配信者100万人を突破した「ミラティブ」さんにインタビューしました。
※株式会社ミラティブ 代表取締役CEO 赤川隼一さん
ミラティブについて
「ミラティブ」について教えてください。
2015年8月にスタートした、スマホでゲーム実況ができるアプリです。ユーザー数は未公開なのですが、むちゃくちゃ順調に伸びている状況です。
配信者数については、2019年2月に100万人を超えていて、スマホゲームの配信者数でいうと日本最大のサービスになっています。
ここまで、有名人に頼ってきたわけではなく、草の根から育ててきました。なので、時間はかかってしまったのですが、強固に伸ばせていると感じています。
僕としては、ミラティブのそういうところが気に入っていますね。
ミラティブのコンセプトについて教えてください。
ミラティブのコンセプトは「友達の家でドラクエやってる感じ」なんです。スマホゲームを中心にしたコミュニケーション空間をつくっていて。
たとえば、ツイッターに「ガチャのスクショをのせる」って文化ありますよね。あれはコミュニケーションも含めて楽しんでいると思っていて。
ガチャで当たったら「うぉー!」と言ってもらえるし、外しても「プギャーw」と言ってもらえる。コミュニケーションにも価値があるんですね。
それが、いまの10代20代だと「ミラティブで配信する」になってる人もいて。10連ガチャ回すなら「配信しないと勿体ない」と思う人もいる。
そういう、どうせスマホゲームをやるんなら、ミラティブで配信したほうが「その時間がもっと豊かになる」という場所をつくっています。
ミラティブの初期は「熱量にフォーカスしていた」
初期はどうやってユーザーを増やしていったんですか?
地道なことの繰り返しでしたね。はじめは、配信もなければ視聴者もいない状況だったので…。
例えば、初期にやったのは誰かの配信がはじまったら、公式アカウントで入室して「ようこそミラティブへ!」と声をかけていくことでした。
やっぱり、配信で一番つらいのって「誰も来ないこと」なんですよ。なので、配信がはじまったら通知がくるようにして、即コメントしにいきました。
そうやって、まずは公式アカウントが配信を盛り上げて、一般ユーザーがきたらそっと立ち去る、それを24時間ひたすら繰り返していました。
そんな感じで、とにかく初期は「熱量を上げること」にフォーカスしていました。
なるほど。そこからはどうしていったのでしょう?
そこからは、配信で一緒になった人をツイッター含めて上手くつなげてあげることで、徐々に小さなコミュニティを膨らませていきました。
テキストと違って相手の声が聞こえている分、人と人がつながりはじめると距離は縮まりやすくて、仲良くなるスピードも異常に速かったです。
大きくユーザー数が拡大したのは、iOS11に画面録画がついて配信が簡単になったことです。そこから一気に見える景色が変わりましたね。
それまでもじわじわ伸びていたのですが、それをキッカケにバーっと伸びてきて、そこから1年でようやく軌道に乗ってきたという感じでした。
もう一度やり直せるなら何をどう変えるか?
いま振り返ると「これは失敗したな」と思うことありますか?
リリース時にプレスリリースを打ったのは、完全に失敗したと思っています。基本プレスリリースをみるのは業界人しかいないからです。
業界人って「純粋なユーザー」ではないので、すぐ抜けてしまうんですよ。ユーザーじゃない人を呼んでも、数値が汚れて検証が遅れるだけですよね。
なるほど。ほかには「やり直せるならこうする」と思うことはありますか?
あとは、配信できるタイトルを絞りますね。あえて「マイクラ専用の配信アプリ」とかにする。なぜなら最初期は「熱量の濃さ」が大事だから。
それでめちゃくちゃ濃いコミュニティをつくって、途中から「他のタイトルでも配信できるようにしました」とじわじわ広げていきます。
友達の家でゲームするときに、ドラクエだけやる場にすると「お前そこはメラミだろ」とか、共通用語を話せる人が集まって、愛が深まりやすいと思うんです。
そうやって、同じ気持ちの人で愛を深めていって、ある日「ファイナルファンタジーって知ってる?」と広げていくのが理想だと思います。
※まずは縦に「灯火の熱量」を高めてから、それを横に広げていくというイメージ。
面白いですね、たしかにそうかもしれません。
そもそも、初期のコミュニティサービスにおいて「見る専ユーザー」への価値って、ほとんどつくれないなと思っていて。
たとえば、一年目のクックパッドとか、絶対にレシピが少なかったと思いますし、一年目の食べログも情報は相当少なかったと思うんです。
そういう、タイミングで「見る専」を広く集めてもしょうがない。それよりは「同じ気持ちになれる人」を確実に集めたほうがいいかなと。
よく「それじゃ後で広げられなくない?」と言われるのですが、広く薄まって何も立ち上がらないより、濃すぎて横に伸びないほうが絶対に良いんです。
なので、まずは「ユーザーにぶっ刺すこと」をやるべきです。僕たちも、ユーザーとLINEで対話したりはしていたのですが、もっともっと草の根活動をやればよかった。
それをやっていたら「ミラティブはもっと早く立ち上がったのかな」と思いますね。
ミラティブのデータなど
現在のミラティブは「どんなユーザー」に使われていますか?
ユーザーの年齢層としては、アンケートベースだと「25歳以下が6割」ですね。男女比だと7:3、iOSとAndroidは7:3という感じです。
特徴的なのは、配信者率が20%と高いことです。これは、見る人でもあり配信者でもある人が多くて、コミュニティが相互に回りやすい、ということでもあります。
ちなみに、Amazonが2014年に買収した「Twitch」は、当時1億ユーザーで配信者数150万人だったので、配信者率は1.5%くらいでした。
ほかに「ミラティブの特徴」って何がありますか?
ミラティブの特徴は、スマホに映るあらゆるものをコミュニケーション材料につかえること。それが配信を長く続けやすくする要因になっていて。
実際に、1日1人あたりの配信時間は平均100分、さらに17%の配信者さんが「まいにち配信」しているという、データが出ていたりもします。
ほかの配信サービスだと、話がうまかったり、容姿が良かったり、一芸を持っていないと、続けにくいと思うので、そこは大きな違いなのかなと。
見る側としても、1日1人あたりの視聴時間は平均100分、という数字も出ていますね。
なるほど。
ミラティブは小さなコミュニティの集合体なんです。視聴者数が10人を超える配信というのは「全体の20パーセント」しかないんですよね。
また15分以上配信すると、85%〜90%の人がコメントをもらえていて、「誰もこない配信」というのも起こりにくくなっています。
また、ミラティブは視聴時間でみても、小さなコミュニティに支えられています。
データとしては、視聴者数が100人以下の配信が、全視聴時間の80%を占めていて、ほとんどの視聴時間が小さなコミュニティから生まれています。
※100人以下の「小さな配信」が視聴時間の80%を支えている。そこから先はロングテールのような構造になっている。一部の人気者が視聴時間を占めていない。
ミラティブを運営していて「よく見ている数値」ってなんですか。
数値としては「配信者の数」を一番みていますね。あとは、1人あたりの配信時間が「毎月伸びているか」というのも結構みています。
それって、まさに「サービスにハマっている」ということを示すデータなので、そこが変なことにはなっていないかは指標にしています。
配信者が増えていくために「重要な要素」ってなんだと思いますか?
ひとつ、重要だなと思っているのは「言い訳の提供」です。観察していると「言い訳」ができることで配信に抵抗がなくなる人は多いんです。
ミラティブの例で説明すると、まず配信を始めたい人って「わしの配信って需要ある?」とツイートしたりアンケートを取ったりするんですね。
つまり周りに「配信してほしい」と言ってもらいたいんです。そこで言い訳ができると「しゃあないな。ただし無言やぞ?」と配信をはじめます。
すると、フォロワーとか友達とかが冷やかしにくるんだけど、「意外と何さんランク高いですね」みたいに褒めてくれたりもする。
人が集まると人間って「もてなさなきゃ」って気持ちになるので、そうすると「次は声ありで配信します」って話になるわけです。
それで、声ありで配信すると「イケボやん」と褒められたりする。気がつくと「今日もやっていくぞ!」と配信が習慣化されていく。
実はこうしたパターンが、典型的なミラティブ配信者への道のりなんです。
タイムラグを少なくしたら「コメント率が改善した」
いままで「これをやったら数値が改善された」という例があれば知りたいです。
タイムラグを少なくしたらコメント率が改善されました。コメントって反応が返ってくることが面白いので、ラグって小さいほど良いんです。
たとえば、配信者が「ウェイ」っていったら、「ウェイってなんだよw」って返ってくる。この間隔が短いほどコメントする側はおもしろくて。
実際にミラティブでも、初期はラグが7秒あったんですけど、これを2〜3秒まで短縮したら、明らかにコメント率が伸びたんですよ。
これは、僕らのサービスが、eスポーツやメディアじゃなくて、コミュニケーションサービスだという証拠であるとも考えています。
例えば、eスポーツだと逆に、チート対策のためにラグを大きくするんです。「相手があそこにいる」とか不正が起きる可能性があるので。
タイムラグが重要なのは意外でした。ラグの影響って他にもあるんでしょうか。
これは、僕の感覚なんですけど、ラグを短くすると明らかに荒れにくくなるんですよね。
たとえば、掲示板でクソリプしたり、YouTubeのコメント欄を荒らしても、なんだか「怒られなさそうな感じ」がするじゃないですか。笑
これはラグが大きいからなんですね。逆に、ラグの小さい場所だと「相手の顔をみて悪口いう」ことに近いので荒れにくくなるわけです。
あと、大量のユーザーが配信にいる状態だと、荒らす人って多くなるんですよ。荒らすと目立てる、どうせバレないみたいな、インセンティブが働いてしまうためです。
それが逆に、ミラティブのような「少人数の部屋が大量にある」という構造だと荒らしにくくなるから、平和なコミュニティになりやすいですね。
ミラティブって「共通の好きなゲーム」があることで仲良くなれるのですかね?
たしかに、きっかけはゲームなんですけど、人って一度仲良くなると「その人と一緒に時間を過ごすこと」に価値を置くようになるんです。
例えば、はじめは「俺もドラクエすき」って話で盛り上がっても、家でドラクエ一緒にやったら「明日は公園で遊ぼう」となるじゃないですか。
つまり、仲良くなるとなんでも良くなる。おしゃべりだけでも成立するようになる。なのでミラティブでも雑談や無言配信が成立していて。
ミラティブで無言配信しながら、マルチプレイのルーム番号を映して、一緒にマルチプレイをする。これも仲良くなりやすいんですよ。
リアルでも、初対面の人とスポーツやって「共通の目的」を持って過ごすと仲良くなりやすいですよね。それと同じなのかなと思います。
ミラティブを活用する方法
ミラティブからみて「最近上手くいってるゲーム」に共通すると思うところはありますか。
上手くいってるタイトルには、運営とユーザーの「距離感の近さ」というのが共通していて、最近は大事な要素になっていると感じます。
たとえば、「逆転オセロニア」の運営さんは、ミラティブで「新ガチャをみんなで引こう!」と配信していて、まるで友達のようにマーケティングしています。
ユーザーと一緒にマルチプレイしたり、お酒を飲みながら「今日も仕事大変でした」と言いながら、配信しているプロデューサーさんもいます。
そうすると、身近感がすごいんですよ。「運営も人間なんだな」って思ってもらえるというか。一緒にゲームをやっている感覚になる。
そういう、ユーザーとのコミュニケーションを大切にする、距離を縮めるツールとしてミラティブが使われるケースは増えていたりします。
ほかには「コトダマン」というゲームでは、リリース前に意見をくれた人の名前を、全員スタッフロールに載せていたのも上手だなと思いました。
最後に、ほかにミラティブの「上手な活用例」などあれば教えてください。
ひとつは、アプリタイトルから「ミラティブの配信リンク」を貼るのはオススメです。これはリンクを貼るだけで無料で配信を促進できます。
実際、ユーザー継続率が上がったデータがあったり、今までこの配信リンクを外した会社もないので、効果はあるのだろうと考えています。
他には、ゲームとタイアップしたライブクイズをやっていて、全問正解するとゲーム内アイテムがもらえるようなキャンペーンも行っています。
ミラティブをユーザーの愛を深めるツールとして、上手につかってもえらえたら嬉しいですね。
取材協力:株式会社ミラティブ
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とあるMirrativの配信タイトルに「毎日頑張って生きている私たちに乾杯。時にはネットに逃げようぜ」とあって、ああサービス作ってよかったなってなってる
— Junichi Akagawa @ミラティブ (@jakaguwa) February 24, 2019
Mirrativで活動することでYouTubeのチャンネル登録が伸びてランキングにも載る、みたいなVTuberさんが出てきてる。個人VTuber勢とか、才能あるのに伸び悩んでる方とかをサポートしていけるのはミラティブの理念的にもすげーやりがい感じてる。近々起きてることまとめよっと
— Junichi Akagawa @ミラティブ (@jakaguwa) February 23, 2019
プロダクト作ってて「すげーいい感じなんだけど、ここタップしたあとのアニメーションでもっと祭り感が欲しい」とか言ってるの、昔バンドやってた頃に「伊藤くん、ここのギターソロはもっと祭りな感じで」とか言ってたのと全く変わらないムーブなのだとふと気づいた。瞬間の高揚を届けたい願い!
— Junichi Akagawa @ミラティブ (@jakaguwa) January 24, 2019
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