今回は、女性向けの「恋愛ゲーム」をつくっている2社に、恋愛ゲームアプリのつくり方を聞きました。
※株式会社アリスマティック 取締役 伊勢 明日香さん(右)、OKKO株式会社 代表取締役 池 喬さん(左)
1、女性向け「恋愛ゲーム」はどのくらい稼げる?
アリスマティックさんでは、「恋愛ゲーム」をたくさんつくられていますが、実際ビジネスとして「恋愛ゲーム」ってどうなんですか?
伊勢:
まず「恋愛ゲーム」は開発コストが高くないのが良いですね。「絵やシナリオ」を入れ替えれば、システムはつかい回すことができるので。
具体的な開発コストでいうと、1タイトル500万円くらいでしょうか…。なので、ちゃんとつくれば「大ゴケ」することが滅多になくって。
もちろんヒットすれば、ちゃんと利益もでます。うちの場合は「売上が1億円を超えているアプリ(通算)」もこれまで6本でています。
※「イケない契約結婚+」は、売上3,000万円、開発費100万円以下(開発期間は4ヶ月ほど)
恋愛ゲームのアプリ1本で「売上1億円」ってすごいですよね。
伊勢:
「恋愛ゲーム」って、息が長いんですよ。派手さはないんですけど。ずーっと売上が落ちなくて、それが積み上がっていくイメージですね。
なかには、3年間ずっと「月の売上が2,000万円を越えている」というタイトルもあります。ただ地味すぎて、業界でもあまり話題にならないんですよ。笑
どれくらいのユーザーが「課金」するんですか?
伊勢:
課金ユーザーは、全体の8〜13%くらいですね。基本は「500円だけつかう」という人がたくさんいて。トップレベルになると「年間200万円つかう」という人もいたりはします。
ARPU(1ユーザーあたり課金額)でいうと、日本だと月500円くらいでしょうか。海外でも月200〜300円でることもありますね。
国内の主要アプリでいうと、ARPPU(1課金者あたりの課金額)が、4,000〜5,000円まで届いてくるタイトルもあります。
2、恋愛ゲームのユーザーについて。
「恋愛ゲーム」ってどんなユーザーがあそんでいるんでしょうか。
伊勢:
やっぱり、30〜40代の女性が多いですね。よく「オタク向け」だと思われているのですが、ごく「ふつうの人」があそんでいるんですよ。
ちなみに、時間帯でいうと「深夜2時ごろ」にピークがきますね。あとは「日曜の午前」とか、子どもがテレビ見ているときにやっているのかも。
どうしてふつうの人が、ここまで「恋愛ゲーム」をやるんでしょう。どんな欲求があるんですか。
伊勢:
ひとつ、すごく大きいなと思うのは、「浮気したいけど、浮気できない」という女性の隠れた欲求です。
ほんとは「浮気してみたい」と思っているけど、実行するまでの勇気はない。それをゲームで妄想することで、解消しているというか。
たとえば「もし別の人と結婚していたら…」と妄想したり、突然の「イケメンとのロマンス」を待ち望んでしまう気持ちって、誰にでもあると思うんですよね。
なるほど。
伊勢:
もうひとつは「つかれた心を癒されたい」という欲求ですね。日本人ってみんな、仕事とかでつかれているじゃないですか。
あとは「欲求不満」というのもあると思います。ちょっとエロめのイケてるキャラが出ると、ブワッと人気が出てしまうことが多くて。
これはガラケー時代の話ですけど、「官能小説」のような濃厚なゲームって、めちゃくちゃ儲かっていたんですよね。
3、モテるキャラクターの法則。
恋愛ゲームで人気がでる「二次元キャラの法則」ってあったりしますか?
伊勢:
やっぱり「鬼畜、俺さま、ドS」のキャラは人気ですね、もうびっくりするほどに。
まえに、男子を育成するゲームで、「性格要素ドリンク」を売ったことがあって。これをつかうと自分の「好みの性格」に変えられるんです。
そうしたら「鬼畜、俺さま、ドS」が、ものすごく売れましたね。逆に「弟、ワンコ、草食」みたいな、かわいい感じの性格は、ぜんぜん売れませんでした。
やっぱり「ただのいい人」って、ゲームでも現実でもモテないんですよ。優しすぎるとおもしろくないからだと思っています。
ちなみに「王子さまとイケない契約結婚」という、うちで一番売れているタイトルでも、やさしくて弟みたいな子はずっと人気がなくて…。わりと「オタク受け」は良いんですけどね?
※人気が出たキャラと、不人気キャラ(やさしい性格のキャラは人気が出にくい)
なるほど、おもしろいですね。
伊勢:
あと「ステータスの高いキャラ」はモテます。つまり、お金持ちだったり、高い地位を持っていたりすると、ゲームでもモテてしまうんですよ。
具体的には「社長」「医者」「セレブ」などの設定でしょうか。そういう「キャラの設定」だけでも、人気に影響したりもするんですよね。
あと、同じ王子様であっても、「王子の第二後継者」とかになるとモテません。「どうせ王子になれないんでしょ、お金もないんでしょ」と思われてしまうのかな。笑
現実とはちがって「二次元だからモテるキャラ」ってありますか?
伊勢:
これも「俺様キャラ」ですかね。現実にいると「ウザい」って嫌われますけど、2次元だと「王子様」に見えてしまうんです。なぜなら、ピンチを助けてくれるから。
たとえば、最初はイヤなやつだけど、ヒロインが悩んでいるときには、「おれ、お前のこと実は認めてるから」とか、サッと察して助けてくれたりするわけです。
4、シナリオとタイトルのつくり方。
シナリオをつくるときに「気をつけるべきこと」ってありますか?
伊勢:
やっぱり「王道」がいいですね。恋愛ゲームやる人って「きっとこうなるはず」というストーリーを、ドキドキしながら追いかけたいんですよ。
このときのポイントは「いかに感情を揺さぶるか」です。ドキドキしないと、楽しめないから。ただし、決して「ユーザーの心」を折ってはいけません。
どういうことですか。
伊勢:
たとえば「もう、お前なんて知らないからな」と、ヒロインが突き放されるシーンでは、「しかし、手は暖かかった」としっかりフォローを入れたり。
だって、ゲームの中でまで「つらい思い」なんてしたくないじゃないですか。でも、平坦じゃつまらないから、感情の揺さぶりは必要なんです。
あと、文章はなるべく「感情」に訴えかけた方がいいですね。わたしはよく「擬音」をつかいます。「ふわっと触れてきて、ドキッとした」とか。
シナリオで「やってはいけないこと」ってありますか?
伊勢:
まず、結末を「バッドエンド」にしないこと。最後は「ハッピーエンド」にして、ユーザーを幸せにしてあげないといけません。
以前、キツめのストーリーにしてみたら、「こんなのつらすぎます…」といった問い合わせが、たくさんきてしまいました。
そして「学園モノ」はやめたほうがいいですね、ほんとに売れないので。たぶん、ユーザーさんの中心が「大人の女性」なので、青春すぎてしまうと、自分を投影できないのかなと。
あとは「ギャグ要素」も必要ないですかね。
逆に「こういうエピソードは人気」みたいなものってありますか?
伊勢:
あります。みんなが大好きなのが「妊娠ネタ」と「赤ちゃん生まれるネタ」なんですよ。だから、赤ちゃんアバター(髪と目の色がそのキャラになる)は、めっちゃ売れます。
たぶん、みんな「結婚」をもう1回やりたいんじゃないですか。実際に「結婚式が幸せのピークだった」という女性ってすごく多いらしくて。
やっぱり、結婚式って「自分がお姫様になれる日」なので。だから、結婚式の写真を、思い出に浸ってずーっと見返すような人って、たくさんいるんですって。
ゲームの「タイトル」をつけるときには、なにが重要なんでしょうか。
伊勢:
タイトルは「えっ?」となるような、引っかかりのある言葉を入れつつ、ちゃんとユーザーに「テーマ」を伝えるというのが重要です。
もう見ただけで「こんな恋ができそう!」と妄想できるくらいが良いですね、そして、ちゃんと「その妄想どおりの展開」にしてあげること。
「社内のケダモノっ!?」というタイトルは、言って見れば「ただのオフィスもの」なんですけど、タイトルのインパクトのおかげで、めちゃくちゃ売れました。
このゲームは社内でも売上3位になっているタイトルですね。ちなみに、わたしがほぼ一人でつくったので、開発コストも150万円ほどでした。
5、日本で「恋愛ゲーム」の売上をあげるには。
恋愛ゲームの「売上」って、どういうふうにあがっているんですか?
伊勢:
日本だとイベントとアバターです。イベントやらないと、売上あがらないですね。シナリオが1日5話まで無料でよめて、「早く読みたいなら課金してね」というモデルなので。
あと、上位ユーザーはレアアバターを欲しがります。「周りに男の子をはべらせるアバター」とかを見せびらかせて、自己顕示欲を満たすという。
なるほど。
伊勢:
あと、売上という意味では、未だに「GREE」「モバゲー」「dゲーム」などのブラウザプラットフォームにも、ユーザーがいるのは見逃せないですね。
未だに「dゲーム」から、月に800万円の売上があるタイトルもありますよ。ユーザー数はそれほど多くはないんですけどね。
ほかに「売上をあげるコツ」があれば知りたいです。
伊勢:
「バナー広告」については、キレイに見せるよりも、汚ければ汚いほど効果がでます。これはもう数字がそう証明してしまっていますね…。
たとえば、「俺のものだろ?」みたいな、Sっ気のあるセリフを入れるだけで、クリック率(CTR)が4〜5倍になることもありますし。
あとは「ドン!(壁に)」「チュッ」などの効果音を入れる、口元だけをアップにする、キャラと目が合うようにする、あたりも効果がでることが多いです。
6、なぜ恋愛ゲームは「リッチ化」しないのか。
パッと見ですが「恋愛ゲーム」って、あまり進化していないように見えます。ゲームとかはあんなに「リッチ化」しているのに。それってどうしてなんですか?
伊勢:
一言でいうと「リッチ化」は求められていないからです。とくに、ボイスやBGMとかは「いれないで欲しい」というユーザーが多いんですよ。
なぜなら、電車でこっそりとか、家族に隠れてあそぶ人が多いからです。音が急に出たりすると、アプリを消されちゃったりするんですね。
なるほど。
伊勢:
恋愛ゲームをやる人は、リテラシーが低い「ふつうの女性」が多いので、慣れないものを入れるとストレスにもなりやすいのかなと。
だから、ある意味「ガラケー時代」から何も変わっていなくて。感覚としては「ハイクオリティな電子ノベル」を読んでいる感じにちかいのでしょうね。
一方「オタク向けゲーム」だと、ボイス必須だったり、すごく「リッチ化」が進んでいますよね。そこは似ているようで、全然ちがうんだなと思います。
※実際の「恋愛ゲーム」の画面。RPGなどのジャンルと比べても「リッチ化」していない。
7、海外で狙うべき国、注意すべきこと。
アリスマティックさんのゲームは「海外ユーザー」も多いのでしょうか?
伊勢:
そうですね、国内がメイン(85%)ではあるのですが、売上の15%くらいは海外です。
海外については「コアなファン」が勝手に広げてくれるんですよ。とくに「ブログ記事」と「友達招待」から、ユーザーが入ってきています。
海外でやったほうがいいのは、「Facebookページ」の運用ですかね。ツイッターよりも、Facebookで情報が拡散されるので。
日本と海外で「ウケるポイント」のちがいがあれば教えてください。
伊勢:
「ヒロイン」でいうと、日本は「かしこくて控えめ」というヒロインが好かれます。基本は「受け身」で誘導されつつも、決めどころだけは「自分の意思」でえらびたい。
一方、海外では「強い意思があって芯がある」というヒロインが好まれます。自分の運命は自分で決めたくて、駆け引きもたのしみたい、という感じです。
あと、シナリオについては、国内は「会話を多めに、ふわっと説明する」、海外は「きっちりと説明をいれる」というのが、ヒットの法則かなと考えています。
とくに海外では「どの国」を狙うべきでしょうか。
伊勢:
やっぱり「ヨーロッパ」を狙うべきです。いろいろ試した結果、ヨーロッパに出すのが、いちばん売上につながりやすいとわかりました。
というのも「課金への抵抗がない」「日本のファンが多い」「読み物文化がある」、この3つの条件が揃っているのがヨーロッパだからです。
ヨーロッパの中でも、とくにフランスですかね。なので翻訳するなら、まずは「英語」と「フランス語」に対応するのがオススメです。
海外は、主人公とストーリー次第で、売上の80%が決まりますね。やっぱり「ストーリーがおもしろいと売れる」というのは世界共通です。
「英語圏」も可能性はありそうですか。
伊勢:
そうですね。英語圏は日本の10倍もの人口がいるので、だして損はないと思います。出しておけば「宣伝なしで30万ダウンロード」ということもあります。
以前は「英語に翻訳してだすと500〜600万円の売上になる」という時期もありました。いまはすこし落ち着いてきていますけど。
アジアというか「台湾」とかはダメなんですか?
伊勢:
台湾は「継続率」がひくいんですよね。とあるゲームが初月600万円を超えたときも、翌月には急降下してしまって。おそらく「読み物文化」があまりないのかなと。
ちなみに、一番むずかしいのはスペイン語圏(メキシコ、アルゼンチンなど)です。いくら頑張っても、おどろくほど売上につながりません。
8、フランスで人気のOKKO社の「恋愛ゲーム」
OKKOさんで出している「恋愛ゲーム」について、おしえてください。
池:
いま4〜5ヶ月に1本ペースで、新作の「恋愛ゲーム」を出し続けています。
うちの特徴としては、海外の売上比率が「国内50%:海外50%」とすごく高くて。とくにフランスだけでも、月の売上が1,000万円を超えています。
「恋愛ゲーム」全体での売上でいうと、年に5億円前後になっていて、累計売上が1億円を超えたタイトルも3本でています。
1本あたりの「開発コスト」はどのくらいですか?
池:
開発費は1本あたり500万円くらいですね。うちもアリスマティックさんの「アリスマイル」というシステムをつかっているので。
これをつかうと「シナリオ」と「イラスト」だけあれば、恋愛ゲームが量産できるんです。エンジニアがいなくてもつくれるので助かっていますね。
※恋愛シミュレーションゲームエンジン「アリスマイル」をつかって、開発されたゲームのデータ。
なるほど。
池:
これは「開発コスト」ではないですけど、恋愛ゲームって比較的「集客」がラクなんですよ。なぜなら、ユーザーの「回遊性」が高いからです。
ゲーム内に「新作のバナー広告」を出すと、アクティブユーザーの40〜50%が、事前予約してくれることもあります。
伊勢:
もちろん「恋愛ゲーム」が、かならず儲かるわけではなくて。適当に「儲かるんでしょ」みたくつくる会社は、失敗しやすいですよね。
この辺は、経験よりも愛情なんですよね。インターン生がつくったゲームが、月100万円の売上になったこともありますし。
やっぱり「女性に幸せになってほしい」という気持ちでつくるのが、「恋愛ゲーム」の成功の秘訣なんだと思いますよ。
取材協力:株式会社アリスマティック、OKKO株式会社
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