「食ってるだけで年収1,000万円の女」韓国のニコ生と呼ばれるアフリカTVのビジネスモデル「星風船」(ネット版の投げ銭)の裏側にせまる。

2014年12月03日 |
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今年、韓国から日本に上陸したライブストリーミングサービス「AfreecaTV(アフリカTV)」さんにお話を伺いました。日本ではニコ生、ツイキャスなどが先行して人気になっていますが、一体どんな特徴があるのでしょうか。

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※株式会社アフリカTV代表の植田修平さん(左)、コンテンツ事業部部長の矢野寛さん(右)。

「アフリカTV」について

本家の韓国版「アフリカTV」について教えてください。

植田:
韓国では2006年にPCでの「ライブ配信サービス」としてはじまりました。現在は「PC1:モバイル3」というユーザー比率です。

アプリでいうと2,600万ダウンロード、1日のユニークユーザーでは350万人が視聴していて、「韓国のニコ生」とも呼ばれる大きなメディアに成長しています。

日本版は今年からスタートしていて、来年にかけてグローバルでも展開していく予定です。

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※リアルタイムの同時放送数で7,000チャンネルぐらい配信されるというのはすごい。

どうして、そこまで大きいサービスに成長できたのでしょうか?

植田:
まず、「アフリカTV」のライブ配信サービスが当時は珍しかったこともありますが、個人の配信者の影響力が大きいと思います。

当時韓国で、とある国民的なデモが起きていたのですが、既存メディアでは扱いがとても小さかったんです。その様子を個人ジャーナリスト達が「アフリカTV」で配信して世に訴えたことで、大きな関心を集めたのがきっかけの一つでした。

ネット時代の投げ銭「星風船」によるビジネスモデル

「アフリカTV」のビジネスモデルはどうなっているのでしょう?

植田:
アフリカTVでは、配信者のことをBJ(ブロードキャスティング・ジョッキー)と呼ぶんです。

特徴的なのは「星風船」という課金アイテムがありまして、リスナー(ユーザー)がBJに「星風船を贈る」ということが出来ます。

そしてBJはもらった「星風船」を現金化することができるんです。いわゆる「投げ銭」のネット版のようなイメージですよね。

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CNNの記事によると韓国版の「星風船」の手数料は30~40%程度(ランクにより条件は異なるよう)
※日本版については、星風船の換金は現在「iTunesカードやamazonギフトへの還元」となっている。(星風船1つにつき5円相当に還元されるとのことなので手数料は約50%程度)

トップレベルのBJはどのくらい報酬がもらえているのでしょうか?

植田:
韓国では「星風船」だけで年間数千万円の報酬を得ているBJが何十人もいます。

コアなファン100人が毎月1,000円〜2,000円の「星風船」を送るだけでも10万〜20万円いきますので、月10万円レベルであればたくさんいますね。

ただBJも楽して儲けているわけではなく、トップのレベルのBJは1日10時間以上放送をしていたり、並々ならぬ努力をしています。

※BJは、全体で潜在的には数十万人レベルの規模にもなるという。

リスナーが好きなBJに「投げ銭方式」で課金するというと、AKBの総選挙を思い出すのですが、イメージ的には近いでしょうか?

植田:
そうですね。「星風船を送る」というのは「ファンがBJを応援したい」という感情なので、AKBのビジネスモデルにも近いかもしれません。

それと、人気BJにはファンがたくさんいるので、ファンの承認欲求が働くんですよ。AKBでいうと「大島優子の一番のファンは自分」 「自分の存在をわかってほしい」という心理です。

なるほど、自分のことを覚えてくれたら嬉しいですもんね。

植田:
はい、AKBの場合「誰がCDを一番買ったのか?」がわからないですが、「アフリカTV」では可視化されるのもおもしろいところ。

例えば「リスナーがあげた星風船ランキング」があったり、星風船をたくさんあげているリスナーはコメントの色が変わったりするんです。

人気になるBJって、たとえば元モデルなどで「もともと知名度があった人」が多いんですか?

植田:
いえ、素人からスタートして「アフリカTV」上でスターが誕生していく感じですね。逆に「アフリカTV」で人気が出ると、芸能事務所からスカウトもあるようです。

矢野:
今年の春、日本の女子大生が、韓国語を勉強しながら「アフリカTV」で配信をしていたんです。

そしたら、ランキングのトップ10に入るくらい人気がでて、推計で「星風船」も100万円分以上はもらっていたようです。ある意味、誰にでもチャンスがあるということですよね。

「すごい稼いでるBJ」にはコアなファンがたくさん課金しているのか、それとも広く浅くなのか、どちらなんでしょうか?

植田:
どちらかというと、濃いユーザーから多く課金されていると思いますね。やはり、ほとんどのユーザーは無料で見ているだけなのだとおもいます。

矢野:
過去最高で1日で350万円分の「星風船」をもらった女の子がいるのですが、その時はほぼ1人のリスナーからの課金だったそうです。韓国のニュースでも話題になっていましたね。

食べてるだけで年収1,000万円以上、大食い放送「モクバン」

どんなジャンルの放送が人気なんですか?

植田:
「モクバン」という大食いをする放送がすごく人気です。「モクバン」が流行ったのは、スタイルのいい可愛らしい女性BJの影響が強いんです。

元々その方はダンサーということで「ダンス配信」をしていたのですが、ある日「大食い」の配信をしたところ、すごく閲覧数が伸びてブレイクしました。そこから「モクバン」がひとつのジャンルとして定着しました。

ご飯を食べてるだけで、みんな「星風船」を贈ってくれるんですね。

植田:
はい、「ただ食ってるだけで生計を立てる女」ということで話題になり、CNNやウォール・ストリート・ジャーナルでも取り上げられています。

今や「星風船」だけで年収1,000万円以上稼いでいるそうですが、食費だけでも月40万円ほどかかっているそうですよ。

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※CNNにモクバンの女王「パク·ソヨン」さんという方のインタビュー記事が公開されている。(CNN参照)。月収は9,300ドル(約100万円)、ピザ4枚だったり牛肉3キロを食べる、女性ファンのほうが60%と多い。強いて日本でいうとギャル曽根みたいな感じかな?

「モクバン」は美人な女性じゃないと成立しないんでしょうか?

植田:
それがおもしろいことに、男性でも「モクバン」ですごく稼いでいる方もいます。しかも、お世辞にも食べ方がキレイとはいえない。笑

彼らの魅力はトークがおもしろいこと。そして、サービス精神旺盛でリスナーからのコメントをまめに拾ってリアクションしている。

昔は「シュークリームを100個食べる」みたいな無茶な企画で稼いでいる人もいましたが、いまは話術で楽しませるタイプが多いですね。

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※モクバンで有名な男性BJの1人「ビリョン」さん。モクバンの人気BJは年収で数千万円稼いでいる人もいるとのこと。

他に、人気がある放送ジャンルはありますか?

矢野:
英語を教えたりする「教育BJ」も人気ですね。韓国は受験が厳しくて教育への意識が高いのが理由だと思います。

植田:
「教育BJ」で人気になる子は、だいたいこんな感じの格好をしています。韓国では放送コードが厳しくて、これでギリギリのラインなんです。ドラマのキスシーンでさえ「18歳以上」というマークが出たりする。

もちろん、トラブルを未然に防ぐためにモニタリングは24時間体制で行っています。

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※人気教育BJのDiva Jessicaさん。韓国ではこのくらいのセクシーさ加減が限界ラインとのこと。

テレビと提携して、個人が「スポーツ実況」を放送できる。

他に「アフリカTV」ならではの取り組みはありますか?

植田:
オリンピック、ワールドカップなどのビッグイベントも、BJがスポーツ実況を配信できるのは「アフリカTV」ならではです。

これは正式に「KBS」(韓国のNHKのようなテレビ局)を始めとした放送メディアと提携をして「スポーツ中継の映像」をリアルタイムで提供してもらっていることで、可能になっています。

ということは、テレビでアナウンサーが実況している番組を見ても良いし、アフリカTV上で好きなBJの実況でスポーツを見ることも出来る?

植田:
はい、「通常のテレビ放送」では同じ実況者の放送を見るしかできないですが、「アフリカTV」では自分の好きなBJの実況でスポーツ観戦ができます。それもリアルタイムで。

そういう意味では、韓国はネットとTVの融合が進んでいる国ですよね。日本でもいずれはそういう時代になるのではと考えています。

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※人気スポーツ実況BJのアン・ジュンモさん。

韓国はゲーム大国である。

「ゲーム実況」は世界的に人気のあるジャンルですが、「アフリカTV」ではどうでしょうか?

植田:
人気がありますね、特に「リーグ・オブ・レジェンド」という世界一人気のアメリカのネットゲームがあるのですが、「アフリカTV」でも盛り上がっています。

つい先日も「リーグ・オブ・レジェンド」の世界大会が、韓国のオリンピックスタジアムで行われて、スタジアムに5万人ぐらいが来場していました。

「アフリカTV」でも決勝戦を放送したところ、同時接続で25万人、述べ240万人が視聴していました。

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※「リーグ・オブ・レジェンド」の世界大会の写真。(出展:オフィシャルサイトより)

「アフリカTV」上では「ゲーム実況」で稼いでる人もいるんですか?

植田:
はい、年収1,000万円プレーヤーもいますね。「モクバン」と比べて「ゲーム実況」の視聴者数は5倍近く多く、公式のゲーム放送などではゲーム企業のスポンサーがつくこともあります。

ただ、収益性(「星風船」のもらいやすさ)は「モクバン」のほうが高いんです。なぜなら、「ゲーム実況」ってゲームに集中しちゃうので、ユーザーのコメントを拾ったりという、コミュニケーションがとりづらいからです。

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※人気のゲーム実況BJ「大図書館」さん。

日本の「ゲーム実況」をみてどう感じますか?

植田:
日本は「ゲーム実況」や「e-sports」については、世界から見るとまだ遅れをとっていると感じますね、これはメーカーの「ゲーム実況の影響力」についての認識の薄さも大きいのでは。

任天堂さんが「YouTube上でのアフィリエイトを検討中」と発表したり、日本でもようやくこれからなのかなとは感じます。

※参考:今年5月に任天堂が「アフィリエイトプログラムを用意中」とアナウンスしている。Youtubeでマリオのゲーム実況動画をアップすると、広告収益の一部を配信者も受け取ることが出来る。

韓国では「ゲームのプロ」という仕事もあるんですよね?

植田:
はい、韓国にはゲームのプロリーグがあって、普通にテレビでも毎週放送されています。競技としての「eスポーツ」も発展しているんです。

海外にはゲームのプロはたくさんいるんです。アメリカで行われる「ゲームの大会の賞金額」って、どのくらいだと思いますか?

うーん、1,000万円くらいですか?

植田:
実は、一番大きいもので賞金10億円なんです、桁が違いますよね。「リーグ・オブ・レジェンド」の大会は、賞金総額が2億円ぐらいありました。

韓国でここまでゲーム熱が高いのは、なぜでしょうか?

矢野:
歴史的な背景も影響していますね。韓国では1998年のIMF(通貨危機)の時に、たくさんの企業が潰れて、失業者がバーッと増えたんです。その時、手軽に始められる「インターネットカフェ」が急増しました。

そして当時、政府がネットインフラを一気に整えたこともあり、PCのネットゲームがすごく流行ったんです。「韓国のゲーム熱の高さ」はその辺りから来ていると感じます。

あと、韓国で「スマホ普及率が80%」と高いのはなぜなんでしょう、元々ガラケーは普及していたのでしょうか?

矢野:
はい、韓国にもガラケーはあったのですが、日本ほど良くできていなかったんです。そこに絶好調のサムスンのAndroidスマホが入ってきて、自然とスマホに流れていった。

植田:
なので、韓国ではiPhoneの普及率が15%程しかなくて、ほぼAndroidという状況です。

アプリのマーケティングについても、韓国では最初にAndroidアプリを出して、その後iPhoneアプリという順番が主流です、日本と逆なんですよね。

今後の日本での展開や目標について教えてください。

植田:
日本では後発なので、サービス品質では負けないようにしたいですね。

「アフリカTV」の特徴は「放送が無制限」「配信が高画質」「お手軽さ(視聴と配信がひとつのアプリで出来る)」の3つだと考えています。

あくまでも、日本の個人ユーザーが主役になることで、おもしろいコンテンツがでてきたら良いですね。「韓国の文化をそのまま持ってこよう」とは考えていません。

あとはグローバル展開です。コメントの自動翻訳機能なども準備していますが、国境や言語を超えてコミュニケーションがとれるサービスにしていけたら面白いですね。

取材協力:株式会社アフリカTV

AfreecaTV-日本版(iOS/Android
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編集後記

「星風船」で生活している人がたくさんいるというのがおもしろい。しかも芸能人やアイドルがやっているんじゃなくて、このサービス発でスターが生まれていると。

「モクバン」がなぜ人気なのか少し調べてみたところ、韓国には一人暮らしの人がたくさんいて、「1人で食事する寂しさ」をまぎらわせるために見ているんだとか。

あとダイエット中や入院中の人など「おいしいものを食べられない人」にもニーズがあるらしい、なるほど。

なお、アフリカTVの運営会社は韓国で上場しているみたいなので、業績の数字など調べてみるとおもしろいかもしれない。

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