本日はエキサイトさんの「週刊Dモーニング」のインタビュー記事をお送りします。実はスマホの黎明期からアプリ事業に挑戦されている会社です(累計100本以上リリース)。
エキサイトでアプリ事業を行っているメンバーのみなさん。
(※左から池村さん、岡田さん、小島さん、永田さん)
エキサイトについて
いつ頃からアプリ事業を行われていますか?
5年くらい前からやっていて、2009年の2月にはじめてのアプリをだしました。iPhone 3Gが日本で発売されてから半年後くらいですね。
当時は、特に日本人にとっては旧来の携帯電話と比べてもスペック的に劣るということもあり、ネット企業のなかでもiPhoneがヒットするのか未知数という時期でした。
そんな中、社内で「これは未来のデバイスだ」と言う人が何人かいた。そこで「試しにアプリをつくろうか」とつくったアプリが「Excite Bit コネタ」(iOS)。
このアプリは当時PC向けに提供していたエキサイトニュース内で人気のB級ニュースコーナーを、iPhoneで読めるようにしたニュースリーダーアプリです。
最初はゲリラ的に2人で「とりあえずつくっちゃえ」でしたが、徐々にチームを大きくしていって現在のチームメンバーは13人です。
これまでに、エキサイトさんではどのくらいのアプリを出してきましたか?
アプリの数で言うと累計120~130アプリです。(※運営停止したものもあり現在は100を切っている)ダウンロード数は累計1,000万DLを超えています。一番DL数で多いのは「エキサイト英語翻訳」(iOS/Android)というアプリですね。
特徴としてはゲームはやらずに、生活の中でつかわれるアプリに絞っています。人の生活を楽しく便利にしたり、自然に生活の中にはいってくるようなアプリをやろうと。
スマホ黎明期にレシピアプリを出したり、「おとえほん」(iOS)という絵本の読み聞かせアプリも、絵本アプリとして最初の5本に入るくらいのタイミングでリリースしました。
最近の話だと「おとえほん」は2013年のiTunes 12 DAYSに選ばれたのですが、その時は、1日で32万ダウンロードくらい伸びました。
社内の理解を得るのは大変だったのではないか、売上があがらないなかでどうやって人員を増やしていったのか?
大変でしたね。収益もほとんどあがらなかったです。
当時、実はiAdより先にiAdのようなアプリ内エキスパンド広告サービスを商品化して、モバイル広告系のアワードにエントリーしたことがあったのですが、事務局から「ちょっとまだスマホはなんともいえないので審査できません」と却下されたりとか…そういう時代でした。笑
続けられたのは初期の黎明期にランキング1位をとれたことがあったのが大きい。一番最初にApp Store無料総合1位をとったのが「エキサイト英語翻訳」のアプリで、スマホが伸びるかもしれない予兆が出始めた頃に1位という結果を出せたので、逆にその情報をエキサイト社内に還元して啓蒙していました。
スマホの普及の歴史を見てきたエキサイトさんからしてユーザー層の変化は感じますか?
岡田:
それはかなり感じますね、2009年当初はiPhoneユーザーも男性ばかりでしたし、一言で言うと「やっと普通になってきた」という感じがします。
今後ようやくこれからという段階だと思うので、ここまででいろいろ試せたというのは良かったなと思います。
「週刊Dモーニング」の話-業界初、マンガ雑誌をアプリでも同時配信にチャレンジした結果…
「週刊Dモーニング」はどんなアプリですか?
小島:
週刊漫画雑誌「モーニング」をスマホやタブレットで読むことができるアプリ(iOS/Android)です。紙の発売と同時に読めるのが特徴です。2013年5月から、週刊モーニングを出版している講談社との協業ビジネスとしてスタートしています。
紙の雑誌は1誌330円なので毎週買えば平均して月1300円くらいになりますが、
アプリ版の「週刊Dモーニング」では月額500円で提供しています。
ほぼ全ての作品がアプリで毎週読めるだけでなく、アプリ限定での読み切り作品も配信しています。現在でも週刊漫画雑誌がアプリでも同時に読めるサービスは週刊Dモーニングだけですね。
プロジェクトメンバーは、エキサイト側ではエンジニア・デザイナーなど全員で10名弱くらい、講談社側はモーニング編集部とデジタル系の部署に携わっていただいています。
月額500円という値段は思い切りましたね、値段設定はどうやって決めたのですか?
小島:
モーニングの編集部から「500円でいこう」と提案がありました。紙の1200円より安くしようとは考えていましたが、半額以下というのは想定していませんでした。
ユーザーが買いやすい金額で、ひとつのアプリとして違和感のない価格が500円だったというのが大きな理由です。
岡田:
実は競合は、ゲームやニコ動などになると思うんですよね。
そこで、ユーザーから見たときに「スマホでいくらまでお金を払うか」という観点で考えると、「スマホやタブレットでユーザーが払う金額って月500円くらいじゃない?」という感じで、モーニングの編集長がすごくユーザー側にたった判断をしてくれた。
アプリ版を安くすると紙の部数が減ってしまうのでは?
小島:
結果的には、アプリを出したことによる紙の部数の減少傾向はほとんど見られなかったんです。
それに関しては嬉しい誤算でした。
つまり、紙から離れていく、もしくは離れていたユーザーをアプリを出したことで拾えているということですよね。元々こぼしていた可能性のあるユーザーを拾えていると考えると、とても順調に進んでいると考えています。
岡田:
アプリで読んでくれているユーザーって、昔モーニングを読んでいて辞めてしまった人はもちろん、まったくモーニングを知らなかった人も結構いるんですよ。
アプリ版を出すことで、トータルの漫画ファンを増やせていることは間違いないので、そういう意味では各漫画雑誌でアプリ版をやらない理由はないと思うくらいです。
アプリ限定の企画もあるのでしょうか?
小島:
はい、あります。『沈黙の艦隊』『宮本から君へ』など過去の名作を復刻連載したり、『宇宙兄弟』が休載中の週は、小山宙哉さん(※『宇宙兄弟』の作者)の過去作品(『ハルジャン』『ジジジイ -GGG-』)を配信したりしています。
あとは年末年始やお盆など、紙の雑誌は合併号の翌週1週休みになるのが通例で、モーニングもそれに当てはまるのですが、「週刊Dモーニング」については月額課金なので休まず配信しています。
昨年末の合併号の際は、新人作家の読み切り漫画を約10作品掲載した「新人増刊号」を配信しました。そこでユーザーから面白かった作品のアンケートをとってみて、上位となった作品は実際に連載スタートさせるといった企画も行いました。
当初「週刊Dモーニング」はどのような目的で始まったのでしょうか?
小島:
今、漫画雑誌を含めほとんどの紙の雑誌の部数が下がっている現実があります。
それは決して漫画がつまらなくなったのではなく、これまで雑誌を読む時間として使われていた通勤・通学中や寝る前などの時間が、TwitterやFacebookなどのSNS、もしくはパズドラのようなソーシャルゲームなどに奪われてしまっていることがあるのではないかと考えたからです。
そこでモーニングのような日本を代表する漫画雑誌がスマートフォンの世界に飛び込むことで、眠っていた読者やこれからの漫画ファンを増やしていければと考えています。
(補足:コミック誌の発行部数は年々下がっていっている。参照:全図鑑ニュース解説より)
タブレットで読むユーザーも多そうですが、スマホとタブレットの割合はどうでしょうか?
小島:
半分くらいがタブレットですね、
スマートフォンで読むのとタブレットで読むのとではやはり満足度に差がありますので、他のアプリに比べてもかなりタブレットの比率は高いです、特に7インチディスプレイのタブレットで読むのが最高だと個人的には思います。
昨年には最新のiPad miniがRetinaディスプレイになったりと、デバイスの解像度がどんどん高くなっていることもあって「週刊Dモーニング」のリリース時には他の漫画アプリの解像度よりもかなり高めの設定をしました。
「週刊Dモーニング」の後にリリースされた、マンガボックスやcomicoなどのアプリでも同様の傾向が見られますね。
岡田:
7インチタブレットは本当に漫画を読むのに最適ですよね。iPodが音楽を聴く時間を増やしたように、タブレットは本や漫画を読む量を増やす端末だと感じています。
私もコンビニで漫画立ち読みすることがありますが、漫画を買いたくないのではなく邪魔なんだと思うんですよね。
小島:
それはありますね。読者アンケートの「過去、モーニングを読んでいましたか?」という質問の回答をみると、「読んでいたが、捨てるのが面倒くさい、かさばる」という理由が結構あって。
アプリはかさばらないですし、部屋に積み上がって邪魔にもならないですし、バックナンバーも有料購読期間中のものは読めるようにしているので、そうした紙を離れる要因の1つをアプリが払拭できているのかもしれないですよね。
ちなみに講談社の週刊Dモーニング http://t.co/8y7m2q9e6h は素晴らしい取り組みだと思う。月500円で発売日の24時配信。 一部作家サイドの意向で配信されない作品はあるけれど、雑誌買って捨ててという流れから解放される上に安い。契約期間中の過去分も再DL出来る。
— Shin (@shinmaeno) 2014, 2月 10
(※ツイッター上で見つけたクチコミ)
週刊Dモーニングのユーザーの年齢層は高めですか?
小島:
高めですね、30代くらいが多いですね。ただ作品によってファンの年齢層はばらばらですよ、アニメ化した『鬼灯の冷徹』や、『きのう何食べた?』などの漫画は20代の女性ファンが多かったりします。
「週刊Dモーニング」はリリース時にすごくメディアで話題になっていたのは業界初の試みだったからでしょうか?
小島:
そうだと思います、他のアプリより何か大きく仕掛けたということはないです。アプリのレビュー媒体様や講談社でお取引のあったニュースメディア様にリリースの告知をしたところ、多くのメディア様でとりあげてもらえました。
ユーザーの声も積極的に拾っているんですね。
岡田:
アンケートの仕組みもユーザーから「アンケートやってほしい!」みたいな声があったので実施したり、かなりライブ感はありますね、ユーザーの反応をみながら機能の実装時期や優先度を変えたりしていますよ。
小島:
Twitterでのユーザーへのケアも積極的にやっています。「わからないことを唱えたら返事がくる」という対応を心掛けていて、関係者でチェックして質問や不具合報告を見つけたら返信するようにしています。
岡田:
特にアプリで月額の課金体系に慣れているユーザーってそんなに多くないですよね。
そもそも採用しているアプリが少ないですし。
なので勘違いとか起こりやすかったり、わからないことがあると不安で怖いじゃないですか。そうした部分を少しでもフォローできたらという気持ちでやっています。
「週刊Dモーニング」ならではの面白いマーケティング方法などはありますか?
岡田:
外部のアプリやサービスとの連携は積極的に行っていますね。
例えば「ボケて(bokete)」さんと半年前からコラボしていて、ボケての中に「週刊Dモーニング」の公式アカウントをつくっています。そこでは、もちろん各著者さんに許可をとった上で、「週刊Dモーニング」連載作品の最新話からマンガのコマをきりだしてどんどんボケのお題をだしている。
「週刊Dモーニング」のマンガを題材にユーザーに遊んでもらうというイメージです。ユーザーがつけたボケの下にはApp Storeへの誘導バナーがついているので、おもしろいボケがうまれると誘導が増えるという、通常の広告とは違う有機的な仕組みになっています。
他には複数のサッカーゲームアプリと、モーニングで連載している漫画『GIANT KILLING』でコラボしていて、「週刊Dモーニング」の読者にしかわからないコードを入れると、『GIANT KILLING』のスペシャルキャラもらえるとかも。
ひとつのアプリで閉じているというよりは、連携して世界を広げる施策を行っています。
なるほど、それは面白いですね。
小島:
モーニングの編集部と僕らは他の漫画雑誌をライバル視することなく、「スマホやタブレットで漫画を読む文化を大きくしたい」と考えていて、それが結果として「週刊Dモーニング」のユーザーが増えることにつながると信じています。
今後はcomicoやマンガボックスなどの完全無料モデルと「週刊Dモーニング」のような有料モデルで二極化していく流れができ始めていると感じます。
「週刊Dモーニング」は3ヶ月で採算がとれるようになったという記事を読んだが事業としても順調?
岡田:
事業としてかなり順調ですよ、ただ伸びしろはすごく大きいとおもっているので、まだまだこれからだとも思っています。
ダウンロードは無料になっていますが有料購読化するユーザーはどのくらいいるのでしょう?
新規でダウンロードした人が有料になる割合のCVRは15%くらいです。
現状の仕様ですと1週間前の号がフルフルで7日間だけ無料で読めて、1冊まるまる無料で体験してもらって気に入ったら定期購読してもらうという流れになっています。
無料DLから有料化へのCVRが15%というのはかなり高いのではないでしょうか?
岡田:
高いとおもいますね、普通は数%というレベルだと思うので。
今後ライトユーザーが増えるほど下がっていくと思いますが、かなり良いCVRだとおもいます。そして継続率も高いです、ユーザーの満足度が高くてほとんどやめないですね。
「週刊Dモーニング」のランキング(ダウンロード)が伸びる時ってどんな時ですか?
岡田:
先ほどお話したようなソーシャルゲームとの連携をやった時だったり、アプリ限定企画がある号のタイミングだったりとかですね。
小島:
福島第一原発で作業されていた人々を描いたルポ漫画で『いちえふ』という作品があるのですが、その読み切りが掲載された時なんかもとても話題になって伸びましたね。
(データ参照:AppAnnieより)
アプリ(電子)だとどの漫画が読まれているというPVなど、ユーザー行動が分析できるのでは?
岡田:
そうですね、すごく貴重でおもしろいデータがとれています。アプリ内のアンケート機能を使ってユーザーの生の声もとりつつ、アクセス数等の定量的な数字もみています。
アプリでとれた生の分析データを、施策に組み込み始めているのですが、これもアナログだった漫画業界にとっては画期的なことだと感じますね。
例えば、どの漫画が本当に読まれているのか、何時に読まれているのか、木曜日に最新号が配信された直後にどれくらいのユーザーが同時に最新号を読んでいるのかとかが全部わかるので。
他の漫画雑誌がエキサイトと組んでやりたいと言ったら?
岡田:
歓迎したいです。どんどん横展開していきたい。
漫画がスマートデバイスで読まれる習慣が広まればいいなとおもっているのでこの形態のサービスを広げていきたいなと考えています。
小島:
毎週紙とアプリとの同時配信を行うと、僕らでも未だに計り知れてないたくさんの苦労があるのですが、その分いろんな意味でライブ感があって楽しくやらせていただいています。
Excite Bit コネタ
(iOS)
おやすみ前のおとえほん
(iOS)
取材協力:エキサイト株式会社
編集後記
「アプリで提供しても、紙の部数にあまり影響せず。」
※イラストはイメージです。
後編はコチラ。
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