小規模の運営でマネタイズに成功しているゲーム「中年騎士ヤスヒロ」を取材しました。
※株式会社POLARIS-X 代表取締役 住田ヤスヒロさん(写真の方)、アドバイザー 坂本達夫さん
「中年騎士ヤスヒロ」ができるまで
「ポラリスエックス」について教えてください。
住田:
アプリのパブリッシャー事業をやっている会社です、現在3名で活動しています。
もともと私は、カプコンに二十数年ほどいて、その後アドネットワーク企業のカントリーマネージャーを経て、POLARIS-Xを立ち上げました。
はじめて出した「中年騎士ヤスヒロ」はどんなアプリですか?
住田:
40代・独身・無職のおっさん勇者「ヤスヒロ」が、ダンジョンをすすんでいく、RPG+放置ゲームのようなシステムのアプリです。
ちなみに、「ヤスヒロ」というのは、私の名前です。いろいろ候補はあったのですが、しっくりこなくて、自分の名前をつけてしまいました。笑
「中年騎士ヤスヒロ」の原作は、韓国のゲームなんですよね?
住田:
はい、原作の「中年騎士キム・ボンシク」は、韓国ですごくヒットしたタイトルで、ダウンロード数も100万ダウンロードを超えています。
100万ダウンロード(Android 70:iOS 30)は、韓国のインディーゲームでいうと、「かなり良い結果を残した」と言える数字ですね。
どうして「中年騎士キム・ボンシク」を、日本にもってこようと考えたんですか?
住田:
これは「一目惚れ」に近いですね。韓国のゲームアプリを120個くらい見てみたところ、「このゲームしかない!」と惚れてしまいました。
手軽にあそべるけれど、やりこみ要素も深い、そういう魅力があったんです。それで、ぜひ日本にもってきたいと考えました。
※韓国版(原作)「中年騎士キム・ボンシク」
原作「キム・ボンシク」との契約は、どのような経緯で決まったんですか?
住田:
韓国の知人が、韓国のインディデベロッパーを、30社くらい集めてくれて。そこに「キム・ボンシク」をつくった、MAF Games(マフゲームズ)も来てくれたんです。
そこからの、条件交渉については、すんなり進みましたね。向こうも「日本にアプリを出してみたい」という想いがあったのだと思います。
韓国版から日本版への「ローカライズ」で、大変だったことはありますか?
住田:
武器名やクエスト名のローカライズですかね。直訳だと面白さが伝わらないので、たとえば「安物のナイフ」ではなく「100均のナイフ」など、 アレンジもして翻訳しました。
あと、徹底的にUIに「ハングル」が残らないようにしたり。たとえば、エラーのポップアップとか、細かいところにも気を配りました。
※2015年6月にパブリッシャーの契約成立、日本版は10/23にリリースした。
翻訳も「日本っぽい表現」に、書き直したんですね。
坂本:
そうですね。ちなみに、こういうアプリの翻訳って、想像以上に「間違った翻訳」がすごく多いんですよ。
たとえば、GooglePlayで、佐賀県の「佐賀」というキーワードで検索すると、「XX 佐賀」というタイトルのアプリが、めっちゃでてくるんです。
この「佐賀」ってなにかというと、英語の「Saga」なんですよね。だから「Bubble Saga」が、「泡佐賀」になっていたりする。笑
海外のデベロッパーが、グーグル翻訳とかで日本語にローカライズした結果、こういうひどい翻訳になってしまっているのだと思います。
逆に、日本のデベロッパーも、中国あたりで似たようなことを、やっている可能性もあるので、気をつけなきゃいけないところですよね。
※「暗黒時代佐賀」と聞くと、こんなイメージをしてしまいます。
アプリのデータの話など
「中年騎士ヤスヒロ」のダウンロード数や収益は、いまどのような感じですか?
住田:
ダウンロード数は約10万ダウンロードで、最近のDAUでいうと5,000くらいです。継続率のほうは、7日後で20%を超えています。
収益については、課金と広告の比率が7:3くらいですね。売上については「過去に最高でデイリー100万円を超えたことがある」という感じです。
もともと「高DAU、低ARPU」のつもりでしたが、フタを開けてみたら 「思ったより低DAU、そこそこ高ARPU」というゲームになりましたね。
坂本:
収益性は、カジュアルゲームにしては、かなり高いですね。1ユーザーあたり「100〜150円いけばいいかな」と思っていましたが、それよりもずっと良かった。
「ヤスヒロ」でうまくいったプロモーションはありますか?
坂本:
ツイッター広告がうまくいっています。Facebook広告よりも、ずっと効率的にユーザーを獲得できています。
相場的にツイッター広告は、「1インストール100〜200円」で、とれるみたいですね。若いユーザーがたくさんいるからかもしれません。
日本と韓国のちがい
日本と韓国のユーザーを見て、違いを感じるところはありますか?
住田:
「お金のつかいかた」の傾向には、違いがあると感じます。
ざっくり言うと、韓国人は「ナンバーワン」になりたくてお金をつかうのですが、日本人は「オンリーワン」になりたくてお金をつかう傾向が強いと思います。
「ヤスヒロ」でいうと、韓国のユーザーは「早くダンジョンを進みたい」「なりふり構わず強くしたい」といったモチベーションで課金します。
一方、日本のユーザーは、「コレクションをそろえたい」「カンストさせたい」というモチベーションで、課金していただいてるイメージです。
なるほど。
坂本:
仮に「アイテム」を追加するとして、韓国的な発想だと、「ものすごく強いアイテム」を追加して、それを高い価格にしたほうが良くて。
日本人的な発想だと、安めの「アイテム」を100種類くらい追加して、「コンプリートしたくなる」ようにしたほうが、課金してくれやすい感覚があります。
動画リワードについて
広告収益というのは「動画リワード」だけなんですよね?
坂本:
そうですね。「動画リワード」のいいところって、実は「収益性の高さ」ではなくって、「ユーザーのアクティブ率」に影響を与えることだと思っていて。
たとえば「クロッシーロード」って、「何度かゲームをあそぶ」→「100コインたまる」→「ガチャで新キャラ獲得」という流れが、1セットになっている。
その流れの中での、「ゲームへの飽き」と「100コインたまる」までのスキマを、うまく「動画リワード」でつないでいるんですよね。
だから、ずっと飽きない。うまく設計されていますよね。これを僕は動画リワードの「見えざる手理論」と呼んでいます。
なるほど。
坂本:
ヤスヒロでいうと、「動画リワード」でコインがもらえるようにしているのですが、「15分おきに回復する」という設計にしていて。
これも、10分くらいやって「そろそろ、ゲームやめようかな」と思ったときに、「あと回復まで5分なら待つか」と、アプリを閉じずにいてくれることを、期待しているんですね。
つまり、本来「ユーザーが離脱してしまっていた」かもしれない、そのスキマの5分間を、動画リワードを入れることで、買っているようなイメージです。
最近のアプリ業界など。
最近の「アプリ業界」を見ていて、なにか感じることはありますか?
坂本:
最近は「一発ネタ」では、ランキングに上がれなくなっていますよね。競争がとても激しくなっていて。そこはすごく課題だと思っています。
もう昔みたく、とりあえずアプリをつくって、「後からバナー広告のせればいいや」という考えだと、通用しなくなってきていて。
だから、実際に「こんなに高いクオリティで、2万ダウンロードしかないの!?」みたいなアプリが、たくさん出てきているんですよね。
どうしたらいいんですかね?
坂本:
簡単ではないですよね。まずはアプリの企画をしっかりやる。ゲーム性をつくりこんで、課金モチベーションもつくって、どうマネタイズするかまで考える。
さらに、グラフィックもちゃんとやって、操作も「さわって気持ち良い」というところまでもっていく。ここまでやらないと、むずかしくなっていると感じます。
でもそうなると、相当デベロッパーに、高いレベルが求められます。だから、個人でやっている人が、より苦しくなっているのかなと。
逆に、やっぱり技術や企画のところで、「高い戦闘力」をもっている開発者たちは、なんだかんだ生き残っているな、というのも感じます。
今後の活動についておしえて下さい。
住田:
今度は、海外からゲームをもってくることに加えて、日本のゲームアプリを韓国にもっていきたいと考えています。
韓国人に受け入れられるローカライズをやって、フィーチャーされるための努力もして、韓国の文脈に合ったモノづくりに挑戦したいです。
「ねこあつめ」が世界で成功していますが、そういう日本的な、かわいいカジュアルゲームはとくに、海外でもチャンスがあると感じますね。
取材協力:株式会社POLARIS-X