AppStore無料トップランキングにも入っている、「マヂヤミ彼女」というアプリをご存知でしょうか。
表向きは、ダークな心情を描いたストーリー性のある脱出ゲームですが、実は「脱出ゲーム」の皮をかぶってはいるものの、インディーズバンド「ミオヤマザキ」のプロモーションを目的としたアプリなのです。
脱出ゲームをクリアするとエンディングとしてバンドの曲(動画)が流れ、さらに脱出ゲームのストーリーと曲の内容がリンクしていて、とてもよく出来ています。
アプリとして見ても好調で、インディーズバンドのプロモーションを目的としたアプリにも関わらず、結果的に、ノンプロモーションで「トップ無料10位」まで上り詰め、25万30万DLを達成。(※最新数値を反映)
本記事では、「マヂヤミ彼女」の作者であるbeArkの岩崎さんに、アプリの企画・開発の裏側についてお話を聞いた内容をまとめています。
「マヂヤミ彼女」のダウンロード数はいまどのくらいですか?
岩崎:
約25万30万DL(※最新数値を反映)です。
リリース10日でAppStore無料総合23位、マックスで無料総合10位までいきました。無料総合で10位のときには、1日で30,000DL前後くらい伸びていましたね。
ただダウンロード数は、曜日によっても変わると思います。月火水より金土日がやはりダウンロード数が多くなっていました。
補足:
リリース〜現在までのランキング推移。上位キープしているのは、きっとユーザーがアクティブに使っているから。
(AppAnnie-Madiyami Kanojoより)
このアプリをつくった経緯を教えていただけますか?
岩崎:
ミオヤマザキというインディーズバンドから、「ネットやアプリをつかって有名になる方法はあるか?」という依頼を受けて企画したものです。最初はアプリを使うことも決まっていませんでした。
アプリには音楽業界の参入も少なかったので「成功事例をだしたい」と思ったこと。そして、バンドのファンにアプリをダウンロードしてもらえると思ったこともあり、アプリという形で企画をしました。
なぜ「脱出ゲーム」にしたのですか?
岩崎:
最後にインパクトのあるプロモーション動画をもってこようというのをまず決めていて、バランスを取るために「定番」と「斬新」をくみあわる形にしました。
ジャンルとしても人気で、固定のファンがついている「脱出ゲーム」を選択し、脱出ゲーム内のストーリーは、バンドメンバーの実体験をもとにつくりあげています。
なかなか描写がリアルなゲームですよね?
岩崎:
描写については、アプリのターゲットユーザーについて徹底的にリサーチをした上で、とてもこだわった部分です。
ゲームの中に、彼氏の携帯を操作して謎を解くという「浮気探索ゲーム」の要素を入れていたこともあり、実際に、若い女子高生に恋愛事情を聞いたり、LINEのメッセージについてアドバイスをもらったり、携帯小説を読んだりして勉強しました。
補足:
たしかに友達とかに話したくなる(「これお前みたい!」とか)細部までリアルに作り込まれているのがわかる。
※画像はLAGRANGE BLOGより
今の子はほとんどLINEをつかっていて「メールアドレスを交換する文化がない」などリサーチしてわかったことも多いです。
アプリの操作に関してもそうで、開発者の想定以上にユーザーは想定通りにアプリを使ってくれません。特にアプリは、操作がわからなかったら削除されてしまいます。
ターゲットユーザーの声を聞くことをおろそかにしている人は多いと思いますが、これはとても重要なことだと改めて実感しました。
「マヂヤミ彼女」の脱出ゲーム難易度は難しいと感じたのですが、クリアできなかったらバンドのPRにならないのでは?
岩崎:
ある程度、難易度は高いですね、ただ、クリア率でいうと70%のユーザーがゲームクリアまでたどり着いています。
攻略サイトを見ている人も多いかもしれないですが、脱出ゲームに慣れている人にとっては簡単なのかもしれません。
あとは、すぐにバンドのPRをしてしまうと、広告に敏感なユーザーに批判されてしまうこともあると思うので、クリア後にはじめてエンディングとして「ミオヤマザキ」をPRするようにして、あえてハードルを設定しました。
リリース後、DLを伸ばす施策は何をやったのでしょうか?
岩崎:
お金をかけたプロモーションはやっていないです。最初の段階ではカテゴリランキングに入ることを目指しました。
具体的には、既存のバンドファンにアプリをダウンロードしてもらって、ファンの人に口コミで広めてもらいました。
土曜の夕方にアプリをリリースして、出来るだけダウンロードを集中させたかったので、私のほうからは「ファンの人に、土日に集中してDLしてもらってください」というアナウンスをしました。
結果的にリリース3日ほどで、AppStoreの「ミュージック」カテゴリで1位になり、そのあとは自然にバイラルで広まりました。
AppStoreの総合ランキングに入るのは難しいと思いますが、カテゴリランキングで上位に入るのはそこまで難しくないので、まずはカテゴリをうまく合わせてリリースするといいと思います。
あと、アプリレビューサイトへの申請もしましたが、そこまでは取り上げられませんでした。
どちらかというと、口コミでダウンロードが大きく伸びて、ランキング入りした後にレビューサイトで取り上げられるというケースが多かったです。
その後、「トップ無料10位」まではどのようにDLが伸びたのでしょうか?
岩崎:
最初から若い女性をターゲットにしていたこともあり、若い女性層を中心に口コミで広がりました。女子高生や女子大生は、男性に比べて口コミで広めてくれます。
「彼氏の携帯を見る」というシーンをアプリ内に取り入れたり、「LINE風メッセージのリアルさ」を追求して、リアルでも口コミが発生しやすいように仕掛けました。
補足:
Twitterを見てみると、女性のアイコンが多い。若い女性が口コミで広がっているというのはとても納得。
やばい、マヂヤミ彼女 クリアしてもーた(笑) かもや、かも(笑)
— 東野 きよ香 (@24_kiyotan) September 11, 2013
マヂヤミ彼女 clear ×× ああぁぁ、今日仕事なんにこんな時間〜〜〜!このアプリ寝る前にインストールしちゃ駄目ね(´-`).。oO(笑)
— 〆 mutsu (@mmmutuk) September 11, 2013
結果として、「ミオヤマザキ」のプロモーションの効果は?
岩崎:
「ミオヤマザキ」はまったく無名なバンドですが、このアプリを通してミオヤマザキの、Twitterのフォロワーが30005000ほど増えました。(※最新数値を反映)youtubeの再生数も3倍くらいに伸びています。
マイナーでクセのあるバンドなので、正直このPR効果には驚いています。
アプリは内容がおもしろくてダウンロードが伸びないとプロモーション効果がでないので、やってみるまでは結果が読めなかったですが、うまくいって良かったです。
補足:
これほんとアプリのPR効果でています。驚いた。
Twitter,Facebookでの「ミオヤマザキ」の言及もここ1か月で急上昇。アプリリリース前は一日10くらいしか言及されていなかったが、アプリブレイク後は最大で一日400くらいのツイートや投稿がある。アプリをきっかけに、話題になっているのは明らか。
Googleで「ミオヤマザキ」での検索回数が、急増。
アプリリリース前はまったくと言っていいほど、検索されることがなかった。元々の知名度は0に近い。
「マヂヤミ彼女」のようなプロモーションアプリは、他にも応用できそうですか?
岩崎:
例えばサマー系のバンドだったら、「友情物語」のアドベンチャーゲームアプリをつくってエンディングでバンドのサマーソングを流したり、
31アイスクリームだったらアイスが落ちてきてキャッチするカジュアルゲームをつくって、クリアしたらクーポンをあげるとかいろいろ応用が効くとおもいます。
ソーシャルゲーム以外のアプリもどんどん出てくると良いかなとおもいます。今後もおもしろいモデルのアプリに挑戦していって成功事例をだせたらと考えています。
編集後記
アプリの切り口のおもしろさや、事前のターゲットユーザーへの徹底リサーチなど、総合力が良い結果を招いたように感じましたし、
ファンを巻き込んでリリース後に集中してDLしてもらうなど、戦略的な段取りも素晴らしいと思います。
いわば今回のアプリは、ドラマやアニメのエンディングテーマ曲と同じシステムで、ユーザー側から見たときに広告くささというのはかなり消されています。羊の皮をかぶったオオカミ的な発想です。
普通の企業が、アプリをつかって自社のPRをするには、「まずユーザーに使ってもらうアプリをつくる」ということが必要ですね。素晴らしいお手本だと思いました。