鉄道オタクが「趣味の延長」(開発2年半)でつくった有料アプリが6,400万円の売上。ニッチな電車運転アプリがグローバルで成功できた理由。

2015年06月01日 |
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今回は「Train Drive ATS」という電車運転シミュレーターのアプリをつくっている、Takahiro Itoさんにお話を伺いました。「ニッチな有料アプリ」の成功事例として勉強になります。

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「Train Drive ATS」について教えて下さい。

伊藤:
「電車の運転士」として、列車の運行をシミュレーションできるアプリです。2012年にリリースしました。車両のデザインは鉄道会社に許可を得て、「実物の列車」をつかっています。

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※「駅名」や「路線の風景」はフィクション。

どうしてこのアプリをつくろうと思ったのですか?

伊藤:
もともと「鉄道」が趣味で大好きだったんです。特に僕は「乗り鉄」って言ったらよいでしょうか。いろんな路線に乗るのがすごく好きで。

あとは「列車がどの駅にいつ到着するか?」という運行計画をあらわした、「ダイヤグラム」という図があるんですけど、これも妄想で勝手につくったりもしますね。

ちなみに、よく電車が遅れると「ダイヤの乱れ」って言いますけど、これは「ダイヤグラム」が語源です。駅に張ってある「時刻表」も、この「ダイヤグラム」からつくられています。

なので、アプリをつくったのも、ある意味「趣味の延長」だったんです。

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「開発期間」はどのくらいかけましたか?

伊藤:
約2年半かけて開発しました。当初は「6ヶ月で完成する」というイメージだったんですけどね。やっぱり好きなんで、やり過ぎちゃったかなと。

その間の生活費は、フリーランスとして受託開発の仕事をやりつつ、足りない分は貯金を使いつつ、という感じでした。

個人開発なので、プログラミングはもちろん、「駅員のアナウンスの声」も自分でやって。

特に「物理の法則」はリアルに近づけるようこだわりましたね。例えば、列車が滑らかにカーブを曲がるようにしたり、ちゃんと遠心力の概念を入れたり。

いま「ダウンロード数」でいうとどのくらいですか?

伊藤:
「Train Drive ATS」は、無料版が500万ダウンロード、有料版(840円)は85,000ダウンロードです。(※iOSのみ。1と2の合計)

無料版はほとんど海外(日本10%:海外90%)です。ダウンロード数の多い国としては、フランス・ドイツ・イタリア・イギリスあたりですね。

やっぱり鉄道は「人口密度が高いエリア」に走っているので、ヨーロッパ地域と相性がいいのだと思いました。ちなみに、イギリスは「鉄道発祥の地」ですね。

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ローカライズ(翻訳)はやっていたんでしょうか?

伊藤:
そうですね。最初は日本語と英語だったのですが、途中から14ヶ国語に対応しました。AppStoreの紹介文やアプリ内の説明を、「1ヶ国語につき10万円くらい」の予算をかけて翻訳しました。

結果的には、フランス・ドイツ・イタリアなどでは、すぐに元が取れました。逆に、韓国・中国あたりは反応が薄かったです。翻訳に関してはやって正解でしたね。

「ダウンロード数」はどのように伸びていったのでしょうか?

伊藤:
ずーっと3年かけて積み重なっていった感じです。おそらく「クチコミで広がっていった」のかなと思います。

このアプリでの「列車の運転」って、けっこう難しいんですよ。例えば、運転していると、すぐに「駅をはみ出て、オーバーラン」してしまったりもする。

なので、そういう時に「これ難しい、お前もちょっとやってみてよ」みたいな感じで、電車好きな人たちを中心に広がっていったのかなと。

あと「鉄道ファン」って、意外に数もたくさんいるんですよ。日本でも専門サイトがあったり、「鉄道ファン」「鉄道ピクトリアル」みたいな雑誌も3〜4つあったりします。

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出す前は、ここまでダウンロードされると思っていましたか?

伊藤:
うーん、もちろん「ダメな想像」もしていました。ダメだったらアプリを自分ごと「どこかの会社に身売りしよう」ということを想像したり…。笑

逆に「良い想像」もしていて。海外には「電車のアプリ」はあったんですけど、模型を3Dで再現したような「箱庭アプリ」しかなくて、本格的なシミュレーターは出ていなかったんです。

だから「これは、先駆者になれるんじゃないか?」とも考えていました。

収益的には、どのような感じでしょうか?

伊藤:
ほとんどが有料版アプリからの収益です。有料版(800円)は累計85,000ダウンロードされていますので、6,400万円ほどの売上がありました。

比率としては「有料版の収益が90%、広告収益が10%」というバランスになっています。(※有料版は海外3分の2、日本が3分の1)

800円という価格にしたのは、「電車でGO!」のアプリ版が800円だったので、それに合わせて決めました。ちなみに、いままで「値下げセール」などはしていません。

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「有料アプリ」の収益で成り立っているのは珍しいですね。

伊藤:
そうですね。ただ「有料アプリからの収益がメイン」ではあるんですけど、有料版が伸びたきっかけとしては「無料版」をだしたことでした。

リリース当初の10ヶ月間は「有料版」しかだしていなくて。その時は「1万ダウンロードいくかいかないか」くらいの規模だったんですよ。

そこで、機能を制限した「無料版」を出してみたらドカンといきました。やっぱり無料のほうが圧倒的にダウンロードされるので、そこから「有料版」の売上にもつながった。

だいたい、割合としては「無料版ユーザーの1.5%」くらいが有料版を買ってくれましたね。ちなみに「有料版への転換率」が高い国は日本とスイスでした。スイスはお金持ちが多い国なのかもしれません。

鉄道会社との「ライセンス契約」は、どうやって結んだんでしょうか?

伊藤:
最初にライセンス契約をしたのは、「東武鉄道」だったのですが、どこから連絡したらいいかわからなくてですね。とりあえず「お客様サポート」に電話をかけてみたんですよ。

「すみません、東武の電車をアプリで使いたいんですけど」って、「クーラーが暑い」みたいなクレームとかを担当する窓口の人に聞いてみました。

そしたら「担当者から、折り返し連絡します」と言われまして。「ああ、これは電話がかかってこないパターンかな」と思っていたら、二時間後くらいにほんとに電話がかかってきた。

最初は、同人かなにかだと思われていて、「許諾とかいらないので、自由にやってください」みたいに言われたのですが、そこは「営利目的のアプリなので、ちゃんと提携したい」と伝えて。

そこから話が進んでいって、「ライセンス契約」を締結することができました。形態としては「売上の何%を支払う代わりに、電車のデザインをつかわせてもらう」といったものです。

ライセンスについては、「模型」や「プラモデル」でも、同じような話があるみたいで、思っていたよりはスムーズに進みました。

その後、「京王電鉄」ともライセンス契約をしたのですが、このときは「東武鉄道での実績」が既にあったので、話も進みやすかったです。

これから「個人でアプリ開発する人」にアドバイスするとしたら?

伊藤:
やはり「好きなことの延長」でアプリをつくってみると良いのかなと思います。少なくとも、自分の場合は「好きなこと」をベースにしていたからこそ、うまくいきました。

なぜなら「好きなこと」をやっていると、コストが安く見積もれるんですよね。だって、僕なんてアプリをださなかったとしても、どっちみち趣味で「ダイヤグラム」をつくっているわけですから。

ただ、気をつけなきゃいけないのは「好きだから。夢中でやっているから」といって、ユーザーに受けるとは限らないこと。そこのバランスを考える必要はあるのかなとは感じますね。

最後に、告知などがあればお願いします。

伊藤:
いまiOS版しか出していないのですが、レベニューシェアで組んでくれる「Android開発者」さんがいれば、Android版もつくってみたいと考えています。

ユーザーからの「Androidでもだしてくれ」という声は多いので、もし興味がある方がいらっしゃれば、ご連絡いただけたら嬉しいです。

取材協力:Train Drive ATS

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編集後記

ポイントは「好きだから質にこだわった」「海外も視野に入れた」「無料版をだして裾野を広げた」「ニッチ層に800円という高めの価格で販売した」の4つだったのかなと感じました。

余談ですが、矢野経済研究所の「オタク市場調査」によると、「鉄道模型オタク」が一人あたりつかう年間金額は47,330円とのこと。他と比べても金額だけで見ると大きめなんですね。

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アプリマーケティング研究所編集部 アプリのマーケティングメディアです。アプリの売上を伸ばす施策やデータが学べるマガジン「月刊アプリマーケティング」もスタートしました。最近の記事は新サイトにて更新しています。取材申請はコチラのページから。
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