本のユーザーはクラフトにハマってくれていて。めっちゃクラフトをつくって、めっちゃソーシャルでシェアしてくれています。
シェアのされ方としては、「これつくりました!」とシェアする人もいますし、「これつくってくれませんか?」とシェアする人もいます。
ツイッターでやり取りが生まれるといいなと思って、クラフト画面から「タグ検索」できるようにしたのも、ひとつ良かったかもしれません。
開発中は「戦略ゲーム特有のむずかしさ」というのもあったのでしょうか。
いろいろありましたね。バトルのところだと、戦略ゲームって、ユニットがバグっていたり、動きがバカすぎてしまうと、納得感が生まれないんですね。
でも、すごく頭を良くしてしまうと、誰がどこにおいても勝っちゃう。だから、ある程度バカだけど、ある程度頭よく動く、というのが大切で。
ゲームとして、どこにどのタイミングでユニットを置くか、っていうのを重要にしないと、戦略性もなにもなくなっちゃうってことなんです。
最後に「クラフト・ウォリアーズ」をつくってきた2年間を振り返ってみてどうですか。
この2年は「このままだと厳しそうだな」っていうのを、なんとか正解にする戦いでしたね、ずっと。
はじめに、コンセプトを決めるまではよかったけど、それをどう実現して「どう正解に持ってくか」というところで大変な思いをしました。
やっぱり、微妙だなと思うときもあるじゃないですか。でも、そこであきらめちゃうんじゃなくて、なんとか解決していかなきゃいけない。
ものづくりしてると、つくってきた愛情とか情熱、みんなの想いとか、いろいろ出てきますよね。それをひっくり返すって大変だけど、ひっくり返しまくりました。
たとえば、もともと島は空に浮いてなかったけど、空に浮かせるように変えたり。でも一言「テーマ変えよう」といったら、デザイナーはまた全部つくり直しです。
そうですよね。
そんなことをずっと2年間やってました。だから、途中で信じられなくなって、会社を辞めていく人もいました。仕方のないことですけど。
でも、微妙なときってつくってるほうも「微妙だな」と思いながらつくってるんですよ。微妙だな当たんなそうだなと思いながらつくってる。
多分、いろんな開発現場でも一緒だと思うんです。でも、それをひっくり返す勇気とか力がない。ひっくり返すって経営者が決めないとむずかしいので。
会社の役員から、承認もらって動いてるプロジェクトを「途中でひっくり返します」なんて、きっとできないと思うんですね。ものすごく難しい。
だから、1本のゲームに全力をかける、小さなベンチャーだからこそ、ひっくり返してでもつくり直そうって、決断ができたのかなと言う気がします。
今回のプロジェクトでは、技術力やデザイン力だけでなく、組織的にもかなり鍛えられました。この経験を次につなげて、また面白いタイトルをつくりたいと思います。
取材協力:株式会社トランスリミット
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