今回は「ツイキャス」を運営している、モイ株式会社さんにお話を伺いました。大きくユーザーが伸びた2つのキッカケ、スマホベースにすることの大切さ、など。
※モイ株式会社 丸吉 宏和さん
ツイキャスについて
「ツイキャス」について、おしえて下さい。
丸吉:
ツイキャスは「スマホで簡単に生中継ができる」というアプリです。ミッションとしては「世界中の人々をリアルタイムにつなげる」ということを掲げています。
ユーザー数でいうと、今年の4月に1,000万ユーザーを突破していて、現在アルバイトの方も含めて20名ほど(半分はサポート担当)で運営しています。
※1ユーザー=アカウント登録。
「どんなユーザー」が使っているんでしょうか?
丸吉:
ユーザーについては「若いユーザー」と「女性ユーザー」が多いのが特徴です。年齢でいうと24歳以下が55%を占めていて、男女比でいうと男性40:女性60という比率になっています。
学生ユーザーも多いので、ユーザーがアクティブになるのは「学校が終わったあと」ですね。学校が終わって夜になってくると、どーんと利用が伸びてきます。
「ユーザーの滞在時間」については、「だいたい30分くらいつかう」という人が多いと思います。1つの放送は基本的には30分までなので。(※ツイキャス内の仮想アイテムを使うことで、最大4時間まで延長可)
ユーザーが伸びたのはなぜか?
「ユーザーが大きく伸びたきっかけ」は何かあったんでしょうか。
丸吉:
一気にユーザーが伸び始めたのは、2013年の前半くらいでした。「なぜ、そのタイミングだったか?」というと、2つのきっかけがあったと考えています。
1つ目は「スマホにインカメラがついた」です。というのも、生配信サービスにおいてインカメラとアウトカメラで、文化というか「撮れるもの」が全く違うんですよ。
例えば、アウトカメラを使うと「風景やおもしろいものを中継する」という配信になります。
それがインカメラだと「自撮り」ができるので、自分の顔を映しながら放送できる。そして、「コメント」を読みながら放送できるので、コミュニケーションも取りやすくなった。
2つ目は「女子高生にツイッターが浸透した」です。女子高生にとってツイッターが当たり前になったことが、ツイキャスにとっても追い風になりました。
ツイッターアカウントをつかって、そのままアカウント登録もしてもらえるし、ツイッターを通じてツイキャスの放送自体も拡散されやすくなった。
「放送されるコンテンツ」には、何か変化はありましたか?
丸吉:
最初は「自撮りで配信する女子高生」から広がっていき、最近はいろんな方がつかってくれています。
昔から利用いただいている「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳さんをはじめ、最近は、藤田ニコルさんなどモデルのみなさんや、渡辺直美さんなどにも、ご活用いただいています。
他には「浦和レッズ」さんは、サッカーの練習風景をツイキャスで流してくれています。あとは「アーティスト」の方が、新曲の告知も兼ねて、つかってくれることも多いです。
ツイキャスで配信することで「Twitterのフォロワーが増える」ということも、1つの利用になっているのだと思います。
海外でユーザーが伸びたのは?
ツイキャスには「海外ユーザー」もいるんでしょうか?
丸吉:
そうですね、1,000万ユーザーのうち、2割くらいが海外ユーザーです。そして、実は海外ユーザーの半分(100万くらい)はブラジルのユーザーです。
ブラジルで伸びたのは、「通信環境」が大きな要因だと思います。ブラジルのネット環境って、めちゃくちゃ悪いんですよ。日本と比べものにならないくらい、ネットが遅くて安定しないわけです。
ツイキャスは「通信が遅くてもつかえるように」と改良を続けてきたのですが、それがブラジルの過酷なネット環境にマッチしたのだと思います。
ちなみに、ツイキャスを運営していて「日本の通信環境は世界一だ」と実感しています。北米も東南アジアも良くなってきていますが、「一般家庭レベル」になるとまだまだです。
日本で「ライブ配信サービス」が成熟しているのも、「ネット環境の良さ」が大きな要因だと思いますね。
「通信が遅くてもつかえる」っていうのは、どんな仕組みなんですか?
丸吉:
技術的には「ユーザーのネット環境」をツイキャス側で判断するようにしているんです。
例えばモバイルだったら、「動画が止まらずに視聴できること」を優先して画質を落としたり。逆にネットが速いところにいると高画質で配信されます。
つまり「リスナーにとっての快適な環境」を、ユーザーごとにチューニングしているわけですね。なので、電車に乗っていて地下に入ったりすると、画質のクオリティが自動的に落ちたりもする。
日本でも月末になると、ほとんどのユーザーは通信制限にかかっちゃうじゃないですか。そのため、通信制限のかかった状態(128kbps)でも、なめらかに動画が見られるようにこだわっています。
ツイキャスはSNSの動画版。
ツイキャスの放送って、なんかゆるいですよね。
丸吉:
そうですね、ツイキャスって「番組」ではないんですよね。番組っぽくすると配信のハードルが上がっちゃうので。「SNSの動画版」みたいなイメージでしょうか。
だから、普通のサービスって「発信側」がちゃんとしてないと、放送が成り立たないのですけど、ツイキャスは「コメントがいっぱいくるので「リスナーまかせ」な受身の配信も成り立つんですよ。
そういう意味では、「自分の言いたいこと」を伝えられる人よりも、「相手がいいたいこと」を引き出せる人のほうが、人気が出やすい傾向にもあると感じます。
「配信する側」の人は、どんなモチベーションなんでしょう?
丸吉:
キャス主(配信者)のモチベーションとしては「心地よいコミュニティをツイキャスの中につくる」みたいな感じでしょうか。「人気になるために配信している」という人は、実は5%もいないと思います。
イメージとしては「カフェでだらだら話す」みたいなことに近いです。最近は「カフェに行かなくても、ツイキャスでしゃべればいいよね」という高校生も増えていると思います。
また最近「コラボキャス」という機能もつけました。これはリスナーが「ゲスト」的な感じになって、「コメント」だけではなく、声と動画でも配信に参加することができます。
「ツイキャス用語」みたいなのも結構ありますよね。
丸吉:
そうですね、生配信することを「キャスする」、配信者を「キャス主」、配信のことを「○○のキャス」と言います。これから「ググる」みたいに、一般的につかわれるようになったら嬉しいなと思います。
あとはなんだろう、はじめて放送をみている人を「初見さん」と言います。「初見です」「初見さんいらっしゃい」みたいに使います。
それと、コメントしない人を「もぐりん」といいます。コメントが少ないと「もぐりんやめてください〜」とか言うんですね。なんだか、女子高生が考えたっぽい、かわいい表現ですよね。
「スマホをベースにする」というのが重要
ツイキャスをこれまで運営してきて、何か「わかったこと」などありますか?
丸吉:
ツイキャスをやっていて「スマホをベースにしないと、圧倒的にユーザーに見てもらえない」ということをつくづく感じます。
例えば、とある著名女性アーティストさんが、Youtubeとツイキャスで同じ日に、生配信をしたことがあって。そのときは、Youtubeよりもツイキャスのほうが5倍以上も見られていたんです。
どうして、そんなに差が開いたんですか?
丸吉:
理由は「スマホ」にすごく紐付いているんですよ。ひとつは「プッシュ通知」です、フォロワーには「○○さんが配信を開始したよ」と通知されるからですね。
もうひとつは「ソーシャル連携」です。リスナーが放送を見ながら「コメント」を書くと、ツイッターにも放送のURLが拡散されて、リアルタイムで人が集まってくる仕組みになっているから。
ちなみに、「ツイキャスで配信されている放送」の94%はモバイルからの配信なんですよ。もちろん、PCからでも本格的な配信は出来ますけど、ほとんど使われていないんです。
ツイキャスで特徴的な「5つの放送ジャンル」
メイクキャス
丸吉:
一番人気があるメイクキャス主は、郷 杏樹(@mini_size0)さんという方です。累計2,000万人くらいに放送が視聴されています。
このキャス主さんは「メイクキャス」といっても、メイクがメインコンテンツではなくて、コミュニケーションがとっても上手なんです。
例えば、「メイクをしながら恋愛相談とか聞いたり、友だちのような感覚で配信しているんですね。それで「みんながコミュニケーションとして楽しい」という空間をつくっています。
弾き語りキャス
丸吉:
「弾き語りキャス」も人気があります、いわば「路上の弾き語り」のバーチャル版ですね。「路上での弾き語り」って、ファンが蓄積しにくいので実は非効率だと思うんです。
例えば、kain(@kainkain2525)さんは、ツイキャス上で地道にファンを増やし、視聴数が850万人を突破しています。そして、事務所に頼らずにリリースしたアルバムも、オリコンでTOP10入りしました。
お勉強配信
丸吉:
「お勉強配信」というのは「何も話さずにみんなでお勉強をするだけ」というだけの配信です。もくもく会のバーチャル版みたいな感じですね。朝五時くらいにはじまるキャスもあります。
特に「うい→Ai♡うさぎ組♡組長」(@syokopiko)さんの配信が人気です。
イケボキャス
丸吉:
「イケボ」は「イケイケボイス」の略称で、声がカッコイイ人のことを言います。
イケボキャス主さんは、女子中高生に爆発的に人気があります。自分たちでイベントを主催するときには、ファンレターを200通以上もらうそうです。
カップル配信
丸吉:
カップルでの配信を「カップル配信」といいます。これ一見すると「すごい炎上しそう」って思うじゃないですか。でもツイキャスの中では、当たり前の文化になっているんです。
キャス主としても「いちゃいちゃして、自慢してやろう」みたいな意図はなくて、自然にやっているんですよ。コメントも「憧れます」「応援してます」とかが多くて、荒れたりもしないですね。
これをみて思うのが、いまの若い世代って「ネットでのコミュニケーションが当たり前」になっていて、「ネットが現実世界の延長」みたいな感じになっているということです。
例えば、ネット上でリア充を発見しても叩いたりしませんし、「感情をシェアして仲良くしていこう」という雰囲気があるのは素敵だなと思います。
そもそも「カップルを叩く」って、実は日本人同士だけです。アメリカ人がカップルで仲良くしていたら「素敵だな」と思いますよね。日本でも少しずつ認識が、変わってきているのかもしれません。
「キャスマーケット」について
最近はじめた「新しい試み」はなにかありますか?
丸吉:
最近「キャスマーケット」というのをはじめました。
これは「ツイキャス上で、簡単にチケットが売れる」という機能で、イメージとしてはツイキャス上で、「ミニジャパネットたかた」みたいなことが出来るようにしたものです。
僕たちは「アーティストが、食べていけるハードルを下げたい」と考えていて。いまの世の中は「価値をクリエイトしている人」に、収益があまり還元されていないので、それを変えたいんです。
特徴としては「手数料が一切かからない※」ということです。つまり、3000円のチケットを売ったら、3000円全額がそのまま収益になります。
実際にツイキャスで3,000円ほどのチケットを、1分で100枚も売ったインディーズのアーティストさんも出てきています。これから、そういった事例を増やしていきたいですね。
※「配信中、配信後1時間以内に売れたチケットには」については手数料0%、それ以外は手数料8%
取材協力:モイ株式会社