世界中のAppStoreにランクインしているアプリ「ピアノタイル2」を取材しました。
※キングソフト株式会社 取締役 馮達(フェン・ダ)さん
「ピアノタイル2」について
「ピアノタイル2」について教えてください。
著名なクラシックや民謡のメロディに合わせて、ピアノの鍵盤をタップすることで、ピアノを弾いているような気分になれるゲームです。
ダウンロード数については、10億ダウンロードを突破していて、世界109ヵ国のAppStoreで総合1位になっています。全体で見るとiOSのほうが多く、地域では欧米ユーザーが多いです。
開発については中国のチーターモバイル本社が、日本市場での運営については、キングソフトがチーターモバイルと共同で行っています。
収益については、広告収入(動画広告がメイン)とアプリ内課金です。収益性が高いのは先進国(欧米、日本など)ですね、これはやはり「ゲームに課金する習慣」が強いのが理由です。
ユーザーはどのように増えているのでしょうか?
自社アプリから送客もしていますが、基本はクチコミで広がり、ランキングが上昇して、またそこからユーザーが入ってくる。という循環で、雪だるま式にユーザーが増えています。
海外はとくに「有名YouTuber」が紹介してくれると、すさまじい効果がありますね。最近では日本でも、ヒカキンさんがプレイ動画をアップしてくれました。
あとツイッターやFacebookで「ピアノタイルを遊んでいる人」を撮った動画がよくシェアされています。失敗したときの「あっ!」というリアクションが、おもしろいからだと思います。
「ピアノタイル2」が生まれたきっかけを教えてください。
もともと「ピアノタイル1」は、中国で2人の開発者がつくって、人気がでていたゲームでした。しかし、彼らは資金がなかったため、チーターモバイルがパブリッシャーになりました。
ただ「ピアノタイル1」の課題としては、シンプルすぎてユーザーの継続率がよくなかった。そこで、ゲームの権利を取得して、続編としてつくりなおしたのが「ピアノタイル2」でした。
「2」をつくるとき、こだわったところはありますか。
自社のツールアプリ「クリーンマスターシリーズ」(20億ダウンロード)のビッグデータをつかって、ユーザーがよく使うアプリを分析し、「どんなゲームをつくるべきか?」を考えました。
例えば「どんなゲームが好きか?」「どんなジャンルだと遊ぶ頻度が高いか?」など、専門のビッグデータ分析チームが解析して、それを「ピアノタイル2」に活かしました。
あと開発チームは「ゲームでつかう曲」も研究していますね。プロの音楽家のところにいったり、コンサートも何十回も聞きにいったりしたそうです。
※本社のゲーム開発チームには、数十名が在籍している。
どうしてここまでアプリがヒットしたと感じますか?
「誰でもピアノを上手に弾けた気になれる」というのが、ヒットの要因のひとつだったのかなと感じます。単純に「暇つぶしのゲーム」というだけではなくてですね。
これは余談ですが、ピアノタイルにハマりすぎて、毎日のように遊んでいたところ、アパートの隣に住んでいる人から「あなた、本当にピアノの才能があるわね」と言われたユーザーもいたそうです。
日本と海外ユーザー文化について
世界でアプリを展開していて、日本と海外で「市場の違い」を感じることはありますか?
日本市場は本当に独特だと感じますね。チーターモバイルの運用チームも、日本だけは「日本専門チーム」をつくっています。やっぱり、そうじゃないと順応できないんですよ。
たとえば、日本ではサポートが丁寧じゃないと、すぐ評価が落ちますし、すこしでも不自然な日本語があると「怪しいアプリじゃないか?」と疑われてしまいます。世界にこんな国はありません。笑
プロモーションや広報の文化も独特ですね。海外では「うちがナンバーワンだ!」とみんな声を大きくして言いますけど、日本では「すこし謙虚で控えめ」なほうが好まれます。
このまえ「国別の課金モチベーション」をイラスト化してみたんです、「中国人は勝ちたいから課金する」そうなのですが、これについてどう思いますか?
そう、中国人は「勝ちたい」ですね、見栄です。これは子どもの頃からの「教育の影響」が強いですね。人口が多いので「競争に勝つものこそ、生き残るんだ」と教えられます。
中国のメッセージアプリ「WeChat」にも、LINEのようにゲームが入っているのですが、中国人は「友だちの点数がどのくらいか?」をすごく気にします。とにかく、他人に勝ちたいんです。
あと、中国人は合理的なのですが、新しいものをつくる発想は弱いですよね。だから、イノベーションを起こすことに積極的ではありません。子供のころからの教育もあって、そこは弱いんです。
一方、アメリカ人はイノベーションが得意。子どものころから「自由な発想」を育てられている。日本人は「職人的」ですね、既存のアイディアを改良して、自分の国に合わせるのがすごく得意です。
中国のアプリもレベルがどんどん上がっていると思いますが、最近はどうですか?
今ネットやアプリの世界では、おそらくアメリカと中国が一番進んでいますよね。
中国のネット企業のトップは、シリコンバレーにしょっちゅう行っています。それで「シリコンバレーの良いサービス」を中国でリリースするんです。ものすごいスピードで。笑
ただそうなると、アメリカのトップデザインのサービスを、中国人が頻繁につかうことになるので、「ユーザーの感覚」も教育されていきます。「中国が進んでいる」というのはそういう意味です。
ゲームについても同じような感じですね。中国企業からでたゲームでも、「これは良いゲームだ」とわかると、当たり前のように2〜3週間で類似ゲームがリリースされてしまいます。
関係ないですが、この前「洗濯機」を買ったのですが、iPhoneとかと比べると、「日本の洗濯機」って、ボタンがいっぱいついているし、デザインもダサいと思ってしまいました。
「日本では「機能が多い」が評価され、海外は「シンプルで使いやすい」が評価される。そこにギャップがありますよね。日本メーカーが海外で伸び悩んでいるのは、それが理由だと感じます。
リモコンも複雑ですし、説明書もすごく分厚い。ただ「日本人は、それでも使いこなしてしまう」というのもあるのでしょうね。良くも悪くも「職人気質」です。
海外はかなり「大雑把」というか。たとえば、困ったときには中国人は説明書なんて読まないですし、自分で調べもしないんです。すぐサポートに電話して、聞いちゃうんですよね。
「クリーンマスター」について
メモリ解放や写真整理などができる、スマホ最適化アプリ「クリーンマスター」についても、すこし話を聞いてみました。
「クリーンマスター」は、いまどのくらいダウンロードがあるのでしょうか。
クリーンマスター(シリーズ累計)のMAUは5.6億人、ダウンロード数は20億です。日本だけのMAUでいうと、790万人くらいですね。DAU率(DAU/MAU)は50%以上でています。
ユーザー数では、インド、ブラジル、ロシアなどのユーザーが多いです。一番アクティブ率と広告の収益性が高いのはアメリカですね。
疑問なのが「メモリ解放」「キャッシュクリア」の概念を知らない人は、このアプリにたどり着けないですよね。「一般層」にはどう広がっているんですか?
そうですね、ライトユーザーは「キャッシュが何か」も知らないです。なので、当初は「ゲームユーザー」をターゲットに広告をうちました。「重たいゲームアプリが軽くなります」と。
あと「一般層へのリーチ」という意味で、海外でやっている取り組みは「プリインストール」です、Androidメーカーがたくさんあるので、そこに打診して入れてもらうということです。
プリインストールの「条件」については、その会社によりますね。「うちは無料で良いよ」というメーカーもありますし、有料(1ダウンロード◯円です)や、レベニューシェアのところもあります。
お金をかけたプロモーションはやっていますか?
プロモーションについては、ほぼFacebookとツイッター広告に特化しています。普通は「1インストール何百円」とかかりますけど、ちゃんと運用すると費用対効果も合いますね。
具体的には、ABテストをひたすら回しているイメージですね。たくさん広告画像をつくってバッとだすと、5分以内で「効果があるかどうか」わかるんです。それを24時間、チームで運用しています。
たまに「★5をください」とレビューのお願いが出てくるじゃないですか。これはやっぱり入れたほうが「レビュー」を書いてもらえやすいんでしょうか?
はい、これを出すのと出さないのでは、全然ちがいますね。もう最近は「これは間違いなく効果があるな」とわかってきたので、他のアプリでも入れるようにしています。
「クリーンマスター」は広告で収益化していると思いますが、どの広告枠が収益性が高いですか?
一番収益が高いのは「キャッシュクリアが終わった瞬間の、表示ページの広告枠」ですね。この枠はタイミング的に「ユーザーの邪魔にならない」というのも良いですね。
なるほど。
あと広告の話でいうと、以前「クリーンマスター」でおもしろいテスト(実験)をしたことがありまして。
試しに20日間くらい「広告なしのバージョン」にして、ユーザーの動きを観察してみたんです。そしたら、データ(残存率やアクティブ率)には、ほとんど差がでなかったんですね。
つまり「広告を入れても、データ上は悪影響がでない」という結果になった。これは逆に言うと「広告を外したとしても、データ上は良い影響はでない」ということでもあります。
「極端に広告がジャマ」というレベルでなければ、ユーザーは広告の入ったアプリでも、変わらず使い続けてくれるんだなとわかりました。
取材協力:キングソフト株式会社
編集後記
一応補足ですが、おそらく元ネタは「白いとこ歩いたら死亡」(インタビュー過去記事)というアプリです。そこから、中国で独自に進化して「ピアノタイル」が生まれたものと思われます。
ちなみに、この白黒タップゲームは、アプリストアでは一大ジャンルとなっていて、似たアプリが死ぬほど出ています。「強い種がでると、一気に繁殖する」という意味では、生き物みたいですね。