昨年あたりから、ニュースアプリが大きく盛り上がってきていますが、そんな中、NewsPicksという「経済」に特化したニュースアプリがコアユーザーを獲得しています。
特に気になったのは、使っているユーザーの評判がかなり良いことと、それと何よりスゴイのが、多くの著名人がこのアプリをつかって情報発信をしているということ。
躍進の秘密を探るべく、今回はNewsPicksを運営する、株式会社ユーザベースの代表の梅田さんと広報の羽田さんにアプリのお話を伺ってきました。
(※写真はユーザーベース代表の梅田さん)
NewsPicksについて
どうしてNewsPicksをつくったのでしょうか?
梅田:
我々ユーザーベースでは「世界一の経済メディアをつくりあげよう」というミッションを掲げています。
これまでは、SPEEDAという法人向けのプラットフォームをつくってきたのですが、より一般のビジネスパーソンが日々の情報収集で役立つプラットフォームもつくりたいと考えました。
なぜ、あえて今”経済メディア”なのでしょうか?
梅田:
僕たちは経済ニュースに対しては2つの欲求があると思っています。それは「発見の欲求」と「理解の欲求」です。
「発見の欲求」は自分の興味があるニュースにこそ出会いたいというニーズ、「理解の欲求」は経済ニュースに対して自分なりの理解を深めたいというニーズ、
この2つの欲求を満たしている経済ニュースメディアはまだ世の中にないと実感していたので、
そこに、僕たちが手掛ける意義があると感じます。
「発見の欲求」に対しては、編集者が重要なニュースを選ぶのではなくユーザーがニュースを選ぶ、そして「理解の欲求」に対しては、専門家のコメントや他のユーザーの反応をニュースと並べて読むことができる、という形で実現しました。
きっかけは何だったのでしょうか?
梅田:
原体験としては、わたしが証券会社にいたとき、手がけていた会社が、たまたま新聞の記事に大きくとりあげられたことがあったんです。
その記事の取り上げ方が、一部正しくないところがあって。やはり経済って専門領域なので、記者を介して情報をだしていくよりも
専門家たちが直接コメントできることが重要なんじゃないかと感じた。
もうひとつは、例えば何か大きなM&Aのニュースがでると、デスクの周りとかで「このM&Aすごいよね」とか「大したこと無い」とか感想をいいあったりしますよね。
その時に人それぞれニュースの捉え方って違っていて、自分は「これすごい!」と思っていたのに、周りの反応は「実はこれはすごくない」みたいなことがある。
こういう人の反応も含めて、ネット上で再現できないかなと、一方的にニュースを流すのではなく、双方向なメディアをつくりたいとおもったのがきっかけです。
NewsPicksがインフルエンサーに使われている理由。
NewsPicksは0からはじめて、インフルエンサー(影響力の高い人)がこれだけつかっているのはすごい、どのようなアプローチをしたのですか?
梅田:
最初は一人一人インフルエンサーの方にお会いして、お願いにいっています。
当然、いま参加してくれている方々の何倍の人に会っていて、もちろん断られたり、そんな時間ないよと言われたりも、めちゃくちゃありますよ。
ただ、我々の場合は、SPEEDAが既にある程度、経済の領域では認知されている実績があったので、話を聞いてもらえやすいというのはあったかもしれません。
(※トップランキングには堀江さんや、ドワンゴの夏野さん、GLOBISの堀さんなど著名人が並ぶ。
スタートから約半年のアプリで、これほど著名人がアクティブにつかっている状況は驚異的。)
まったく面識ない人には、真正面からメールおくったりということ?
梅田:
はい、堀江さんもそうですし、竹中平蔵さんもそうです。堀江さんはTwitterにメールアドレスがのっていて、そこから最初はメールしましたし、竹中平蔵さんも竹中平蔵事務所っていうホームページがあって、そこから連絡しました。
やっぱり最初は、会わないと始まらないので、「どんな短い時間でもいいので、おれがやろうとしていることを見てください」と、ほんとそれだけのシンプルなこと。
それで、おもしろそうだから、一回話を聞いてみようかと返答いただけたりという形です。
良いプロダクトと情熱があれば、無名のサービスやアプリでもインフルエンサーの方々につかってもらえる可能性はある?
梅田:
ぼくはそう思います、それはすごく信じていて。
もちろん人にもよりますけど、あきらめずにいったら、共感してくれる人は必ず現れる、
何か、世の中の非合理を変えようとしている挑戦者に対して、みんながおもっている以上に彼らはポジティブに向き合ってくれます。
まったくうまくいかない場合は、それをやっていないだけなんじゃないかと思います。
マネタイズ・ビジネスモデルについて
NewsPicksのマネタイズとして月額1,500円で経済誌の記事が読める有料課金プランを販売されています、なかなか厳しいモデルにも見えますが、これから大きく伸ばせるイメージはあるのでしょうか?
梅田:
有料課金に関しては「儲かるからやろう」という発想からではなくて、課金モデルを追求していかなくてはいけないという使命感に似たものから来ています。
というのも、まずユーザーにとって邪魔なものはできるだけ排除したいから。
例えばバナー広告って邪魔ですよね、自分たちのほしくないものはつくりたくないんです。そしてNewsPicksのようなユーザーが限られるメディアでは、純粋な広告モデルでは必ずすぐに限界が来る事は明白です。
まずはユーザーが「これにお金払っても良い」と思える、有料課金モデルを時間をかけてでも追求していきたいと考えています。
(※東洋経済、ダイヤモンドなど8誌の記事が月額1500円で読める有料プラン。)
どのようにしたら、ユーザーがニュースコンテンツに毎月1,500円払ってくれるのでしょうか?
梅田:
今は有料プランに関しては、ダイヤモンドさんなど経済誌8誌と提携して記事を配信していますが、
キーになるのがオリジナルコンテンツだとおもっていて、NewsPicksでも編集チームの体制をつくって少しずつオリジナルコンテンツを配信していく予定です。
「1,500円払ってでもこのコンテンツ読みたい」という良質な記事をつくっていく、ここにできる限り挑戦しようと。
他に考えているマネタイズはありますか?
梅田:
もうひとつ、ネイティブアドに可能性を感じています。広告であってもユーザーが読んでおもしろいものであれば意義があると考えています。(※補足:ネイティブアドというのは、より読み物に近い広告記事のこと。もちろん「広告」ということを明記する。)
ネイティブアドと、オリジナルコンテンツの有料課金、この2つが収益化の鍵になるのではと思っています。
世界一の経済メディアになるには、プラットフォームをつくるテクノロジーの力、コンテンツをつくる人の企画力や分析力、この2つを組み合わせることが重要だと考えています。
まずはプラットフォームにフォーカスしているんですけど、徐々に編集と企画、コンテンツをつくるほうに力を入れていきたい。
これからは、紙ではなくスマホとタブレットの時代。
今後、新聞や雑誌は読まれなくなってくるのでしょうか?
梅田:
それは間違いないと思います。。スマホ、タブレットの2つが主流というのが将来の姿だとおもいます。
ただ、どうしても紙に勝てないことがある、それは、読む時の快適さだったり、美しさもそう。そこに対しての解がでてくると、完全にスマホ・タブレットの時代になるのではと。
例えば、新しいデバイスがこれから開発される可能性もある。この前、ある会社さんが、紙により近い電子ペーパーを開発していた。
ぼくは、それは新聞にあっているなとおもっていて、家ではバッと広げて読んで、電車の中ではスマホで読むみたいな。
iPhoneでも、iPadでもない、もうひとつのデバイス、明らかに紙に負けている部分を補うデバイスがでてくる可能性がある。そうなると紙は決定的に厳しくなってくるのでは。
(※電子ペーパーデバイスが今後出てくるかも?画像はイメージ、engadgetより。)
私は長文は本でよむほうが快適に感じます、紙のほうがはやく読めるので。
梅田:
そうですね、ぼくたちは紙の本を知っているので、快適さも理解していますが、ただ、いまの大学生たちを見ていると、紙を知らずに育っているようなところがある、
スマホネイティブの彼らにとっては、紙から離れた生活に、ストレスを感じない可能性があるんじゃないかなとも思います。
アプリの運営について
プロモーションは何か行われていますか?
羽田:
プロモーションで大きく行ったのは、東洋経済さんのブランドコンテンツ(※タイアップの記事広告のこと)に出稿したくらいです。
東洋経済とNewsPicksはユーザー層が近いんですよね。若手の感度の高いビジネスマンにアプローチできるのが良かった。
東洋経済に出したあとに、AppbankだったりNHKとかにも取り上げられたという意味では、他のメディアの目にとまりやすいという副次的な効果もあったのかなと。
NewsPicksはKPI(重要視している数値)はあるのでしょうか?
梅田:
ゴールとしてはDAU(デイリーのアクティブユーザー)であることは間違いないですが、その前の段階として、どれだけ深くつかってくれるか、滞在時間、ピックしてくれる率は見ています。(※ピックとはNewsPicks内に記事を投稿するアクションのこと)
グロースハックというか、プロダクトの改善で成功した事例はありますか?
梅田:
うち独自の事例でいうと、タイムラインにひとつコメントをだすようにしたら、アクティブユーザー率が上昇しました。
昔はタイムラインにコメント載せてなかったんですよ、顔(アイコン)だけでて、とんだらはじめてコメントがでてくる。これを途中でコメントが中心のUIに変更しました。何を価値に置くか、より明確にしたことが良かったのかなと。
今年3月にリリースしたAndroid版のほうは調子はどうですか?
梅田:
まずまずだと思います。毎日新規で入ってくるユーザーはiPhoneとAndroidで2:1くらいですかね。
最初はiPhoneアプリからだしたんですね。
梅田:
実は、僕たちも最初何もわかっていなかったので、タブレット、iPhone、WEB、3つ同時にだそうとした。
その時に友だちのSumally(サマリー)の代表の山本くんに、「そんなことあり得ないよ、すぐにユーザーの反応なんて変わるんだから絶対1つに絞りなよ」と助言されて。それで、まずはiPhoneからだしました、
たしかに、当初のインターフェースともガラっと変える結果になりましたし、そのアドバイスは聞いておいて良かったなと。
徹底的に機能を改善して、インターフェースが固まった後にAndroidにも横展開すると、もうすぐWEB版もでるのですが、そういう形でやっています。
WEBメディアの未来は有料課金モデルにある。
いま提携されている東洋経済とかダイヤモンド、そういうところがネットメディア単体でマネタイズしていくにはどうしたらいいのでしょうか?
梅田:
それは、ほんと難しいところですよね、
ひとつNewsPicksとして考えていることとしては、SPEEDAも財務データや統計データなど、多くのサプライヤーからデータを配信頂いています。その方々にもちゃんと収益をバックできたからこそ永続的なモデルが今できているという成功体験がある。
NewsPicksも同じように、メディアとのwin-winの生態系がつくれなければ、永続的なメディアに絶対ならないとおもっているので、そこを追求しないといけない。
集客をするプラットフォーマー側と、コンテンツをつくるメディア側が役割分担をして、きれいに収益を分配できるモデルをつくれるかが、間違いなくデジタルメディアの未来にかかっています。
(※イメージ図、良質なコンテンツをつくる側に収益が循環するようにしないといけない)
広告ではなくて有料課金がカギになってくるということですね?
梅田:
広告モデルの限界も証明されてしまっていると感じるので、そのために追求していかないといけないのは、やはり有料課金モデル。
「有料課金が世の中でどこまで受け入れられるのか」という実験を誰かが絶対しなければいけないとおもっていて、われわれが早めに有料課金をはじめたのはそうした意図があります。
新聞は毎月4,000円という、高額なお金をユーザーからもらえていて、それがコンテンツをつくる側にきれいに回ってくるおかげで、
例えば、記者が張り込みをしてスクープをとることができたりと、良質なコンテンツをつくっていけている。という世界が100年も続いてきた。
今はメディアの100年の大転換期であって、その転換期にあたって、かなり遅れているのがマネタイズ。
雑誌社や新聞社は、これまでは紙の収益でなんとかなっている中で、「WEB版も対応しなきゃ」と形だけは対応しているけど、マネタイズの仕組みができていない。
これだと永続性はないとおもっています、マネタイズの仕組みを、誰かが発明しなくてはいけない。
アプリのプロダクトづくりで重要なこと。
アプリをつくりたい人にアドバイスとして言えることは?
梅田:
NewsPicksもまだ成功していないので、大それたことは言えないですけど、「軸」はすごく重要です。
アプリをつくっているときって迷うことがめちゃくちゃ多い、やってみて数値が全然違うとか、ユーザーの声が思っていたのと違うとか、
迷いながらも判断していかないといけない時に必要なのが「軸」です。我々は、最初は「自分たちが欲しいものをつくる」というところに軸を置きました。
やっぱり、自分たちの欲しいものつくってると楽しいですしね、楽しくないとプロダクトもよくならないと思いますし。
1⇒100の部分はグロースハック的に数値をよくみる必要がありますし、ユーザーの声を聞いて、細かい改善をしていくことも重要ですが、
0⇒1のフェーズは軸があったほうがいい、たとえ受け入れてくれるユーザーがニッチだったとしても。思想や世界観がない、何をやりたいのかわからないプロダクトではいけない。
市場をみて「これが受け入れられるはず」じゃなくて「おれはこれつくりたい!」のほうが良い?
梅田:
どちらが正しいという訳ではなくて、僕たちはそれが好きだし、その方法でしかサービスを開発できない、ただ不器用なだけなんだと思います。
例えば、nanapiのけんすうは、「アンサー」という女子高生とかが頻繁に使っているようなサービスをつくっているけど、残念ながらああいう才能は僕達にはない。
女子高生に何が受け入れられるなんか想像すらできないですから。だから「自分達が欲しいもの」から始める必要があるんです。
ユーザーの声を聞いていると正反対の声もたくさんでてくる、例えば、タイムライン形式がいいという声もあれば、いまどきタイムライン形式はやめてほしい、スマートニュース的なUIが良いという声もある。
そのときに「じゃあスマートニュース形式にやってみよう」とすぐなる前に必ず、そもそもプロダクトの思想って何なんだというところに立ち返らないといけない。
そこがしっかりしているほどぶれないし、ちゃんとそうなっている理由を、ユーザーに説明できないといけない。
NewsPicksの今後、世界展開について。
世界展開は考えている?
梅田:
はい、SPEEDAは既に世界展開しているんですね、香港と上海とシンガポールにオフィスをかまえて。経済のプラットフォームとしては、国境を越えないと意味がないですので。
NewsPicksのニュースの領域もまったく一緒で、国境を越えた情報収集を実現していかないといけない。
NewsPicksの場合、国ごとにつくらないといけないと思うので大変そうですね。
梅田:
そうなんです、SPEEDAは1つのプロダクトで共通でいけるんですけどNewsPicksの場合は、ニュースソースが国ごとに違いますので、型は共通でつかえるとおもうが、ニュースソースは各国で提携していかないといけない。
あと最初の立ち上げ時にエンジンを回していくところ、インフルエンサーにつかってもらうのも、日本のように当然うまくいかないだろうし課題は多いとはおもいますね。
もちろん海外も視野に入れているのは間違いないですが、まずは日本でナンバー1になることを考えています。
取材協力:株式会社ユーザベース
編集後記
「メディアがユーザーに有料課金してもらう仕組みを、誰かが実験して発明しなくてはいけない。」というところが印象的でした。
ほんとにWEBメディア単体で収益化するのって難しいですよね、特に組織としてという意味で。
アニメとかは莫大な先行投資をして、無料でテレビで公開して、グッズやDVDで収益を回収するモデルだと思うので、もっと厳しい世界なのかなとかも思います。
ちょうどNewsPicksを見ていたら、梅田さんがこんなコメントを残されていました。こういうFacebookとかTwitterでは若干かきづらい、コアな情報が見れるのがNewsPicksの醍醐味なのかもしれません。
サービス初期はインフルエンサーにお願いにいった。
※イラストはイメージです。