スマホでマンガが読めるアプリ「comico」を運営しているNHN PlayArtさんにお話を伺いました。単行本が売れている理由、女性ユーザーが多いワケなど。
※NHN PlayArt 株式会社 comico編集部 小室稔樹さん
「comico(コミコ)」について
「comico」について教えて下さい。
小室:
2013年の10月にリリースして、約1年7ヶ月で1,000万ダウンロードを突破しました。事業としては、書籍化やグッズ化などIPを活用した取り組みも進めています。
ユーザー層は10〜20代が多いです。高校生が会社見学に来てくれたときに「comicoを読んでいますか?」と聞くと、「クラスのほぼみんなが読んでいる」と言ってもらえることが多くて。
あと、ひとつ興味深いのは「マンガ雑誌を買いますか?」と聞くと、「買ったことがない」という子が多いんです。やっぱり「スマホで無料で読める」というのは大きいのだろうと感じます。
「ユーザーの男女比」でいうと、どのくらいなんですか?
小室:
男女比については、おおよそ6:4くらいで、女性ユーザーがやや多いのが特徴です。「どうして女性が多いのか?」というと、3つほど理由があると考えています。
ひとつは「女性が好む作品が充実している」ということです。comicoには女性作家さんも多く、女性が楽しめるコンテンツがたくさんある。
もうひとつは「女性が新しいものに対して柔軟だから」だと思います。スマートコミック(スマホに最適化した、縦スクロール・フルカラー形式のマンガ)は新しいものなので、最初に女性が適応してくれたのではないかと。
ちなみに、若い女性の中には「紙のマンガはコマを読む順番がわからない」という人もいると聞きます。それが「縦スクロール」なら迷うことはありません。
そして「スマホで読める」というのが3つ目。スマホであれば本を持ち運ぶ必要がなく、どこでも気軽に読むことができます。
※イラストはイメージ。
スマホ時代は「縦スクロール」が良い。
実際「縦スクロールのマンガ」をスマホで展開してみてどうですか?
小室:
スマホにおいて「マンガと縦スクロールの相性」はとても良いと感じています。ニュースアプリ、Facebook、ツイッターなど、スマホで利用できる多くのサービスは「縦スクロール」の形式です。
書籍であれば「紙のマンガの形」が最適だと思いますが、スマホの場合は「縦スクロール」が読みやすいと我々は考えています。
やはり「モノ(デバイス)に最適化する」という考え方は大事だと思います。媒体が変わる時には、その媒体に適切なフォーマットがでてくるものです。
comicoでの「1話の長さ」は紙より短いと思いますが、長さは指定しているんでしょうか?
小室:
そうですね、紙のマンガよりは短いです。ルールとしては「1話30コマ以上」ということだけ決めていますが、あとは作家さんの自由です。平均すると1話40〜50コマくらいだと思います。
ほかに「紙のマンガにはない特徴」ってありますか?
小室:
作家さんの立場からすると、「読者のリアクション」を直接見ることができるのは、おもしろいところだと思います。
例えば「コメント機能」です。comicoでは1話ごとに、ユーザーからたくさんコメントが返ってくるので、それを読めば「読者に意図が伝わったか」や「評判がいいシーン」などがわかります。
コメントを読んで「このキャラは人気が出そうだ」と察知すると、そのキャラの登場を増やしたりする作家さんも中にはいます。
comicoの「公式作家」について
comicoの「公式作家」について教えていただけますか?
小室:
現在、comicoには公式作家さんが約150名います。
「ベストチャレンジ」という投稿作品コーナーで、読者の人気が高い作品や編集部の目にとまった作品があれば、随時「公式作家になりませんか?」とお声がけをしています
また、comicoへ投稿してくれるのは「若い作家さん」も多いです。プロ作家というよりは「現役の専門学生です」というような方もたくさんいます。
なので「公式作家になりませんか」とご連絡すると、「まさか私の作品が、嬉しいです!」みたいに、すごくびっくりされることも多いです。
学生でも「公式作家」になれるんですね。
小室:
そうですね。もちろん「未成年の作家さん」の場合は、必ず保護者の方にも承諾をいただいてから契約をしています。最終的にはほとんどの親御さんが、背中を押してくれますね。
「公式作家」になると、報酬が支払われるのでしょうか?
小室:
はい。公式作家さんには毎月20万円と、作品の人気に応じた「インセンティブ」の原稿料をお支払いしています。それに加えて、「単行本化」されたときには印税が入るようなシステムになっています。
「紙の単行本」が売れている。
今までcomicoを運営してきて「予想外だったこと」って何かありますか?
小室:
単行本の売れ行きが好調だったことには驚きました。例えば「ReLIFE」という作品は3巻で75万部の発行部数を達成しました、「アプリ上では全て無料で見られる」状態なのにです。
当初はもちろん議論がありました。「単行本化したところは、アプリでも有料にしよう」とか。
しかし、そこはあえて「アプリで無料公開したまま、単行本を販売する」という挑戦をしました。そして、結果的に単行本の売れ行きが好調だったので、「このままでいこう」という流れになっています。
単行本は「既存ファン」と「新規ユーザー」のどっちが買っているのでしょう?
小室:
もちろん、両方あると思います。ただ「既存ファン」が買ってくれたからこそ、ここまで部数が伸びたのだと感じています。
ポイントとしては、2つあるのかなと考えています。ひとつは「所有欲」です。例えば、単行本のサイン会をすると、「いつもアプリで読んでいます!」という人がたくさん来てくれます。
「好きな作品を手元においておきたい」という気持ちで、購入されているのではないかと思います。
もうひとつは、アプリと単行本で違った感覚で作品を楽しめることです。
単行本化するときには、スマホで読む「縦スクロール」の形式から、紙のマンガでの読み方に合わせた再編集が必要になります。そのために、レイアウトの再構成や「描き足し」をするんです。
例えば、スマホは横幅が決まっているので、単行本のレイアウトにしようとすると「幅が足りない」ということが起こる。そのときに、背景を描き足したりするわけです。
つまり、アプリと単行本で、まったく同じ絵が載っているわけではない。なのでアプリで読んだ人も「単行本では、どう変わっているんだろう?」と楽しむことが出来ます。
※イラストはイメージ。
「comico」の運営について。
「comico」を運営する上で、大事にしていることはありますか?
小室:
comicoでは「ユーザーとサービスの距離感」を大事にしています。「どこかでつながっている」という感覚が大切なんです。
例えば、オフラインパーティーをやって「読者同士が出会って、その作品について盛り上がる場」をつくっています。これまでに東京・福岡・仙台・富山などで開催しました。
「ユーザーを増やす」という意味で、うまくいったことはありますか?
小室:
「マンガの単体アプリ」を切り出してリリースしたのは上手くいったと思います。例えば「ReLIFE」の単体アプリには、マンガだけではなく特典(待ち受けや、特別編など)も入れています。
それで「既存ファン」がダウンロードしてくれることで、AppStoreのランキングも上がり、結果的に「新規ユーザーにも知ってもらえる」というメリットがありました。
※「ReLIFEアプリ」はAppStoreで1位を獲得した。
「マンガのスクリーンショットがとれる機能」を入れているのも、おもしろいですね。
小室:
そうですね。これはツイッターで拡散しやすくなるように入れました。マンガのスクショをとって、comicoのプロフィール画像につかってくれている人もいます。
「海外版comico」について。
海外版もリリースされているんでしたっけ?
小室:
海外は台湾と韓国でリリースしています。現在のダウンロード数は、台湾が100万ダウンロード、韓国が200万ダウンロードですね。
韓国は「WEBTOON」と呼ばれる、「縦スクロールマンガ」が浸透しているため、伸びが早い印象です。
海外版では「日本の作品」を翻訳して配信しているんでしょうか?
小室:
翻訳して配信しているものもあるのですが、基本的には「現地の作家さん」の作品がメインになっています。
日本から輸出している作品もあれば、海外から輸入している作品もあって、「菜の花ボーイズ」というマンガは、韓国から日本に輸入して人気になっています。
最後にメッセージなどあればお願いします。
小室:
もっともっと、comicoに作品を投稿してくれる人が増えることで、人気作品がたくさん生まれていくようになると、嬉しいですね。
ひとつ感じているのは「今の時代の漫画家になる」のが重要だということです。そのためには、積極的に作品を発表していって欲しいと思っています。
今の時代は「ユーザーが作品の価値を決める」という比率が大きいので、机の引き出しに「しまったまま」にしているのはもったいなくて。それが、もしかしたらヒット作になるかもしれない。
comicoでも時々「予想外のキャラが人気になる」ということがあります。なぜそれがわかるかというと「コメント」でユーザーのリアクションが見えるからですよね。
作品を公開することで、これほどまでに読者から直接意見をもらいやすい時代はなかった。その感想を分析してうまく吸収していくような「今の時代の作家」が増えてくると良いなと思います。
取材協力:NHN PlayArt 株式会社
編集後記
余談ですが、ビデオリサーチさんの「コミックアプリ調査」を見ても、10代にスマホマンガがかなり浸透していることがわかる。スマホが普及して「暇つぶし」としての、マンガ消費量は上がっていきそう。