年間売上は約800億円。月間で約1億人がつかう語学アプリの「Duolingo」が語るマーケティング戦略。コンテンツに投資する理由、継続率など改善した3つの施策。

2024年08月06日 |

※本記事はnoteにて公開した記事を転載したものです(公開日:2024年5月23日 )数値などは取材当時のものです。
https://markelabo.com/n/na472b2371d39

語学アプリの「Duolingo」さんを取材しました。

Duolingo Global CMOのManu Orssaudさん。前職ではSpotifyやSIE(PlayStation)でマーケターとして勤務。

「Duolingo」について教えてください。

Manu:
楽しく外国語が学べる「語学アプリ」です。月間のアクティブユーザー(MAU)は9,760万人に到達しています。世界中にユーザーがいます。

新しい市場に展開するときには、その市場における「ユーザー数の成長率」や「エンゲージメントの健康度」を見るようにしています。

DAUとMAUを確認すれば「ユーザーが毎日戻ってくるか?」がわかります。この指標の高さは「その市場でのPMFの強い兆候」として機能します。

また「市場の収益性」も分析します。ユーザーは課金してくれているのか、課金ユーザーの比率はどれくらいかなどです。

Duolingoはどう成長しているのでしょう。

Manu:
Duolingoは口コミで成長しています。アクティブユーザー(DAU)の増加分の約90%は「口コミから来ている」とも言われているんです。

口コミが主要な原動力で、その上にマーケティングとブランド構築があり、ユーザーがプロダクトに感じる「愛情や親近感」の醸成を助けています。

口コミの発生サイクルは、アプリを磨き上げて「良い学習体験」を提供した結果、ユーザーが友達や家族に紹介してくれることで起こります。

そして、Duolingoではこの「成長モデル」に沿ってチームを置いていて、それぞれのチームが異なる目標に責任を持っているんですよ。

例えば、ユーザー獲得やブランド構築に責任を持つマーケティングチーム、継続率に責任を持つリテンションチームなどがあります。

主な「マーケティング戦略」についてぜひ教えてもらえますか?

Manu:
Duolingoでは、エンタメ性の高い「コンテンツ」を通じて、ブランドのことを知ってもらうという取り組みに世界中で投資しているんですよ。

例えば「Duolingo on Ice」という、架空のスケートショーの動画コンテンツは、TikTok・インスタ・YouTubeで8,000万回ほど視聴されています。

これらのコンテンツは「言語学習」に関係なくても、SNSで話題になり多くの人に視聴してもらえると、プロダクトにも大きな影響を与えます。

こうしたコンテンツには、マーケティング視点では「ブランディング効果」と「リテンション効果」という2つの効果があると考えています。

まず「ブランディング効果」というのは、Duolingoのコンテンツに触れてもらうことで、いつか「外国語を学びたい!」と思ったときに、Duolingoを最初に想起してもらえるという効果です。

実際に、TikTokで「動画の再生数」が伸びることは、Duolingoのアプリの「新規ユーザーの増加」とも相関関係があることもわかっています。

他のコンテンツも同様です。コンテンツの視聴ボリュームが「ユーザーの獲得」にも影響を与えているというわけですね。

もう一つの「リテンション効果」というのは、Duolingoのコンテンツに触れることで、既存ユーザーが思い出してくれるリマインド効果のことです。

例えば、SNSで動画を見かけたら「あ、今日のレッスンやらなきゃ!」と思い出してくれる。つまり、コンテンツには「プッシュ通知」のような効果があって、これが頭の中のリマインダーとして機能するわけです。

Duolingoでは、MAUよりもDAUを重視します。やはり「月1回の学習」では進歩を感じにくいためです。つまり「リテンションビジネス」なんですよ。

このようにブランド構築に投資するのは、ユーザーの「エンゲージメント・継続率・再活性化」などに貢献するからなんですね。

指標やユーザー体験を改善できた「3つの成功施策」

成功施策①:ユーザーに「目標宣言」をしてもらったら継続率が改善。

Manu:
Duolingoでは、四半期にABテストを500回ほど行いながら、ユーザー体験をどんどん改善しています。

例えば、新しく「連続記録」をはじめた人に向けて、レッスン後に「目標を設定する画面」を追加したところ、長期の継続率が改善されました。

ユーザー自身が「○○日は続けます」と目標を設定したことで、より「目標への責任感」を意識するようになったのだと思います。

Duolingoの行動指針には、「Test Everything」という項目があり、このようにすべての取り組みを事前にテストしているんです。

成功施策②:アプリに「楽しくなる瞬間」を増やしたら継続率が改善。

Manu:
Duolingoには「Delight」という「体験をより楽しくすること」を目的としたチームがあって、アプリの中に「喜びを感じる瞬間」を増やしています。

例えば、レッスンで正解を祝うアニメーション、ボタンをタップしたときに感じる触覚フィードバックなど、細かい改善にも取り組んでいます。

これらは「体験の向上」が目的でしたが、ABテストで指標を測定してみると「滞在時間やリピート率」を高める効果があることもわかりました。

つまり、アプリの中で「ユーザーを楽しませること」に焦点を当てた結果、継続率などの改善にもつながっていたのです。

毎日、レッスンに戻ってきてもらうには「楽しく学べる体験」が必要です。これはDuolingoの競争優位性にもつながっています。

成功施策③:1年を振り返る「年間レビュー」が継続率に貢献した。

Manu:
Duolingoの「年間レビュー」(Year-in-Review)という、ユーザーに学習結果を年末に知らせる機能は、継続的な学習サイクルに貢献しています。

アプリ上で「あなたはこれだけ学習しました」と学習結果を可視化すると、ユーザーは「この1年がんばった!」と誇らしい気持ちになれます。

この「学習の可視化」と「コミットメントの祝福」は、ユーザーの継続率にとても良い影響を与えますし、友人や家族への共有を促進します。

2021年版では、数百万人が「年間レビュー」のカードをSNSに共有し、新規ユーザーが大幅に増えました。2023年はさらに良い結果が出ています。

途中から変更した工夫としては、ユーザーに合わせて「パーソナライズ」をさらに行なって、学習者にサプライズを届けるようにしたことです。

2020年版では、XP(学習ポイント)で上位10%のユーザーが、共有の約50%を占めていたので、より多様な軸で評価されるようにしました。

ユーザーによって「結果が変わる」ということは、ユーザー同士での対話につながりますし、SNSに共有される可能性を高めます。

日本市場における「Duolingo」の成長の裏側

Duolingo 日本カントリーマネージャー 水谷 翔さん

日本版の「Duolingo」の近況について教えてください。

水谷:
日本市場のDuolingoは、2020年11月の本格的なスタートから、3年半でDAUが約10倍に成長しました。日本はDAUの規模的にもトップ10の市場です。

韓国語のニーズも伸びていて、日本では「韓国語コース」の利用者が2年間で約17倍になっていますね。

直近で日本でユーザー数が伸びたのは、2023年6月〜2024年1月に3回ほど、全国規模でのテレビCMを放映したタイミングです。

全国CM「デュオリンゴ ゴロゴロ言語が学べる」

テレビCM関連で「成功した工夫」を教えてください。

水谷:
上手く機能したのは、アプリ冒頭に入れている「どこでDuolingoを知りましたか?」という簡易アンケートです。これが効果を発揮しました。

これのメリットは「正確に即時的に結果がわかる」ということなんですよ。すごく簡単な仕組みではありますが、精度の高い分析が出来ています。

もちろん、定量的な分析ツールも併用しています。ただ、ユーザーデータとテレビCMのデータを掛け合わせて分析しようとすると、時間がかかります。

後から分析ツールと照らし合わせても、この簡易的なアンケートでかなり正確な測定ができていることもわかっています。

このアンケートは、ABテストを行なった結果「離脱率が大きく上がる」などの影響を受けなかったこともあり、以前からアプリの冒頭に設置している。

アンケートでわかった「面白い発見」などはありますか?

水谷:
アンケートでわかった面白いデータとしては、テレビCMを打ったときに「友達・家族に聞いた」という項目もガッと伸びることなんです。

その理由としては、テレビCMには「ラストクリック」を促進する効果があるからだと解釈しています。

例えば、友達から「Duolingoいいよ!」と紹介されて、その後にテレビCMを視聴して「あ、友達が言ってたやつだ!」とダウンロードする。

すると、アンケートには「友達・家族の口コミ」として記録される。ただし最後のクリックは「テレビCM」が後押しした。そういう感じですね。

逆にCMから口コミが発生するケースもあると思います。テレビCMはいろいろな側面からファネル全体にポジティブな影響を与えています。

日本でもX(旧ツイッター)で「Duolingo」が人気になっているように感じます。その理由をどう分析していますか?

水谷:
公式キャラである「デュオ」の、ワイルドでクレイジーだけどちょっと可愛げのあるところが、SNSで面白がってもらえているのかなと思います。

ユーザーさんからも「ほんとに公式なの?」「こんな狂ってる公式、あなたしかいないよ」といったコメントをいただいています。

以前は「学習のTIPS」など真面目な投稿が多かったのですが、楽しい投稿を増やしてから、数百万インプレッション見てもらえる投稿も増えました。

運用で意識しているのは「コメントの返信」です。SNSに投稿して15分間はデュオがずっと張り付いてコメントに返信していますね。

引用リポストでも「返信が面白い」という感想もいただいていて、コミュニケーションが1つの「エンタメ」になっていると感じます。

会話を覗こうとすると、それも「投稿のエンゲージメント」に加算される。すると、アルゴリズム的にも伸びやすくなるのかなと。

新生活シーズンには、ムキムキのデュオたちがユーザーさんを胴上げして、連続記録をお祝いするという企画もやりました。

企画については、僕たちが「笑ったかどうか」も大事にしています。面白くて「人に教えたい!」と思ってもらうことも大事だと思うからです。

【取材協力】
Duolingo:https://ja.duolingo.com/ 
Duolingo Manu Orssaudさん水谷 翔さん

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アプリマーケティング研究所編集部 アプリのマーケティングメディアです。アプリの売上を伸ばす施策やデータが学べるマガジン「月刊アプリマーケティング」もスタートしました。最近の記事は新サイトにて更新しています。取材申請はコチラのページから。
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