2人で開発しているカジュアルゲームアプリ、「君の目的はボクを殺すこと」を取材しました。
※ふんどしパレード株式会社 山田裕希さん、北迫宏一郎さん
ゲームの開発について
「ふんどしパレード」について教えてください。
北迫:
ゲームアプリを二人でつくっている会社です。最近、法人化しました。
山田:
もともと、僕ら二人は「スクウェア・エニックス」でDSのゲームをつくっていた同僚でした。その後、お互いスマホゲーム会社へ転職して。現在は独立して、一緒にアプリをつくっています。
コンシューマーからスマホゲームへ、移ってみてどうでしたか?
山田:
コンシューマーとスマホゲームは、まさに「真逆の世界」でしたね。
コンシューマーでは「出したら終わり」という感覚なんですよ。スクエニの頃は「とにかくゲームがおもしろければいい」と考えていました。そもそも「継続率」といった概念もないですし。
一方で、スマホゲームは「数字ありき」ですよね。収益性だったり、ユーザーの継続率だったり、そういう「数字」を見ながらゲームをつくっていく感じです。
アプリ「君の目的はボクを殺すこと」についておしえてください。
山田:
謎の「魔神」から自分を殺すよう頼まれたプレイヤーが、次々に魔神を殺していくという奇妙な放置ゲームです。現在、33万ダウンロード(iOS 28万、Android 5万)されています。
北迫:
もともとこの「魔神」は、去年だしたLINEスタンプ(真顔で追いつめるスタンプ)のキャラクターだったんです。そのスタンプの人気がでたので、このキャラでゲームをつくろうと。
開発期間としては、最初のリリースまで2ヶ月間、大きいアップデート(ガチャや新ステージの追加など)に+2ヶ月ほどかかりました。
「開発でこだわったところ」はどこでしょうか?
山田:
プレイの最小単位での「気持ちよさ」にはこだわりました。プレイの最小単位というのは、パズドラでいうと「パズル」、なめこ栽培キットでいうと「スワイプで回収」のところです。
とくにパズドラのヒット以降、「核となる気持ちよさ」がないアプリは、遊ばれなくなってきているように感じます。つまり「触っているだけで楽しい」という感覚がないといけない。
今回のアプリでいうと、「タマがどういう感じで飛んでいくか」「ダメージゲージがどう減るか」など、動きの小気味良さや演出に、すごく時間をかけました。
ほかに「こだわったところ」はありますか?
山田:
もうひとつは「ストーリー(の引き)」ですね。最近は「先が気になる、プレイを続けたい」と思ってもらえないと、放置ゲームもすぐ飽きられてしまいます。
北迫:
あと、ゲーム中に「ユーザーにどうツッコませるか?」ということも意識していて。「ツッコミが入る」ということは、その時点で「感情移入している」ってことだからです。
例えば、魔神のセリフやポーズの「ウザい感じ」もそうですし、ゲームにでてくるタマも「キンタマウム」とツッコミたくなる名前にしました。
※iOS版は「キ◯タマウム」になっている(アップルに「卑猥です」とリジェクトされたため)
そういう「こだわりの結果」が、データとしても感じられる部分はありますか?
北迫:
「ユーザーの継続率」はすごく良かったです、具体的には「翌日が80%」「一週間後が35%」という継続率がでています。ユーザーが長く遊んでくれた、ということですね。
ソーシャルゲームの継続率でいうと、「翌日が40%」でも悪くないくらいだと思うんですけど。それと比べても、よい数値が出たなと感じます。
「アプリのダウンロードを増やす」という点で、工夫したことはありますか?
北迫:
アプリストアの「ABテスト」は何度かやりましたね。たとえば「アイコン」を変えるだけでも、10〜20%くらい、ダウンロード率に影響がでたりするんです。
あと、説明文についても「すべての謎が解かれた時、『永遠』が消滅する」みたいな、4行くらいの奇をてらった文章より、ごく普通の説明文のほうが、10〜20%もダウンロード率が良かったです。
マネタイズについて
「マネタイズ(収益面)」のほうはどうでしょうか?
山田:
収益の比率でいうと、バナー広告(バナー、インタースティシャル)が50%、動画広告が30%、課金が20%というバランスですね。これは「全期間の集計」でみたときの内訳です。
そして、バージョンアップで「ガチャ」を入れてからは、収益全体の40〜50%は「ガチャ」が占めるようになりました。課金だけで見ると、88%が「ガチャ」という内訳です。
※「ガチャ追加後」の課金収益(50%)のうち、88%が「ガチャ」(その大半が「三連ガチャ」だそう)
※ガチャはアーティファクト(アイテム)が獲得できる。
こういうカジュアルゲームでも「ガチャ」って機能するんですね。
山田:
ですね、これは我々としても予想外でした。もともと「実験的にガチャいれてみようか」くらいの感覚だったのですが、想像以上にみなさん利用してくださって。
北迫:
つくってる側からすると「ガチャいれると、ユーザーに嫌われる」と思いがちじゃないですか。でも、やっぱりそれって、開発者だけが心配していることなんだなと。
もちろん「ガチャ回さないと進まないゲーム」はダメでしょうけど、「選択肢としてのガチャ」ならユーザーは気にしないというか、拒否はされないんだなと実感しました。
バージョンアップで「ガチャ」を入れたときも、「なんでガチャゲーにしたんだ!」みたいなレビューもまったくなかったですし。今となっては「はじめからやればよかった」とさえ思います。
魔神の「ひねくれた性格」が呼んだ、ユーザーのリアクション。
このアプリでは、魔神から「いろいろなお願い」が出される。その中でおもしろい結果になった事例を、4つ紹介いただきました。
事例1「ガチャは絶対にひかないこと」
北迫:
魔神が「ガチャだけは絶対ひくなよ、くれぐれもやるなよ」と言ってくるシーンでは、「ガチャ見てみる」を50%の人が押してくれました。
この「ダチョウ倶楽部」的メソッドって、強烈なんだなと思いました。「やるな」と言われると、やりたくなるんでしょうね。「うざい魔神を困らせたい」という感情もありそうですが。
事例2「アプリをダウンロードするな」とシェアしてくれ。
山田:
魔神が「このアプリをダウンロードするな!と友だちにシェアしてくれ」と頼んでくるシーンがあるのですが、これもすごくシェアされていました。
数字でいうと、ダイアログ15万回の表示のうち、「ツイッターでシェア」が5万回、「LINEでシェア」が7万回も押されています。少なくとも全体の1/3の人が「シェア」を押してくれたと。
北迫:
たぶんユーザーも、心理的に加担しやすいんでしょうね。ふつうは「おすすめだからシェアしてね」ですけど、これはひねくれてて「絶対ダウンロードするな!」なので。笑
事例3「絶対ダウンロードするな」とレビューにかいてくれ。
山田:
あと同様に「アプリを絶対ダウンロードするな!とレビューに書いてくれ」と魔神が頼んでくるシーンがあるのですが、これも50%もの人が「YES」を押してくれました。
おかげさまで、AppStoreのレビューは「絶対ダウンロードしないで!」だらけになっています。笑
北迫:
ただこの施策は、GooglePlayではアウトでした。「レビュー文言をコントロールするな」といった理由で、アプリを消されてしまって。そこは気をつけたほうが良いですね。
事例4「このアプリを遊ぶのはやめて、動画広告でもみてくれ」
北迫:
魔神が「僕を殺すのはやめて、ほかのアプリを遊んでくれ。動画でも見てみないか?」と、動画広告をすすめてくるシーンでは、全表示に対して65%の人が動画をみてくれました。
山田:
ここは「動画リワード」になっていて、動画広告を見ると「フィーバーゲージ」が満タンになります。「フィーバータイム」が終わった瞬間に、2回に1回くらいの頻度で出しています。
魔神の「ひねくれたキャラ」おもしろいですね。
北迫:
「何を言っても許されてしまう」みたいなところはあって。それが、よい方向に転んだようです。ちなみに「アプリを消せ、二度と来るな」といってくるシーンさえあります。
山田:
「魔神」の公式ツイッターにも、みんなすごく話しかけてくれていますね。まさか「放置ゲームのキャラ」にファンができると思っていなかったので、おどろいています。
まとめ
これから「アプリで独立する人」にアドバイスするとしたら?
山田:
アプリで食っていくなら、「つくりたくてつくる」と「ビジネスとしてつくる」、この2つは分けて考えるべきだと思います。すべて「自分がつくりたい」だけでは厳しいかなと。
自分の体験でいうと「ダイス&モンスターズ」というアプリ。これは自分が知人と一緒に作ったアプリで、「つくりたいアプリ」がつくれたのですが、収益としては大きなものにはなりませんでした。
もっと「流行ってるアプリ」だったり「収益性の高いシステム」を研究した上で、その中に「やりたいことを込める」というようにすれば、より良い結果になったかもしれません。
あと「アプリは競争が厳しい」とよく言われますが、マネタイズ自体はしやすくなっているんですよね。なので、一概に「厳しくなってる」とも言えないですし、チャンスはたくさんあると思っています。
最後にメッセージなどあればお願いします。
山田:
「君の目的はボクを殺すこと」については、これから海外展開していこうと考えています。つい先日、繁体字版(台湾など)もリリースしました。
もし、海外展開ノウハウをお持ちの方、パブリッシャー的に協業いただける会社さんなどいらっしゃれば、力を貸していただきたいので、お声がけいただければ嬉しいです。
取材協力:ふんどしパレード株式会社