※本記事はnoteにて公開した記事を転載したものです(2022年7月22日)数値などは取材当時のものです。
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累計3,300万ダウンロードの「逆転オセロニア」を取材しました。
※株式会社ディー・エヌ・エー 「逆転オセロニア」プロデューサーの香城卓(けいじぇい)さん
「逆転オセロニア」について教えてください。
けいじぇい:
2016年から運営している。オセロをベースにした対戦ゲームのアプリです。累計ダウンロード数としては、3,300万DLに到達しています。
僕たちは「コミュニティドリブン」と呼んでいるのですが、コミュニティをベースにタイトルを運営することを、とても大切にしています。
ホスピタリティやコミュニケーションを重視していて、約50名のスタッフで運営していますが、リーダーポジションは女性が80%を占めています。
※「オセロニアンの祭典」というイベントでは、いろんな角度からコミュニティを表彰している。
コミュニティ起点での「急成長」はどう起こったか
初期はどのように「タイトル」を育てていきましたか?
けいじぇい:
2016年の初期は、日本全国を回りながらイベントを開いて「オセロニアン」と呼ばれるプレイヤーたちの、コミュニティをつくり続けました。
イベントといっても予算がなかったので、ネットカフェの小さなスペースをお借りしたり「本当にここに人が来るの?」という場所でも開催しました。
毎回人も集まったわけではなく、仙台のイベントでは参加者が女子高生1人。スタッフと1人のプレイヤーが、4時間ずっと話すイベントもありました。
あとは参加者に「お土産とお手紙」をお渡ししたり、そういう費用対効果で測ってしまうと「やるわけないよね」ということを続けて、本当に少しずつコミュニティをつくっていったという感じです。
※2016年の大阪イベントの様子
そこからどのように「急成長」していったのでしょう?
けいじぇい:
転換点になったのは、2016年末に「大型プロモーション」を実施したこと。このときに予算規模からすると、本当にびっくりするくらいの成果が出て、実際にアクティブユーザーが6倍に成長したんです。
何が起きたのかというと、日本各地に出来ていたコミュニティのみんなが、「俺たちのオセロニアがついにきたぞ!」と、ものすごく熱量を乗せた発信をSNSでしてくれたんですね。
すると今度は、その熱を嗅ぎつけたゲーム配信者の方々が、「このゲームは次に波が来そうだな」と、オセロニアの動画をバーっと上げてくれて。
さらに、動画をみた視聴者も「このゲームは流行りそう」と思ってくれて、そこから一気に流れが出来ていった、と僕は分析しています。
どうしてここまで「大きな反響」になったのでしょうか。
けいじぇい:
根本にあったのはコミュニティです。はじめに小さくても「本物の熱量」をつくって、発信しやすい土台をつくったのが、よかったのかなと。
ゲームが広がるためには「一定の発信」が必要です。その発信を後押しするのは何かというと、コミュニティによる「心理的安全性」だと考えていて。
今って「これが好き!」と宣言しづらい時代だと思うんです。「お前何言ってるの?」と叩かれたり「違うよその意見」と言われてしまったりする。
なので、やってる人がいるかわからないゲームより、「このゲームを好きな人が多くいる」とわかっているゲームのほうが、好きを宣言しやすい。
また「自分は”このゲームが好きな人”がたくさんいることを知っているよ」という状態のほうが、好きを宣言するハードルは下がると思います。
だからこそ、イベントでプレイヤー同士をつなぐ、自分と同じ気持ちの人がたくさんいることを知ってもらう、コミュニティがとても大事なんです。
つまり、コミュニティには、マーケティングの力を拡大する「バフ効果」があると考えていて、僕らは事業の核としても捉えているんですよ。
知り合いができると、一瞬ゲームから離れても「友達が盛り上がっている」という理由で、ゲームに戻ってきてくれる効果もありますね。
でも、こういうと美談っぽく聞こえますけど、はじめは理解者0でしたね。はじめの1年は売上などは低迷していたため、このままだと「サービス終了」に追い込まれてしまうような状況でした。
でも、コミュニティが育っていて、こういうメカニズムでドミノが倒れはじめる可能性がある。だから1回やってみませんか?ダメなら何も言いません。と会社を説得して大型プロモーションに挑戦しました。
どうして「コミュニティをつくれば成功するはずだ」とはじめから自信を持てたのでしょう?
けいじぇい:
僕らは苦しくても「最初はローカルコミュニティを攻めよう」と決めていたのですが、そのヒントになったのが当時のMOBAなど、海外オンライン対戦ゲームのカルチャーです。
具体的には、初期に僕らと同じくファンがいないときに、いろんな街で運営が大会を開いていたそうなんですよ。
それも、よくある「ニューヨークで大会やるから。じゃあみんな来てね!」ではなくて「みんなの住んでいる街まで、運営が足を運びますよ」という、真逆のコンセプトでやっていたんですね。
そうすると何が起きるか。「僕の街にもこのゲームやってる人がいたんだ」となりますし、人と人のつながりが生まれます。それはやがてローカルの街での「コミュニティ」になっていきます。
もし「コミュニティがない」状態で、プロモーションをしていたら、どうなっていたと思いますか?
けいじぇい:
初期にコミュニティの「種まき」をしないで、大型のプロモーションを実施していたら、オセロニアはあっさり終了していたと思います。
やっぱり対戦ゲームって、主人公は「キャラクター」ではないんですよね。主人公は「プレイヤー自身」なんですよ。遊んでいる人が主人公。だから、主人公の周りに「背景や人間関係」がないと、これは面白くならない。
面白いゲームをつくろうと思ったら、主人公にキャラ付けしたり人間関係があって、そこにストーリーをのせる。この構図にするじゃないですか。
コミュニティをつくるというのは、そのストーリーや背景の部分なんです。プレイヤーが、どんなコミュニティを形成して、どんな事件があったか。
オセロニアというゲームは、ゲーム自体の面白さが半分、そして残り半分はプレイヤーである「オセロニアン」がつくっていると考えています。
その半分に手を加えずに宣伝だけしても、「魅力の50%」で勝負することになるので、すぐサービス終了になっていたと思います。
「コミュニティの有効性」というのは、感覚ではわかるのですが、データでの証明はできるのでしょうか?
けいじぇい:
そうですね。実は定量的にも分析していて。「イベントに来てくれた人」のグループが、その後にどのようにゲームを遊んでくれているかを分析したことがあるんですね。
同じような時期にはじめて、リアルイベントに参加した人をA、参加しなかった人をBとしたときに、半年後にどれくらいゲームが進行したか。
これにはすさまじい差が出ていて、継続率には「約20%の差」が出ました。いかにゲームを通じて「知り合い」ができた体験や、このゲームを好きな人が多くいると知った体験が、プレイヤーの行動を変えるかがわかります。
リアルのつながりが「ゲーム内の指標」を押し上げたのは本当に印象的で、どんな機能開発よりも劇的な効果がありました。
※イベント受付時に「ゲーム内のID」を読み込むことで、その後の継続率などを分析できる仕組み。
2017年以降の「オセロニア」を振り返るとどうですか。
けいじぇい:
2017年からは、急成長がはじまりました。(オリジナルIPアプリとしてDeNA初の「月商10億円」を2017年に突破した)
2018年は設計をミスってしまい、強すぎるキャラを出してしまったことで、対戦環境が乱れてしまいました。今でも引きずってる部分でもありますが、それを「取り戻す期間」だったのが2018年と2019年。
2020年から、過去最長となる「公式ファンミーティング」の全国ツアーも予定していましたが、緊急事態宣言などの影響で延期になってしまいました。なので、2018~2021年は薄い低迷期だったのかなと振り返って思います。
ただアクティブユーザーは崩れていなくて、2022年からはリアルイベントも復活するので、またここから頑張っていくという感じです。
コミュニティを形成する「イベント運営」3つのコツ
イベントのコツ①「交流を強制しないこと」
けいじぇい:
僕らが重視するのは「強制しないこと」です。「じゃあ、前の人と友達になってください」とやってしまうと辛いので。場はつくるけど強制はしない。
数字を目的にするのも良くない。「何人友達ができたか」を指標にすると、表面的にでも「友達ができる仕組み」を考えてしまいます。
でも人間関係って「あの人は話しかけやすそうだな」とか「自分とノリが近そうだ」みたいに、数字では測れない心理からはじまりますよね。なので、あくまでキッカケづくりに留めています。
例えば「初めて来た人」には、初参加だとわかる「リング」をお配りして、「あの人も初めて来た人なんだ」と、周りからわかるようにしたり。
イベントのコツ②「同じ場所で続けること」
けいじぇい:
同じ場所で続けることも大事です。「今回は仙台、次は盛岡です」と広げていくことも大事ですが、仙台の2回目、3回目と続けることでコミュニティの拠点づくりをしていくことが重要です。
何度もやると「常連さん」が増えますし、場所に対して「あのときこうだったよね」という思い出が蓄積されて、情緒的な価値が高まります。
もちろん「人数」を伸ばすなら、大きな街でやったほうがいいです。でも、同じ地域で続けるほうが、そこにコミュニティができていくんです。
例えば、その地域で「打ち上げ」をやってくれる幹事が出てくる。すると、イベント参加後の「打ち上げ」で仲良くなるという流れも生まれます。
そういう人は、情報発信もしてくれるので「こんな人が参加するんだ」と、初見参加の「心理ハードル」を下げることにもつながります。
イベントのコツ③「各地でたくさん開催すること」
けいじぇい:
大きなイベント1回よりも、小さなイベントをたくさんやる。そのほうが各地で「コミュニティの芽」が生まれるので、遥かに意味があります。
2,000万円の予算があるなら、大型のイベントを1回やるよりも、200万円の予算で10回のイベントを、地方を回りながらやるほうが良い。
10都市分、その街に「自分以外にこんなにオセロニアンがいたんだ」という体験をつくったほうが絶対に良いからです。
あとは、オープンな空間よりも「クローズドな空間」でやる。ここにいるのは「みんながオセロニアン」という空間をつくることが、参加者の心理的な安全性を高めます。
ちょっとした会議室でもいいんです。友達になったり発言するときに、ここにいる人は「自分と同じ理解」を持っている、という場にしたほうが良い。
SNSコミュニティが「クローズド化」している
コミュニティを見ていて「最近変わってきているな」と感じるところがあれば教えてください。
けいじぇい:
コミュニティを見ていると、今みんな「オープンな場所」から出ていって、クローズドな場所に移っているのは、外していない視点だと思います。
SNSで「俺らの中では大丈夫」な発言でも、外から見ると「いかがなものか」と許されない可能性があるので、どんどん閉じていっている。
なので、今もっとも濃密なトラフィックがある「居心地の良い場所」って、SNSのタイムラインではなくて、おそらくDMやDiscordなどのグループチャットなんですよ。
10代の人ともよく話しますが、彼らは積極的に「ミュート」を使います。自分の価値観に合う人たちの意見が、自然と自分のタイムラインに集まるように振る舞うのです。
あと、YouTubeライブで公式配信を見るよりも、それをミラーリングして「仲間だけで盛り上がろう」という人も増えている感覚もあって。
だから「同時接続数」とかで僕らは喜んでいますが、これは本質的じゃないかもしれないなと。コミュニティの中には「測れない数値」があって、そっちが本質かもしれないなとも思うんですね。
こうした「見えない数値」を信じる強さは、今後のゲーム運営にとくに必要になってくるのかなとも考えています。
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【取材協力】
株式会社ディー・エヌ・エー:https://dena.com/jp/
逆転オセロニア:https://othellonia.com/
プロデューサーのけいじぇいさん:https://twitter.com/kejellonia
【告知】もし「逆転オセロニア」が気になった方は、オセロニアの裏側がわかる運営チームのnoteなども、ぜひ覗いてみてくださいとのこと。
https://note.com/othellonia
※続きのマニアックな事例は5つほど、note購読者向けにまとめています。「コミュニティ形成」に貢献した機能、効果が高かったプロモーションの訴求軸、コミュニティの形成につながるイベントコンテンツ、などご興味あればご覧ください。
https://markelabo.com/n/n622d6b39176e