「残金10万円、オフィスを解散し実家でアプリ開発」電子手帳アプリ「ライフベア」資金が尽きてもアプリの運営をつづけられた理由。

2014年12月10日 |
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カレンダー&手帳アプリの「ライフベア」さんにアプリの運営などのお話を伺いました。AppStoreの100位以内に安定してランクインしている、クマのアイコンに見覚えのある方も多いかもしれません。

lifebear_nakanishi
※株式会社ライフベア代表の中西 功一さん。

なぜライフベアをつくったのか?

ライフベアのメンバーやアプリの状況について教えてください。

中西:
現在メンバーは8人(全員エンジニア)でつくっています。

ダウンロード数などは非公開ですが、公開できる情報としては、OS比率でいうと圧倒的にiOSが多く、ビジネスモデルは広告がメインということです。(ビジネスモデルは広告+月額制含むアプリ内課金)

どうしてライフベアをつくったのでしょうか?

中西:
2011年に起業したときカレンダーアプリは100以上あったのですが、自分が使いたいアプリがなかったんですよね。

ほとんどのアプリは、カレンダーはカレンダー、ToDoはToDo、ノートはノートとバラバラだった。だけど「紙の手帳」ってそうじゃないでしょう?

なので、「紙の手帳」に取って代われるアプリを目指して、カレンダー、ToDo、ノートを一つにまとめた「電子手帳アプリ」をつくりました。

lifebear_app

資金がショートし、実家でアプリを開発・運営し続けた。

最初にライフベアを立ち上げた時は1人ではじめたのでしょうか?

中西:
3人で起業しました。 前職は「月額315円でRPG遊び放題」のようなガラケーサイトの会社で働いていたのですが、1人がその時の同期、もう1人は就活時に知り合った友人です。

ライフベアはすぐ収益があがるアプリではない。立ち上がるまでに時間が必要だったと思います、資金はどのようにしていたのでしょうか?

中西:
立ち上げ時の資金はけっこう苦労しました。最初はメゾネットタイプの住居を借りて、2階を居住区、1階をオフィスにして仕事をしていたんです。

夜はスーパーで「半額シール」の貼ってある食べ物を買ってきて自炊。それを1年半続けて凌いでいました。給料はもちろんゼロです。

lifebear_office
※創業当時のオフィス(1階)の写真。メゾネットタイプというのは1階と2階がつながっている部屋のことを言うらしい。

3人で共同生活をして、生活コストがかからないようにして乗り切ったと。

中西:
いや、それが乗り切れなかったんです。

2011年の4月に創業してからお金がじわじわ減り、1年半後の2012年11月には会社の残金が10万円になってしまって、「来月潰れる」というところまで追い込まれました。

え、そこからどうしたんでしょうか?詰んでるように感じます。

中西:
オフィスを解散して3人とも実家に帰りました。もう最終手段でしたね。笑

ライフベアのコストってほぼ人件費なので、実質的なコストは毎月5万円(サーバー代と税理士代)だけあればなんとかなったんですね。

それで、8ヶ月ぐらいは実家でしのぎつつ、3人でSkypeでチャットしながら、完全リモートで作業をつづけていました。

いまのオフィスに出てこられるまでは、どのくらいかかりましたか?

中西:
実家でのリモートをはじめて8ヶ月後くらいに、ようやく売上が「生きていけるレベル」に達してきたので、目黒のオフィスにでてきた形ですね。(現在は五反田に引っ越している)

lifebear_history

ライフベアは「インフラ」のレベルを目指している。

ライフベアのアプリをつかってみて「サクサク動く」というのが一番優れている部分だと感じました、かなり早い気がします。

中西:
ライフベアの競合ってアプリではなく「紙の手帳」だと考えているんです。ユーザーの手間を0.1秒でも縮めるように努力しないと、紙の手帳に勝てない。

そして、機能が優れていても、重かったらイラつくじゃないですか。せっかく使ってくれているユーザーに嫌な思いをさせたくないんですよね。

うちが目指しているのはいわば「インフラ」です。水道って水が出るのは当たり前ですし、不純物が混ざるのはおかしいですよね。

アプリもそれと一緒で、突然アプリが落ちるのもダメだし、不具合もあってはいけないと考えています。


※アプリをたくさん立ち上げるとメモリが減って、スマホの動作が重くなる。ライフベアはそれを感知して「メモリが不足しているので、他のアプリを一度終了すると快適に動きますよ」とポップアップをだす工夫もしている。

ライフベアのような手帳アプリをつくっていて、大変なところは?

中西:
表現は極端ですが、ユーザーの人生に関わるところです。

例えば、ライフベアに「結婚式当日にやることリスト」を入れていて、アプリが開けなくなったら、そのユーザーの人生がちょっと変わってしまう可能性がある。

特にiOSはアップデートの審査に時間がかかるので、一度不具合がでるとお客さんにすごく迷惑をかけちゃう。そうしたことが起きないよう意識しています。

想定と違う「ライフベアの予想外な使われ方」は見かけますか?

中西:
やはり若いユーザーは、面白い使い方をしますね。手帳って「人に見られたくないもの」だと思っていたのですが、それは間違っていた

例えば、Twitterでライフベアのカレンダーのスクリーンショットを撮って、シェアしている人が多い。

「今月の予定はこんな感じ」と空いてるスケジュールをシェアをしたり、「バイトがいっぱい入っている」と言いつつ「忙しい私」を強調したい人もいる。

そうしたツイートから、「これ見やすいアプリだね」「ライフベアっていうアプリだよ」というクチコミの広がり方も頻繁に目にします。

他には「予想外な使われ方」ありますか?

中西:
予定名を「文字」で管理するのでなく「色」で管理している人がいたのもおもしろかったです。例えば「赤」がバイトだったら11時-13時に赤をつけておく。たしかにこれは便利ですよね。

他には、一つのアカウントを共有してカップルや家族でつかっている人も意外に多い。複数端末で同時にログインができるので、それで予定をシェアしている。


※ツイッター上で実際につかっているユーザーを発見、色で予定を管理している。

「全員がエンジニア」とのことですが、問い合わせの対応などはどうしていますか?

中西:
うちはカスタマーサポートもエンジニアがやっていて、「なぜこの問い合わせが来たのか?」をエンジニアが考えるようにしているんです。

理由としては「問い合わせを手早くさばく」ことよりも、「困っている人の数を減らす」のが本質的な解決だと思っているから。 問い合わせは来ないのがベストです。

安易にカスタマーサポートを置くと「困っている人の数を減らす」という意識が薄れてしまう。そこはエンジニアが不具合だったらなおすべきだし、説明不足ならヘルプを入れたりと、プロダクト上で解決するのが大事。

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※アプリ内の「使い方」というページの情報量がものすごく多い。問い合わせ数を減らすために項目を追加し続けた結果のようだ。究極はヘルプさえ必要ないのがベストなのだろうけど、ある程度の機能がついているアプリだと仕方ない気がする。

デジタルが紙の手帳に勝つには?

なぜカレンダーや手帳って、紙で管理する人が多いんでしょうか。失くしたら終わりだし、そもそもペンを持ち歩くのはめんどうに感じます。

中西:
ひとつ面白い話があるのですが、2011年までは手帳って順調にデジタルへの移行が進んでいたんです。まだガラケーがあって、iPhoneが登場してきた頃ですよね。

でも実は2011年に逆転現象がおきて、「紙の手帳」のユーザーが増えはじめたんです。

え、そうなんですか?

中西:
はい、つまりデジタルに移行しかけていたが、やっぱり使いづらくて紙に戻った人が多かった。デジタルの手帳が、まだ紙に勝てていなかったという証拠ですよね。

やっぱりデジタルでは、カレンダーはカレンダー、ToDoはToDo、ノートはノートってバラバラになっていて、手帳じゃなかった。なのでライフベアでは、「紙の手帳」を代替できるアプリを目指しています。

他に、デジタルが紙の手帳に勝てないところはどこでしょうか?

中西:
まず1つが「紙の手帳」は種類がすごく多いこと。ページの半分がカレンダーやノートになっているものがあったり、好みの手帳を見つけやすい。

そして2つめが「データが消えないか不安」という心理的なハードルです。Twitterでも「アプリだけだと消えるの怖いから、紙にも書いてる」という声は多いですね。

合理的に考えると「デジタルの手帳」のほうがデータをクラウドに保存できるし安全で、「紙の手帳を失くす可能性」のほうがよっぽど危険なわけです。でも一般の人の感覚はそうじゃない。

そして3つめが「質感」です。私、本は紙でペラペラってやりながら読むのが好きなんです、そういう感覚的なもの。あと「皮の手帳がかっこよくて好き」みたいなステータス感もあると思います。

これからライフベアのような「生活系ツールのアプリ」をつくりたいという人にアドバイスを贈るとしたら?

中西:
あまり深く考え過ぎないことですね。初めはシンプルで軽くて速いものをつくる、その上でお客さんの意見を聞きつつ改良していくのが良いと思います。

あと、売上があがるまでの我慢は必要。資金がないなら生活水準を最低レベルまで落として、何とか生き抜くくらいの覚悟は必要かもしれません。

最後に告知などがあればお願いします。

中西:
臆面もなく言うと「ライフベアの未来を一緒につくっていける人」の求人を募集しています。

なんだかんだライフベアのメンバーは皆プロダクトが好きなので、そうした社風にあう方で、興味をもってくれる方がいたら嬉しいです。

採用ページ:http://lifebear.com/recruit

取材協力:株式会社ライフベア

ライフベア(iOS/Android
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編集後記

カスタマーサポートに対する考え方の話がおもしろかった、あと立ち上がりの遅いツール系アプリの立ち上げの話も。「必ずいつかうまくいく」という自信があったから、ここまで粘れたのだろうなと思う。

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アプリマーケティング研究所編集部 アプリのマーケティングメディアです。アプリの売上を伸ばす施策やデータが学べるマガジン「月刊アプリマーケティング」もスタートしました。最近の記事は新サイトにて更新しています。取材申請はコチラのページから。
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