今回は海外のゲームアプリを、日本に配信している「3rdKind」さんにお話を伺いました。
※3rdKind株式会社 CEO 細谷太郎さん(右)、COO ヌエル・フレッドさん(左)
「3rdKind」について
「3rdKind」さんについておしえて下さい。
細谷:
モバイルゲームのパブリッシャー事業をしている会社です。海外のおもしろいゲームを、日本に持ってくるのが主な仕事ですね。
もともと、ぼくはカプコン、フレッドはGameloftで働いていて、そこからお互いフリーランスを経て、2011年に「3rdkind」を創業しました。
「パブリッシャー事業」というのは、どのように収益を得ているんですか?
細谷:
簡単に言うと、海外のゲームを日本人好みに翻訳・味付けし、それを日本のユーザーに届けて、収益はデベロッパー(開発会社)と分け合っています。
具体的な、レベニューシェアの条件としては、うちの場合は基本「50:50」で分配しています。ケースバイケースではありますけどね。
起業してから「立ち上がり」としては順調だったのでしょうか。
細谷:
そうですね。海外の良質なカジュアルゲームを、日本にもってくる戦略がうまくいって、1年目〜4年目までは、順調に売上も出ていました。
アプリのヒット作にも恵まれて、「ハッピーストリート」は2億円、「ディグディグ」は4,000万円ほどの売上(累計)につながりました。
ところが実は、4〜5期目にかけて大失敗をしてしまって。マイナス1億円の大赤字を出してしまったんですよ。このときは本当に死ぬ思いをしました。
えっ、一体それは何が起きたんですか?
細谷:
実は、投資を受けた都合もあって、メンバーをどんどん増やして、事業を拡大しようとしたのですが、それがまったくうまくいきませんでした。
簡単にいうと、売上拡大ばかりに目が行って、無理に手を広げすぎてしまった。自分たちが「本当にやるべきこと」まで見失って。
失敗1、サービスをつくろうとして失敗した
どんなところに「手を広げて失敗した」のでしょうか?
細谷:
まず、ゲームではない「サービス系」のアプリを、自社で立ち上げようとしたのですが、それがことごとく失敗してしまって。
具体的にいうと「婚活アプリ」「写真共有アプリ」「顔文字アプリ」など、そのとき流行っていたジャンルには、ほぼ手を出していましたね。
理想としては「エコシステム」をつくろうとしたんです。ゲームとサービスを立ち上げて、相互にユーザーを回遊させれば良いじゃないかと。
なるほど。
細谷:
ところが、現実はそう上手くはいきませんでした。盲点だったのは「ゲーム」と「サービス」では、必要となるスキルセットが異なることです。
つまり、ゲームをつくりたくて集まったメンバーは、ゲームがつくりたいんです。サービスには興味がありません。こう言うと当たり前ですが。
だから、マネタイズが見えてきて「さあスケールしようか」というときも、人をうまく寄せることが出来なくて、運営が後手に回ってしまう。
そうなってくると、たとえば婚活アプリだったら「pairs」さんとか、ああいう一点突破しているスタートアップには、戦力差で絶対に勝てないんですよね。
戦力が分散して「どれも片手間」みたいな感じになってしまうんですね。
細谷:
そういうことです。あと、やっぱりゲームとサービスだと、ビジネスとしての攻め方とかも、全然ちがってくるんですよ。
たとえば、「ゲーム」は最初からボンと売上が立ちやすいですけど、「サービス」は地道に育てていかないとマネタイズなんて出来ませんから。
失敗2、ゲームジャンルを広げて失敗した
「1億円の赤字」の原因は、ほかにもあったのでしょうか。
細谷:
はい、もうひとつ失敗してしまったのは、自分たちの「得意なゲームジャンル」に、リソースを集中できなかったことです。
もともと、幅広いユーザーがユルくプレイする「カジュアルゲーム」が得意だったのに、ダンジョンRPGのような「ミッドコアゲーム」にも手を出してしまった。
「ミッドコア」のほうが課金額も高い、それなら売上も伸びるはず、きっと倍々ゲームだ。そういう甘い考えで、手を広げていったんですね。
「カジュアル」と「ミッドコア」だと、何が大きくちがうのでしょう?
細谷:
そもそも「ユーザー」が全然ちがってくるんです。なので、ユーザーが「ゲームに求めるもの」というのも、大きく変わってきます。
どちらかというと、カジュアルゲームでは「気持ちよさ」が求められていますが、ミッドコアゲームでは「ゲームの奥深さ」が求められています。
カジュアルは、電車の中とかで、短時間で「気持ちよさ」を味わう。ミッドコアは、ある程度まとまった時間集中して「ゲームの奥深さ」を味わう。そういうイメージです。
なので、自分たちが得意だったことと、「ミッドコア」で求められていること、そこがうまくマッチしなくて、結果につながりませんでした。
「マイナス1億円」からの立て直し
そこから「立て直し」するために、何をしなくてはいけなかったのでしょう?
細谷:
まず、コストを削減しました。切り詰められるところを、血眼になって探しました。
生きるか死ぬかという状況だったので、人も減らさないといけませんでした。去って行くメンバーには本当に申し訳なかったです。
当然、並行して売上もつくっていかないと、会社が死んでしまうので、「次にどうしていくのか」という話もケンカしながらでも、進めないといけませんでした。
いま振り返って話していると、ちょっとポジティブな感じですけど、もうまったくポジティブじゃなかったです、その当時は。
※当時は社員が20名いたが、現在は6名になっている。
そのときに「考えていたこと」などを、おしえていただけますか。
細谷:
とにかく「会社にとってベストな事は何か」を考えていました。本当にどうなるかわからなかったので。
ただ、ずっと「後悔だけはしないようにしよう」と2人で話していました。
もし会社の資金が尽きて、応援してくれた人に「ごめん」と言わないといけない日がきても、何もやり切らずに「ごめん」はナシかなと。
なるほど。
細谷:
ただ、そんな状況でも「救い」だったのは、最初の3〜4年で「カジュアルゲーム」をベースに、ビジネスモデルをつくれていたことです。
どんなに状況は最悪でも、「いいタイトルが出せれば、またきっと売上がつくれる。そこに戻れば大丈夫だ」そういう変な自信がありました。
だから、議論が荒れたときでも、「絶対にカジュアルゲームは、ぼくらのコア事業だ」という方向性は一致していたんですね。
それがなかったら「次は弁当でも売ってみるか」と、めちゃくちゃな博打に走ってしまった可能性もありましたし、そこだけは救いでした。
いままでを振り返って「これは重要だった」と思うことはなんですか?
細谷:
重要だったのは「集中すること」です。自分たちに「これだ」と思えるビジネスがあるのなら、そこに集中して一点突破で行くべきです。
もちろん、振り返って言うのは簡単ですよ。ですけど、ぼくらは実際にそこがブレて、失敗してしまいました。
こういった経緯で、現在は「カジュアルゲーム事業」という自分たちの強みを軸に、もう一度立て直そうと、がむしゃらに仕事をしています。
2015年以降にだした「カジュアルゲーム」の状況はどうでしょうか?
細谷:
ダウンロード数と売上でいうと、昨年に出した「ディグディグDX」は50万ダウンロードで、売上は4,000万円を超えています。
また、今年6月にだした「フィッシングブレイク」も15万ダウンロードで、初月の売上が1,500万円となかなか好調です。
以前と変わらず、カジュアルゲームに関しては、ぼくらが「当たる」と思ったゲームは、ほぼほぼ確実に黒字化できていますね。
すごいですね。ちなみに「当たるゲーム/当たらないゲーム」の差って何があるのでしょう?
細谷:
やっぱり、マネタイズのお作法です。みんなゲームをつくるのは、ヘタクソじゃないんです。おもしろいゲームをつくれる人はたくさんいて。
でも、その「おもしろいゲーム」を継続して遊んでもらい、上手にマネタイズできているゲームは本当に少ない。そう感じます。
フレッド:
面白くてグラフィックはキレイ、ユーザー評価も★5と高い。でも、ぜんぜん儲かっていない。そういうゲームってすごく多いんです。
ゲームがおもしろくても、継続的プレイやマネタイズの仕組みがないと、お金になって返ってきません。そうなるとジリ貧で、プロモーションだってできないんです。
アプリストアで「フィーチャー」されるコツ
「3rdKind」さんのアプリは、よくアプリストアでフィーチャーされるそうですが、そのためのコツをおしえてもらえますか?
細谷:
アプリストアでフィーチャーしてもらうコツは、一言でいうと「コミュニケーションすること」だと思っています。
つまり、アップルさんやグーグルさんに、「こういうアプリつくってるんです」って、こまめに伝えていく必要があるということです。
具体的にはどうやっているのでしょう?
細谷:
まず1ステップ目としては、できるだけ早い段階で「今こんなアプリの配信予定があります」という、メールを送っていますね。
メールの中身は、アプリファイル(β版)を共有しつつ、いつリリースされるのか、どんなクオリティなのか、などを記載しておきます。
あとは「OSの新機能」を盛り込むのも大事です。たとえば「3Dタッチに対応する」とか。頼むから取り上げてください、と願いを込めて。笑
かなり早くから「コミュニケーション」をはじめるんですね。
細谷:
そうですね。次に2ステップ目としては、ある程度ゲームが完成したタイミング、リリース1ヶ月前には、再びメールを送るようにしています。
リリース1週間前には、「この日に確実にリリースされます」という情報も共有しますね。
そして、最後の3ステップ目は、アプリのリリース後です。ユーザーの評価、リテンション(継続率)などをみて、いい数字が出ているようであれば、それも報告しています。
なるほど。
細谷:
という感じで、ぼくらはやっていまして。実際に90%ほどの確率で、取り上げてもらえているので、やり方としては間違っていないはずです。
最近はプラットフォーマー側も、「ユーザーが継続してあそべるゲームか?」などを、かなり見るようになってきていると感じます。
だから、ユーザーからの評価が良くて、リテンションもすごく高い、そういうゲームをつくれているのなら、積極的にアプローチすべきかなと。
とくに、最近は「カジュアルゲーム」の特集も増えてきていて、いい流れが来ていると感じます。
アップルとグーグルで「意向のちがい」を感じるところはありますか?
細谷:
アップルさんは「出たタイミング」ですぐに取り上げたい、グーグルさんはまず「実績」を見てから取り上げたい、という意向のちがいは感じます。
あと、グーグルさんのほうが、コミュニケーションは取りやすいですね。たまに「ここを改善してほしい」とフィードバックが返ってきたり。
ちなみに、グーグルさんは日本でも頻繁にイベントをやっているので、デベロッパー登録していれば、そこで担当の方にも会えると思いますよ。
最後に「今後の展開」について何かあればお願いします。
細谷:
今後はカジュアルゲームを出しつつ、パブリッシャーとしてのノウハウを盛り込んだ、簡単に「カジュアルゲーム」が開発できるサービスも、提供していこうと考えています。
カジュアルゲームって、画面遷移・マネタイズ・プレイサイクルの型を、ある程度パターン化できるので、それをパッケージにしたイメージです。
ゲームのテンプレートも用意しているので、全体の開発工数を30~40%は削減できるのではないかと。
とくに、IPをもっていてカジュアルゲームをつくりたい会社さん、開発工数が大きくかけられない会社さん等につかってもらえたら嬉しいです。
※「gearpack」Wordpressのゲーム開発版のようなイメージとのこと。
取材協力:3rdKind株式会社
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