24歳でスマホゲーム起業。開発に2,000万円かけたが「資金難と大バグ」のコンボで会社終了。アプリ「きのこれ」元社長が語る会社倒産後の世界。

2016年02月15日 |
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きのこ擬人化ゲーム「きのこれ」のお話を伺いました、ソシャゲ戦国時代に夢半ば破れたアプリの話。

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※ポッピンゲームズジャパン株式会社 CEO 辻村尚志さん(右)、栗原広樹さん(左)

「きのこれ」が出来るまで。

そもそも栗原さんは、どうして24歳で起業したんでしょうか?

栗原:
前に勤めていた会社が倒産してしまって。それで、元同僚と3人で「ゲームアプリをつくろう」と、2014年4月に立ち上げたのがCmixという会社です。起業資金は知人に借りました。

「きのこれ」の企画はどのようにできたのでしょう。

栗原:
当時ユーザーとして、すごくハマっていた「クラッシュ・オブ・クラン」をベースに、かわいいイラストを使って、日本向けのゲームをつくれば、いけるんじゃないかと考えました。

そこで、ネットの定番ネタである「キノコvsタケノコ」と、その当時に流行っていた「美少女×擬人化」を、組み合わせてつくったのが「きのこれ」でした。

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※正式名称は「きのここれくしょん~きのこたけのこ百年戦争~」

イラストはどのようにつくったのでしょうか?

栗原:
イラストについては、ピクシブで絵師さんを15人くらい探して、お願いしました。キノコって種類も多いですし、特徴もあるので、キャラクターにもしやすかったですね。

「ブナシメジ」「エリンギ」など、スーパーで売っているようなキノコをメインキャラに、「ヒトヨタケ」(生えても一夜で溶けてしまう)など、特殊なキノコをレアキャラにしました。

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※キャライラストは70種類(キノ娘、タケノ娘)、ボイスも各キャラ10〜20作成した。

「きのこれ」の開発費は、どのくらいかかりましたか?

栗原:
開発費については、累計2,000万円ほどかかりました。内訳は、プログラミング費用1,300万円、イラストやボイスに300万円、残りの700万円が社内の人件費です。

私も元々プログラマだったので、社内でアプリを開発することも考えましたが、スピードを重視するために、企画やデザインは社内で行い、プログラムは外注することにしました。

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リリースする前はどんなことを考えていましたか?

栗原:
リリース前から「ねとらぼ」「はちま起稿」「オレ的ゲーム速報@JIN」などのメディアで話題にしてもらい※、事前登録は約4万人、ツイッターも数千フォロワーまで集まりました。

なので「なかなか好調なスタートが切れそうだ」と考えていました。そんなことを思いながら、2015年の3月にアプリを公開しました。(公開日はAndroid版 3/30、iOS版 5/23)

※【2/17 補足追記】確認したところ「ステマや広告依頼ではなく、自然に記事で取り上げられた」という意味とのこと。

「アプリ公開後」に起きたこと。

アプリを公開して「ダウンロード数や売上」はどのくらいまでいきましたか?

栗原:
ダウンロード数は、累計15,000ダウンロードくらい(iOS+Android)でしたね。

売上については(2015年)4月がピークで、そのときは月200万円くらいありました。一番課金していた人で1日13万円ほど課金してくれました。ジャンル的に、ユーザー課金率は高かったとおもいます。

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※課金ポイントは500円の「ガチャ(キャラが獲得できる)」と、500円の「大工(施設を時短で立てられる)」だった(課金のみのため、広告収益はなし)

プロモーションなどもやっていたのでしょうか。

栗原:
プロモーションは、ニコニコ動画の「てーきゅう」チャンネルに動画広告を出稿しました。料金については、25万再生で50万円(1impあたり2円)でした。

「てーきゅう」はギャグアニメなので、おもしろいモノが好きな視聴者も多くて、「きのこれ」との相性はよかったと感じます。

ここまでは「順調」に思えますが、どんな問題が起きたのでしょうか。

栗原:
リリース後に、とにかくバグ(不具合)に悩まされました。もちろんデバッグはしていましたが、経験が浅かったため、チェック漏れのバグがたくさん出てしまったんです。

中でもひどかったのが「課金チケットが無限に配布される」というバグです。イベントで配布する予定だった「課金チケット」が、無限に配信されてしまって。

チケットが4,000通とか、あまりにも大量に配布されすぎて、ユーザーがログインしようとするだけで、アプリが落ちてしまうことさえありました。

その後も、ずっとバグが続いて。ユーザーからもクレームがたくさん来て。「はやく直さなきゃ、はやく直さなきゃ」と急いでいるうちに、資金が底を尽きてしまいました。

え..?

栗原:
いくつか「資金調達の宛て」はあったのですが、一気に全部ダメになってしまって。大きい金額を投資してもらえるはずの話も、いきなり6月末に「やっぱりなしで」となってしまった。

そこで、いきなり追い詰められました。やばい、やばいとなって。とくにプログラミングを外注していたので、その支払いができなくなって。資金繰りで、手詰まりになってしまった。

あと「資金繰りの問題」に加えて、瀕死のところにやってきたのが、先ほどの「チケット無限バグ」でした。結局これが「最後のとどめ」になり、サービスを終了することを決めました。

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そこでどうすることもできなくなったと。

栗原:
いえ、まだ選択肢としては「他社にゲームを譲渡して、運営を続けてもらう」という手があったんです。なので、いろんなゲーム会社に電話したり、声をかけて回りました。

ですが、とにかく時間がありませんでした。資金が底をつくまでに、たった1週間ほどの猶予しかなかったので。結局、ほとんど相手にしてもらえず終わりました。当たり前ですよね。

厳しい状況ですね。

栗原:
もう、どうしたらいいのか、わかりませんでした。周りに相談できる人もいませんでした。書籍やネットでも必死に探しましたが、答えは見つかりませんでした。

最終的には、どうしようもなくなり「弁護士を頼る」という決断をしました。それはつまり「会社を清算する(倒産)」ということです。

最後まで「本当にこれでいいのか」と悩みました。もちろん「ここで終わりたくない」とも思いました。でも、他に方法がありませんでした。


※「サービス終了時」のツイート

サービス終了すると「ゲーム」はどうなるのか。

「サービス終了後(会社倒産後)」は何をしなくてはいけないのでしょうか、想像もつきません。

栗原:
「何もしない」をしなくてはいけませんでした。下手に債権者とコンタクトをとると、刺激してしまう可能性もあるので、弁護士さんから「何もしないで下さい」と言われていました。

なので基本的には、誰とも連絡を取らずに、しばらくじっとしていました。

「サービス終了」したときはどんな気持ちでしたか?

栗原:
気持ち的に「サービス終了後」は、とてもきつかったです。我が子のように愛情を注いでつくってきたアプリが、なくなってしまったわけですから。

とくにツイッターなどで、「きのこれ」のユーザーが悲しんでいるのを、見るのが一番きつかった。みんなに楽しんでもらいたかったのに、それができなかったのも悔しくて。

もう、つらいし、悲しいし、申し訳ないし。心の中がぐちゃぐちゃになって。「なんでダメだったんだろう」と自己嫌悪にもなりました。

会社を清算した後は、お恥ずかしい話ですが「無気力状態」に近かったと思います。なんにもやる気が起きなくて。なんというか、どうしようもなかったです。自分の責任ですけどね。

その後「きのこれ」のゲーム資産は、どこにいってしまうのでしょう。

栗原:
「ゲームの資産」は私の手から離れてしまいます。意思決定権もありません。資産をどうするかは、弁護士さんに全権がゆだねられる形になります。

そして、弁護士さんは「きのこれを売る」という決定をしました。そこで競売にかけられた「きのこれ」を買ったのが、ポッピンゲームズです。私自身も(2015年10月から)今ポッピンゲームズで働いています。

ゲームの「競売」はどのように行われるのか。

「きのこれ」を競売で買った、ポッピンゲームズの辻村さんに、当時の話を聞いてみました。

辻村さんはポッピンゲームズの社長として、「きのこれ」を買ったわけですよね。そもそも「競売」というのは、どのようにはじまるのでしょうか?

辻村:
競売については、まず弁護士からメールがくるんですよ。「株式会社Cmixが破産しました。ゲームの資産については、競売にかけられます」みたいな感じで。

それに対して「興味があります」と回答すると、情報が80%くらい開示されるんです。例えば、キャラクターのイラストデータ、ゲームの売上金額、内部のデータなどです。

それを見て「入札するか」を判断します。ただ最後は「賭け」みたいなところはありますよね。致命的なバグがあるかもしれないですし、ゲームが動く保証もないわけですから。

最終的には「入札しよう」と決めたのですが、興味のある会社さんが何社かいらっしゃって、「競売」という形になりました。

そこから「競売」はどのように進むんですか? 「闇オークション」みたいな場所に集まるのでしょうか。

辻村:
「きのこれ」のときは「メールベースで価格を提示する」という形になりました。ドラマなどで見る「100万円!200万円!」という競りでなく、メールで淡々と進むような感じです。

メールベースになった理由としては、大きな会社さんが入札していたためです。決裁するにはその都度、稟議を通さないといけなかったようで。価格については300万円からスタートしました。

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当時の「きのこれ」って、ユーザーは多くなかったと思いますが(15,000ダウンロード)、どういうところに惹かれたのでしょうか?

辻村:
一番はツイッターを見て「ユーザーさんに愛されているな」と感じたからです。やっぱり自分と一般ユーザーの感覚はズレやすいので。そこはいつも判断材料にしています。

あと失敗の理由が、明らかに「サービス初期のシステム不具合」によるものだったので、そこをきちんと立て直せば、うまくいくだろうと考えていました。

なるほど。

辻村:
もうひとつは「栗原がポッピンに入社してくれそうだ」とわかっていたこともあります。当初、弁護士さんに「お誘いしたい」と伝えてはいましたが、直接の連絡はとれなかったんです。

ところが後日、たまたまゲーム業界の交流会に、栗原が参加していて。そこにポッピンの社員も、たまたま参加していて、直接話をすることが出来ました。かなり奇跡的ですよね。

そこから、話が進み「来てくれそうだ」ということになって。そのときの偶然がなかったら「きのこれ」は買っていなかったと思います。

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こういう風に「終了したゲームを競売で買う」というのは、ゲーム業界ではよくあることですか?

辻村:
いえ、多くはないと思います。業界的には「買い手不在」という状況ですね。サービス終了するゲームは、ごろごろありますけど、買い手は少ないんです。

理由としては「買い手側の工数が大きくかかる」というのはあると感じます。そのゲームの「価値」を精査する必要もありますし、外注先との契約周りなどもチェックする必要があります。

売り手側としては「ゲームがどれくらいで売れるか?」という相場がわからないのも、難しいところですよね。どのくらいのユーザー、売上があると、どれくらいの価格で売却できるのか。

まとめ

振り返ってみて、変えられるとしたら、何を変えたいですか?

栗原:
振り返ると「プログラミングは外注せずに、社内でやればよかった」と思います。そうしてたら「バグ問題」と「資金繰り」も、どうにかなったかもしれない。戻れるならそうしたいです。

元「きのこれユーザー」さんたちに、伝えたいことはありますか?

栗原:
この場を借りて「きのこれ」を遊んでくれたユーザーさんには、心から「申し訳なかった」と伝えたいです。サービスも「突然終了」になってしまい、本当に申し訳なく思います。

そして、もしチャンスをもらえるなら、また「きのこれ」を遊んでいただきたいです。このような流れで恐縮ですが、実は3月に「きのこれR」として、ポッピンゲームズから再リリースされます。

もちろん、前作のキャラたちも登場します。新キャラクター(CV 田村ゆかり)も追加しています。今度こそ皆さんを楽しませたいと考えています。どうか宜しくお願いします。

また、もし「きのこれR」と、コラボいただけるゲーム会社さんなどいらっしゃれば、ご連絡を頂戴できましたら嬉しく思います。

最後に「これから起業する人」にメッセージなどお願いします。

栗原:
表現は難しいですが「よい経験が積めた」とは思っていまして。「若いうちから、起業なんて辞めたほうが良い」とは、今も思わないです。むしろ、どんどんやるべきかなと。

ただ「儲かるから」という理由だけで、ゲーム起業はしないでほしい。悲しいことになるので。私の経験が、これから起業する人や、読んでくれている皆さんの、参考となれば嬉しく思います。

取材協力:ポッピンゲームズジャパン株式会社

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アプリマーケティング研究所編集部 アプリのマーケティングメディアです。アプリの売上を伸ばす施策やデータが学べるマガジン「月刊アプリマーケティング」もスタートしました。最近の記事は新サイトにて更新しています。取材申請はコチラのページから。
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