ヒットアプリは企画書からは生まれない。物理演算ゲーム「Q」700万ダウンロード突破のカギは 「ネタバレにならないクリア画像」が拡散されたから。

2015年05月26日 |
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今回は物理演算ゲーム「Q」が好調のリイカさんにお話を伺いました。企画と開発から、マネタイズ(売上規模)についても聞いてみました。

q_kurita_photo
※株式会社リイカ 「Q」プロデューサー 栗田祐介さん。

はじまりは「なんかおもしろいゲームできた」

「Q」について教えて下さい。

栗田:
「画面に何かを描くこと」で問題を解いていくゲームアプリです。

いまダウンロード数でいうと、700万ダウンロードを超えたくらいです。9割以上は日本国内のユーザーで、OSの割合はiOS7:Android3という感じでしょうか。

q_appuserdata

「Q」の企画は、どのようにはじまったんですか?

栗田:
実は「Q」はものすごく「肩の力が抜けた状態」ではじまった企画でした。まず、コンセプトとしては、「Unityの基本機能を活用して、何かゲームを1本つくってみよう」という感じでスタートしました。

目標も「Unityの年額料金がペイできたらいいね」くらいに考えていて。なにか「意識の高い目標」があったわけでもなかったんですね。

今の「Q」のゲームの形にはどうやってなったんですか?

栗田:
まずプログラマが「Unity」に「物理演算の機能」があるのを見つけて、「マリオペイント」みたいな、画面に線を引くとそれが画面の中で物体になる「お絵かきツール」をつくってみました。

そこから「これで何かゲームができないか?」と考えたのが「Qの原形」です。

そして「試作バージョン」を僕とプログラマーの2人でこっそりつくってみて。それを、同僚や知人に遊んでもらって、リアクションを見てみたんです。

そしたら、軒並み評判が良かった。普通ゲームって「つまらない」と言う人が一定の割合いるんです。だけど「Q」に限っては、みんなが「おもしろいね」と口を揃えて言った

なので、この段階で「このゲームはおもしろい」という自信はありました。さすがに「絶対売れる!」とは、口が裂けても言えませんでしたけど。笑

そこから会社に予算をもらって、開発をスタートしました。なので「Q」というゲームは「企画書」から生まれたのではなく、「なんかおもしろいゲームができたぞ」とはじまった企画だったわけです。

q_appss

開発にはどのくらい時間をかけたんでしょうか。

栗田:
トータルで半年くらいかけて開発をしました。ただ実は3か月くらいの時点で「ほぼリリースできる状態」にはなっていたんですよ。

ですが、手応えを感じていたこともあり「より完成度を上げてから出そう」という判断をしました。もちろん「早くリリースしたい」という気持ちはありましたけどね。

そこからの3ヶ月は、ゲームの「幹」はできていたので、まわりの「枝葉」の部分を充実させていきました。例えば「ソーシャル連携」や「クリア人数を表示する機能」などの部分です

つくっているときも、ほんとうに楽しかったですよ。

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※「試作バージョン」をつくったのは去年の7月頃。

ダウンロードが伸びたのは「ソーシャル拡散」

リリース後のリアクションはどうでしたか?

栗田:
「Qの日」にちなんで1/9にリリースしたのですが、勢いが出たのはリリース翌日でした。リリース2日目にゲームカテゴリの1位になり、10万ダウンロードまで到達して。

そこからはソーシャルで爆発的に拡散されていき、リリース6日目には100万ダウンロード、1月末には300万ダウンロードを突破していました。

そこからは月100万ダウンロードくらいのペースで伸びていき、いま700万ダウンロードを突破したというタイミングです。

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ここまで爆発的にダウンロード数が伸びたのはなぜでしょうか。

栗田:
何といっても「ソーシャルでの拡散」の影響が大きかった。特に「拡散」という意味で一番貢献してくれたのはTwitterでした。

具体的には「クリア時のスクリーンショット」を、ソーシャルに投稿できるようになっているのですが、これが予想以上にうまく機能しました。

というのも、「Q」はひとつの問題に対して、無数に解き方が存在するので「クリア時のスクリーンショット」が、ネタバレにならないんですね。

クリア画面はあくまで「攻略のヒント」にはなるのですが、「どうやったらこうなるんだ?」ということも多くて、このバランスが絶妙なさじ加減だった。

なので、投稿する側も「ネタバレ」を気にする必要もないし、Twitter上で「どうしたらこうなるの?」というコミュニケーションにもつながったりする。

実は「プレイ動画を投稿できるようにしよう」という案もありましたが、それだとこんなに拡散されなかったはず。なぜなら動画だと「完全にネタバレ」になってしまうからです。

q_manga_share

リリース後に一番「ピンチだったこと」って何ですか?

栗田:
リリース直後にサーバーが落ちたことが、ホントにやばかったですね。「増設しても増設してもまだ落ちる」みたいな状態が続いて。メンバーもずーっと会社に残っていました。

しかも、あろうことに「サーバー担当」が、有給で北海道に旅行に行ってしまっていたんです。

彼も「アプリがリリース出来て一安心」と、休むタイミングを図ったつもりが、リリース直後にすぐ1位になってしまったことで、サーバーがパンクしてしまった。

一応「サーバーがヤバイぞ」と報告しておいたところ、彼は「北海道のどこを巡っていても、サーバーのことが頭から離れなかった」と後から話していました。笑

「問題」はどのようにつくっているんでしょうか?

栗田:
まず僕が、紙に「問題のネタ」をイラストでたくさん描いていくんですよ。例えば「コップの中から出すとクリア」みたいな感じで。

この段階では「どんな解き方でクリアできるのか」はまったく意識しません。単純にシチュエーションと目的(クリア条件)だけを設定していく。

次に「Photoshop」で画像におこしてプログラマーに渡します。「この図のとおり実装おねがい。クリア条件はこうで」という感じです。

そして次に、できた問題をテスト端末で遊んでみます。この段階ではじめて「どうやってクリアしたらいいんだ?」と僕自身が悩むわけです。

そこからは「クリアできそうか」は一応チェックして、大丈夫そうであれば採用します。なので、「計算して、何パターンもの解法を仕込む」ということはやっていないです。

そういう意味では、ユーザーさんが遊んでいるのをみて「こんなやり方もあるんだ」と感心することもよくあります。

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どのように収益を稼いでいるの?

ダウンロード数を伸ばすためにやったことはありますか?

栗田:
リリース前に、いろんなメディアの編集部に訪問して「今度こういうゲームを出します」と、足で稼ぐ広報はやっていましたね。

やはりリリース初日(ランキングに入るまでの間)に、アプリの存在を知ってもらうためには、メディアの力を借りないと難しいと感じます。

あと、自然にダウンロードが大きく伸びたタイミングとしては、「マックスむらい」さんの動画と、TBSの「王様のブランチ」で紹介されたときでした。

「マネタイズ(収益化)」についてはどうでしょうか?

栗田:
基本的には広告収入がメインです、中でも「アイコン広告」の収益が圧倒的ですね。

「バナー広告」と「インタースティシャル広告」の収益額が高くないのは、「問題をクリアした後」のタイミングにしか出していないからです。

というのは、問題がむずかしくなっていくほど「問題をクリアする回数」が減っていくので、そもそも「広告表示のタイミング」自体があまりないんですね。(「リトライ」のときには広告をだしていない)

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課金のほうはどうでしょうか。

栗田:
課金については「問題パック」を120円で売っていますが、「売れた本数」は実は少な目です。その変わり「拡散」に貢献してくれています。

どういうことかというと、「SNSで友だちを5人呼ぶ」という条件をクリアすると、「問題パック」が無料でもらえるようになっているからです。

課金する人よりも、拡散してくれる人のほうが圧倒的に多いので、「拡散と引き換えに、問題パックを無料で配っている」と言ったほうが近いかもしれません。

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いまは何人ぐらいで運営されてるんですか?

栗田:
5~6人ですね。ゲーム制作がぼくとプログラマーの2人。そして兼務のサーバー担当とサポート担当、外部のサウンドクリエイターさんという感じです。

事業としては黒字にはなっているんでしょうか?

栗田:
専任は僕とプログラマの2人と考えると、黒字にはなっています。月の売上でいうと「そこそこヒットしているレベルのソーシャルゲームくらい」という感じでしょうか。

「Q」が素晴らしいのは「運用のコストパフォーマンス」が異常に高いことなんです。新問題を追加するときも、シンプルな画像を組み合わせるだけなので、工数が他ゲームほど大きくかからない。

これがソーシャルゲームになると、「新キャラのイラスト」などもつくらなくてはいけないですし大変ですよね。

アクティブ率を上げるには?

「アクティブ率」を上げるための工夫などはありますか?

栗田:
ひとつは単純に「新しい問題」を追加すると、やはりアクティブ率が上がります。

ただ恐ろしいのは、だんだん「Qのコツ」をみんなつかんできていて、問題の消化スピードが上がっていること。最近は「全部解いた、次はないの?」と2日後には問い合わせがきます。

もうひとつは「問題の難易度バランス」を意識しています。

「10問中7問を解くと、次の10問が遊べる」というルールにしているので、10問の中に「やさしめの問題」を意図的にいくつか混ぜるようにしています。

ユーザーからすると「むずかしくて先に進めない」となると離脱してしまいますので、出来るだけ問題は難しくしすぎないように気をつけています。

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「今後の展開」として考えていることはありますか?

栗田:
今後しっかりやりたいことは「問題数を増やす」と「海外展開」の2つです。

あとは「ランキング機能」もやりたいです。いまの「Q」って「1回クリアした問題」を遊ぶ必要性がうすいんですね。そこに「再度クリアする動機」をつけることで、アクティブ率の増加にもつながると考えています。

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まとめ。「やっちゃえ!」と出したアプリがヒットした。

これからカジュアルゲームで成功したい人に、アドバイスをするとしたら?

栗田:
こればっかりは全然わかんないですね、ほんとに。でもなんか「気合を入れすぎない」って、意外に重要なんじゃないかと思うことがあります。

僕の経験上では、すごく企画を練って練って「このゲームは楽しいはず!」と固めてつくったものって、1個もヒットしていないんです。

逆に、なんとなく思いついたことを「やっちゃえ!」って、やってみたらヒットすることが多いんですよね。「泥だんご」のアプリとかも、正にそうだったのですが。

あとは、出してみないとわからない。「ヒットした理由」って、大体ヒットした後に説明できるようになる。「こういうところがウケた」というのは後から気づくことなんです。

「Q」でいうと、「SNSでクリア画面をシェアする機能」は、フタを開けてみたら、結果的に「絶妙なさじ加減」になっていたわけです。

もちろん、つくってる途中も「良さそうだ」とは思っていましたが、ちゃんと説明できる頃には「後付の説明」になっているんですよ。だからやってみないとわからない。

「栗田さんプロデュースのアプリ」のヒット率ってどのような感じですか?

栗田:
僕がリイカでつくったのは「おやじ観察キット」「泥だんご」「天空のやつ」「バランス感」「Q」の5本です。

「リクープできた(開発費を回収できた)」を一塁打と考えると打率は6割です。「バランス感」と「天空のやつ」はまったくダメでした。やっぱり、当たり外れはありますね。

「Q」くらいの「満塁ホームラン」は、10年に1回しか出せない気がします。いや、もしかしたらもう一生ないかもしれませんね…。なかなか難しいものです。

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最後に告知などがあればお願いします。

これから「新しい問題」など、どんどん追加していきますので、よろしくお願いします。

あと、コラボの準備もはじめていて、スタンスとしては「おもしろい企画で、相互送客ができればいいな」という感じで考えています。もし興味がある会社さんがいらっしゃればお声がけください。

Q(iOS/Android
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取材協力:株式会社リイカ

編集後記

なお、「Q」はAppAnnieの調査(2015.1-3月)によると、「日本でアクティブユーザー数が多いゲームアプリ」の4位にランクインしている。この順位に食い込めるのは、なかなかすごい。

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アプリマーケティング研究所編集部 アプリのマーケティングメディアです。アプリの売上を伸ばす施策やデータが学べるマガジン「月刊アプリマーケティング」もスタートしました。最近の記事は新サイトにて更新しています。取材申請はコチラのページから。
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