AppStore「Best of 2016」にも選ばれた、時間を操るシューティング「TIME LOCKER」の開発者さんにお話を聞きました。
※個人開発者の大塚(Sotaro Otsuka)さん
「TIME LOCKER」ができるまで
「TIME LOCKER」をつくりはじめたときのことを教えてください。
もともと「TIME LOCKER」をつくりはじめたときは、ソーシャルゲームの会社で働いていたのですが、自分にとって、おもしろいゲームがつくれる環境ではありませんでした。
3年間も自分を殺していたので、ものすごい「怒り」みたいなものが、溜まっていたんですよ。「自分がつくりたいものはこれじゃない」って。
それで、独立することに決めました。そして、その「怒り」をエネルギーに点火して、つくったのが「TIME LOCKER」でした。
※ゲームシステムは、「SHOOTY SKIES」を参考しつつ、そこに「SUPER HOT」の時間凍結システムを組み合わせた。
「TIME LOCKER」が売れる保証もないのに、独立したのは怖くなかったですか?
独立するのは怖かったですし、今でも怖いですよ。
どうなるかわかりませんでしたが、「失敗したら、再就職して…」というのは、頭の中にはありませんでした。絶対そうはならないぞ、という気持ちでした。
あと、怖い気持ちもありましたけど、逆に「やっと自分の好きなモノがつくれる」という喜びもありました。だから、毎日の作業もたのしかったですね。
「TIME LOCKER」をつくるときにこだわったところはどこですか。
いちばんは「操作感」です、触り心地に繋がるところにはこだわりました。
とくに、タッチパネル上で「指をスライドする速さ」に応じて、ゲーム内の速度が変化していく操作性は、なかなか良く出来たと思っています。
あと気をつけたことは、暴力が嫌いな人が多いから、できるだけ「暴力的な表現」にならないよう、血が飛び散ったりしないようにしました。
それと、ゲーム中の効果音を、基本「ポ」とか「パ」の単音にしました。これは「音」を長くしてしまうと、時間の流れが変化したときに、違和感がでてしまうためです。
「TIME LOCKER」ユーザーのデータ
いま「TOME LOCKER」のダウンロード数はどのくらいですか。
ダウンロード数は、70万ダウンロード(iOS 50:Android 20)に届いたところです。国別でいうと日本のユーザーが一番多いですね。
最近、ダウンロード数が大きく伸びたのは、AppStoreの「Best of 2016」に選ばれて、12月にストアトップでフィーチャーされたときです。
あとは、Android版を出してから、アメリカと韓国でのダウンロード数が、12月にグワーッと伸びました。理由はよくわかりません。
国によって「ユーザーデータ」に傾向がでているところはありますか?
ユーザーの残り方には、かなり差が出ています。とくに、韓国は「アンインストール率」がすごく高くて、すぐにアプリが消されてしまいます。
韓国では、計6万ダウンロードされているのですが、もう1万人しか残っていません。残りの5万人はすでにアプリを消してしまったんです。
逆に、日本とアメリカは、なかなかアプリを消しません。この2つの国では、いまでも全ダウンロード数の、約半数のユーザーが残っています。
想定外だった「日本と海外ユーザー」のウケ方
「TIME LOCKER」を出してみて、意外だったことはありますか?
実は、日本でウケたのがとても意外でした。もともと、海外向けのつもりだったんです。日本人はこのゲームは好きじゃないだろう、とさえ思っていました。
それが結果としては、アメリカ人にはあまり理解されず、逆に日本人にはおもしろがってもらえる、そんなゲームになりました。
どうして「予想と真逆の結果」になったんでしょうか?
おそらく「ゲームがストイックすぎた」というのが理由です。
やっぱり、欧米人って「おれにルールを合わせてこい」なんですよ。なので、欧米であそばれるには、もっと「カジュアルさ」が必要だった。
逆に、日本人(アジア人)は忍耐強いんですよね。だから、与えられたルールが難しくても、自分から努力して「環境」に適応していける。
日本で複雑なソーシャルゲームが成立するのもそう。みんな努力してすぐに学習してしまうから。逆に、それをアメリカで出すと「わけがわからない」と言われてしまう。
なるほど。
もともと、僕は「カジュアルなゲーム」をつくろうとしていて。だから「TIME LOCKER」からもパラメーターを排除するようにしていました。
いちいち「数値」を確認してやるゲームって複雑ですよね。個人的にも「これはドンと爆発するから強い!」とか、それくらいの感覚が好きなんです。
ただ、カジュアルすぎてもつまらないから「サイレントのパラメーター」をつけることにした。つまり、キャラや武器に裏側でパラメーターをつけたわけです。
そうしたら、いつの間にか「複雑なゲーム」に寄ってしまって。結果的に、カジュアルと複雑なゲームの、ちょうど「中間ポジション」のゲームになりました。
もし「リリース前」に戻れるとしたら、変えたいところはありますか?
いまの「キャラの消費制」はやめて、手に入れたキャラをずっとつかえるようにします。
実際、アメリカではその「消費制」が不評なんですよ。たぶん「クロッシーロード型」のゲームが浸透していて、キャラが「自分のモノになる」のが当たり前だから。
僕としては「キャラの性能」が変わる以上は、キャラクターは「消費制」にしないと、みんな同じキャラばかりつかってしまう、と考えていたんですけど。
でも、欧米人的にはそれは好きじゃないみたいだった。おそらく「そこまでゲームをやりこむ気がないから」という理由もあると思います。
マーケティングや収益について
「ダウンロードを伸ばす」という意味で、何かやったことはありますか?
アプリを公開したあと、海外メディアにプレスリリースを送りました。ほぼスルーだったのですが、「Touch Arcade」と「ゲームキャスト」だけは即座に反応してくれて。
初期のころに、AppStoreの8カ国くらいでフィーチャーされたのも、タイミング的にその2つのメディアが、キッカケだったのではと思っています。
ゲーム終了後の「スコア画像のシェア」はうまくいっていますか。
そこそこ「画像のシェア」はされている気がします。つけて良かったと思えるくらいは。
その話でいうと、マーケティングとして感じたのは、やっぱり「白い背景」は良くなかったなあと。なぜなら「スクショ」で切り取ったときに映えないからです。
ツイッターなどでシェアされたとき、メディアで記事をかいてもらったとき、パッと「スクショ」でみたときに、魅力的にみえないんですよ。
だから、どこの瞬間を切りとったときにでも「おもしろそうな画」になるというのは、とても重要なことなんだなと思いました。
※それもあって、ストアのスクショは「ぱっと見」で賑やかに見えるようにしている。
アプリの収益的にはどうでしょうか。
収入でいうと「普通に働いてる人」と同じくらいです。開発費は取り戻して、今年1年はゲームをつくっていく活動費が確保できた、という感じ。
売上の比率は「広告85%:課金15%」というところです。広告は動画リワードだけ。バナーやインタースティシャルは好きじゃないので。
印象に残っている「ユーザーからの感想」はありますか?
嬉しかったのは「ハマって徹夜した」という感想です。逆に、心にズキっときたのは「SUPERHOTのパクリだ」と言われたことです。
自分では「これはインスパイアだ」と自信を持っていましたが、実際に「パクリだ」と言われると、自分は悪いことしてる罪人なんじゃないか、という気になってしまいました。
でも、最近はもう慣れてきました。初期のころは鬱になってしまい、寝込みかけたこともありましたが。
これから「ゲーム開発者」になりたい人に、アドバイスするとしたら何かありますか?
そうですね…「本当に自信がある方」だけやったほうがいいと思います。もう「自分がやらなきゃ」という使命感を持っているくらいに。
それくらいでないと「人から認められるモノ」ってつくれないと思うんです。たぶん「アプリで一儲けしよう」「なんか楽しそう」という根性だと、成功しないんじゃないでしょうか。
あと「最初のモック」は大事です。モックに時間をかけて「これが完成したら超おもしろい」というものができたら、最後まで続けられるので。「TIME LOCKER」もそうでした。
中途半端に「ディテール」から入ってしまうと、頓挫してしまいやすいんです。だから、まずは「超おもしろいモック」をつくることが重要です。
取材協力:Sotaro Otsuka
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編集後記
「TIME LOCKER」開発者さんのツイッターを見てると、ゲームづくりを楽しんでいるのがとても伝わってきます。
もっと面白いゲームつくりたい!
ゲーム作りが好きだ!— 𝙊𝙩𝙨𝙪𝙠𝙖 🤓 (@otsuka_game) January 21, 2017
タイムロッカーの熊はサンタの帽子なんて被らねえ!
クリスマスに迷彩柄のキャラぶっこんでやるから待っててくれよな!!— 𝙊𝙩𝙨𝙪𝙠𝙖 🤓 (@otsuka_game) December 16, 2016