今回は”人工知能がお絵かきする”というアプリ「Artomaton」を取材しました。
※個人開発者のfuturalaさん(バイク好き)
1:「Artomaton」ができるまで
「futurala」さんについておしえてください。
個人のアプリ開発者です。昼間はゲーム会社でサラリーマンをしていまして、アプリのほうは深夜にすこしずつ開発をしています。
アプリ開発は、好きでやっているというか。つくりたいからつくってみて、それが思っていた以上にダウンロードされました。
たとえるなら、夜な夜な「ギターの弾き語り」を好きでしていたら、すこしずつ観客があつまってきたような感覚です。
開発したアプリ「Artomaton」についてもおしえていただけますか?
写真をもとに「AIがお絵描きをする」というアプリです。これは「人間が絵を描く過程」を再現することを目指して開発してきました。
そのため「Artomaton」に、いまから人類が滅亡するまで、ひとつの写真から絵を描きせたとしても、まったく同じ絵が生まれないようになっています。
「毎回、できあがる絵が変わる」というのはおもしろいですね。
これは「ゼビウス」という、昔のゲームに影響をうけています。
ゼビウスというのは「元祖縦スクロールシューティング」といっていいゲームなのですが、このゲームの特徴は「ランダムネス」がすごく強いところなんです。
具体的にいうと、あそぶたびに「敵の出現パターン」を変化させることで、毎回プレイヤーにちがった体験を与えているんですね。
その影響もあって、「Artomaton」でも完ぺきな絵が一回で出来るのではなく、「何回か描いているうちに、気に入った絵ができる」という設計にしました。
※AIが「筆を入れる順番」も毎回変化する。
開発についてはどう進めているのですか。昼間はゲーム会社ではたらいて、夜にアプリ開発となると、けっこう大変じゃないですか?
いえ、逆に本業との「バランス」がとれている気がします。どちらかがなくなると崩れてしまうというか。
というのも、会社では「ゲームの企画」をやっているのですが、企画ってどこまで考えても「これで完璧」ということがないんですね。
そうなると、家に帰ってきてからも、ずーっと「つくりかけのゲーム」のことを考えてしまって、ぜんぜん眠れなくなってしまうことがあるんです。
なるほど。
そういうとき、夜中に眠れないままでいるくらいなら、アプリ開発に集中することにしています。すると、気分転換にもなりますし、頭が疲れて眠ることができるんですね。
「Artomaton」の開発も、そういう眠れない日の深夜にすこしずつ進めていて、約5ヶ月たったころにリリースできる形になりました。
※プログラミングは「独学」でつくりながら覚えたとのこと。
2:アプリのデータについて。
いま「Artomaton」はどのくらいダウンロードされていますか。
2013年10月にリリースして、現在76万ダウンロードされています。内訳としては、日本52%:海外48%という比率になっています。
なお、アクティブユーザー(MAU)だと4万人、アップデート数でみると、20万人近くがつかい続けてくれているようです。
※iOSアプリのみ、海外はほとんどが中国。
いままで「大きくダウンロード増えたきっかけ」があれば教えてください。
一番インパクトがあったのは、AppStoreで「フィーチャー」されたことです。
iOS8の「フォトエクステンション」という機能に対応したときは、ストアでフィーチャーしてもらえて、デイリーで3万ダウンロード伸びました。
つい最近、iOS10の「iMessageアプリ」へ対応したときも、世界中からダウンロードが増えました。
あとは、リリースして半年くらいのとき、アプリのタイトルに「キーワードを含む説明文」を入れたら、デイリーのダウンロード数が、200から400に増えたことがあります。
フィーチャーされるために、何かやったことはあったのでしょうか?
アメリカのAppStore窓口に、日本語で「おもしろいアプリをつくったから見て!」と、動画つきのメールを送っていました。
そうしたら、数週間後にApple Japanの人から連絡があって、「フォトエクステンション」への対応を提案され、フィーチャーしてもらえました。
「アプリの収益」についてはどうでしょうか。
月の売上の最高でいうと、iOS8がリリースされた翌月の45万円です。その後については、毎月8~10万円ほどで安定しています。
写真系のアプリって、瞬間的な売上は高くないのですが、ずっと長くつかってもらえる分、トータルでは積み重なっていきやすいのかなと。
そこは、クチコミでバズっても、クリアしたらアンストールされてしまいやすい、ゲーム系のアプリとはちがった特性があるのかもしれません。
広告と課金だと、どちらが多いのでしょうか?
ほとんどが課金ですね。比率としては「課金90%:広告10%」です。
ただ、広告収益が少ないのは「広告を控えめに出してるから」というのもあります。現在は、ユーザーが画像を「保存/シェア」したあとにだけ、広告を入れるようにしています。
※広告はAdmobの「インタースティシャル広告」のみ。
3:アプリ開発について
「Artomaton」はデザインがシンプルで良いですね。海外アプリなのかなと思っていました。
あまり説明を多くするのが好きではないので、言葉では説明せずに「さわってみればわかる」というデザインにしています。
というのも「決められた通りにやれば、みんな同じ結果が与えられる」というのは、一見「親切」を装っているけれど、実はユーザーへの「敬意」が欠けているのではないか、と思うからです。
そういう「若干のわかりにくい要素」って、想像力をはたらかせてもらうことにつながりますし、シンプルなまま機能を増やすには、必要なことなのかなとも感じます。
ひとつのアプリを3年ほど開発されてきて、何か「長くアプリを運営するコツ」があれば、おしえていただけますか?
「感情に引っぱられないようにする」というのは、大事だと思います。
やっぱり、アプリを開発することって、体力も精神力もつかいますし、長くつくればつくるほど「思い入れ」がすごく強くなっていくんですね。
そうなってくると、何が起きるかというと「アプリと自分を同一視」してしまうことがあります。
たとえば、アプリが批判されてしまうと、自分が批判されている気になったり、逆にアプリが褒められると、自分が褒められている気になる。
そうなると、冷静な判断もできなくなるので、できるだけ感情をフラットに保ち、粛々とアップデートしていくことが必要なのかなと思います。
なるほど。
ちなみに、ポーカーの世界大会で、優勝した人の映像をみたことがあるのですが、「優勝した人の顔」って全然うれしそうじゃないんですよ。
それをみたときに「ポーカーに強くなるコツ」は、統計的な期待値よりも、自分の手札を高く見積もらない、逆に悲観的にも見積もらない、ということなんだろうなと思って。
アプリの運営においても、それと通じるところがあるんじゃないか、という気がしています。
これから「個人のアプリ開発者が生き残る」という意味では、どうしていけばいいと感じますか。
ひとつ思うのは「できるかできないかわからないモノ」をつくっていくことです。
個人アプリの強みって、つくりはじめるときに「他人に言葉で説明しなくていい」ということですよね。組織では「多くの人に言葉で説明する」というプロセスが必要ですから。
とくに関係者の人数が多いほど、誰かの「ここ大丈夫?」という懸念が、積み重なってしまって、大胆なモノづくりがしにくくなる。
そう考えると、個人って「できるかできないかわからないモノ」を圧倒的につくりやすいんです。だからこそ、それに取り組むべきなのかなと。
大きな組織からは「できるかわからないモノ」は出て来にくい。だから、実現できれば「ライバルが少ない」という状況になりやすいですし、何よりやっていておもしろいですよね。
これから「アプリ開発をやってみたい」という人に、メッセージなどあればお願いします。
アプリ開発に興味があるなら、すぐにでもはじめてみることを、心からおすすめします。
アドバイスとしては、スタート地点として「こういうアプリをつくりたい!」という気持ちさえあれば、あとはそれが導いてくれると思うんですよ。
それをつくろうとする過程で、いろんなスキルも身につくはずです。自分でアプリをつくれるって、ある意味「無敵の力」だとも感じます。
私もアプリの開発をはじめたら、予想外のことばかりでアドリブの毎日ですが、だからこそ開発が進んだときの達成感も大きいんだと思います。
取材協力:futurala
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