フォトブック作成サービス「ノハナ」を運営している株式会社ノハナさんにお話を伺いました。ユーザーインタビューでわかった「ビニール袋」の意外な重要性、値上げをしたほうが有料率が上がった話など。
※株式会社ノハナ代表の大森 和悦さん。
当初は「フォトブックサービス」をやる予定ではなかった。
「ノハナ」について教えていただけますか?
大森:
月1冊まで無料のフォトブック作成アプリです。現在80万ユーザー(ダウンロード数ではなく会員登録ベース)で、毎月15万冊のフォトブックを発送しています。
OSについてはiPhone:Androidが6:4、ほぼスマホでタブレットユーザーは5%くらいですね。
どんなユーザー層にどのように使われているのでしょうか?
大森:
7割ぐらいは「お母さんが子どもの写真を記録する」という使い方です、特に0歳児のお子さんがいるお母さんが多い。
フォトブックを購入ユーザーの属性を見るとほとんど女性、年齢でいうと30代が多いです。子どもが生まれて「成長記録をつけたい」というニーズはすごく強いと感じます。
ノハナが出来た経緯を教えていただけますか?
大森:
ノハナは元々ミクシィの新規事業として始まっています。
当時はSNSのmixiが屋台骨という時期でしたが、そこに海外のソーシャルメディアが台頭しはじめている時期でもありました。
そこで新しい事業の柱になる新規事業を立ち上げようと、「社内起業制度」のようなものが出来たんです。その制度に応募してGOが出て、ノハナが立ち上がったという経緯です。
なぜ「フォトブック作成サービス」になったのでしょうか?
大森:
実は当初「家族内だけで使えるSNS」のようなサービスを考えていて、モックアップをつくってお母さん方に見せたところ「まあ、使うかもね」とコンセプトの評価はしてくれた。
でも「お金を払ってまでは使わない」とも言われました。
それで「逆に、何に困ってますかね?」と聞くと、口を揃えて「子どもの成長記録を紙に残したい」と言っていた。
やっぱりスマホが普及して子どもの写真をたくさん撮るんですけど、結局スマホにデータのまま溜めたっぱなしになってしまっていたんです。
そういうニーズを発見し、フォトブックのサービスに方向転換しました。
あとは「インパクトをださないと急成長は臨めない」と考え、「毎月1冊無料」という特徴をつけて差別化しました。
WEB完結ではなく、実物があってのフリーミアムモデル(無料+追加課金)って珍しいですよね?思い切った部分はありましたか。
大森:
はい、チャレンジでしたね。当初は「有料で買ってくれる人もある程度いるだろう」と予測していたのですが、これが予想外に少なくて「まずいな」という時もあった。
ただ少しずつ改善も続けて、有料購入率も右肩上がりで増えてきています。
最近は、有料オプションで光沢感のある紙に変更できるプランを入れたり、ビジネス的にも少しずつ明るくなってきています。
4月に小さく値上げをしたとおもいます。それを見ると社内ベンチャーっぽくありながら、短期での収益化も目指しているのかなと感じました。
大森:
短期的に大きく儲けていこうとは思っていないのですが、値下げ前の段階では毎月赤字になっていたので収益構造の改善は必要でした。
ただ、元々90円だった送料を150円にしたとしても、そこまでユーザー数は減らないのではという予測もしていました。
結果としては、不思議なことに値上げをしてから、有料で(2冊目以降の)フォトブックをつくってくれる人が増えたんです。
元々送料が90円で2冊目が500円と、90円と500円でけっこう差があるイメージですが、これが150円と500円になったことで2冊目購入の心理的ハードルが低くなったのかもしれない。
アプリの運営やユーザーインタビューについて
アプリの運営面で、うまく何かを改善できた例はありますか?
大森:
ノハナは「毎月1冊無料」ということで、月末に注文が偏るんですよ。月の注文の約3割が月末の数日に集中する。そうすると工場がパンクしてしまうので、なるべくそれを前倒したい。
今やっているのは、プッシュ通知で注文を分散させること。
毎月1日に「無料期間また始まりました」「今月も作り始めましょう」と通知して、20日に「もうすぐ月末ですよ、早めに注文しないと月末は混みますよ」と通知、そして25-28日ぐらいにメールでも告知をしています。
メールに関しては「その月に1枚以上、写真をアップしている人」だけに対して「○○様、つくりかけのフォトブックがありますが、ご注文はお忘れではないですか?」という感じで送っています。
ノハナのユーザーはスマホリテラシーが高くないと思いますが、その点で何か苦労したことはありますか?
大森:
基本操作でつまずく方はいらっしゃいますね。「写真の並べ替えがわからない」「表紙の写真の変え方がわからない」とかは、よくお問い合わせいただきます。
ただ、会員登録したユーザーの半分以上の人はフォトブックの注文が1回以上できているんです。普通のフォトブックアプリだと10-20%程みたいです。
当然ノハナの場合「無料だから頑張ってつくる」というのはあるのでしょうが、シンプルには出来ているかなと思います。
ユーザーインタビューもよくやるのですか?
大森:
はい、普通にインタビューもしますし、「会社見学会」を企画して一緒にお茶を飲みながら意見を聞いたりします。平均すると月1回ぐらいは何かしらやっています。
やはりコアユーザーである「赤ちゃんが生まれたばかりのお母さんの気持ち」を常にキャッチアップしていかないと、つくり手として違う方向にいってしまうので、ユーザーの声を聞くことを大事にしています。
あと、フォトブックを毎月無料でくばっているので、お客さんもすごくノハナのことが好きなんです。
サービス改善のアンケートをメールで流すと、10-20%ぐらいの人は戻してくれる。10万通ぐらい送ると1万通ぐらいすぐ戻ってきます。
ユーザーインタビューで印象に残ってることはありますか?
大森:
フォトブックを小っちゃいビニール袋に入れて送るのですが、そのビニール袋をすごく皆さん大切にしていたことです。
「ビニール袋を売ってほしい」という意見まであったのはびっくりしましたね。
ノハナのフォトブックは安さを売りにしているので「汚れたらまた買い替える」くらいの感覚だとおもっていた。しかし、お客さんとしてはやっぱりキレイに保存したくなるみたいです。
そのビニール袋は1枚数円するので、一時期コスト削減でなくそうかなとも考えていたのですが、そういうユーザーの声を聞いてしまったら、やめられないなって。
※この包装のビニール袋をみんな大切にしていたとのこと。画像はDIMEさんより。
「ノハナ」がゴールデンのテレビ番組で紹介されたワケ
ノハナはどういうふうにユーザーが増えていっているんですか?
大森:
基本はクチコミですね。あと、去年の夏から秋ぐらいにかけてテレビのゴールデン番組に何本か出たのですが、1日に約10万人のお客さんが増えたのは大きかった。
その後もノンプロモーションで、毎月3〜5万人ずつくらい増えているという状況を考えると、テレビでノハナを知った人が周りにクチコミしてくれているのかなと思います。
例えば、ママ友が遊びにきたときに「なにそれー?」「え、無料でつくれるんだ」みたいに、実物をみて話題にだしたりするじゃないですか。そういうケースが多いのかなと感じています。
ゴールデンの「深イイ話」で紹介されていましたよね、広報というか何か仕掛けたことはあるのでしょうか?
大森:
よく「いくらでテレビ出たの?」と聞かれるんですけど、あれは全く仕込みじゃなくって。ほんとにある日突然、テレビの制作会社から連絡があったんですよ。笑
なので、しっかりと芯のあるプロダクトを提供して、熱狂的なお客さんが一定数ついてくれたっていうのが、テレビの露出につながったのかなという感想です。
※テレビ放送時のダウンロード数は以下の記事にまとまっています。
・App Storeで1位を獲得した「ノハナ」のTV放送前後のダウンロード数推移を公開
「ノハナをやっててよかったな」と思う時は、どんなときですか?
大森:
自分の家族が喜んでくれているのが一番嬉しいですね。
子どもが毎月のフォトブックが届くのを楽しみにしているのを見たり、外出して写真を撮ると「これフォトブックにしてね」って言ってくれたり。
ノハナは「世の中にないものを生み出す」というタイプの事業ではないですが、日本の多くの家族がノハナのフォトブックがあることで幸せになってくれるとしたら、それこそGoogleやAppleに負けないくらいの価値が提供できると考えています。
今後の目標などはありますか?
大森:
目標は今の月間のフォトブックの15万冊という部数を、1500万冊にしたいです。
日本で子育てをしてる世帯は大体500万世帯あるんです。僕らの考え方としては、子育てをしてる家庭が自宅に1冊、お父さんの実家に1冊、お母さんの実家に1冊で、計3冊買ってほしい。すると1,500万冊になるんです。笑
まあそんな単純計算にはならないのですけど、それぐらい高い志を持ってやっていきたいです。
取材協力:株式会社ノハナ
編集後記
「値上げしたほうが全体の売上が上がる」という不思議な話は、「客層が上がる」「心理的なハードル」の2つの要因があるのかなと思いました。
ちなみに通販なんかでも、例えば化粧品の「お試しサンプル」を100円で売るより、500円で売っておいたほうが、その後の売上に良い影響がでることもあるそうですね。
今後は、「ノハナ」ブランドでの別サービス展開も進めいかれるようで、つい最近「ノハナ年賀状」というスマホで年賀状がつくれるアプリもリリースされたとのこと。