名古屋で戦いつづけている、個人アプリ開発者さんを取材しました。
※個人アプリ開発者の、伊与田貴司(Takashi Iyoda)さん。
年収15万円、6年間の貧乏アプリ開発
簡単に自己紹介をお願いします。
伊与田です。名古屋で6年ほど、アプリをつくっている個人開発者です。アプリで独立する前は、いろんな会社で働いていました。
月400時間はたらいて、年収300万円という、システム開発会社で働いたこともありますし、コンビニの店長やったこともあります。
そんな伊与田さんは、どうして「アプリ開発」で独立しようと思ったんですか?
もともと、独立するつもりなかったんですよ。ひとつ前の会社で「これからずっと営業」と言われて。それで、技術がやりたかったので、やめてしまいました。
そのとき、iPhone3GSが出ているのを見て、「これは自分でもつくれそうだ」と思って、アプリ開発をはじめたんです。
それで、なんとなくアプリをつくりはじめたら、食べれるようになったんでしょうか?
いや、食べれてないですよ。独立して6年くらい、貯金をつかって暮らしています。ほとんど収入がないので。貯金も1,000万円くらい、消えていますね。
もうないです、お金ないんですよ。いままで20アプリくらいだしましたけど、ここ最近の収益なんて、月2,000〜3,000円ですから。
とくに最初の1〜2年はひどくて、収入も月に数百円レベルでした。 2014年は11本アプリを出しましたが、合計1万円にも届きませんでしたね。
貯金していた1,000万円をくずしながら、6年間も生き抜いてきたんですか。
そうです。だから、ずっと月10万円くらいの節約生活です。独身で一人暮らしだから、なんとか。いま45歳なんですけどね。自炊もはじめて、友だちの誘いもほぼ断って。
冬の食事は、鍋に鳥肉(58円)と白菜(128円)に、「ほんだし」入れて終わり。これを毎日食べています。あと、ときどきエノキダケ。
外食については、月に1回「かつや」に行くくらいですかね。100円の割引券をつかって、400円でカツ丼を食べる。これが月1の楽しみ。
いままでつくったアプリの売上はどのくらいですか?
20アプリだして、累計80万円くらいです。だから、独立してからの平均年収でいうと…年収15万円レベルということです。現実は厳しい。
ここまでくると、管理画面も、見る気にならないですよ。どうせお金入っていないですし。見てもしょうがないから。笑
比較的「うまくいったアプリ」というのはありますか?
「ソード&ドラゴン」というゲームは、中国のAppStoreで、1週間フィーチャーされたおかげで、広告収益が5万円ほどになりました。
あと、一番うまくいったのは「ガチャニャン」というアプリ。これは自信作で、約5万ダウンロードで、60万円ほどの収益になりました。
ほかのアプリは悲惨です、1アプリ数千円いけば良いほう。20アプリつくってもこれなので、もうどうしたらいいかわからないですよ。
アプリコンテストに応募し、奇跡の優勝を果たす。
どうして「アプリコンテスト」に応募しようと思ったんですか?
それなりに、高いクオリティのアプリは、つくれていると思ったので、「ユーザーに見つけてさえもらえれば、評価されるはず」と考えました。
それで、コンテストを探していて、たまたまFacebookで見つけた、AppLovinという会社が主催する、「Apple TV」のアプリコンテストに応募しました。
コンテストはどのように進むんですか?
とりあえず、WEBでエントリーをするんです。そのときは「ダンジョンタイルズ」というパズルゲームをつくって、エントリーしました。
それで、結果を待っていたら、ある日「あなたは10人のファイナリストに選ばれました」とメールが来て。
※コンテストにだしたパズルアプリ「ダンジョンタイルズ」
すごいじゃないですか。
それで「決勝戦はサンフランシスコでやります」と言われて。つまり「決勝やるからアメリカまで来てくれ」ということですよね。
でも、あれですよ。ぼくお金ないじゃないですか。旅費は自腹ですから。もし、賞金とれなかったらヤバイと。だから、すごく迷いました。
「コンテストの賞金」はいくらだったんですか?
ぼくが応募した「オリジナルアプリ部門」は、1位 250万円(25,000ドル)、2位 50万円(5,000ドル)、3位 10万円(1,000ドル)でした。
だから、最低でも3位に入らないと、サンフランシスコまでの旅費が回収できない。
※AppLovin社の「Apple TV App Challenge」というコンテスト。
なるほど、結局いくことにしたんですよね?
そうですね。なんとか節約して。アメリカ滞在中も、5ドルのタコスを、ちょっとずつ食べたり、空いたペットボトルを水筒代わりにしたり。
なんだかんだ、旅費は10万円くらいかかりましたね。
決勝戦(ファイナル)はどのように行われたんですか?
決勝については、ブースに「デモ」を置いておくと、審査員が5〜6人歩いてきて、質問してくるんですね。それに答えるような形でした。
結果発表のときはどんな気持ちでしたか?
結果発表のときはですね、「きっと、7〜8位だろうな」と思っていました。周りのアプリのグラフィックのクオリティが高かったので。
3位、2位と発表されて、「やっぱりダメか…」と思ったら、1位「ダンジョンタイルズ」って書いてあって。ウソでしょ?って思いました。
ぼく、いままで「運」のない人生を送ってきていて。人生で勝ったことがないんです。小学校からこれまでずっと。なんの賞もとったことない。
だから、びっくりしましたね。「ダンジョンタイルズ」は操作性のシンプルさが、評価されたようです。基本「スワイプ」だけで遊べるので。
※コンテストに優勝したときの写真(2016年 4/17)
「ダンジョンタイルズ」をつくるときは、どんなことに気をつけましたか?
やっぱり「操作性」ですかね。「Apple TV」のコントローラーって、最初にさわったところがゼロ、そこからどれだけ移動したか、という仕様なんですよ。
つまり、キャンディクラッシュみたく、「どこを」っていうピンポイントの操作が難しい。そういう特徴を踏まえて、ゲームをつくりました。
あと、TVアプリらしさを出すために、「二人対戦モード」も入れました。リビングには「二人以上」でいることのほうが多いと思ったので。
なるほど。
iPhoneのアプリって、毎日2,000も出ているんです。それに比べて「Apple TV」って、まだ計5,000アプリほどしかない。
だから、個人にもチャンスがあると思います。今回、優勝できたのも、競合が多くなかったから。あと、審査員がたまたま気に入ってくれたから。それだけです。
コンテストで優勝すると何が起きるのか。
コンテストで優勝したら、何か変化はありましたか?
親が「アプリ開発」という仕事を、わかってくれました。6年間ずっと「なに遊んでるんだ、はやく働け」って叱られていたんですけど。
いままでは、アプリのこと説明しようとしても、見てくれなかったんです。うちの親は80歳くらいなので。それが何なのかさえ、わからないからですよね。
それがようやく、アメリカのサンフランなんとかシスコにいって、チャンピオンになって、250万円もらった、となって認めてもらえた。
父親に「優勝したよ」って連絡したら、「おめでとう、帰ったら祝勝しようか」と、はじめて言ってもらえました。
なるほど、それは良かったですね。
あと、Facebookですかね。Facebookに「いいね」がたくさんつきました。
いままで、ぼくのFacebookには「いいね」が、ほとんどつかなかった。つくったアプリの動画をアップしても、ほとんど反応がなくて。
ところが、「優勝しました」と写真を投稿したときには、「110いいね」もついたんですね。コメントも40くらいつきました。
人生ではじめて「ちはほや」されてみてどんな気分でしたか?
まあ、そうですねえ…「ありがとう」っていうだけですかね。もう「現実の厳しさ」が体にしみついてるので、浮かれてる余裕がないんですね。ちょっと冷めすぎていますかね。笑
なぜアプリ開発をつづけるのか。
どうして6年も「どん底の貧乏状態」で、アプリ開発をつづけてこられたのでしょうか?
なんでしょうね、単純に「仕事」だと思っているので。ヒマがあるなら、つくらなきゃって。それだけです。それで、ずっとつくり続けてきました。
楽しいときですか? あんまり楽しいときもないですね。もう苦痛ばっかりですよ。開発しているときもつらいですから。
もともと、ゲームもそれほど好きではないですし。実はマリオやドラクエでさえ、やったことないんです。
アプリ開発をやめて「あたらしく、つぎのことをやろう」とはならないんですか?
うーん、「つぎのこと」をはじめるのは怖いです。いままでの蓄積がゼロになるし。つぎにいっても、うまくいくかわからないじゃないですか。
たぶん「損切り」できない性格なんですよ。だからずーっと、ズルズル続けちゃうんですね。
伊与田さんみたく「アプリで独立したい」という人がいたら、なんてアドバイスしますか?
あっ、ふつうに「やめたほうがいい」と言いますね。ご覧のとおり、まったく成功してないので。人にオススメなんてできないですよ。笑
正直、あまり個人にはチャンスを感じないです。でもヒットしてる人もいるんですよね。それは知りたいんですよ、どうしてなのかは。やっぱり「運」なんですかね?
今後について「意気込み」を聞かせてください。
この「ダンジョンタイルズ」に賭けています。このチャンスを逃したら、一生ヒットしないかもしれないので。勝負のアプリですね。
そもそも結果がでないと、再就職できるかもわからない。いま45歳なので。これを逃したら、もう終わりかもわからないですね。
※「ダンジョンタイルズ」は、6月にスマホとTVアプリで、リリース予定とのこと。
取材協力:iyoda