今回はカレンダー共有アプリ「TimeTree」さんにお話を伺いました。2015年のリリースでまったく注目されなかったところから「App Store Best of 2015 今年のベスト」受賞まで到達できた秘訣は?
※JUBILEE WORKS CEO 深川泰斗さん。「TimeTree」は現在9名(エンジニア5名)で運営している。
TimeTreeについて
「TimeTree」について教えてください。
予定を複数人で共有できる「カレンダー共有アプリ」です。イメージとしては「LINEグループのカレンダー版」のような感じでしょうか。予定ごとにチャットルームで会話することもできます。
なので、ツールというよりは、コミュニケーションアプリですね。単純な「カレンダー」だと、他アプリにいつでもスイッチできてしまうので、この中に「人間関係」が構築されることを意識しています。
ユーザーは順調に増えていますか?
2015年3月末にリリースしてから、現在ユーザーの伸び・定着率については好調です。
ダウンロード数は公開していないのですが、アクティブユーザーでいうと、ほとんどが日本ですね。海外ユーザー(中国、韓国、アメリカ等)は1〜2割くらいです。
※13ヶ国語にローカライズしている。
なぜこのアプリをつくったのでしょうか?
「相手がいること」を前提とした、カレンダーサービスをつくりたかったんです。僕は元々カレンダーサービスのオタクみたいなもので、昔からすごく可能性を感じていました。
例えば、紙の手帳って「自分一人のためのもの」ですよね。だから「5人で遊びにいく予定」の日時が変更になったら、それぞれ手帳を書き直さないといけない。それって何か不自然だなと。
あと、この会社を立ち上げる前には、ヤフーで働いていたのですが、入社時も「ヤフーカレンダー」の企画がやりたくて、会社に入ったくらいでした。
リリースの時から好調だったんですか?
実は、リリース直後は、まったく誰にも注目されませんでした。メディアに「アプリをつくりました!」とプレスリリースを送っても、まったく取り上げてもらえなくて。
「駆け出しの会社のアプリだから、まあ話題にはしてもらえないだろう」とは思っていたものの、いざその現実に直面すると焦りが出てきました。
その日の夜は「ああ、どうしよう・・・」みたいな感じで、家の隅っこで床に突っ伏していたくらいです。
そうだったんですか。
はい。ところがそれを見た妻が、その様子をツイッターでつぶやいてくれて。そのツイートがものすごく拡散(1週間で1万RT)されました。「こんなことがあるのか」とびっくりしましたね。
昨日スケジュール管理アプリ(無料)をリリースした夫が、とても使い勝手よくて自信あるアプリだけど起業したての無名企業だからリリース送ってもどこも取り上げてくれないと部屋の片隅で突っ伏していたので、よろしければ見てみてください( ・ω・)http://t.co/zC1SsGi9O1
— ジュン (@fkjk) March 25, 2015
そこからは、週アスや日経MJで取り上げていただいたり、メールやツイッターでのフィードバックもたくさんいただきました。しばらくは、その返信をすることで精一杯でした。
ただ大変でしたけど、一通一通すべて返信していたんです。例えば「こういうことは出来ないんですか?」と言われたら、スクリーンショットに矢印をつけて「こうして下さい」と返したり。
ちなみに、対応が終わったものは「サービスのヘルプ」にも追加していったのですが、たった1週間でものすごく充実したヘルプができました。笑
※1万RTされて「1万ダウンロード以上は増えた」とのこと。
大事なのは「期待を超える」こと。
そこからユーザーも伸びて、年末には「App Store Best of 2015」にも選ばれています。これまで「アプリ運営」で大事にしてきたことはなんですか?
チーム全体で「期待を超える」ということを大事にしています。これは「ユーザーが期待したことを超えているか?」(を自分たちに問いかける)ということなんですけど。
新しいアプリって、毎日山のようにでているじゃないですか。なので「すごく良くできたアプリ」というだけじゃ一瞬で忘れ去られる、という危機感がすごくあって。
だから「普通ではないこと」がないといけないなと。「なんでそこまでするんだ」「なんでそこまでこだわるんだ」といった飛び抜けたことですね。
具体的にはどんなことなんでしょう?
例えば「カスタマーサポート」に問い合わせをしたとします。その5分後に、テンプレじゃないメールが返って来たらびっくりしませんか。そういうことを、一生懸命にやっている感じです。
あとは、最近Android版に「ウィジェット機能」を実装したのですが、過去に「ウィジェットが欲しい」と問い合わせいただいた方には、個別に「実装しましたよ」とメールを送ったり。
なるほど。あと、ユーザーを呼んで「オフィスパーティー」などもやっていますよね。これはどうしてやっているのでしょうか?
お互いのことを知りたいんです。僕もユーザーさんのことを知りたいですし、ユーザー側としても運営の顔が見えたほうが安心できるんじゃないかなと。
なんでしょうね。「行きつけの定食屋」みたいにしたいんですよ。例えば、すごくうまいトンカツ屋があったとしても、無愛想にポンと出されるだけなら、熱心なファンにはならないじゃないですか。
そこを、ちゃんと「おもてなし」することで、「また来たよ!」「いつも来て下さってありがとう」という関係性を、しっかりつくりたいと考えているんです。
他にもユーザーさんとは、コミュニケーションをとっているんですか?
そうですね。よくコメントをくださる方は、Facebookグループ(現在30人ほど)に招待して、新機能をだすときに「この機能ってどう思いますか?」などと聞いて、意見をもらったり。
あと直接、話を聞きにいくこともありますね。例えば、よくお問い合わせをくれる方、ブログやツイッターで「TimeTree」のことを書いてくれた方には、連絡して会いにいったりもします。
「ユーザーの声」を聞くときに気をつけていることはありますか?
アプリを長くつかってくれている「ヘビーユーザー」と、アプリをまだ使い慣れていない「新規ユーザー」、この2種類のユーザーは「どっちの人なんだろう?」と意識する必要があります。
例えば「(ヘビーユーザーから)メモ機能が欲しい」という要望が多かったとします。これを機能として提供するかどうか、かなり慎重に議論します。
なぜなら、サービスに慣れている「ヘビーユーザー」にとっては良くても、「新規ユーザー」から見た時に「複雑な難しいアプリ」に映ってしまう可能性があるからです。
ユーザーの話を聞いていて、ユーザーが「想定外の使い方」をしていることはありますか?
ありますね、今までにおもしろかった使い方が2つありまして。いずれもツイッターでTimeTreeについてのツイートを追っているうちにみつけたものです。
ひとつは、同人作家さんと思われる方々が、お互いに「締め切り」をTimeTreeに入れて励まし合っているのをみかけました。ダイエットと一緒で「いつまでにやる」と宣言して、やる気を出しているみたいです。
もうひとつは「ジャニーズファン」など、特定の何かが好きな人がツイッターで集まって、その芸能人の「テレビ出演」や「雑誌の発売日」を、ひとつのカレンダーにまとめているような使い方です。
その他の施策など。
「TimeTree」の運営で、うまくいった施策などはありますか?
すごく手応えがあったのは「ユーザーの使い方」を、インタビュー形式でページにまとめたことです。シンプルなアプリなので「どうつかうか?」を伝えることも大事でして。
例えば、ある方は「お子さんの学校のプリント」を、スマホで撮影して、締切日に貼りつけていて。その使い方をアプリ内で紹介したら「既存ユーザーの写真投稿数」がばーっと増えました。
あとは「バンドマンがメンバーの予定を共有するためにつかっている」という事例を載せたところ、「バンド内でつかっている」という声を、ツイッターでよく見かけるようになりました。
なるほど、他にはありますか?
数字的に一番インパクトがあったのは「レビュー施策」です。ヘビーユーザーに絞って、レビューを書いてもらう施策をやってから、明らかに数字が安定するようになりました。
※お知らせマークを「ハートマーク」に変え、タップすると「レビューお願い」のダイアログが出る。
※Facebookの「いいね」をお願いするバージョンのダイアログも。
最後に「期待を超える」を続けてきて、良かったことを教えてください。
口コミされやすくなる点は、良かったと思います。自分自身をユーザーとして考えても、期待を超えた対応をされると「こんな対応をしてくれた、すごくない?」と、つい周りに話したくなりますよね。
僕も以前は「期待を超える」ができていませんでした。カスタマーサービス部署がまとめてくれた意見を見て「なるほどね、じゃあココ直そうか」みたいな感じで。そうなると、受け取る温度感が全然違います。
でも、それだけじゃダメなんですよね。いま思い出してみると、その頃の自分に説教しに行きたいです。笑
取材協力:JUBILEE WORKS