世界の人たちと友達になれるアプリ「Taptrip」を運営している、奇兵隊さんにお話を伺いました。世界150カ国以上で使われるアプリになるまでに、どのようなことがあったのか?
※株式会社奇兵隊のみなさん。一番左上がCOOの森慶太さん。
Taptripについて
Taptripについて教えていただけますか?
森:
「写真を通して、世界中の友だちとコミュニケーションを楽しもう」というコンセプトのアプリです。2012年2月にリリースして、現在約150万ダウンロードという状況です。
なお、発展途上国は圧倒的にAndroidの世界なので、今はAndroidアプリしか出していません。
国でいうとトルコ・イラン・イラクなど中東のユーザーが多いですね。毎日150カ国以上のユーザーがつかってくれています。
※イラク19%、エジプト10%、トルコ6%、サウジアラビア5%、モロッコ5%、リビア4%、アルジェリア4%、パキスタン3%、イェメン3%、韓国2%、日本1%、その他150ヶ国以上。
どのくらいの人数で運営しているんでしょうか?
森:
メンバーは約10人で半分がエンジニアです。日本で運営してはいますが、スタッフの半分は外国人です。中国人、台湾人、ポーランド人、スペイン人、ヨルダン人がいます。
コミュニケーションと世界平和
「外国人と友達になる」というところを、くわしく教えていただけますか?
森:
例えば、「Vini(ヴィニ)」というインドネシア人のユーザーがいます。この子はインドネシアの女子大生です。
「どんな投稿をしているか?」というと、ごくごく普通の私生活の写真を投稿しているんですけど、外国人からみると「インドネシアの女子大生の生活」って見ていて新鮮で楽しいんですね。
そして、ViniはTaptrip上ではすごく人気者で、1投稿あたりに世界中からコメントが50~100くらいついています。
これは、Viniがきちんと全員にコメントを返信しているので、コメントのやり取りをするうちに、みんなどんどんViniのことを好きになって、友達が増えていっているという感じです。
※Viniが写真を投稿すると、世界中からたくさんのコメントが届く。彼女は2年以上Taptripを使ってくれているのだとか。
なるほど。「コメントを送りあう」以外に、コミュニケーションが生まれることってあるんでしょうか?
森:
おもしろいのは「贈り物」をおくりあっているユーザーがいることです。
これもViniの例で説明しますが、Viniは福岡の日本人のユーザーとすごく仲良くなっていて、誕生日や年末年始などに、日本とインドネシアのモノを、お互い送りあっているそうです。
二人は年齢もすこし離れているんですけど、純粋に気が合って友だちになれている。こうした友だち関係が、世界中にできていくサービスにしたいと考えています。
Taptrip上のコミュニケーションは、英語でとるんですか?
森:
自動翻訳がついているので、どの言語でもコミュニケーションがとれるようになっています。
自動翻訳を入れている理由としては、例えば中東やアラビア圏のユーザーって、英語を全く知らなくて、アラビア語じゃないとコミュニケーションがとれなかったりするから。
「先進国だけで楽しむアプリ」にはしたくなかったので、コミュニケーションを成立させるために、アプリのローカライズと、自動翻訳機能は、最初から入れていますね。
テキストではなく、写真をコミュニケーションの軸に置いているのはなぜ?
森:
やっぱり、写真のような「目で見てわかるもの」をベースにしたほうが、コミュニケーションの一歩目が成立しやすいんですよね。
例えば、アフリカ人の家の写真をみると「このアフリカ人の家って、こんな感じなんだ」って、世界の異文化を垣間見たおもしろさがあって、気持ちが盛り上がりやすい。
最近、テレビでも「世界の国、行ってみたらこんなトコだった」みたいな番組は増えていますけど、
「この国ってこうなんだ!」という楽しさから入るほうが、興味を持ちやすいし、「その人と仲良くなりたい」という、コミュニケーション欲求もわきやすいと思う。
※左は「エジプトの砂漠」、右は「モンゴルの夜空」の写真、このような写真がたくさん投稿されている。
Taptripのようなサービスで、世界中でコミュニケーションが成立するようになったら、大きく変わることってなんだと思いますか?
森:
突飛なようですけど、僕は「Taptripは世界平和につながる」と考えています。
例えば、インドネシアのViniのことを考えると、もう僕は絶対インドネシアと戦争なんかしたくないわけですよ。もう外国で起きることが、他人事ではなくなるんですね。
他には「韓国人は日本人のことが嫌い」というイメージが強いと思いますが、韓国人と仲良くなると「ぼく日本、結構好きだよ」って言う人も意外に多いことに気づく。
詳しく聞くと「日本人は好きだけど、日本政府は嫌い」ということだったりもする。でもニュースだと、それは「韓国人は日本が嫌い」という報道になってしまっている。
そうした「偏ったイメージ」は、その国の人と友達になることで、ある程度解消されて、それが世界平和につながるんじゃないかと考えているんです。
中東のユーザーについて
「中東のユーザーが多い」というのは、最初から狙っていたんですか?
森:
そうですね、最初から「途上国を狙っていこう」ということは決めていました。
「日本の主婦と、アフリカの少年がつながる」みたいな、普通に生活していたら絶対つながらない人がつながる「言語・距離の壁を超えるプラットフォーム」をつくりたかったんです。
そして「これからのスマホ人口」で考えると、アメリカよりもアフリカ・東南アジアなどのほうが、ずっと大きくなるので、そこにチャンスがあると考えました。
なので、先進国よりも途上国に、ずっとプロモーション予算も含めてリソースを投入しつづけています。
途上国では、どういうプロモーションを実施しているんですか?
森:
基本的にはグローバルのアドネットワークを使っています。はじめはAdmobをつかっていましたが、いまはFacebook広告を一番つかっていてオススメですね。
ちなみに途上国のユーザーの獲得単価については、試行錯誤の結果、現在はかなり安く獲得できていて、1ダウンロード10円くらいまで下げられています。
中東でアプリを出すときに起きる「特有の問題」って何かありますか?
森:
ありますね、つい最近判明したのは「アプリの通信料が増えると、ユーザーが離れる」という問題。
どういうことかというと、例えば日本のスマホユーザーは、みんな「パケ放題」みたいなのに入ってるから、アプリの通信料ってほとんど気にしないじゃないですか。
でも、中東やアフリカでは、スマホ料金をプリペイドで払っている人が多くて、アプリの通信料が大きいアプリは敬遠されてしまうんです。
Taptripでも実際にそういうことが起きたのでしょうか?
森:
そうです。具体的には「1画面に表示される写真数を増やす」というアップデートをした時に、継続率に悪影響がでてしまった。これって「UI的には正しい改善」をしたはずなんですけどね。
つまり「UI的な良さ」と「環境によるユーザー体験」のバランスを考えないといけない。日本にいると気づきにくい特殊なバランス感覚ですよね。
他にも「写真の画質が上がる」ということも、中東では必ずしも良い改善ではない。画質が悪くても、通信料がすごく少ないほうが、ユーザーは嬉しいかもしれない。
あと当初ハイブリッドアプリでつくっていたのですが、「アプリが遅い」ってレビューをすごい書かれて、フルネイティブアプリにつくりなおしました。
これはFacebookも同様の失敗をしていましたが、通信速度の遅い途上国では、ネット通信が必要なハイブリッドやウェブアプリは相性が良くないのだと思います。
※図はイメージ、もちろんバランス次第。
マネタイズについて。
広告でマネタイズをしているんですよね?
森:
はい、Admobを利用してバナー広告とインタースティシャル広告(全画面広告)を入れています。
インタースティシャル広告は、写真を撮ったあとの「画像のアップロードが終わるまでの間」に入れたら、すごく収益性含めて良かったです。写真投稿アプリでは、鉄板の場所だと思います。
アプリ内でスタンプの販売もされていますが、手応えはどうですか?
森:
マネタイズの柱になる感覚はないですね。やっぱり発展途上国のユーザーは「ポイントを買う」という行動に慣れていなくて、なかなかハードルが高いなあと。
リワード広告のような感じで、途上国ユーザーには、アクションに対してポイントを提供して、お金を払うのは先進国のユーザーという設計にしないと、難しいなと感じました。
ユーザー急成長のきっかけはリニューアル。
そもそも「Taptrip」はどのようにできたんでしょうか?
森:
最初は「世界中の人と仲良くなるには、どうしたら良いか?」を、ひたすらディスカッションしながら、アプリをつくりました。
でも、リリース最初の2年くらいは、全然うまくいきませんでしたよ。Taptripはこれまでに3-4回くらいフルリニューアルをしていて、当初とは機能も大きく変わっています。
今と当初を比べて、大きく変わっているところはどこですか?
森:
最初の1年くらいは「1対1のメッセージ」がメインで、かなり閉じたサービスになっていました。
「この人、気になるな」という人を探して「こんにちは」って話しかけて、お互い承認してマッチングしたら、個別メッセージでやりとりできるというアプリだった。
でも「1対1」って片方が返事しないと終わっちゃうし、仲良くなるハードルも高くてダメでしたね。
それから何度かのリニューアルを経て、ようやくユーザーが伸びはじめたのは2014年の1~3月に「写真のタイムライン」をメイン機能にしたタイミングでした。
「1対1のメッセージ」も一応残していますが、「サブ機能のひとつ」としてつけておく程度にした。
2014年3月の時点では、50万ダウンロードしかなかったのですが、そこから約1年で150万ダウンロードまで伸びました。つまりダウンロード数でみると、60%以上がここ1年での成長ということです。
アプリやサービスをグローバル展開したい人に、アドバイスをおくるとしたら?
森:
ひとつあります。「日本で成功しないと、グローバル展開できない」と思っている人は多いとおもいますが、僕はそれは間違っていると考えています。
自分も最初は「日本で流行らないものは、世界でも流行らないでしょ?」と考えていましたが、実際にやってみた結果「最初から世界を目指すのは可能だ」と確信しました。
むしろ逆に、中途半端なものを日本で流行らせるほうが難しいんですよね。なぜなら、日本人ってモバイルのリテラシーも高くて、すごくユーザーの目が肥えているから。
日本で中途半端なアプリを出すと「ゴミアプリ」「クソアプリ」とすぐ低評価レビューがつくでしょ。ここまで辛口の国は、他にどこにもないと思うんですよ。笑
最初から、思い切って世界にローカライズして出しちゃって良いと。
森:
そうですね。「日本は捨てて、全世界にローカライズしちゃう」くらいの勢いで良い。もう、よくわからなくても良いんですよ、結果なんて読めないんですから。
世界にアプリをだすメリットとしては、日本で流行らなくても、他のいくつかの国で流行る可能性があることです。
とくに途上国って「初めてスマホを持った人」がすごく多くて、彼らにとっては何もかもが新しい世界です。そんな環境にサービスを出すと、想定外の結果が起きることもある。
むしろ「まだ確証が持てない段階のサービス」は、寛容な途上国でサービスを磨いてから、日本でチャレンジするほうがカンタンかもしれないですね。
最後に告知などがあればお願いします。
森:
Androidアプリのエンジニアを募集しています。いま人数が足りないので、世界150ヶ国以上で使われているアプリの開発に興味がありましたら、ぜひよろしくお願いします。
採用ページ:The world is closer! Androidエンジニア 募集!
取材協力:株式会社奇兵隊
編集後記
Taptripでぜんぜん知らない国の(アゼルバイジャン、コンゴとか)写真を見ていると、普通におもしろいです。海辺でコンセント刺してたり、銃を持っていたり、普通に馬に乗っていたり。
彼らからすると当たり前なんだろうけど、なぜか感動する写真とかもけっこうある。