※本記事はnoteにて公開した記事を転載したものです(公開日:2023年2月24日)数値などは取材当時のものです。
https://markelabo.com/n/nae942b571ad3
車のサブスク「定額カルモくん」について取材しました。
※ナイル株式会社 代表取締役社長 高橋飛翔さん(右)、福田士朗さん(左)
「定額カルモくん」について教えてください。
高橋:
車に定額で乗れる「自動車のサブスク」です。2018年1月のリリースから、申込者数としては累計15万人を突破しています。
特徴としては、契約期間は平均9年と長期の契約が多くて、都市郊外に住むユーザーさん(千葉、神奈川、埼玉、愛知など)が多い傾向です。
想定よりも年齢層は幅広く、20代から70代まで幅広い方が、非対面でネットで車を購入してくれています。
年収400万円くらいの平均値に近い方が、一括で200万円は厳しいけれど、月額2万円なら出せるから「サブスクを選ぶ」というケースも多いです。
※従業員数は約250名、定額カルモくんの事業は約100名
サービスの立ち上げについて教えてください。最初はどんなことをやって事業モデルを固めたのでしょう?
高橋:
はじまりは「プランと企画書」だけがある状態で、車関連の会社さんを全部リストアップして、僕が社長室から1人で電話をかけていきました。
「はじめまして。ナイルという会社で代表をやらせていただいている者です。提携のお話があるのですが、事業責任者の方はいらっしゃいますか?」
営業電話だと思われるとすぐ切られてしまうため、社長であることをさりげなく強調しながら「15分だけ時間をください」と言って、3分でプレゼンをして事業アイディアについて説明しました。
「御社にもメリットがあると思います、提携の可能性はないですか?」
すると、みなさん真剣に考えてくれて、フィードバックもいただけました。それを毎回書き留めてプレゼンの精度を上げていったんです。
またプレゼンの最後に「ナイルと組んでくれる相手、もしくは組むのに適切な相手がいるとしたら誰でしょうか?」と聞いていたんですね。
そこで、よく名前が挙がった会社さんがあったため、本命になりそうなその会社さんには、紹介経由でコンタクトしました。
サービス公開で可視化された「与信審査に困っている層」
サービスを公開したときの「反応」はどうでしたか?
高橋:
2018年1月に、定額カルモくんのティザーサイトを公開すると、申し込みが50件きたんです。そこで「いけるやん!」と思ったのですけど。
でも、数日後に提携会社さんから「全部、審査落ちでした」と言われて。「えっ本当ですか?」と。ここに我々が知らない真実があったんです。
実は、大手自動車メーカーの店舗でのカーローンって98%通るのですが、WEBになった瞬間に審査通過率が30~40%まで落ちるんですよ。
なぜかというと、店舗とWEBでは客層が全く異なるから。WEBなら非対面で審査に落ちても恥ずかしくないということで、必然的に「与信の低い層」の方の比率が多くなるんですよね。
同じ領域のサービスでも、店舗とWEBでは「客層」はガラッと変わる。与信の審査に困っている人って、実はめちゃくちゃ多いのだなと。
という課題に気づいて、2方向に施策を打ちました。ひとつは、与信の高い層の方につかってもらえるように、信頼性と認知度を高めること。
もうひとつは、与信が低めの層に向けて、提携する金融会社さんと話し合って、ダイナミックに審査を受け渡していく取り組みを進めました。
事業の成長に貢献した「2つのターニングポイント」
定額カルモくんの運営で「ここはポイントだった」と思うことがあれば教えてもらえますか?
高橋:
定額カルモくんの体験って、本質的には既存のカーリースに極めて近いんですよ。細かくは違いがあるものの、安い価格で月額定額で乗れるのは同じ。
明確に違いが出せたのは「11年リース」を日本初で出せたこと。サービスをはじめてみると「9年リース」を選ぶ方が最も高かったんです。
そこで振り切って、2019年に「11年リース」を出したことで、月額をさらに安く提供できるようになり、車が売れやすくなりました。
※ターニングポイント① 「11年リース」 (2019年7月)
あとは、2019年に中古車に対応したのも大きかったです。中古車の強力な差別化ポイントって「納期の早さ」なんですよ。
新車のマーケットというのは、国際情勢に大きく影響を受けます。中国でのロックダウンなどによって、部品がつくれないと納品に1年かかったりする。
それが、中古車ならすぐに手配できる。「新車は1年かかります」だと失注してしまいますが、それが「中古車なら1ヶ月ですよ」と言えるようになる。
現在の販売台数では、新車と中古車は「6:4くらい」の比率になっています。
※ターニングポイント② 「中古車対応」(2019年12月)
ただ中古車ってすごく大変なんです。この車は100万円、この車は120万円と値段が全部違うものを、月額定額に落とし込まないといけないから。
細かくいうと「その中古車がどこにあるか」でも輸送コストが変わります。そこまでデータベース化しないと成立しないんですね。
ただ大変ではありますが、中古車版がなかったら「サービスを縮小しよう」と考えていた可能性もあるくらいに、影響は大きかったと思います。
プロダクト運営で「おもしろい結果になった施策」などがあれば教えてもらえますか?
福田:
車を選ぶステップを飛ばして、すぐに審査を進められる「クイック審査」という仕組みを入れたところ、売上や申し込み率が伸びました。
背景にあるのは、定額カルモくんのユーザーさんの約半数は「ほしい車」が決まっていない中で、お申し込みをしていただけることなんです。
つまり「この車に乗りたい」ではなくて、「お得に車を持ちたい」から入るケースが多くて、車種にこだわりがなく「おすすめの車を提案してほしい」と考える人もめちゃくちゃ多いんですね。
この仕組みを入れたところ、申し込み率や売上が大きく伸びて、現在のお申し込みの50%以上は、クイック審査経由となっています。
WEBサービスだと「審査結果に不安を抱える人」も多いため、自分の審査が通るかどうかをまず知りたいニーズも強いです。
ユーザー心理に合わせて数値が伸びた表現の工夫
定額カルモくんで「成功した施策」を教えてください。
福田:
広告で納期を表現するときに、「4日で届きます」と日数で訴求するよりも「2月末までに届きます」と期日で訴求したほうが、反応が良かったです。
理由としては、恐らく「いつまでに車が欲しい」と、期日で納期をイメージしている方が多いからなのかなと。
とくにディスプレイ広告など、サービスをよく知らない方に対しては、期日での訴求にすると、反応がとても良い傾向がありました。
またサイトで審査をご案内するときに、「審査申し込み」と表記するよりも「お試し審査」と表記したほうが、申し込み率が高くなりました。
理由としては「審査に通るだろうか」と不安に思われている方も多いため、心理ハードルを下げる表現のほうが良かったのだと思います。
この仕組みによって「会社の指標を改善できた」という工夫などがあれば教えてください。
高橋:
フミダスという名前の、社員の異動希望を「1年以内に100%叶える」という人事制度をつくったところ、優秀な社員の勤続年数が上がりました。
優秀な人って挑戦できなくなると転職してしまうので、新しく挑戦できる環境をどんどん提供するのが、この制度のポイントです。
辞めるくらいなら他部署で活躍してほしい。経営者はみんなそう思っていても、本人としては「簡単に異動できない」と思って辞めている。
なので、これは公言して制度化することに意味があるし、挑戦心のある人が常に挑戦することを良しとするのを、社内に伝える効果もあるんです。
あと採用力も上がりましたね。優秀な人ほど「挑戦しがいのある環境」を求めるから、他社と競争になったときに選ばれやすくなります。
ナイルの内定承諾率は8割ほど。オファーを出せば結構みんな来てくれます。こうした制度も魅力に感じてもらえているのかなと思います。
新しく事業を立ち上げるときに「ここは意識している」という点があれば教えてください。
高橋:
僕は、ユーザーベネフィット(便益)と、それを「表現する言葉」をつくるということが、一番ビジネスにおいて大事じゃないかと思っていて。
つまり、ビジネスの本質って「① こんなベネフィットが顧客にある」ということと「② それが分かりやすく伝わる」この2つだと考えています。
もちろん、市場規模とか参入タイミングもあるけど、それさえあれば広告や自然流入も含めて、あらゆる施策が打てると思うんですよ。
そこがわからなかったり、関係者の中で認識がブレていると、どんな施策もハマらないので、そこを常に考えますね。市場規模などは後付けです。
例えば、「○○(バズワード)の市場ってデカいですよね。僕らはそこを取りにいきますよ」という話って、ユーザーが置き去りになっていて。
結局は、ユーザーのベネフィットが存在しないままサービスをつくっても、立ち上がらないケースが多いのかなと。
—–
【取材協力】
ナイル株式会社:https://nyle.co.jp/
定額カルモくん:https://carmo-kun.jp/
高橋さん:@hisho_fly
【告知】ナイル社では、カルモでブラッシュアップしたマーケティングノウハウを、他社にコンサルティングサービスとして提供中とのこと。ご興味ある会社さんは、ぜひ問い合わせてみてください。
https://nyle.co.jp/contact/form/
※続きは、マニアックな事例を5つほどnote購読者向けにまとめています。メディア露出を高めた広報戦略、交通広告のパフォーマンスを高めた方法、オウンドメディアの成果を高める計測方法などご興味あればご覧ください。
https://markelabo.com/n/nae942b571ad3