ギフティング(投げ銭)でマネタイズもできる、生配信アプリ「SHOWROOM」さんを取材しました。
※SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二さん
1、「SHOWROOM」について
「SHOWROOM」についておしえてください。
「SHOWROOM」は、2013年の11月にスタートした、「仮想ライブ空間」で生配信をみることができるアプリです。
ユーザーは生配信を見ながら、有料/無料の「バーチャルアイテム」を贈る(ギフティング)ことができ、演者(配信者)はそれでマネタイズすることが可能です。
ちなみに、最初の「SHOWROOM」のiOSアプリは、モバゲーをつくった川崎修平(DeNAの元CTO)が、約2週間で開発しました。
ユーザー属性などは、どんな感じでしょうか?
ユーザー層としては、いまのところ7割ほどが男性で、30〜40代の少し高めの年齢層が、ボリュームゾーンになっています。
またSHOWROOMでは、ユーザーの熱量を示す「エンゲージメント指数※」を独自に出しているのですが、2015年は35億を超えていて、累計では55億に到達するまでになりました。
※コメント、投げられた星、ギフトなど、ユーザーアクションの総数。
どうして配信の画面を「ライブ空間」っぽくしたんですか?
大きく2つあります。まずひとつは、ユーザーが「SHOWROOM」上にいる自分に「第二の人格」を感じられるようにしたかった。
そうなると、やはり「アバター」は必要でした。コメント欄だけだと匿名性が高すぎて、アイデンティティを感じにくいと思ったんです。
なるほど。
もうひとつは「オーディエンスも含めてコンテンツ」という空間をつくりたかった。これは、たとえば「舞台」や「ライブ」と同じです。
どういうことかというと、「舞台」や「ライブ」って、お客さんの反応次第で、大きくコンテンツが変わり得るエンタメなんです。
例えば、いつもよりお客さんの拍手が弱かったら、パフォーマンスに影響がでてしまうかもしれないですよね。笑
そういう「参加者さえもアートになる空間」をつくって、ユーザーに「自分もコンテンツの一部だ」という感覚を与えられれば、熱量が上がるのではと考えました。
いままで「ユーザー」と「配信者」だと、どちらを集めるのが大変でしたか?
これまで「ユーザー集め」に奔走したことはありません。なぜなら、演者さん(配信者)が良質なユーザーを連れて来てくれるからです。
そのため、配信者が「SHOWROOM」に価値を感じてくれるよう、たのしく配信できる場所になるよう、ひたすら追求してきました。
ちなみに、ぼく自身も路上で「弾き語り」をしていた時期があって。どうしたらファンがつく場所になるのかは、ずっと真剣に考えてきました。
そこで得たエッセンスを、「SHOWROOM」にも落とし込めていると思います。
2、「SHOWROOM」で生計を立てている人たち。
「SHOWROOM」で暮らしている人も、たくさんいるのでしょうか?
はい、いますね。中には、月500万円以上の売上を、実現している配信者さんもいます。
ただ、ギフティングの課金額については、(時間当たりの)課金上限を設けるなど、行き過ぎないように配慮しています。
あまりに過熱してしまうと、長く遊んでもらえなくなるだろう、という懸念があるからです。
やっぱり、配信者として活躍しているのは「若いアイドル」が多いんでしょうか。
いえ、必ずしもそうではないですね。本当にジャンル問わずで。「SHOWROOM」で熱量を生んでいるキーワードは「共感」なんです。
たとえば、「ちづるさん」という配信者さんは、ファン0人からスタートして、今では、300人以上の濃いファンを抱えています。
彼女は、いま40代後半なのですが、30年前に諦めた「アイドル活動をする」という夢を、もう一度叶えようとしていて。
そういった、人間の「生のストーリー」に、深く共感したユーザーが応援してくれている。きっと、一緒に夢を追いかけているような感覚なのかなと思います。
※現在、ちづるさんは、「SHOWROOM」配信をきっかけにスカウト、東京の芸能事務所に所属して、芸能活動をしている。
3、認知と人気は違う。
SHOWROOMならではの「熱量」を感じられる事例って、なにかありますか?
ひとつわかりやすいのは、「SHOWROOM」でテレビショッピングのような仕組み※をつかって、バッグを売ってみたときの話です。
まず、ファンが2,000〜3,000人ほどの男の子が、バッグを売ってみたところ、1時間で50個くらい売れたんですね。
一方、みんなが知っている有名タレントにも、同じバッグを売ってもらったのですが、たったの2〜3個しか売れませんでした。
※「SHOPROOM」 ・・・リアルタイムの動画で紹介した商品を、その場で購入できる仕組み(売上の一部は、配信者にバックされる)
え、どうしてなんですか?
一言でいうと、「認知」と「人気」は違うからです。有名タレントに紹介されたからといって、必ずしも商品が多く売れるとは限らないんです。
これからは、「認知」(ファンの多さなど)だけではなくて、「人気」(ファンの濃さなど)についても、見極めないといけない時代だと感じます。
だから、プロモーションをするときに、つい「有名人を起用する」という発想になりがちですけど、これも実はすこし危険な発想ですよね。
※「認知」=幅(ファンの多さなど)、「人気」=深さ(ファンの濃さなど)
おもしろいですね。
ほかにも、DeNAの新卒の女の子が、スルメをつまみにお酒をのみながら配信したところ、飛ぶようにそのスルメが売れたこともあります。
彼女のファンは、たった100人でしたが、「このスルメを食べながら、彼女と一緒に時間をすごしたい」と思う人がたくさんいたんですね。
つまり、これも単なるモノじゃなくて、「一緒にお酒を飲む」という、体験価値を売っているわけです。
なるほど、体験の価値ですか。
そうですね。最近よく言うのですが、これは「スナックが潰れない理由」と同じなんです。スナックも「体験の価値」を売っているんですよ。
どういうことかというと、スナックのお客さんって、みんな何しに来てるかというと、ママに会いにきたり、仲間としゃべりにきてるわけです。
別に「ご飯を食べに来てる」というわけではなくて、「人と人との関係性」に価値をおいている。だから、ビジネスとしても永続しやすい。
言い換えると、「モノ」じゃなくて「ヒト」でつながっている。「ヒト」の賞味期限というのは、「モノ」よりも長いんですね。
4、ネットで「濃いファン」を集めれば、マネタイズできる時代。
もはや最初から「テレビタレント」とかを目指すよりも、ネットでファンを集めた方が、マネタイズしやすいんでしょうか?
一概には言えないですけど、ネットで成功事例をつくる方が、再現性は高いと思っています。
それについては、この図を見てもらいたいです。これは演者さんを、4つのポジションに分けて、プロットしたものです。
横軸が「ファンの数」、縦軸が「ファンとの距離感・更新頻度」などを表しています。
まず、左上から右上にいくことって、かなりむずかしいんですよ。なぜなら、コンテンツがトップダウンで生まれることが多いからです。
例えば「プロデューサーに才能を認められる」とか、権利をもった誰かに、引っぱり上げてもらう必要があって。努力だけではどうにもならないことが多いんです。
また、右上にいけたとしても、必ずしも大きな収入にはつながりません。なぜなら、メジャー市場自体が縮小してきてしまっているから。
たとえば、有名な「某音楽テレビ番組」に出演したアーティストが、次の日には普通にバイトに行っている、というのも本当にある話です。
そうなんですか。
はい。その中で僕らが起こそうとしている変革は、右下からのルートでも「本人の努力次第で右上に上がっていける」という流れです。
それも、右上にいけなかったとしても、右下にさえいければ、アーティスト活動を継続するためのマネタイズは、十分可能だとも考えています。
濃いファンコミュニティを育てることが出来れば、「SHOWROOM」でのギフティングや、リアルライブやオフ会などで、マネタイズできるからです。
なるほど。
ちなみに、一般的に「超一流アイドル」というのは、圧倒的に右上のポジションにいますよね。
ですが、そういうアイドルも、いまだに「握手会」や「一日コンビニ店長」を、やっていたりするわけです。これはなぜだと思いますか?
正解は、あえて「ファンと近い場所」で交流することで、たまに「身近な存在」として感じてもらうためなんですよ。
つまり「偶像と身近の間」を揺さぶることで、表現者としての価値を引き上げているんですね。ファンビジネスにおいて、これはすごく重要なポイントです。
5、ギフティング(投げ銭)について
SHOWROOMのマネタイズ要素である「ギフティング(投げ銭)」についておしえてください、どうしていま「ギフティング」なんですか?
エンタメの稼ぎ方って、だんだん進化していて、いまが「第三世代」なんです。
まず、第一世代は「パッケージビジネス」でした。これはCDとかDVDとか、価値が明確になっているものに、支払いをするモデルです。
ただこれは、インターネットが出てきて、コンテンツの複製が可能になってしまったことで、価値がどんどん「ゼロ」に近づいてきています。
そうして出てきたのが、第二世代である「興行ビジネス」です。
たとえば、ネットに無料に近い形で音源をあげて、ユーザーに曲を覚えてもらう。それで、ライブに足を運んでもらって、チケットや物販でマネタイズしていく。
ただ、このモデルの弱点は、単純に「人数×単価」のビジネスなので、スケールしにくいこと。簡単にいうと「ライブ会場に入れる人数」には、限界があるということです。
それで、第三世代として出てきているのが、「SHOWROOM」のような、ネットでつながって直接ファンに支援してもらうモデルです。
このモデルは、市場がニッチでファンが少数だったとしても、ニーズさえ満たし続けていれば、市場を自らつくっていくことができます。
ちなみに、アメリカでも「Patreon」という、ファンからの直接支援で、アーティストが創作活動に励むサービスが伸びてきていますね。
そういえば「中国」とかでも、こうした配信サービスは盛んですよね。
そうですね。中国の配信サービス「YY.com」などが、まさにそうだと思うのですが、構図としては「女の子を題材にしたソシャゲ(MMO)」だなと見ています。
オンラインゲームって、ギルドを組んで他のギルドと戦いますけど、それを「女の子」を媒介にしてやっているっていう。すごいモデルですね。
中国のとあるギフティングサービスの数字を見ても、年商300億円ちょいで、ユーザー課金率が2〜3%、ARPPUが7,000〜8,000円でした。たしかに、数値感もソシャゲっぽいですよね。
「SHOWROOM」では、さすがに「ギルド同士で戦わせる」まではやらないですけれど、少し近い文化はあると感じます。
たとえば、女の子が「髪は巻いたほうがいいよ!」とか、ファンにプロデュースされて、かわいくなっていったり。「アイマスのリアル版」じゃないですけど。
6、うまくいった施策について
最後に、うまくいった施策などあれば、おしえてください。
ひとつは、ボーナスギフトを与える施策を行ったところ、ユーザーが「SHOWROOM」上を、より回遊してくれるようになりました。
各部屋を回遊すると、ボーナスとして「星」がもらえるようにしたら、ユーザーが気軽に他の部屋へあそびにいく文化が生まれたんです。
数値でいうと、1ユーザーあたりの平均視聴ルーム数(デイリー)は、9〜10程度まで伸びてきています。これはかなり良い数値だと考えています。
※ユーザーのモチベーション「星を獲得したい」→たくさん星を投げると、ランキングが上がって、前列にいける。→ 演者さんに「顔」を覚えてもらえるし、コメントも返してもらいやすい。
なるほど。
ほかに上手くいった施策としては、ツイッターでその放送の「宣伝ツイート」をすることでも、「星」がもらえるようにしたことです。
この機能を実装してから、ツイッターで「SHOWROOM」を拡散してもらえることが、明らかに増えましたね。
これはやはり、ユーザーさんには「自分の好きな演者さんを、周りにも知ってほしい」というモチベーションがあるからだと考えています。
取材協力:SHOWROOM株式会社
SHOWROOM(AppStore/GooglePlay)
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