「中国の腐女子の夢をかなえた」「アメリカ人はゾンビと恋愛OK」乙女ゲームアプリの『KOYONPLETE』に聞く世界の萌え事情。

2014年08月18日 |
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本日は、中国をはじめ世界に向けて「乙女ゲーム」アプリをつくられている「KOYONPLETE(コヨンプリート)」のインタビュー記事をお送りします。中国の腐女子からの意外なリクエスト、アメリカにはゾンビとの恋愛作品があるなど、貴重な話もたくさん。

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※株式会社KOYONPLETE代表の杉本さん

KOYONPLETE(コヨンプリート)について

KOYONPLETEについて教えてください。

杉本:
2011年の10月に創業して、いまスタッフは8名ほどで活動しています。

もともと私はオンラインのゲーム会社で、中国やアメリカ向けにライセンス交渉の仕事をしていたんです。中国政府の検閲ってほんとにすごくて「3時間以上ゲームをする中毒者が出ないシステムを入れてください」とか平気で言ってくることもあって。

そんな中iPhoneのAppStoreがでてきて、グローバルで自由にコンテンツを配信できる、アプリ市場に可能性を感じて、震災後に社会人向けのプログラミングの専門学校に通いだしました。

その専門学校の同級生に、腐女子でコスプレーヤーの子がいて「何か日本の萌えで事業を一緒にやろうよ。・・・あなた社長やってよ!」という成り行きで事業をはじめました。

つくっているアプリのジャンルを教えていただけますか。

ジャンルとしてはノベル型の恋愛ゲームアプリをつくっています。「萌え」を軸にした「乙女ゲー」です。例えばお寿司の擬人化や、妖狐とバンパイアが闘うだったり、ファンタジー要素が入っているのも特徴です。

よくボルテージさんと比べられるのですが少し違っています、ボルテージさんのゲームって「恋愛ゲーム(恋愛ドラマアプリ)」なんですよね。

OLやホテルの従業員みたいなリアルな設定のドキドキを楽しむもので、ユーザー層としては弊社より「リア充ライト層」で年齢が高めなイメージです。

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※寿司の擬人化キャラがでる「へい!恋愛一丁」、妖狐とヴァンパイアが戦う「リコリスの刻印

今アプリは何本ぐらい出されていますか。

杉本:
全部合わせると40本ぐらいで、累計600万ダウンロードです。中国ユーザーが多いのですが、世界9カ国語でグローバルにアプリを配信しています。

AppStoreやGooglePlayはもちろん、中国は独自のストアも多いので「911マーケット」というストアなどにだしています。

アプリは最初はどのようにつくっていた?

杉本:
私がコンテンツ企画を、プログラミングは安くつくってくれる方に外注して、イラストはpixiv上で絵師を探してお願いしました。

立ち上げから2年間は「とにかくいろんな国に翻訳して出してみて、それぞれの国のニーズを知ろう」という感じでやってきました。ほんとに最初は手探り状態でしたよね。

一番うまくいったアプリはどれですか。

杉本:
二作目の「恋楽園」は200-300万ダウンロードされています。これは中国の腐女子向けにインタビューを重ねて作ったアプリです。

中国って、例えば白族やウィグル族など56の少数民族が一緒に住んでいる国なんです。それで、そこのリーダーみたいな人が気に入ったらばーっとその地域に広がっていく。

その中に「腐女子」と呼ばれる日本の漫画やアニメが大好きな人々も確実にいるんですよね。そこで、彼女たちに「どんなストーリーが好きですか?」って聞いてみたんです。

そしたら「私たちの生活では、絶対にあり得ないものが良い」と言うんです。「部活、制服、文化祭、奈良で鹿におせんべいをあげる、食パンかじりながら学校に行く、私はああいう生活がしてみたかったんだ」チベット民族のブッダみたいな顔をした中国人の女の子が、そう言うんですよ。

そういう子たちの夢を全部取り入れたのが「恋楽園」なのですが、特にアジア圏で息が長く続いています。

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※「恋楽園」は中国の腐女子の夢を、ぜんぶ詰め込んだストーリーになっている。

乙女ゲームと世界について

「乙女ゲーム」の世界的なニーズはどうですか?

杉本:
やはり「乙女ゲーム」というのは恋愛物語なので、世界中の女性なら誰でも好きなんだと感じますね。平安時代の源氏物語もそうですし、アメリカでもハーレクイン・ロマンスという何百年続いている根強いブランドがある。

今では日本でも「Girl’sStyle」「B’sLOG」のような12万部くらい発行されている専門雑誌があったり、PSPの乙女ゲームなどもたくさん出ています。

BL(ボーイズ・ラブ)ゲームも出されていますが、BLも世界でニーズがあるんですか。

杉本:
そうですね。日本では「BL」、海外では「やおい」と呼ばれています。BLに関しては、海外の反応と日本の反応が違うのも面白いですね。

日本のBLの場合は「女性が男性同士の恋愛を妄想する」という楽しみ方が多い。魅力としては、やっぱり「妄想」なんですよね。男女の恋愛って容易に想像できるじゃないですか。

なので、もはや妄想の余地がなくなっているんです。それに比べて、男子の恋愛はある意味禁断であり、肉体的なものを離れているので、精神的なところでの深みもあって面白い。

BLの楽しみ方は、海外ではまた違うんですか?

杉本:
海外の人はもっとあっけらかんとしてて、BLを「ゲイの恋愛」として純粋に楽しんでいる。純粋に主人公が男の子で恋をするというファンが多いですね。

「glee」という最近の大ヒットドラマは、主役がゲイカップルですし、アメリカでは「キュートなゲイカップル」というのがファッションアイコンになっている。

ただただ閉じられたマイノリティな世界というより、それが文化の最先端として認知されている感じ。

別の記事で「アメリカ人はバンパイアも恋愛対象になる」というのを読んだのですが、本当ですか?

杉本:
はい、本当です。最近でいうと「ウォーキング・デッド」という気持ち悪いゾンビとの恋愛映画もあります。

バンパイアと恋をする「トワイライトシリーズ(映画)」ですごく有名になったと思いますけれど、そこからいくつも出てきています。

日本とは考え方が違いますよね。中国人も「キョンシーとの恋愛は絶対あり得ない」と言うはずですけど、アメリカ人の感覚だとちょっと違うみたいですね。

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※ゾンビと人間が恋に落ちる「ウォーム・ボディーズ」という洋画もあるようだ・・・!

日本はやっぱり「萌え」に関しては先進国なんでしょうか。

杉本:
日本独特の感性はあると感じます。日本はやっぱり島国ということも大きくて、お酒じゃないですけど面白い文化が発酵して溜まって出てくる国です。

禅はもともと中国からきた教えなんですけど、日本で独自なものとして洗練されているのと一緒です。

だから「ガラパゴスから抜け出そう」とよく言いますけど、実は「日本はガラパゴスである」ということがおもしろくて売り物になっているのだと感じます。

それをうまく見せることで、経済的な収益につなげられたら面白いと考えています。

海外の「萌え」とか「乙女ゲー」のファンの人たちって、最初はどのように目覚めるのですか?

杉本:
やっぱり日本の作品がきっかけになっていると思います。昔は宮崎駿作品だったり村上春樹が翻訳されたものからはじまって、ネット時代になって日本のゲームやアニメが無料でばんばん見られるようになった。

ほんとに日本のアニメや漫画ってすごい勢いで翻訳されてくんですよね。それで例えば中国だったら、高校生の7割以上が共同のドミトリー(相部屋の学生寮)に住みますから、ひとりが日本のアニメを見ていると部屋の皆が見る。

米国でもジャンプがニューヨークの紀伊国屋に並んでいますし、北欧ではNARUTO、ワンピース、進撃の巨人も人気がありますよね。

日本ではアニメの新作が3ヶ月(1クール)単位で何十本も出てくる。それでDVDが売れたら続編ができてダメなやつは打ち切り。そういうエコシステムができているのが、実はすごいことかなと思います。

杉本:
そうかもしれないですね。私が知ってる限りでは、こんなにアニメが多産多死している国はないです。それが映画やドラマに偏っているのがハリウッドなのかもしれません。

最近は乙女ゲームからはじまって、アニメ化する作品もめずらしくないですし、私もなかなかこの厚いエコシステムは一朝一夕では作れるものではないと感じますね。

アプリのマネタイズ

課金と広告のバランスってどうですか。中国でも課金はされるんですか?

杉本:
特に最近は、中国でも課金されるようになってきてると感じますね。ただお国柄、なるべくしないのは間違いない。

なので「いかに無料で楽しく遊んでもらえるか」も重要で、広告収益モデルが一番良いとは思いますね。KOYONPLETEのアプリも他の国と比べて、中国は広告収益の割合が多いです。

中国でダウンロードがすごい急激に伸びることってありますか。

杉本:
ありますあります。Weibo(中国版ツイッターのようなもの)で例えばひとりのインフルエンサー(有名人)がスクリーンショット画像を、取り上げてくれたりすると一気に広まります、すごい影響力がありますね。

「一緒にねよ?」という声優と一緒に添い寝するアプリは、Weiboで6207転送(リツイートみたいなこと)されたり、1日に何十万人というユーザーがダウンロードしてくれることもありました。

ただ、ほんとにふたを開けてみないと何が当たるかわからないので、とにかくユーザーに刺さるゲームをだして、火がつくのを待つ努力は必要だろうなと思います。

ユーザーをアクティブにする施策でうまくいったことはありますか。

杉本:
ノベルゲームを読み進めながら、皆でコメントを言いあう機能がうまくいきました。

例えば「この人消えて!」「早く彼帰ってきてよ!」みたいことをリアルタイムに書くのですけど、それを見ながらストーリーを読み進めるのがとっても楽しい。

そのコメントは一日2,000-3,000件書き込まれている、簡単にいうとニコニコ動画のコメントみたいな感じですね。最近はそのコメントを読むのが、私の寝る前の日課になっているほどです。

その機能を設置した上で、「ノベルパスポート」という何度も巻き戻って、見たいシーンから読み始めることができる、課金アイテムをつくったのはうまくいきました。

コメント自体がどんどん更新されるので、同じコンテンツであっても何回読んでも楽しむことができるんです。「イケない三角関係」というアプリが特に盛り上がっています。

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Facebookページの「いいね」は30万ぐらいついている、これはどのように増えていっているのですか。

杉本:
Facebookの投稿が拡散されて増えていっているのだとおもいます。海外がほとんどです。

ほんとに熱量がすごくて、例えば「こんな物語は好きですか?」と1枚のイラストを投稿すると、瞬時に「6285いいね」とかつくんです。

KOYONPLETEのFacebookページは平均25,000人が毎日シェアやいいねをしてくれています。

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KOYONPLETEのFacebookページには世界の腐女子が集まる。

日本のアプリ開発者は、国内中心に考えている人がほとんどだと思います、もっと世界に目を向けた方がいいと感じますか?

杉本:
私たちはもともとグローバル向けでしかやってこなかったので、当たり前の感覚なのですが、ローカライズして横展開で収益が上がるなら、やらない理由はないのではと思います。

ただ、ひとつおそらく翻訳がネックになっているのかなと感じます。 弊社は、カナダ・ルーマニア・中国・シンガポールなどを中心とした、総勢50人くらいの腐女子たちと繋がっているんです。

ファンでもある彼女たちが「新しい作品ができたら、翻訳をやらせて欲しい」と言ってくれるので、そこは強みだなと感じますね。

例えば「乙女」とか「ツンデレ」とかは実はそのまま海外でも翻訳しなくても通じるのですが、「壁ドン」「細マッチョ」などはちゃんと訳さないと通じない。これってふつうの翻訳者だとうまく訳せないですからね。

そうしたパートナーや仲間がいるかというのも、ひとつグローバル展開においては大事なのかもしれません。

最後に告知などあればお願いします。

杉本:
今後も「乙女」を世界に広げることをミッションに、世界向けにビジュアルノベルアプリをどんどん出していきます。

「オールジャパンで世界に行く」というのが私の夢なので、もし協業のお話などがあれば声をかけてもらえれば嬉しいです、一緒にできることがあれば歓迎します。

それと、いま資金調達も考えているところです、もしご興味があればお問い合わせくださればと思います。

取材協力:株式会社KOYONPLETE

編集後記

最初はニーズを調べるために多くの国でアプリを出してみたとのことだが、この「とにかくやってみる」という姿勢は素晴らしいと思う、多くの日本人に足りない部分かも。

「各国の腐女子たちが喜んでローカライズしてくれる」っていう話もおもしろいな。ファンを運営に巻き込む感じでしょうか。

アニメファンのFacebookページなどで自社の作品を紹介してくれる人をみかけたら声かけて、Facebookでつながっていくとかもアリかも。ファンからしたら好きな作品の中の人に声かけてもらえたら嬉しいし。

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アプリマーケティング研究所編集部 アプリのマーケティングメディアです。アプリの売上を伸ばす施策やデータが学べるマガジン「月刊アプリマーケティング」もスタートしました。最近の記事は新サイトにて更新しています。取材申請はコチラのページから。
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