今回は「スペースマーケット」さんにお話を伺いました。ユーザーレビューを集めるための改善プロセスや、人気スペースの特徴など。
※(左から順に)株式会社スペースマーケット 鈴木真一郎さん(CTO) 端山愛子さん(広報) 重松大輔さん(CEO)
「スペースマーケット」について教えてください。
重松:
スペースマーケットは「空きスペースを(1時間単位で)簡単に貸し借りできるサービス」です。
例えば、トロッコ列車を貸し切ってパーティーができたり、お寺で社員総会をするなど、ユニークなスペースを活用してイベントなどを行うことが出来ます。
現在サービス開始1年ちょっとで、サイトの訪問者数が月間10万人、空きスペースが3,500ほど登録されているという状況です。
なぜ「スペースマーケット」をつくったのでしょうか?
重松:
世の中にたくさん「空きスペース」があるのを見て、「これはもったいないな」と思ったのがはじまりです。
というのも、前職で「結婚式の写真を売る」という仕事をしていたのですが、平日に「結婚式場の人」と打ち合わせをすると、「誰も使ってない大聖堂」で打ち合わせすることが多くて。
もちろん、土日は使われているんですよ。「結婚式の予算平均」って350万円くらいなので、土日はちゃんと稼いでいる。だけど平日の結婚式場は、驚くほど使われていないんです。
一方、ホテルなんかでは「土日は結婚式」「平日は企業の宴会」とうまく使いわけている。それで、結婚式場などにも「空きスペースを活用する仕組みが出来るはずだ」と考えました。
「ユニークな空きスペースを貸し出す」という発想はどこからきたんですか?
重松:
これも「写真を売るビジネス」での経験からです。当時「どんなイベントの写真が売れるか?」を研究していたんですね。すると「場所にすごく依存する」ということに気づきました。
一言でいうと「イケてる場所の写真」ってめちゃめちゃ売れるんです。おもしろいことに「どんな場所でやったか?」で、そのイベントの価値が変わってしまうんですね。
例えば、同じ野球大会であっても、「河川敷での野球大会」よりも「甲子園球場での野球大会」のほうが、写真が圧倒的に売れます。コンテンツがまったく同じであっても、ですね。
なので、ユニークなスペースを、おもしろい用途で使ってもらうことで、大きな価値が提供できるのではと考えました。
いままで「似たようなサービス」が出てこなかったのはなぜでしょう?
重松:
もともとは、不動産会社に「場所を時間刻みで貸す」という、発想がなかったのが大きいと感じますね。古い業界ですし「不動産は、長く借りてもらってなんぼ」という世界でしたから。
あと「ソーシャルメディアの環境」が整ってきたのは大きいです。例えば「よくわからない人には貸したくない」という課題は、Facebookアカウントを連動するなどで、解決できるようになった。
ユーザーはどのように増えているのですか?
重松:
ひとつ特徴的なのは「ユニークな場所」で開かれたイベントは「ユニークな体験」になるので、Facebookなどで「スペースマーケットで借りた」とクチコミが広がりやすいことです。
例えば、「麻布十番の豪邸でバーベキューをする」というプランは、すごく人気でリピーターも多いです。
いまや「Facebookに投稿する、1枚の写真を撮るため」に、イベントに参加する人もいるくらいじゃないですか。みんな写真が撮りたくて、しょうがないんですよね。
ソーシャルメディアの普及もあって、「何かやるために場所を探す」のではなくて、「おもしろい場所で何かできないか?」という流れができているのはおもしろいですよね。
どんなスペースを重点的に集めていますか?
重松:
まず、ビジネスとして「スペース提供者が稼げること」が前提なので、しょっちゅう使ってもらえるような、「使いやすいスペース」を集めています。
もうひとつ戦略的にやっているのは「ユニークなスペース」を集めること。例えば、お化け屋敷、銭湯、アメリカの野球場、遊園地(まるごと)などですね。
これはなぜかというと、珍しいスペースが掲載されることで、メディアがよく取り上げてくれるからですね。「こんな珍しいスペースが借りられる!」という感じで。
そして、それをみた「ユニークなスペース」の持ち主たちが、「こういうスペースを持っているのだけど、掲載することは出来るか?」と、連絡してきてくれることもメリットです。
[アメリカの球場(1度もつかわれたことがない)]
[夜の遊園地を貸し切り]
※写真はスペースマーケットより(掲載情報は2015.8時点)
スペースマーケットの「特徴的な使われ方」はありますか?
重松:
「撮影のニーズ」は意外に強いんだなと感じています。横浜にある古民家が「コスプレの撮影」だったり「番組のロケ」に、すごく使われていて。
テレビ局・CM制作会社さんの間で、「撮影で安く使えるぞ」とクチコミで広まっているのか、古民家やお寺などの利用はすごく増えてきていますね。
あと「1ヶ月以内にリピートする人」は10%くらいなのですが、おそらく定期的にセミナーをやったり、ヨガ教室を開いたりする人が、使ってくれているのだと思います。
ビジネスモデルはどんな感じでしょう?
重松:
運営に入る「手数料」は基本20〜35%くらいですね。「平日の結婚式場」などは、我々がプッシュしないと売れにくいので、すこし手数料が高めだったりします。
人気スペースのひとつである「鎌倉の古民家」は、スペースマーケットからの収入が、月30万円ほどになっています。それくらいの収益をあげるスペースは出てきています。
どうしたら「人気で儲かるスペース」になれますか?
重松:
工夫できる点としては「写真」ですね、間違いなく「写真」で申し込み率も変わってくるほど大事です。基本的には「奥行き感があって、明るい写真」があると良いです。
とくに「人が実際につかっているときの写真」はすごく効きます。「人がつかっている写真」があるだけで「ああ、こうやって使えばいいんだ」と一気にイメージがわくじゃないですか。
あとは「最初はレビューを集める」というのもテクニックです。これはAirbnbなどでもそうなのですが、最初は安めの値段設定をして、良いレビューをたくさん集める。
それで「レビューが集まってから適正価格に変える」という戦略はアリだと思います。
他に「人気スペースになるコツ」はありますか?
端山:
もうひとつ、やってみて初めてわかったのは「おもてなしがすごく肝心」ということです。「スペースの人気度は「ユニークさ」や「立地」だけでは決まらないんですね。
例えば「千駄ヶ谷にあるスペース」は、とくに広いわけでもなく、大きな特徴もないスペースなのですが、「オーナーさんのファン」が多く、人気が出ています。
実際にレビューを見ると「オーナーさんの心遣いが嬉しかった」「すごく対応が気持ちよかった」など、「場所」ではなく「おもてなし」に対するコメントが書かれています。
それを見て、想像以上に「コミュニケーションビジネス」なんだな、と気付かされました。
「ユーザーレビューの増加」につながった施策
1、「レビューを書くモチベーション」をつくる。
鈴木:
当初は「一方向のレビュー(利用者→スペース)」にしていましたが、それだと「レビューを書くモチベーション」がわきにくいので、「相互レビュー」という形式に変更しました。
「相互レビュー」というのは、「ユーザー(借りる側)」と「オーナー(貸す側)」の両者のレビューがそろってはじめて、「レビュー公開」となる仕組みです。
メリットとしては、片方がレビューを書くと「あなたへのレビューが書かれました。あなたも書かないと読めません」と通知されるため、両者がレビューを書いてくれやすくなります。
もうひとつは、「レビュー上で「悪口の言い合い」にならないこともメリットです。
例えば、先にオーナーが「汚くつかわれた」と低評価レビューを書いたとします。すると、ユーザーもそれにつられて、「対応が悪かった」などのレビューを書いてしまいやすいので。
2、「リマインド回数」を増やし、レビュー数が20倍に。
鈴木:
「レビューを書いてください」というリマインドを、「利用日の翌日」から「当日の利用後すぐ」に変え、後日のリマインド回数も増やしたところ、レビュー数が約20倍になりました。
3、「画面遷移」を減らしたらレビュー数が増えた。
鈴木:
3月に「レビュー画面への遷移」を、2クリック→1クリックでいけるよう改善しました。すると「レビューを書いてくれる確率」は、23%→31%に上昇(約3割アップ)しました。
「たった1クリックの画面遷移」で、多くのユーザーが離脱していたのだと思います。
4、「レビュー促進の文言」を親しみやすくしたら逆効果だった。
鈴木:
4月に「レビュー促進の文言」を親しみやすく変更したら、数字的には31%→25%(約2割ダウン)に下がってしまいました。
具体的には「書いて下さい」から「書きませんか?」というトーンに変えました。「親しみやすい文言のほうが、書いてくれるだろう」と予想していましたが、これは逆効果でした。
最終的にうまくいったのは「書くのは当たり前です。」といった感じの文言です。これは「強制っぽくて良くない」という意見もでましたが、数字上では完全にうまくいきました。
取材協力:株式会社スペースマーケット