女性向けのマンガアプリ「コミックエス」を取材しました。マンガバナーのデータ事例など。
※株式会社フーモア 取締役 斉藤隼大さん(右)、浅田良平さん(中)、伊東未来さん(左)
1、「コミックエス」について
「コミックエス」についておしえてください。
斉藤:
2016年12月にスタートした、女性向けのマンガアプリです。コンテンツとしては「絶版マンガ」を中心に、完全無料で掲載しています。
ダウンロード数としては、リリース約3ヶ月で50万ダウンロードを超えたところ。デイリーのアクティブユーザー(DAU)でいうと、約3万人という状況です。
もともと、フーモアはイラスト事業の会社なのですが、アプリは新規事業としてスタートしました。現在は6〜7名で運営しています。
どんなユーザーが「コミックエス」をつかっていますか?
伊東:
ユーザーのほとんどが「若い女性」ですね。男女比では9:1でほぼ女性。年齢層でみると「35歳以下」が90%を占めています。
あとは、圧倒的に土日につかわれていますね。コンテンツが「全巻 読み放題」という形式なので、週末に一気にまとめて読まれているのかなと。
アプリの滞在時間をみても、1起動あたり平均25分くらいと、かなり長めのデータがでています。
開発するときに「苦労したこと」ってありますか。
斉藤:
めちゃくちゃ大変だったのは、マンガの「エロいシーン」の編集です。マンガをそのまま載せてしまうと、アプリがストアから消されてしまうんですよ。
それでどうするかというと、事前に目視で「エロいシーン」がないかをチェックして、ひとつひとつ「アウトのコマ」を白く塗りつぶしていく。
たとえば、「男の乳首」がでたらアウトですし、男が「感じている顔」をしていてもアウトなので、そうしたコマは白く塗っていきます。
よくユーザーさんから「もう真っ白すぎて、何のシーンかわからない」と言われますけど、ちゃんと消さないと、こっちが消されちゃうので。
とくに、グーグルさんの審査はきびしくて。GooglePlayに「女性向けマンガアプリ」がほとんどないのも、みんな厳しすぎて撤退してしまったからなのかなと。
2、人気ジャンルは「純愛と禁断の恋」
とくに人気がある「マンガのジャンル」ってありますか?
斉藤:
ランキング上位にきているのは、圧倒的に「恋愛マンガ」が多いです。とくに人気があるジャンルは「純愛」と「禁断の恋」この2つですかね。
たとえば、ランキング一位は「弟の顔をして笑うのはもうやめる」という、お姉ちゃんと弟の恋愛マンガだったり。あとは「スマ倫」という、不倫のマンガも人気があります。
なるほど。
斉藤:
それから、意外に読まれないのが「ペット」です。ハムスターもねこも全部ダメでした。オススメしても読まれないし、マンガに「癒し」を求めていないのかも。
もう完全にデータ的には、そういう「背徳的でエロい漫画」ばかり読まれている。ほんと「みんな、ムッツリなんだな」と思いました。
伊東:
女性の目線でいうと、たぶん「サムネ」に魅力がないと読まないんです。「恋愛モノ」ってわかりやすいじゃないですか。いちゃこいてるから。
だから「ああ、男と女がいちゃこくんだな、どれどれ」って、読みはじめるんですけど。なんか「ペット」ってあんまり惹かれないですよね。
そういう「インパクト」がないと、アプリ内でも読んでもらえないんですね。
浅田:
そうですね。これは「バナー広告」でも同じです。ユーザーの反応率が「マンガの内容をどう説明するか」によっても、全然ちがってくるんですよ。
たとえば、「どう禁断の恋なのか?」を示すと効果が上がる、というデータがでていて。つまり、パッと見て「ああ、不倫したんだな」とわかったほうが効果が良い。
※バナー内にマンガを置き「不倫した」とわかるようにしたら、CVRが最大3倍に向上した(図は一例)
たしかに、こういう「マンガの広告」よく見かける気がします。
浅田:
あとは、バナーは基本「いちゃいちゃしてる」ほど効果が高くなります。自社広告のABテストでは「いちゃいちゃ度」が高いほうの、クリック率が3倍も高くなったことがあって。
伊東:
「いちゃっ」くらいのよりも、明らかに「いちゃいちゃ」してるほうがいいんです。
浅田:
それから、バナーのマンガは「コマ数が多い」ほどに、クリック率が上がる傾向にありますね。
※バナー内に「コマ数」を増やすと、バナーのクリック率が上がる傾向(図は一例)
なるほど。
斉藤:
ただ、最近はマンガアプリ広告の「エロ過激化」が進みすぎていて。
アップルから「アプリに出ている広告が、エロすぎるからリジェクト」と言われるケースも出てきているため、すこし注意は必要だと思います。
3、アプリのマネタイズについて
アプリのビジネスモデルとしては、どのようになっていますか?
斉藤:
ビジネスモデルとしては、完全に「広告収入モデル」ですね。リリース約3ヶ月で、月に数百万円ほど収益が出るようになってきました。
アプリの広告収益については、コンテンツ側(出版社/漫画家)にもバックする、レベニューシェアのような形式になっています。
いろいろな事情で「絶版」になってしまったマンガが、「コミックエス」で多くの人に読まれて、大きくマネタイズができるようになると、おもしろいなと考えています。
売上を「広告フォーマット別」でみると、どういった比率になっていますか。
浅田:
売上の60%くらいは「動画広告」が占めています。具体的には「動画インタースティシャル」が41%、「インフィード動画」が20%です。
主にマネタイズできているのは、マンガのダウンロード中だったり、読み終わって一息ついているときに、表示されている広告枠ですかね。
逆に、アプリのトップ画面など、ユーザーが「漫画を探している途中」は、マネタイズがむずかしいです。みんなマンガを読みに来ているから。
意外と「バナー広告」は低いんですね。
浅田:
そうですね。とくに、トップ画面の「バナー広告」とかは、もうクリック率が0.1%以下なんですよ…。
斉藤:
バナーに関しては「いっそ消してしまおうか」と話していて。表示回数はものすごく多いし、ちょっと捨てたくないんだけど、実際のところ収益につながっていないから。
それよりも、全体の「広告の数」は減らして、いかにアプリを巡回してもらって、高収益の広告を入れられるか、そっちのほうが重要だなと。
たしかに。
斉藤:
あと「絶版マンガ+広告モデル」って、海外展開にも有利だと考えていて。なぜかというと、出版社が海外にいって「何に負けるか」というと、だいたい海賊版なんですよ。
たとえば「NARUTO」とかって、ネットに海賊版がガンガン出ていて。しかも、現地のファンが翻訳していたりしるから、クオリティもめちゃくちゃ高い。
そこに「課金モデル」で突っ込んでいくと、なかなか勝ち目がないんですよね。とても残念なことではあるんですけれども。
その点「コミックエス」のマンガは、基本「絶版マンガ」であり、一般的には超マイナー作品なんです。だから、海賊版がまったくない。
だから、そういう意味では、海外でもチャンスがあるんじゃないかと考えています。
4、アプリの集客について
アプリのユーザーはどのように増えているんですか?
斉藤:
もうほとんど90%は、オーガニック(自然獲得)ですね。今でも、1日に4,000ダウンロード(土日は8,000ダウンロード)ずつ、増えていっています。
とくに「アプリストアの検索」からくるユーザーが圧倒的に多くて。おそらく「漫画」「マンガ」など、大きめの検索ワードから流入しているのかなと。
それから、検索上位にいると、AppStoreの「トレンド検索(人気検索)」からも流入があるんです。
たとえば、他社のマンガアプリがCMをうって、マンガ系のワードが「トレンド検索」になったときは、1日に7,000ダウンロードも増えていました。
アプリが「検索の上位」に表示されるためのコツはありますか。
斉藤:
いろいろと試してみたのですが、うまくいった施策としては2つあって。
ひとつは基本ですが「アプリ名にキーワードを自然に入れる」ですね。やっぱり「アプリ名の影響」というのは、すごく大きいと感じました。
もうひとつは「レビュー評価を上げる」です。アプリの「レビュー評価」を改善することで、検索順位にも明らかに良い影響がでました。
具体的には、ユーザーへの「レビュー促進」を、アプリをヘビーにつかっている人に、なるべく早いタイミングで表示するようにする。
このとき「クレーム・不具合報告」など、直接レビューと関係ないことは、メールなどで送ってもらうのも重要じゃないかと思います。
ほかに「ユーザーを増やす」という意味で、やっている施策はありますか。
伊東:
女性向けの「乙女ゲーム/ソーシャルゲーム」と提携して、コミカライズしたコンテンツ(4コマ漫画)を、毎週アプリに掲載しています。
そうすることで、乙女ゲーム側にも喜んでもらえるし、そのキャラのファンが「コミックエス」をダウンロードして、定期的にマンガを読んでくれるようにもなる。
実際に、NHN PlayArt が提供する乙女ゲーム「DAME×PRINCE(ダメプリ)」との取り組みから、5,000ダウンロードくらいアプリのユーザーを増やすことができました。
※ゲーム側としても「キャラ掘り下げ」や「継続率の向上」にもつながると。
おもしろい取り組みですね。でも「マンガをつくる」って大変じゃないんですか?
斉藤:
そうですね。たしかに、女性向けのコミカライズって、バランスがむずかしいんですよ。やっぱりファンたちの「キャラへの愛」がスゴイから。
なんていうんでしょう…「飛影はそんなこと言わない」みたいな、そういう暗黙の掟も多くて、何か過ちを犯してしまうと、すぐに炎上してしまう。
そういう意味では、この「コミカライズ」に関しては、うちが漫画やイラストの会社として、もともと得意なところだから、成り立っているのかもしれないですね。
最後にメッセージなどあればお願いします。
斉藤:
これから「コミックエス」では、海外展開(英語圏)も進めていきます、応援よろしくお願いします。
取材協力:株式会社フーモア
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